雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫

 

今回はMatt LeMay氏の「プロダクトマネージャーのしごと」を要約していきます。自身の様々なプロダクトマネジメントの経験からプロダクトマネジメントの日々の業務と実践について、様々なテーマ・ケースを用いて体系的に論じた本です。初学者は勿論、中堅~ベテランPM向けにもキャリアの展開方法など含めて記述されており盛りだくさんの内容となっております。

 

「プロダクトマネージャーのしごと」

O'Reilly Japan Blog - 9月新刊情報『プロダクトマネージャーのしごと 第2版』

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:中(初学者でもわかるように記述されていますが、氏特有の記述方法に慣れるまで若干の読みづらさがあるかもしれません。PjM・PdMいずれかに従事した上で読み込むことをオススメします)

■対象者:・プロダクト関連職種に関わる方全般

     ・プロダクトマネージャーになりたい方

     ・事業開発・企画スタッフのスキル・経験を高めていきたい方

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメントのすべて

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて(後編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■プロダクトマネージャーとは

・プロダクトマネージャーは人と物をつなぎ成果を出す仕事であり、ビジネスUXテクノロジーの3つに精通しバランス感覚を持ち、時に役割を柔軟に変えていく総合格闘技のような側面を持ちます。様々な領域の知見やスキルが必要になりますが、究極的なミッションは「曖昧さ解消に努め、人とモノを繋げることを通じてプロダクトとビジネスのアウトカム最大化にコミットすること」となります。

・プロダクトマネージャーの急所のスキルはコミュニケーション・組織化・リサーチ・実行の4つとされ、極めてソフトスキル偏重とされます。プロダクトマネージャーはプログラミングスキルがなければ務まらないという役割ではなく、むしろドメイン知識やステークホルダーマネジメント経験などが根幹を成すとされます。

・プロダクトマネージャーの難しさは「自分と一緒に働く直接のインセンティブがないチーム外の人と一緒に働く点」・「責任は大きいが権限は小さい点」・「コミュニケーションやファシリテーションなどいわゆるプロダクトマネージャーな仕事ではない要素が割合として多くなる点」・「言葉の定義や役割の境目など曖昧さに対峙する点」などがあげられます。専門性の異なるステークホルダー(例:エンジニア・デザイナー・セールス)との折衝の複雑さや上位組織・戦略に責任を持ち、常に情報の非対称性がある中で対峙を求められるシニアステークホルダー(例:役員・部門長)の存在など頭を悩ませる事象は様々存在します。

 

■プロダクトマネージャーに求められる資質・職業倫理

・プロダクトマネージャーは上記役割から明らかなように、様々な領域に首を突っ込み続けて、時に組織図上の指示命令系統にない関係者を巻き込んだり、急にあるテーマへ責任を持つということが恒常的に発生する役割です。それ故に、柔軟に知識やスタンスをアップデートすることに加え、あらゆる事象への知的好奇心が根本的に必要とされます。

・また仕事の性質上、曖昧さが恒常的に発生する環境の中で前提条件や価値基準を揃えコミュニケーション齟齬が起きないように仕事を整理することや関係者と定期的な認識すり合わせをすることなどが欠かせません。その為、論点を精査して議論設計をしていく基本的なクリティカルシンキングが強く求められる役割となります。シニアステークホルダーに振り回されたり、資源(予算・工数)制約条件の中でどのように青写真を描くか・どの順番で課題解決していくかという旗を掲げ続ける精神的なタフさと一種の社内政治スキルが必要です。なので、ドメイン知識に明るい顧客接点部門経験のある人がピボットしてプロダクトマネジメントに従事するというケースは案外多いとされます。

 

ドキュメンテーションについて

ドキュメンテーションは「仕事の曖昧さを解消し、プロダクトとビジネスのアウトカムを最大化する」プロダクトマネージャーの重要な仕事内容であるが、あまり時間をかけ過ぎても役に立たない代物でもあることも理解しようと強く本書では主張されます。WBSやロードマップなどはプロダクトマネジメントをする上で重要な物差しとなりますが、管理・運用を最適に行うのは至難の業であるのも事実です。ロードマップは戦略的なコミュニケーションをする為の骨格を炙り出す為のツールに過ぎず、ビジュアルなどを作りこみすぎないのが大事なポイントとされ、本書では「1ドキュメント1時間以内」という原理原則が提唱されています。一方で、ドキュメンテーションは濫用すると勝手に資料が展開されていく悲劇にもなりかねないので、共有範囲と所有責任を明確にすることだけは徹底すべきともされます。

