今回はハワード・ラインゴールド氏著の「新・思考のための道具」を要約していきます。コンピューター史を紐解いた内容で、1985年に初版が出版され技術の発達に寄与した偉人達へのインタビュー・転換点に何を考えどのような思考錯誤がなされたかが生々しい言葉で記述された内容となっています。アップルのスティーブ・ジョブズなども登場してきます。本書は当該分野の古典として名高く、コンピューターを計算する機械ではなく、人間の考える過程を支援したり増幅するツールとみなして歴史を紐解いた革命的な本とされます。
「新・思考のための道具」

■ジャンル:自然科学・歴史
■読破難易度:中(技術的な専門知識は不要で読める内容ですが、コンピューターの性質・役割について考えた痕跡がないと頭になかなか入ってきにくい構成となっています)
■対象者:・コンピューターの歴史に興味関心のある方
・コンピューターの性質を深く理解したい方
≪参考文献≫
■システムの科学
【要約】
■コンピューターの歴史・性質
・コンピューターは軍事用・学術用の計算ツールとして役目を開始し、度重なるイノベーションを経て、産業用からコンシューマー用への用途拡大・低コスト化やインターネット・グラフィックデザインの発達などを経て、1980年代に急激に技術として発展・拡大していったとされます。コンピューター発達の歴史には数学・論理学などの計算手法の道具としての発達段階と人間の脳を再現するような形でプログラム・応用活用するという発達段階の2つを経ています。
・機械工学や解析など特定のロジック下での大量の情報処理をする手段としてのコンピューターの構想は19世紀には既に原型が出来ていたとされます。人間の推論を代数の形で表現する記号論理学の発達により情報処理の可能性は飛躍的に引きあがり、計算だけでなく人間の論理を処理する人工知能の基礎的な概念が誕生したとされます。その技術そのもののコストイノベーションや音声技術・画像処理・インターネットの普及などによるコミュニケーションツール・市場規模の飛躍的な拡大などを連続的に経て、21世紀のグローバルインターネット社会がもたらされたという関係性です。ここに推論を高度に可能にする生成AIの発達が食い込んだことで、コンピューターの可能性は更に飛躍的に広がることとなっています。人工知能とは生物学的な側面とどのように情報処理をしているかという論理体系の解明・それをコンピューターで再現するという3ステップを経て具現化されています。
■コンピューターの発達を支えた奇人の努力の痕跡
・本書では数十年に渡り、バトンリレーのように受け継がれてきたコンピューター革命をけん引した偉人・奇人のインタビュー録が詰まっております。具体的にはチャールズ・バベッジ・エイダ・ラブレイス伯爵夫人(世界初のプログラマー)・ジョージ・ブール・アラン・チューリング・ジョン・フォン・ノイマン・ノーバード・ウィーナー・クロード・シャノン・J.C.R.リックライダー・ダグラス・エンゲルバード・ロバート・テイラー・アラン・ケイ・エイヴロン・バー・ブレンダ・ローレル・テッド・ネルソンのインタビューを取り扱います。
・コンピューターの初期の用途は数値計算・バッチ処理・電子簿記がメインで、プログラミングにより対話型の情報処理ができるようになり、コンピューターのポテンシャルは劇的に飛躍しました。並行してネットワーク技術が発達したことで、地理的に分散していてもコミュニケーションが取れるようになること・対話型のやり取りを通じて人間の情報処理能力を引き上げること・オンラインコミュニティの構想などが1980年代にされ、コストや閾値の壁を超えたことで21世紀になり実用化が世界全体でなされたという具合です。コンピューターは情報収集・情報発信のイノベーションであり、活版印刷や電話と同じくらい革命的であるとされます。
・デジタル技術は連続的なイノベーションでスペックやコストを変化させ、それにより市場拡大が起こり、世界ではデジタル格差を引きおこすまでに至ります。金融や製造・管理部門などのコンピューター技術の用途転用先の産業で市場が成立し、コストとデザインのイノベーションが呼び水となり、結果的にコンシューマー市場も拡大していくことになりました。
【所感】
・コンピューターが軍事用に発展したことや計算機を起源にもっていることは断片的に理解していましたが、誰がどのように思考錯誤して、いつから現代のような技術体系・用途可能性を見出すようになったのかということが理解できて非常に面白かったです。所々抽象的な内容で置いてきぼりになる時もありましたが、何を夢見たか・どのような葛藤や壁があったかを臨場感を以て読み解けたので非常に読み応えのある内容でした。21世紀になりインターネット革命が起きて、具現化された技術の大半は既に1980年代には構想・結論が出ていたものであり、それが高スペック化・低コスト化したことで商業化したという予定調和の連続であることが知れたのは一番大きな発見だったかもしれません。
・プログラミングや脳の情報処理をベンチマークにコンピューターが発達しているということは直感的には理解していましたが、その発達の経緯を理解することでより深くコンピューターの性質を理解出来たように感じます。インターネットやデザイン技術の発達・ゲーミング市場の拡大により、人間の情報量や情報処理スピードは飛躍的に高まりました。それは本来のコンピューターの発明の狙いに即したもので望ましいことですが、それでも幸福度や生産性が必ずしも世界全体で高まっているわけではないというのが悩ましい所です。情報処理を高速・高度化することで意思決定の複雑化や高速化の呼び水になっているということや何でも比較・可視化されるようになったということの功罪でもあり、これは個人ごとの価値観や持論が出る答えのないテーマだなと感じました。
以上となります!