雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ユーザーストーリーマッピング≫

 

今回はJeff Patton著の「ユーザーストーリーマッピングを要約していきます。本書はプロダクトマネジメントアジャイル開発・UXデザイン分野において重要書籍に位置付けられており、ユーザーストーリーに関する体系だった理論・活用方法をまとめた内容となっております。ユーザーストーリーと呼ばれる「プロダクトを実際に利用するエンドユーザーに何を提供するのか・その目的は何かを簡潔に書く要件定義書」を時系列・優先順位別に配列した可視化ツールがユーザーストーリーマッピングとなります。

 

「ユーザーストーリーマッピング

楽天ブックス: ユーザーストーリーマッピング - Jeff Patton - 9784873117324 : 本

■ジャンル:開発管理・IT・UXデザイン

■読破難易度:低~中(アジャイル開発・UXデザイン・プロダクトマネジメントいずれかの基礎的な知識をもった上で読むことをおすすめします)

■対象者:・ジャーニーマップを用いた効果的な機能開発・仮説検証方法の理解を深めたい方

     ・プロダクト関連職種に従事する方全般

     ・専門性・役割の異なるチームを率いて不確実性を解いていく役割を担う方

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメント ビルドトラップ

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

カイゼン・ジャーニー

■要約≪カイゼン・ジャーニー≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■ユーザーストーリーマッピングについて

・ユーザーストーリーマッピング製品開発UXデザイン業務要件定義の場で共通理解を深め効果的にサービスや製品開発をするための手法であり、発案者自身が本書を著しました。詰まる所、ユーザーストーリーマッピングアジャイル開発を成立させ、生産性高く問題解決・課題設定する見取り図です。機能開発に終始することなく、漂流アジャイルにならないように優先順位付け、ロードマップ推進に不可欠です。ユーザーストーリーマッピングはビジネスアナリスト・プロダクトマネージャー・UXデザイナーが主に作成するフレームですが、有効活用するのはエンジニアも含まれる訳で実際のアウトプットは大量のポストイットを用いた地図・模型のようなものです。

 

■ユーザーストーリーに関する大原則

「ストーリーを作る目的は良いストーリーを書くことではない」

「製品開発の目標は製品を作ることではない」

という重要二原則がUXデザインおよびソフトウェアエンジニアリングの世界におけるユーザーストーリーマッピングを活用する目的です。プロダクト開発を通じて、「顧客の課題を解決し、その結果得たいアウトカムに向けて機能開発をするのであり、現実の顧客やプロダクトが対峙する市場を現実直視しないことにはソリューションの善し悪しや優先順位付けもくそもない」のです。

・ユーザーストーリーマッピングは「デザイナー・エンジニア・PdMが一つのものを同じ目線で見て伝言ゲームによる情報誤伝達を最大限避けること」に有効になります。共通理解を保ち続けることはプロダクト開発において重要であり、そのずれないようにするためのステークホルダーマネジメントやフレーム活用を徹底することは軽微なように見えて非常に大事な組織マネジメントの基本原則なのです。価値観や専門性の異なる人材の知見を結集し、部分利害で相反しないようにする為にはグランドルールやビジョンを策定し、ロードマップに忠実に意思決定「し続ける」ことが大事になります。その為に「平易な言葉を使うこと」・「ストーリーを共有すること」・「意思決定の価値基準を共有すること」・「図示化・定量化すること」などを怠らないことが重要になります。

 

■ユーザーストーリーを活用して早く効果的に組織学習するには

・プロダクト開発・仮説検証においては「顧客は既存の解決策としてどんなものを試みており、既存の解決策ではどのように具合が悪いのか?(新製品やソリューションが入り込む余地があるのか)」をその前後の行動や心理の変遷・制約条件を理解しながら把握していくことを怠ってはなりません。顧客やユーザーは自分達が何を求めているか・どのような意思決定プロセスを経ているかわかっていないですし、プロダクト開発に従事するものはなおさらです。謙虚に行動や心理を解釈し続ける、適切な問いを立て続けるというのを怠ってはなりません。「すべては顧客起点である」というのがプロダクト開発に纏わるフレームワークやお作法を守ることに込められています。

※プロダクト開発をしていると技術ドリブンな意思決定や機能開発の各論遂行に議論が終始するというのが自然と陥ってしまうものです。そうならないように「大目的や方針に忠実に優先順位付け・意思決定「し続ける」を保つためのツールや思考プロセス」活用が最も効果的なのです。

 

■実顧客・ユーザーを理解することの大切さ

・顧客とユーザーを理解する為にペルソナを描き、「どんな問題を抱えていて、どうなりたいのか」・「既存の解決策では解決できないペインは何か」・「それは自社で実現可能であり、ビジネス収支にも適合するのか?」といった問いを立てることは優れたアジャイル開発をしていく上で欠かせません。ユーザーインタビューアンケート行動観測などから生み出された「確からしい事実をベースにインサイトを構築していくステップ、および関係者が同じ絵を見てアイデアを発散させるステップなどを面倒でも経て共通理解を深めていくこと」は必要になります。感覚や思い込みを排除し、存在するペインに対してソリューションを作りこむというステップを踏むことは後々要件がぶれたり路頭に迷うことなくプロダクト開発の仮説検証を進める為に必要になります。

・ユーザーストーリーマッピングと補完関係にあるフレームとしてリーンキャンバスジャーニーマップがあり、適宜活用してプロダクト開発チームの共通認識を揃えることやビジネス収支を満たしているか把握し続けることが重要と本書では推奨されています。

 

■デザイン思考について

・デザイン思考の第一歩は「共感」であり、ユーザーが何を求めているのか・ゴールは何かを実顧客へのインタビュー、行動観察を通じて構造理解するプロセスを指します。ユーザー文脈を理解した上で複数のストーリーを抽出・吟味してスコープ含めて企画開発の範囲「定義」するのが第二ステップです。その上でユーザーペインやゲインを複数洗い出し、効果的なソリューションの「アイデア創出」と呼ばれる拡散行為を行います。これは実現可能性やインパクトなどのオプション毎の比較検討をして吟味・選定していくものであり戦略策定やロジックツリー策定プロセスに近しいものです。ソリューションが決まったら「それが想定ユーザーに即した導線に設計し、仮説は狙い通り刺さるのか?」を検証する必要がありMVP開発による「プロトタイプ」作成が発生します。プロトタイプは重要仮説をもれなく検証する必要があり、UXデザインの基本である人間中心設計を心掛け認知コストの低下や情報伝達効率を高める必要があります。プロトタイプ作成後は「テスト」による仮説検証が不可欠でありABテストやKPI、KGI設計をしてモニタリング体制整備するのが基本のステップです。これら5つのステップを踏むデザイン思考は企画やプロダクトマネジメントの思考法そのものです。

 

【所感】

・本書はユーザーストーリーマッピングのフレーム解説にとどまらず、周辺領域におけるプロダクト開発チームのマネジメント方法や効果的な議論を進める上で遵守すべきお作法にも言及しており、UXデザインやプロダクトマネジメントアジャイル開発についても大きな示唆を与える内容でした。関連書籍を集中的に読み漁る中で言わんとしていることが善く理解でき非常に勉強になった本です。

・検証プロセスや問い・論点・価値基準などを可視化して共通認識を持ち「続ける」ことがプロダクト開発チームの生産性を左右するということ、それと同時にこれを実際に行い続けることが如何に難しいのかということを思い知らされる内容でした。基本に忠実にしつこいくらい現状把握・合意形成をし続けることが大事というのはプロジェクトワークや不確実性に対峙する専門組織にも通じるものと感じました。

 

以上となります!