今回は約1年前に読んだポーターの「競争の戦略」を再読して自分なりにまとめてみたので記事にしてみようと思います。自分の頭の整理の意味も込めて記述していますが、出来るだけ第三者にもわかるように努めてまとめたいと思います。
大学時代にかじったことのある競争戦略ですが、いざ自分が本気で「事業を推進していく」・「競争優位性を確立していく」ということに興味関心を持つようになり再読してみると前回よりも飛躍的に学び考えることが多くなった本です。
とにかく記述の網羅性が凄まじく古典的な名著はそれ故の理由があると思い知った次第です。三部構成になっており、今回まとめるⅠ部は「市場・業界を分析するための体系的な方法」について網羅的に記述したパートになります。ちなみにⅡ部は「特徴的な業界・その原因・対応策について」・Ⅲ部は「業界における収益最大化の為の代表的な打ち手」についてまとめてあります。
「法人営業として幅を広げたい」・「事業推進において自分なりに見解を持てるようになりたい」このあたりの個人的関心とうまくリンクした本に思えています。
※財務会計・ロジカルシンキング・経営学の基本があると本から読み解ける内容も膨れると思うのでこれらの分野に関する基本的な勉強をしてから読むことをおすすめします。そして、この要約も網羅的に記述しているのですさまじく長いです。ちなみにⅠ部だけで260ページ程もある超大作です。
「競争の戦略」
【要約】
●1 業界の構造分析法
・競争が起こる5つの要因≪基本原理≫
■新規参入業者■買い手の交渉力■売手の交渉力
■代替製品・サービスの脅威■業者間の敵対的関係
●2 競争の基本戦略
・3つの基本戦略≪基本原理≫
■コストリーダーシップ■差別化■集中
■コストリーダーシップ
収益性と低価格の両立で競合企業が戦いを挑めないようにするという原則、高シェアや大量の事前生産設備投資・顧客群の充実など規模の経済・経験曲線を前提にした考え方であるが確立するのは非常に難しい。市場の変化が乏しい業界においてはこの競争優位を確保すると持続性は高い
■差別化
市場シェアと両立できるとは限らないが形成できると高い利益率・競合回避などのメリットを被ることが出来ることが多い。群雄割拠の業界においてはこの差別化を追求することが市場で生き残る為に必要不可欠な戦略となる。(後発企業は基本的に差別化の何らかの要素を見出さないことには市場で価値を収めることは難易度が高い。)
■集中
■戦略により必要な組織構造・リーダーシップは異なる
・コストリーダーシップでは厳格な組織つくりが必要であり、差別化においては業界の歴史が古く棲み分けのできる体質、時には優秀な研究者や技術者を惹きつけるだけの余力がないといけない。3つの基本戦略いずれも採用できないとなると低収益を垂れ流す構造になることは必然といえる。
■基本戦略がもつリスク
・コストリーダーシップのリスクはその持続的な確立が外部要因により、多くが阻害されやすい所にある。即ち破壊的な技術の到来やコストだけの意識をしていてR&Dやマーケティングなどの他機能の損失による出鼻をくじかれるリスク、そもそも収益性との両立が難しい等。
・差別化のリスクは業界全体の価格変動等が起きた時にブランド価値だけで顧客の差別化需要を訴求出来なくなるリスク・模倣による競争優位の失墜・顧客の需要・要望難易度増加による収益性の阻害・価値定義の難易度増加等がある。
●3 競争業者分析のフレームワーク
■競合分析について
①競争業者の将来の目標②競争業者の現在の戦略③競争業者の仮説④競争業者の能力の4つの側面から分析するのが望ましいとされる。
≪分析対象≫4つの対象を分析すべしと記述
①現在はいないが今後低コストで参入できる業者
②業界参入によりシナジーが生まれる業者
③戦略の一貫性から参入することが必然といえる業者
④流通チャネルの統合を進めている顧客あるいは供給業者
※現在は市場にいないが参入により脅威となるないしはルールを変え得る業者
■競合分析について着目する点
会社全体の方向性・事業部門の戦略的重要度・シェア・その事業部の成り立ち
(なぜできたか?)・その部門のほかの事業部との関連性・位置づけなどを見ることで組織力学・方向性(捨て事業なのか・重要事業なのかによりかけられる総量に差が出る)を見ることが複眼的に競争業者の将来の目標を見るうえで有意に相関性を持つ。トップや昇進している人の傾向・経歴を見ることも競争業者の特質を見るうえで大事になる。⇒競争業者のPPM分析をして事業の位置づけ・方向性を見て推定するプロセス自体に大きな意味がある。これを精緻にやれている企業は多くない。
