今回はDON・MCGREAL/RALPH・JOCHAM氏共著の「プロフェッショナルプロダクトオーナー」を要約していきます。プロダクトマネージャーの主にリーダー層を想定した必要な能力・経験・望ましい振る舞いについて体系的に論じた本であり、プロダクトデリバリーとディスカバリーの両立、特に開発工程におけるスクラムをどのように扱うかということに関して重点を置いて記述されております。
「プロフェッショナルプロダクトオーナー」
■ジャンル:開発管理・組織マネジメント
■読破難易度:中(アジャイル開発・プロダクトマネジメント・プロジェクトマネジメントの基礎知識がある前提に論が展開されます。前知識さえあれば既知の内容になり、平易な言葉で記述されているため読みやすいです)
■対象者:・プロダクトマネジメント・エンジニアリングマネジメントに従事する方
・プロダクト領域におけるキャリアラダーに興味関心のある方
※参考文献※
■プロダクトマネージャーのしごと
■INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント
■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感
■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感
■アジャイルサムライ
【要約】
■プロダクトオーナーの役割について
・本書ではVision・Vale・Validation(検証)の3つに関して責任を持ち成果をあげるのがプロダクトオーナーの役割と定義されます。プロダクトライフサイクルに即した適切な戦略・顧客価値を推進していくためには高いオーナーシップの発揮とスクラムによるマネジメントが欠かせないとされます。本書はプロダクトマネジメントのフレームワークを用いて顧客価値最大化とコトマネジメント・プロダクト戦略を遂行していくにあたってのスクラムによるマネジメントの手法を体系化した内容となっており、特にプロダクトリーダーを想定した内容になります。
■戦略
・予算・期間制約がある中でスコープを区切り予定調和に収束させることが期待されるプロジェクトマネジメントと対比的にアウトカムを高め、不確実性を解いていく営みを絶やさないことがポイントになるのがプロダクトマネジメントです。加えて、プロダクトオーナーはデザインやプロダクト戦略・マーケティング・エンジニアリングなどにも染み出し、ステークホルダーと共通目線で会話をする・合意形成する役割を持ちます。
・エンジニアリングは顧客価値を満たす手段ですが、誰のどんな価値を満たすのか・満たしているとどのように判断できるかという要求・要件定義、仮説検証を高速に回して適切な方向に拡張・改善していくことをリードするのがプロダクトマネージャーの重要な役割になります。仮説検証型の開発におけるスクラムの基本思想は経験主義と呼ばれるエフェクチュエーションのような不確実性を解いていくプロセスに重きを置く価値観と自己組織化(分散型オーナーシップ)の2つが思想の根幹を成します。プロダクトマネージャーはエンジニアリング組織とビジネスサイドの折衝をしながら戦略推進をしていく役割になります。時に投資を仰いだり、リーダーシップを発揮して優先順位付けする起業家や事業責任者のような振る舞いも必要になります。
・プロダクトオーナーは開発マネジメントとしてはスプリントの期間を定め、リリース・スプリントレトロスペクティブによりフィードバックを起点とした改善・顧客への共感をプロダクト開発チームに浸透させ、素早く正確に学習・修正していくことをリードすることが大切になります。プロダクト戦略やプロダクトビジョンを明確に言語化・アップデートし続けて、ステークホルダーと合意形成・同じ目線で会話、要求コントロールし続けることを保つために能動的に外界、環境に働きかけるというオーナーシップがプロダクトリーダーシップを遂行するための基本要件となります。
・開発と仮説検証・顧客価値探索の視点を行き来、コト・コミュニケーションマネジメントしていくことがバリューを発揮する為に大切になります。顧客の満足度×ニーズの充足度という二軸で品質を規定し、MVPを作る狩野モデルはアジャイル開発の大切な概念です。狩野モデルでは当たり前品質・顧客我慢・顧客満足などの状態に基づいた判断を推奨します。具体的にはMINラインを定め、顧客価値をどの方向に拡張するかを探索するためのABテストやジャーニーマップを用いたイメージの言語化・検証設計をしていくということを通じてプロダクト価値やライフサイクル・PLに責任を持つロールを担うことがプロダクトリーダーのコアバリューとなります。構築・計測・学習の3つの観点でコトマネジメントをしていきプロダクトグロースを目指すリーン・スタートアップのフレームにて思考を整理、コトを進めることが本書では推奨されます。
