雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪誰のためのデザイン?前編≫

 

今回はD.A.ノーマン氏の「誰のためのデザイン?」を要約していきます。認知科学者によるデザイン原論をまとめた当該分野の古典的な本です。本書を起点としてプロダクトデザイン/インダストリアルデザインデザイン思考などが大きく発展したとされており、サービス・ソフトウェアプロダクト主流の21世紀のビジネス潮流を捉えるには不可欠の概念が散りばめられています。前編の今回は第一章~第四章を取り扱い、精神病理学・心理学などの理論にも言及しながら「人間中心設計の考え方」・「デザインの善し悪しに大きく左右する脳内知識と外界情報の結合プロセス」・「デザインのカギを握る制約・発見可能性・フィードバックの作用」についてまとめます。

 

「誰のためのデザイン?」

楽天ブックス: 誰のためのデザイン?増補・改訂版 - 認知科学者のデザイン原論 - ドナルド・A.ノーマン - 9784788514348 : 本

■ジャンル:IT・UXデザイン・心理学

■読破難易度:中(心理学・人間工学・UXデザイン/プロダクトマネジメントいずれかの知識があると非常に読みやすいです。)

■対象者:・デザイン分野の理論を体系的に学びたい方

     ・人間工学・心理学に興味関心のある方

     ・日常にある製品の仕組み・狙いに関して理解を深めたい方

 

≪参考文献≫

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの法則

■要約≪UXデザインの法則≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■[新訳]経験経済

■要約≪[新訳]経験経済≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■デザイン概論

・本書は1990年頃に認知科学の分野からのデザインに関する理論を構築した本です。ソフトウェアプロダクトの発展と共にプロダクトデザインが必要視され、更に同時期にデザイン思考が発展したことも相まって再注目されております。特定のセグメントやユースケースに深く刺さるようにデザインすることはプロダクトが価値を発揮し、ビジネスとして成立する絶対条件に昇華したことで、現代のプロダクトマネジメント/事業開発とは切っても切り離せない概念となりました。

人間中心設計というUXデザインの基本となる考え方を本書が提唱したことからもその影響力は非常に大きいものです。体験価値は狙って高めることが出来ますが、文脈や文化によりどのように伝えるのが良いかは変容します。その為、対象とするユーザーや子顧客セグメントに対する深い共感と理解がデザインの成功には不可欠であり、ビジネスにおけるデザインは対象物に深く関わるエンジニア・デザイナーは勿論、営業やマーケティング担当にも必須の感覚となっております。

 

■人間中心設計を構成する重要概念

・人間にはそれぞれのメンタルモデルが存在し、プロダクトデザインをする上においては「何をどう扱うといいのか」を示唆し、それが直感と一致するようにすることが重要です。良いデザインは発見可能性があり、人間が直感的に理解しやすい性質を持ち合わせています。テクノロジーの深い造詣に加えて、人間への深い共感・理解をすることが良いデザインをする上において必須の感覚です。インダストリアルデザインインタラクションデザインエクスペリエンスデザイン人間中心デザインなどのようにヒューマンエラーが起こる・直感的であるという一般的な特徴を最大限尊重することがデザインの原則です。

アフォーダンスと呼ばれるモノと人の関係モノの役割を効果的に認知・価値発揮するようにするのがデザインの第一歩とされます。このアフォーダンスのシグナル的な作用がシグニフィアと呼ばれ、心理学の世界から着想を得た直感的な情報処理導線を人為的にデザインするものを指します。

・上記に加えて、対応づけと呼ばれるあるものとものの関係を示唆するデザイン行為の結果が正しくプロダクトに伝達されているサインを示すフィードバッグ機能は楽しく効果的な体験設計に不可欠の概念となります。この点を考慮した代表例として、ソフトウェアプロダクトではユーザーアクションに対して待機中などの表示が出ます。

 

