今回はマーティ・ケーガンとクリス・ジョーンズ氏共著の「EMPOWERED」を要約していきます。SVPGシリーズの二作目になる本書はプロダクトモデルの実践において、プロダクトリーダーがどのように振舞えばいいか?について体系的に論じた本です。同シリーズの「INSPIRED」と「TRANSFORMED」に非常に関連性の深い内容で、通して読むことで関係性が深く理解出来ます。
「EMPOWERED」
■ジャンル:開発管理・組織マネジメント
■読破難易度:中(プロダクトマネジメント・アジャイル開発・プロジェクトマネジメント本を数冊読んだ上で本書を読むことをおすすめします。専門用語や独特の価値観が随所にあり、初見で読むと読みにくさを感じるかもしれません。)
■対象者:・プロダクトリーダーの業務内容に興味関心のある方
・DX・変革推進の実務に興味関心のある方
・組織マネジメントに従事する方
≪参考文献≫
■INSPIRED
■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■TRANSFOREMED
■チームトポロジー
【要約】
■プロダクトモデルの概要
・DXを始めとした変革推進にはCEOや経営幹部の協力が欠かせなく、優秀なプロダクトリーダー・プロダクトリーダーが組成・メンタリングするプロダクトチーム・プロダクトチームへの権限移譲と適切なコンテキストの共有が大前提として必要になります。その上で、チームトポロジーや横断型組織・対話型文化の形成・OKRマネジメントなどの具体的な組織設計・運営上の妙が出てくるという具合です。
・良い横断型プロダクト組織はプロダクトデリバリーに終始するのではなく、プロダクトディスカバリーの視点・デリバリーとディスカバリーの両立・視点の行き来や顧客価値は勿論、ビジネス成果や投資の視点を考慮しながら総合的な意思決定と成果創出・説明責任を負うといった要素が必要になります。プロダクトモデルは全てが噛み合った時に圧倒的な力を持つ一種の芸術品とも言えるでしょう。
■プロダクト組織マネジメントの要諦
・プロダクトモデルはプロダクトリーダーがマネジメントをする職能横断型組織となります。コアの役割を担うのはプロダクトマネージャー・プロダクトデザイナー・テックリードであり、ビジネス・顧客価値(UX)・テクノロジーの3つの視点・バランスをとりながら機能開発と仮説検証を通じて、顧客価値とビジネス成果(アウトカム)を連続的に創出していく営みとなります。プロダクトディスカバリーとしては4つのリスク(価値・ユーザビリティー・実現可能性・事業実現性)をコントロールできるようにコトマネジメントすることが必要になります。
・複数の職能の視点やアジェンダに共感し、理解を示しながらプロダクト戦略やプロダクトビジョン・ロードマップに基づき意思決定や調整をしていくことが継続的に必要であり、それ故に高い好奇心・共感力・オーナーシップが構成員に求められます。加えて、圧倒的な実務スキルと経験も必要になります。しかしながら、全てを兼ね備えた状態のプロダクト組織というのはほぼ不可能なので、実践的には継続的なメンタリング・コーチングを通じて啓発・開発し続けながらやっていくのが一般的です。
・とはいえ、プロダクトマネージャー・プロダクトデザイナー・テックリードに適切な人を据えることができるか?ということはオーナーシップ・リーダーシップのベクトルに大きく左右し、組織のアウトカムにも連動するのでプロダクトリーダーが交渉・見極めをして拘るべきポイントとされます。採用・育成・評価・仕事の設計を通じてこれらの調整・働きかけをしていくのが具体的なプロダクトリーダーの実務になります。メンタリングやコンテキストの共有・疑義の確認などをするという意味においてもプロダクトリーダーにはプロダクトチームとの週次の1on1が推奨される対峙の仕方とされます。こうした仕事の性質・組織の特徴があるので、プロダクトリーダーにはドメイン知識や実績は勿論のこと、エバンジェリズムと構造化スキル・リーダーシップが高度に求められるという具合になります。
■プロダクトリーダーが取り組む重要な仕事
