雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪UXデザインの法則≫

 

今回はJon Yablonskiの「UXデザインの法則」を要約していきます。「UXデザインの教科書」と並んで、近年出版されたUXデザイン本の中でも重要本として度々参照される名著です。心理学の原則を用いて効果的なユーザー体験を狙って創出する為に抑えるべき法則と事例をまとめた本です。ややUIデザインに内容が寄っていますが、非常にわかりやすく初学者にもオススメです。

 

「UXデザインの法則」

UXデザインの法則 最高のプロダクトとサービスを支える心理学 | Ohmsha

■ジャンル:IT・UXデザイン・心理学

■読破難易度:低(UXデザインの基礎がなくとも感覚的に理解できる法則が列挙されているので読むこと自体はとても簡単です)

■対象者:・UXデザインと心理学の関係性に興味関心のある方

     ・快適・簡単な体験価値に興味関心のある方

     ・ITプロダクト・サービス提供者全般

≪参考文献≫

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■影響力の武器

※要約ブログ無※

 

【要約】

・本書ではUXデザインにおいて抑えるべき心理学の原則として10個参照されており、重要論点化されています。その上で、原則を活用した効果的なUXデザインを行う為のプロダクト開発チームのリード方法についても言及されています。

 

ヤコブの法則

・「ユーザーは他のサイトで多くの時間を費やしているので、あなたのサイトにもそれと同じ挙動をするように期待している」というものです。ユーザーは既に取得しているメンタルモデルに沿ったユーザー体験を感覚的に要望するもので、そのメンタルモデルに適応することで認知コストを下げ効果的にデリバリーすることが可能になります。プロダクトデザイン変更時の衝撃を最小限にするには漸進的かつ移行期間を設けるようにするのが良いとされます。

ヤコブというUXデザイナーにより2000年に提唱された概念であり、「こうあるべき」という自然なメンタルモデルを尊重すること、その背景にある価値観を形成する文化や行動規範に理解を示すことはUXデザイナーとしての絶対感覚になります。

 

■フィッツの法則

「ターゲットに至るまでの時間はターゲットの大きさと近さで決まる」というものです。タッチターゲットはユーザーが簡単に押せるだけの大きさにないと機能せず、タッチターゲット間は十分な感覚をもつこと・インターフェース内で簡単に到達できる場所に置いておくことが効果的なユーザー体験に欠かせません。

・使いやすく、労力を有さない導線を引くことはUXデザインの効果を最大化する為に欠かせない概念です。タッチターゲットの効率性は「ユーザーがどのような文脈でプロダクト接点を持つか」により、それは想定ユーザーの価値基準や行動・心理の変遷を理解していくことなしには出来ないものです。

 

■ヒックの法則

「意思決定にとりうる時間は選択肢の多さと複雑さで決まる」というものです。

・タスクが複雑である場合、小さなタスクに分解して効果的にユーザー体験を進んでいくようにデザインすることが望ましいとされます。また、選択肢が多く煩雑にせざるを得ない場合はオススメの選択肢を際立たせるなどの工夫が必要となります。プロダクト体験は段階的なオンボーディングを採用することで、認知コストや負荷がかからないように導線設計することがプロダクトの継続利用やLTVを高めるためのUI/UXデザインで果たすべき役割と言えます。

 

■ミラーの法則

「普通の人が短期記憶に保持できるのは7(+/-)2まで」というものです。

・ワーキングメモリで情報処理出来る量はせいぜい7つの塊に過ぎず、それ以上の記憶を必要とするプロダクトデザインは正しく情報認知出来ないので、意味をなさないとされます。電話番号などが代表例で、意図して塊をつくることにより記憶を容易にするという術が有効で、これは人間の脳構造に忠実にした情報伝達理論と呼べます。見出し改行重要テーマに下線や網掛けをするなどのテクニックもミラーの法則に忠実と言えるようです。

 

