雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ローマ人の物語11≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。11は「ユリウス・カエサルルビコン以後」の上巻です。カエサルガリア統治を収めた後に元老院派・ポンペイウス陣営に対して反旗を翻し、共和政を終焉にする為にローマ帝国本土へ向かい各地でポンペイウス陣営と戦いを繰り広げる様が描かれています。ドゥラキウム攻防戦・ファルサルスの戦いなど「内乱記」に収録される有名な戦いが行われます。後半は元老院派・ポンペイウス陣営崩壊後、同盟国エジプトの内乱を収めるべくカエサルがエジプトに向かいアレクサンドリア戦役を平定しかの有名なクレオパトラが登場するまでを扱います。

 

ローマ人の物語11」

ローマ人の物語 11/塩野七生/著 本・コミック : オンライン書店e-hon

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語8・9・10(ユリウス・カエサルルビコン以前)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語8≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語9≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語10≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■スペイン・イタリアでのカエサル軍VSポンペイウス陣営の戦い

カエサル元老院派と対決する為にガリア領土の統治権を手放し、本国へ決戦を仕掛けにいく為に境目であるルビコン川を渡ることになります。カエサル軍はわずか4500の十個師団でローマ本国に攻撃を仕掛けるという展開を見せました。カエサルポンペイウスは信書を通じたやりとりで平和的な対談を当初模索していたが、結果的に和平は実現せず、危機を感じてポンペイウスおよび元老院派は本国を放棄してギリシア都市へ逃亡するという事態に発展しました。

・早々にローマ本土での戦いを連戦連勝にて収めたカエサル軍はポンペイウスが支配する地中海世界・海軍に対抗するべく、本丸のギリシア都市を目指して進軍するのではなく、まずはギリシア系独立国家であり、ポンペイウス陣営でもあったマルセーユの都市・スペイン/イベリア半島を攻略し、連携を崩すことを狙います。カエサル軍は地形を用いた駆け引きなどを駆使して兵力差をひっくり返す形で連戦連勝を収めました。

・エサルは遠隔地から部下とコミュニケーションを綿密にとる、報連相を徹底するというシステムを構築することを欠かさない人材であったとされています。執政官になるために元老院対策として法務官に働きかける形で、カエサル独裁官に就任し、様々な改革を短期間に実行しローマ本国の安定化および後方支援を受けられる体制を構築してポンペイウス陣営との対決を目指しました。

 

ドゥラキウム攻防戦

カエサル軍はギリシアにいるポンペイウス陣営と衝突する為に進軍を進め、ローマとギリシアの境目であるアドリア海を渡るべく渡航を試みてここで最初の衝突をすることになります。カエサル軍は後方支援として海上からギリシア都市に上陸したアントニウスが想定よりも北上してカエサル軍とうまく合流できないという事態に見舞われました。上陸から一週間で援軍のアントニウスカエサル軍は合流を果たすことに成功しましたが、カエサル軍はポンペイウス陣営に補給網を攻撃され、限られた資源の中で戦いを強いることになり、ドゥラキウムという要塞を巡る攻防戦を三カ月繰り広げることになります。

ポンペイウス陣営は戦い初期においてカエサルの戦い方を巧みに理解して兵力で圧倒する展開を繰り広げました。この中でガリアの脱走兵がポンペイウス陣営に寝返るという事態が発生し、ポンペイウス陣営はこの情報を参照し、陸と海両方で襲来をするというカエサル軍の弱点を突く強襲をします。その上にガリア戦役ではカエサル軍副将を務めたラビエヌスが敗走兵を順番に殺すという粛清をとり、カエサル陣営に強い圧を加えました。この攻防戦は最終的にポンペイウス陣営が防衛に成功しました。

 

ファルサルスの戦い

カエサルは分の悪い状態での衝突は不利と考えてギリシア中央部へ移動し、ドミティウスと合流してポンペイウス陣営をドゥラキウムからおびき出しました。カエサルはドゥラキウム攻防戦を経て反カエサルに態度を変容した都市に対しては容赦ない態度で略奪や放火をするなどして基盤を確保しようとしました。その中でギリシア中部のファルサルスという平原でカエサルポンペイウスは大決戦を迎えることとなります。カエサル軍とポンペイウス陣営では「歩兵が22000:47000」・「騎兵が1000:7000」という圧倒的な兵力差を持った状態でした。

ポンペイウスは教科書通りの騎兵を用いた大量兵力でも戦いを組み立てる一方で、カエサルポンペイウス陣営の大量騎兵の力を削ぐ為に、馬の性質に着目して歩兵奇襲部隊を活用して馬の動きを止める策を実行しました。カエサルは「資源の力関係や優先順位付けをして、相互作用を効果的にするための選択と集中のプランを作る」妙を成しえて効果的に戦を進め最終的に約7倍の兵力差を凌ぐ大勝を展開しました。

・この敗戦を受けてポンペイウス陣営は北アフリカに逃げ込むこととなり、このタイミングでキケロヴァッロは政治から足を洗い、イタリアに滞在する形でポンペイウス陣営から離れる決断をしました。アレクサンドロス大王ハンニバルスキピオなどはお手本のような兵法・戦術を駆使して大戦に勝利しましたが、カエサルは間に合わせの資源を駆使してタイミングを見て攻略するマネジメント巧者の側面が強かったとされます。カエサルは「軍事を政治の道具として捉える動きが強く、これはガリア戦役・内乱両方に見られる志向性」という評論がなされています。

 

■同盟国エジプト内乱平定・アレクサンドリア戦役

・ファルサルスの戦いにて敗戦したポンペイウス陣営は小アジア・シリアを経て、同盟国エジプトに助けを求めますが、ポンペイウスが現地にて暗殺されてしまいます。カエサルはローマ執政官としてローマ同盟に反した行いの粛清・エジプト先王の遺言通りの王位継承・共同統治を実現する為に、エジプトに対して政治介入を行います。内乱にて追い出されていた王女クレオパトラプトレマイオスの共同統治です。これは感情的・商売的な現地の反発を招き、ギリシア系エジプト現地の蜂起によるアレクサンドリア戦役が勃発しました。

・戦いの最中で、弟王と王女アルシノエ陣営VSクレオパトラ陣営(カエサル)という構図が出来上がってしまい、内乱は複雑化・長期化しました。カエサルは約3000の兵で約20000の大軍を相手にするのは分が悪いと判断し、援軍を待つ形での防衛戦を長期間行う方針を取りました。カエサル軍は約4か月耐えて小アジアからの援軍が到着し、以後は簡単に勢力を巻き返し、ナイルでの戦いを制して最終的にエジプトでの内乱を平定することに成功しました。

 

【所感】

・著者のカエサル愛・戦好きも相まって、紙面を大量に割いてカエサル軍とポンペイウス陣営の主要人物の心情や計略を記述されていました。圧倒的な武功を誇ったポンペイウスもカリスマ性と知性に欠けるということから敗戦を機に一気に転落していく様を繰り広げる一方で、現実的でありマネジメント志向の強いカエサルはそのカリスマ性も際立ったということが後のアレクサンドロス戦役においても見られました。

・あまり世界史の教科書では言及されないローマ帝国を構成する各地域や同盟国の思惑や特徴が詳しく描写されており、エジプト内乱などは非常に面白い内容でした。クレオパトラカエサルの双方の関係性・駆け引きについては極めて客観的に著者が考察をしている様などが印象的でした。後に活躍するマルクス・アントニウスブルータスも登場しており、今後の布石になるような情報が各所に散りばめられていた作品としての秀逸さも際立つ11巻でした。

 

以上となります!