■スクラム
・要件定義・要求明確化・経営者、エンドユーザーの深いコミットメント・顧客への継続的な共感がアジャイル開発の成功のカギを握るとされます。リスクと不確実性の当たりをつけて、コントロール出来る範囲でコミットメント・軌道修正していくという態度をもってスコープ定義・品質交渉する・コントロールするなどを判断していくことが欠かせなく、マネジメントの生産性が成功のカギを握ります。
・スクラムやアジャイル開発はあくまで組織文化・フレームワークであり、自己組織化と仮説検証の精度を高く保つための工夫の妙でしかないのです。スクラムは透明性・検査・適応の3つを基本原理として何を学んだかということを起点に仮説や結論をアップデートしていく経験主義を採用します。タスクをユーザーストーリー・バックログで分解し、スプリント(期間)を設けて遂行、定期レビュー(スプリントレトロスペクティブ・顧客フィードバック)を経て改善していくというオーナーシップに重きを置く開発体制になります。スクラムのミソは可視化・共有化・構造化にあるとされます。
・ファシリテーションとコーチング・関係各所との交渉・協業リーダーシップ・戦略的思考・ドキュメンテーションスキルなどがプロダクトオーナーの具体的なスキルセットとなります。タスク間の因果関係・階層関係・完了の定義などを記述、整理、対話していくことが欠かせません。また、分散型組織マネジメントをするにはスプリント毎に扱うバックログの細分化・優先順位付けと完了基準を明確にして合意形成・運用し続けることにあるとされ、手順書や論点・納期設定などを自ら書き出してもらい、見積もりの差分を埋める・自立してもらうなどの工夫がスクラムマスターには必要になります。経験主義的に素早く効果的に学習することで、不確実性を下げていくというスタンスで物事を成しえていくことがスクラムの成功要件に寄与するとされます。
■戦術
・完成要件の定義は技術的な側面とドメインの側面の二方向から判断されるべきであり、ビジネスサイドの折衝はプロダクトオーナー・スクラムマスター・テックリードなどが担うことが多いです。成果指標やVoCで判断することに加えて、費用対効果や納期などのQCD観点でも現在の営みを点検するというシビアな意思決定を遂行していくことが組織のケイパビリティとアウトカムを最大化するのです。プロダクトオーナーとしては対話・共通認識を揃え続けることなどのコミュニケーション設計とコトの戦略的な意思決定を組織に宿し続けること・メンバーのメンタリング・自己組織化を促す問いと振り返りの設計がポイントとされます。また、在庫の無駄や手戻りの無駄などが起きないように予見することや不確実性、論点のあたりをつけるように先回りする営みが欠かせないです。
・プロダクトはリリースして顧客に価値訴求・フィードバック獲得・ビジネス成果計測してなんぼであり、小さくとも確実に完了させていくことがミソになります。スプリント毎に開発可能なインクリメント・組織ケーパの指標たるベロシティの可視化およびユーザーストーリーマッピングの参照ということをしながらコトを進めていくことも必要になります。優先順位付け・部分の戦略やロードマップにおける位置づけの把握、仮説検証していくということをコミュニケーションすることで開発生産性をマネジメントすることはプロダクトオーナーの絶対感覚とされます。スプリント毎のベロシティを高めるためにスプリントレトロスペクティブを行い、メンタリングをすることで正しい方向にエンジニアリングフォースを割くことやプランニングポーカーによる工数・不確実性見立ての精度を高める、ペアプロによる技術支援なども具体的な打ち手になります。ペルソナ・ジャーニーマップ・ワークフローの可視化・図示化することは何を目指して開発しているのか?ということを見失わないためのコミュニケーションツールとしても大切になります。
【所感】
・アジャイル開発とプロダクトマネジメントの基礎理論をまとめ、リーダーシップを発揮するためにどのようなスキルスタンス獲得をすれば良いか?・プロダクトデリバリーとプロダクトディスカバリーの両立・橋渡しの為にはどのようにコトを組み立てれば良いか?という視点におけるエッセンスの詰まった内容でこれまで学んできた理論・知識が有機的に結合していく感覚を得る読書体験でした。
・継続的な組織のメンタリングとコトの優先順位付け、顧客価値とビジネス成果の連動を意識しながらエンジニアリングをリードするという感覚・オーナーシップとベースの凄まじい処理能力・知的好奇心を必要とするというプロダクトリーダーシップのロールの解像度が深まった感覚でした。ホリスティックな視点を如何なる時も絶やさず、専門領域や視座視界を飛び越えていくコミュニケーション・アウトプット・アウトカムをどれだけ日々意識して実践していけるかということの積み重ねだよなということを再認識させられる内容でした。
以上となります!