■デザインと心理学の関係性

・ユーザーには目標があり、プロダクトを雇用するプロセスで環境を知覚・解釈・評価・意思決定しながら目標実現を目指します。その認知過程に橋をかけるのがデザインの役割であり、直感的・物理的な理解と反することの多いソフトウェアプロダクトにおいてはUXデザインを徹底することが価値訴求の生命線になります。

・人間の行為には七段階が存在し、具体的にはゴール→プラン→詳細化→実行→知覚→解釈→比較です。UXデザインにおいてユーザーストーリーやワークフローをジャーニーマップで可視化するのは人間の行為の特徴に影響するデザインをするべき文脈やポイントをプロダクト開発チームにおいて共通理解化・理解促進をする為にあります。これを考慮する上では「人間には潜在的な意識があり、感情や非合理な情報処理をする」という特質を踏まえることが大切です。人間には氷山モデルのような無意識・意識・行動・心理の連動というものが構造として存在します。「脳の矛盾を引き起こす構造」・「情報処理を効果的にする為のパターン学習」などの性質を踏まえた上でのデザインするのが絶対感覚となります。

 

■外界の情報と知識を結合するプロセスを踏まえたデザイン

・人間には「外界の情報を処理して不正確な知識の中で正確に行動できる」という不思議なメカニズムがあるとされます。物理的・文化的制約慣習がうまく機能して、結果的に人間は不確実性の中で持ち合わせた知識を総動員して正しい行動を導き出すということをしています。このメカニズムを応用してデザイナーは外界に正しい行動をするヒントとなる情報があるような導線に導けば、初見でも正しい行動をして効果的に物を活用してユーザー目標に到達することが出来るということになります。人間のパターン学習・メンタルモデルを用いて効果的に情報を処理するという性質を応用して、既知の導線との接続を意識したプロダクトデザインというのが効果的な価値訴求・快適な利用体験に寄与します。

 

■制約・発見可能性・フィードバック

・プロダクトにおける物理的な制約条件はユーザーが目標に到達するための探索プロセスにおける推奨行動を促進する作用をもたらします。新しい機械や製品では人間だれしもこうした探索行動を行い、活用するので、ありできるだけ認知負荷が低く直感的な導線にして快適な使い心地・プロダクトの効率性・効果を高めるというのがデザイナーの役割となります。

・制約条件に加えて、慣習文化はデザインの方向性規定に大きく作用するものであり、理解・尊重することが大切な感覚となります。あらゆるメンタルモデルやジャーニーに対して開放的・受容するスタンスを持つ(デザイナー自身の価値観を中心に据えない)というのが優れたデザイナーが持ち合わせる感覚です。

・一般的に、人間は慣習への変化対応を必要とする学習に対して強いカロリーが発生するので回避する傾向があります。快適さや価値効率の観点から既存のメンタルモデルとの一貫性を考慮することは良いデザインを実現する為に必須であり、最大限尊重した上で新たな体験価値・導線設計をするという感覚がより大切になります。行為に対して適切なフィードバックがある」・リスクや望ましくない行動を回避する導線が設計されているなどのフィードバック機能も欠かせません。

 

【所感】

人間工学心理学などデザインの根幹をなす学問領域の知見をふんだんに活用しながら「良いデザインとは何か?」という問いに対する論証を丁寧に行う構成となっており読み応え抜群となっております。UXデザインが重要視される潮流や「何がデザイン上考慮しないといけない観点であるのか?」という点において更なる理解が深まった感覚です。

デザインの善し悪しは対象とするユーザー・顧客のメンタルモデルや制約条件ありきであり、価値訴求効率は大きく変容する・対象物の目的遂行能力は変化するということに加えて、自然な流れでは直感的な導線設計にならないソフトウェアプロダクトにおいてはハードウェアプロダクト以上にデザインの役割が広くなるということがより納得感を持って理解出来ました。その意味において、「対象とするユーザーや顧客の価値観を深く理解し、特定セグメントに刺さる・自然な導線になるようにする」という行為が大事でこれは営業・マーケティング的な営みです。様々な視点を統合してプロダクト開発をしていく重要性を思い知らされた次第でした。

 

以上となります!