・プロダクトリーダーがプロダクト組織に権限移譲をして高い成果を出すにはプロダクト戦略とプロダクトビジョンの磨きこみ、全ての意思決定の軸にプロダクト戦略・プロダクトビジョン・顧客中心主義を据えることが大切とされます。プロダクト組織がデリバリーとディスカバリーに集中し、適切な方向に組織を動かしていくためにもステークホルダーマネジメントや適切なコンテキストの共有(ビジネスを取り巻く環境・ステークホルダーの関心毎・ビジネス戦略の要諦・時間軸・視座視界など)などを継続的かつ丁寧に行い、組織をエンパワーメントしていく姿勢が求められます。
・プロダクト組織のコーチング・メンタリングはプロダクトリーダーの重要な仕事ですが、ナラティブを作成してもらい、添削・チューニングするが最も痛みを伴うが効果的な技法とされます。ナラティブは解決しようとしている問題・問題を解決することが顧客と自社に価値をもたらす理由・解決するための戦略の3要素をストーリー立てて綴る文書のことを指し、似たようなものではAmazonが何らかの起案をする時に必ずPPTではなくWordでプレスリリース形式で記述をするというものがあります。
・プロダクトリーダーはプロダクト組織の設計を通じて高い生産性と組織成果を支援することが求められます。チームトポロジーは非常に大切な論点であり、大きくプラットフォームチーム(認証や認知などの共有サービスの担当・インターフェイスの担当・テストとリリースの自動化担当など)とエクスペリエンスチーム(アプリ・UI・ソリューション・カスタマージャーニーの機能開発・価値探索など)の2種類になる組織の役割分担・インタラクションモードの設計・関係者合意形成などを具体的に行うことが求められます。一般的にプラットフォームチームが定常的な業務のウェイトが大きくなり、エクスペリエンスチームと連動するものの、技術に集中することでエクスペリエンスチームの認知負荷を軽減するなどの役割を持ちます。各チームにどんな役割・権限を持たせるか・誰をどのバスに乗せるかなどは重要なプロダクトリーダーの采配になります。目下の組織のワーク度合いは勿論、プロダクト組織のチームメンバーのスキル開発・リーダー育成にも関わるものです。
・実務においてはプロダクトチーム全体に跨るプロダクト戦略とプロダクトビジョンがあり、ブレイクダウンした形でKPIツリー・ロードマップの形になり各チームに役割分担・成果責任が決まり、OKRマネジメントの形で各チームを分散統治していく形が一般的となります。プロダクトリーダーは定期的に各組織のOKRに関するレビューや論点・気になり事項を吸い上げ、組織との対話・関係者への示唆出し、交渉を通じて組織全体をリード、アウトカム最大化に向けて働きかける形式を取ります。
【所感】
・個人的にはプロダクトモデルの成功には誰をバスに乗せるか(プロダクトリーダーは勿論、コアのプロダクトマネージャー・プロダクトデザイナー・テックリード)が一番レバレッジポイントなのかなと感じた次第です。現実のプロダクトマネジメントはどこまで行っても、予定や型通りにいかない難題・局面や二律背反・強い負荷の伴う折衝がついて回るのがつきもので、そうなると圧倒的な物量をこなしたり調整・優先順位付けをするためのきめ細やかな目に見えない仕事をこなし続けるオーナーシップ・リーダーシップが不可欠です。こうした要素がプロダクトモデルが瓦解せず機能し続けるためのミソなのだろうと自分の実体験も基に感じた次第です。(権限移譲やコンテキストの共有は組織やリーダーへの信頼がそもそも前提にあるので。)
・本書の内容は「プロダクトマネジメント」という側面でコトとヒトのマネジメントを論じていますが、個人的にはトランスフォーメーション(変革推進)全般に通じる要諦が詰まった内容ではないかと感銘を受けました。横断型組織で複数の技能を結集して、問いを解く・顧客価値とビジネス成果の両立にコミットすべく連続的な成果創出をし続けることでしか存続・ワークできないというシビアな側面をもつ点などは特徴的でしょう。
・本書のように体系だった理論と豊富な事例により疑似体験や基本を抑えることは勿論、規模や影響範囲が小さくともこうした組織やプロジェクトの経験を通じて自分なりのバランス感覚やスキルセットを早期に体得、実践知を通じて磨いていくという形でサイクルを回し技能を高めていくことが変革リーダーには大切であると感じます。如何に機会を掴みとれるかということが全ての起点であるので、自分も爪を研ぎながら機会を掴み実践してスキルの幅を広げていくようにしたいと考えさせられました。
以上となります!