雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪トルネード≫

 

今回はジェフリー・ムーアの「トルネード」を要約していきます。ハイテク業界のプロダクトマーケティングにおける重要書籍として名高く、キャズムとセットで読まれる本です。本書はアーリー・アドプターアーリー・マジョリティーの境目であるキャズムを乗り越えPMFした後の「プロダクトライフサイクルに応じた柔軟なマーケティングマネジメントの急所」を体系的に論じています。

 

「トルネード」

Amazon.co.jp: トルネード キャズムを越え、「超成長」を手に入れるマーケティング戦略 : ジェフリー・ムーア, Geoffrey ...

■ジャンル:マーケティング・開発管理

■読破難易度:低(身近なプロダクトの事例が豊富に記述されており、イメージしやすいです。本書特有の用語やカタカナがたくさん登場する為、アレルギーのある方は一定数るかもしれません。)

■対象者:・ハイテク業界のマーケティングに興味のある方全般

     ・PMF後のプロダクトグロースに関する理論を体系的に学びたい方

     ・非連続の成長・変革を牽引していく責任をお持ちの方

 

≪参考文献≫

キャズムver2

■要約≪キャズムver2≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■企業戦略論(上)(中)(下)

■要約≪企業戦略論(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪企業戦略論(中)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪企業戦略論(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■本書のスコープ

・本書は「キャズム」にて論じられた顧客セグメント理論をベースに、初期市場(イノベーター・アーリー・アドプター)を取り込み、キャズムを乗り越えPMFメインストリーム(アーリー・マジョリティー・レイト・マジョリティー・ラガード)でのプロダクトマーケティングをしていく中で起こる三局面(ボウリング・レーントルネードメイン・ストリート)における原理原則を体系的に論じた本です。

・ハイテク業界特有の構造としてプロダクトライフサイクルの進展が極めて速く、業界の規範となるようなホールプロダクトが構築され、ライフサイクル進展と共にアップデート・パラダイムシフトし続けるという激しい変化に適合しながら戦略オプション・組織ケーパを変容させ続けることが成功の絶対条件になるという特徴があります。

 

■ボウリング・レーン

・ボウリング・レーンでは「トルネードが巻き起こるまでの実績づくり・シェア拡大」が大事になる為、ニッチセグメントを選定・深堀していくのがプロダクトマーケティングの王道となります。特定業界の慣習や導線を深く理解して刺さるプロダクトを作り、提供することが大切になり、そのセグメントにおける商慣習・ホールプロダクトを理解し兌換性や既存解決策を上回る価値訴求ポイントを見出すということが重要になります。特定業界・ドメインへの強い理解・知識がある人材を採用する・法人営業機能を活用して攻め込むなどの戦略オプションがよくある方針です。

・顧客の大半は実利主義者であり、大きな冒険はしたがらないメインストリームの顧客インサイト故に一度ポジションを確立すると、次のパラダイムシフトが起こる迄は安泰となります。マーケットリーダーになり、提案を受け入れられる信頼残高を形成した後に、アップセル・クロスセルになるような後続プロダクトをリリース・統合してトータルソリューションとして提案していくというのがハイテク業界におけるメインストリームでのプロダクトマーケティングの鉄則です。尚、ハイテクというテクノロジードリブンな側面はあっても、PMFしてメインストリームを駆け上がっていくには「マーケットイン」・「顧客起点」・「JOBの解像度」などがキーになるというのがUXデザインプロダクトマネジメント機能が必要視される所以です。

 

 

■トルネード

・プロダクトが一定の市場シェア・実績を持ち、ホールプロダクト・パラダイムシフトが起きると実利主義者である大規模企業の部門責任者や担当者はリスク回避的であるため、流れに身を任せて一気に購買変化するという潮目が発生します。「リスクを最小化して勝馬に乗りたい」という実利主義者の自然な導線故に、その時のデファクトスタンダードとなるリーディングカンパニーへ大量の発注が生まれ、業界首位の企業の取引シェアが約半数程度を占めるという構図に必然的に辿り着くとされます。

・トルネードの段階におけるマーケティングの原則は競合他社を容赦なく攻撃する・流通チャネルをできるだけ早く拡大する・顧客を無視するの3つです。実利主義者はマーケットリーダーを好んで購買する傾向があり、結果的に勝者総取りの構図になります。トルネードが発生している期間はプロダクトに対するすさまじい需要が発生し、できるだけ顧客と接点をとること・取引を抱え込むことが大切とされます。具体的にはマーケティングマネジメントの刷新および営業機能の拡張などが重要アジェンダ化します。個別カスタマイズなどには応じず、とにかく規格化されたプロダクトを市場に売りきりまくり、シェア・収益を取り込んでしまうという大胆な方針が必要になります。

・トルネード期には「そのタイミング中にどれだけ顧客を獲得できるか」ということが競争を左右するため、販売・流通チャネルとの強いリレーションシップ構築が最重要アジェンダとなります。初期市場やキャズム越えのような「個別カスタマイズして特定セグメントの満足度を深めていく」フェーズとは異なり、大衆化・汎用化・量産化を志向していくこととなり必然的にオペレーショナルエクセレンスを追求することが要となります。その為に、過去にトルネードを経験したことのある人材や管理機能に優れた大企業出身の経営管理・事業企画の様な人材を採用することが必要になります。

 

■メイン・ストリート

・トルネードが収まり市場シェアや規模がある程度均一化してくる局面を迎えると企業内部では顕在化しなかった組織の問題や成長遅延による株主からの批判など厳しい問題が重要アジェンダ化するようになります。事業運営は管理・定常業務のウェイトが高まり初期市場から牽引してきた組織風土やキーマンの環境変化を必要とされる局面を迎えます。

・メイン・ストリートにおける運営上のミソはオペレーショナル・エクセレンスの構築になります。トルネードに引き続き、拡販をしていくフェーズになりますが、収益性が乏しくない・なかなかアクセス出来ていないセグメントへのリーチの為のアライアンス・マーケティングマネジメント構築などが重要アジェンダになります。上記に付随する形でコスト管理や顧客満足度向上の施策実施・スタッフ育成などが具体的な論点になります。

 

【所感】

・顧客との継続的な対話・価値定義・バリュープロポジションのアップデートを怠らない・プロダクトマネジメント的な横断的視点の判断を大事にするのがライフサイクルにおける柔軟な移転に欠かせないということと感じました。

顧客のどんなジョブを解決するのか・顧客のどんなビジネス成果に寄与するのか・ビジネスとして収益性・成長性が見込まれる構造にあるかなどの問いに対して初期の段階から点検し続ける必要があり、CPAチャーンレートLTVなど「ビジネスモデルに応じて模範的に測定すべき指標を使い倒す」というのが成功確率を最も高めるという理論と実践が線でつながった感覚を覚えました。

・本書はマーケティングや市場戦略の基本的な理論をハイテク業界にカスタマイズしたような構成になっており、過去に勉強した知識と直近集中的に学んでいるプロダクトマネジメント・UXデザインなどの理論・知見がうまく突合する感覚を覚えて非常に面白かったです。

 

以上となります!