 

■リモートワーク環境におけるプロダクトマネジメントの難しさ

・遠隔マネジメントの場合、「お互いが早期に信頼し合うしか効果的に物事を進める方法がない」という風になるので却って効果的に物事が進むという見方が存在します。一方で、情報取得量がどうしても制御されてしまう為に、変な思い込みや相手を取り巻く労働環境に想像が回らないという事態は避けられません。ポイントは弱みを開示すること歩み寄ろうというスタンスをしっかり提示して、情報の非対称性を解消しようとすることだとされます。

・コミュニケーションの双方の基準やルールを明確にするというステップを初期に設定・合意しておくことが上記のような無駄や負荷を軽減するとされます。これは曖昧さに対峙し、コミュニケーションエンジンとなることが求められるプロダクトマネージャーにとっては非常に重要なお作法です。「非同期のツールに対するコミュニケーションスピードや基準」は人それぞれであり、この感覚のずれが仕事を混乱させたり精神的な負荷を生むことが多いので、コミュニケーションに関する当たり前基準を設定するというのはプロダクトマネジメントにおいてステークホルダーと要件定義をする初期段階でこちらから持ち込み設定するべきとされます。

・リモートワークは非同期(例:メール・チャット)的なコミュニケーションには有効ですが、同期コミュニケーション(例:オフラインのキックオフ)を効果的に行う為にはかなりの事前準備と当日の仕立てを必要とするのは性質上避けられません。創造的な対話を進めるには「事前と事後の準備活動がかなり時間のかかるものである」ということを前提に置かないといけません。なので、プロダクトマネジメントにおいてはスケジュールブロック外の目に見えない大量の整理・設計業務時間があるということです。同期ミーティングを効果的に行う為には前後の非同期な行為(事前準備・議論設計+議事録・タスク整理の事後ワーク)によるサンドウィッチ型の業務進め方が欠かせません。

 

プロダクトマネジメントの難しさ

・プロダクトマネージャーはその性質から仕事と感情の浮き沈みが絶え間ない構造にある役割です。非公式な力関係や情報資源を持って様々なステークホルダーに働きかけることでバリューを発揮することを目指す役割で、その仕事の性質故に、衝動的かつ感情的に意思決定したくなるような気持ち悪さのある場面(そうしたリアクションはプロダクトマネージャーとしてご法度とされます)が常日頃発生する中でも上位組織やプロダクトビジョンから優先順位付け・価値基準を定義していく精神的な強い規律と経験の場数が求められます。

単刀直入に言うべき所で曖昧に回答したり恐怖や怒りから衝動的に反応するはプロダクトマネージャーあるあるの失敗とされます。プロダクトマネジメント独特のお作法・ドメイン知識・経験の掛け合わせで習熟していく性質からは避けて通ることが出来ないとされます。

 

【所感】

・右も左もわからない中でPdM兼PjMのような役割に従事した自身の直近半年の仕事を顧みる意味で、何度もメモを取りながら読み進めるほど非常に面白かった本でした。要約に書き起こしていない章やテーマもたくさんあり、プロダクト関連業務に従事される方には軒並みオススメしたいといえる本です。独特のお作法(クリティカルシンキング+工程管理+ドメイン知識)と組織図上で指示命令系統にない中で専門性の異なるステークホルダーを巻き込み協業していく点やシニアステークホルダーによる環境変化(例:事業戦略の変更故に結論が急遽変わる・情報の非対称性から自身の立場では無理ゲーな方向性への合意形成)への対応など自分が従事する中で悩んだ事象があるあるであると記述されていることに非常に救われる思いでした。

・常に曖昧さや不安が付きまとう中で、それでも旗を掲げステークホルダーとやり繰りをすることでビジネスとプロダクトのアウトカム最大化にコミットするというプロダクトマネージャーの役割は非常に奥深いと再認識した次第です。てっきりエンジニアやデザイナーの上位職能と思い込んでいたプロダクトマネージャーですが、自分で関連職種に従事し本書を読んだ今の結論としてはソフトスペック偏重であり、「マネージャー」の要素が強いのでドメイン知識やコミュニケーションスキル・組織での信頼残高の保有有無の方が適性として重要なのではないかと置いています。

・関連領域の書物を読み、自身の経験とスキルをアップデートし続けることで関連職種含めてしっかり役割を発揮できるように頑張りたいと思える勇気をもらえる本でした。

 

以上となります!