■ポステルの法則

・「出力は厳密に、入力は寛容に」というものです。

・ユーザーが採りうるアクション・入力しうる情報全てに対して受け入れる体制を整えることが効果的なユーザー体験の絶対原則です。信頼性高くアクセス可能なインターフェースでありながら、ユーザーが採りうるアクション全てに対してのリアクションや受身を設計することがプロダクト供給者に求められる感覚です。

 

■ピークエンドの法則

・「経験についての評価は全体の総和や平均ではなく、ピーク時と終了時にどう感じたかで決まる」というものです。

・UXデザインにおいてユーザージャーニーのピークとラストはしっかり把握して作りこむことがプロダクト価値を高める為に絶対にやらないといけないステップです。ユーザーに理解され、受け入れられ使い続けてもらってプロダクトはなんぼなので、「楽しい・快適な体験を経る」ということは常に頭の片隅においておくべき観点です。「人はポジティブな経験よりも一つのネガティブな経験のほうが何度も反芻して印象に残る心理メカニズムである」ということを意識して細部を作りこむ(二度目はないというシビアさ)が必要になります。

 

■美的ユーザビリティ効果

「見た目が美しいデザインはより使いやすいと感じられるようになる」、というものです。

ユーザビリティ美的な整合性というのは感覚的な体験価値を高めるものであり、初期離脱を防ぎユーザーオンボーディングの上でデジタルプロダクトでは絶対に抑えておかないといけない概念となります。これは脳が持つ自動処理作用故であり、枝葉に見えてもデザインや美的な整合性をとるというのは情報伝達効率を高める上で絶対に留意しないといけない概念です。

 

■フォン・レストルフ効果

・「似たものが並んでいるとその中で他と異なるものは印象に残りやすい」というものです。

コントラスト効果を用いて適切に情報伝達をする技術ですが、UXデザインの大原則は人間中心設計なので色に頼り特定の人に配慮しない・過剰に色を使いすぎて広告のようにミスリードするなどはないようにするのが基本原則です。「視線を適切に誘導すること」が快適かつ効果的な体験価値をもたらします。その為には色・形・配列・因果関係などに細心の注意を払い統一感が出るようにすることが不可欠です。

 

■テスラーの法則

「どんなシステムにもそれ以上減らすことの出来ない複雑性が存在する」というものであり、複雑性保存の法則とも呼ばれます。

・どんなプロセスも複雑性を除くことが出来ないものがあり、それはシステムやユーザーのどちらかが負います。原則、出来る限りシステムで負うように設計するのがUXデザインの基本原則です。その一方で、シンプルにしすぎてインターフェースが抽象的になっていないかを注視する必要もあります。

 

■ドハティの閾値

・「応答が0.4秒以内のとき、コンピューターとユーザーの双方が最も生産的になる」というものです。

体感性能を改善し待ち時間を減らすことでユーザビリティを担保することはUXデザインの目的に即した作り込みです。アニメーションをいれて待ち時間に対するユーザーフィードバックを施すことは体験価値を担保するのに効果的とされます。プログレスバーのような進捗可視化はユーザーの感覚的な体験を担保しイライラを最小化し、ユーザー定着に寄与します。待ち時間は長くなるが積み重なるとユーザー離脱を助長します。

 

【所感】

・本書で参照される原則はUI/UXデザインは勿論、コミュニケーションの技法としても留意すべき概念であり非常に応用性が高いように感じられました。ITプロダクトが社会に占める影響力が増えている中でこうした法則を遵守しながら、「ユーザーをミスリードしない」・「定着時間やLTVを稼ぐためだけに濫用しない」などの倫理観も重要であるように感じました。

・プロダクト開発においてUXデザインが根幹を成し、原則や理論を参照しながら共通認識を持ち「続ける」ようにフレームや特有のステップを遵守して開発を進めるというのはどの本にも書かれており大事な概念であるということを改めて認識できました。本書はサービス・プロダクト開発の現場で何度も参照しながら定着していく概念のように思えたので、折に触れて読み返してみたいと思います。

 

以上となります!