相手方がどのような位置づけ・戦略を取りうるのかを時間をかけて分析することが市場においてどのような行動をとると競争を避けながら自分たちの目標を達成できるのかを把握する道しるべになる。
「データの収集⇒データの整理⇒データの要約⇒戦略プランナーへの伝達⇒戦略策定のための競争業者分析」このメカニズムを構築することで情報を駆使した競合優位性を構築できるようになる、常に絶やさずその仕組みを作ることが企業経営の急所。
●4 マーケットシグナル
■マーケットシグナル
企業の意図・動機・目標・状況を直接ないしは間接的に示す行動を指す。
≪マーケットシグナルの効用≫
①競争業者の行動を規制したり消費者の動きを自社に引き込む狙いがある
②競争業者が計画している行動の実施を妨げる脅威にもなりうる
③競争業者へのメッセージ・どんな行動をするのかの試験紙
④競争業者の動きに対する自社の市場への表明
⑤競合に対する懐柔策
⑥金のかかる動き(設備投資)を業界全体で適切な量に抑制する(こぞって設備投資をすると業界内の設備過剰になる、これを防ぎ最適化を図る為)
⑦金融筋への情報発信
●6 買い手と供給業者に対する戦略
■買い手選定のフレームワークと戦略 ※4つの要因から分析出来る
①買手の購入ニーズとそれにこたえる自社の能力
②買手の成長力 ⇒取引金額が今後も伸びる可能性があるため
③買手の地位(交渉力・交渉力を利用しようとする癖)
④買手との取引コスト ⇒これが高いとほかの要素が優れていても生産性が下がる
⇒仕入れ先依存している企業は交渉力が低くなる上に、業者選定や折衝に高いコストがかかる、かけれない顧客に関しては依存度が高まる為交渉力が低くなる。高品質を商売のうたい文句にしている企業は取引先に対しても高い品質を要望する分、価格に対する交渉力は低くなる傾向にある。収益性があり非常に儲かっている企業も細かなことに口出しする価格交渉力は持ち合わせていないことが多い。
⇒低コストで製品を生み出すことの出来る業者は、価格交渉力の強い買い手に対しても収益を上げやすい(損益分岐点を超えるのが早いということ、しかし安受けをすると大量販売をしないと収益性を担保出来なくなることもあり、望ましくない買い手へのサービス提供に繋がる可能性がある。)
■買い手の仕入れ選定基準を拡大させる方法
①自社が買い手に提供する付加価値(機能価値・情緒的価値等)を上げる
※仕入れ先の購買基準を広くさせる(コスト以外の付加価値が購買理由にさせる)・別路線の差別化を志向するということ。無形商材は常に現場でこれを志向していかない限りにおいては薄利多売大量生産の疲弊の道をたどる。
②販売コストのかかる顧客を顧客から除外する
※コストがかかるだけで価格に対して無頓着である可能性もあるので注意深く吟味することが必要になる。
■買い手の質
「業界の成熟度」・「顧客の目の肥え」に比例する、業界が成熟し収益性が悪くなると一般的には価格へ敏感になる。
●7 業界内部の構造分析
≪業界内の競争戦略の次元訳r≫※下記を特徴に分解されることが多い
■専門度(製品・顧客群・地域)■ブランド指向度
■プッシュ型プル型(プロダクトアウト・マーケットイン)
■流通業者の選択(直販・代理販売・どの業者を使うのか)
■品質■技術のリーダーシップ(どのビジネスプロセスをKSFとするか)■垂直統合
■コスト面での地位■サービス低強度■価格政策(低単価大量販売か付加価値高価か)
■親会社関連会社との関係性■自国の政治的環境
・業界内部の企業は取る戦略によって企業群を分類することが出来る、そしてその戦略グループ間の移動障壁というのは大きくある、それが業界内での競争優位性構築の糸口になることも多い。戦略グループにより対峙する主要な顧客は異なりそれにより価格交渉力は異なる、戦略グループによる方針の違いが出る。
≪業界内の戦略グループ間の競争力の強さを決める要因≫
■各戦略グループの狙う顧客層がどれだけ重なり合うか(依存度の有無)
■各戦略グループの製品差別度
⇒多角化戦略を取ると資源が分散されるから、競争は弱まる傾向にある
■戦略グループの数とその大きさ
■戦略間の隔たり
⇒ブランドの確立・コストリーダーシップ・技術優位等の方針の違いで力点を置くところは異なる。
※市場へのその企業の依存度も競争力を構成する要因になる。
≪企業の収益性を決める基本的な要因 ※その市場の旨味≫
■5つの競争要因の強さ(買い手売手どちらが強い構造にあるかどうか・参入障壁の有無・戦略グループの多寡)
■戦略グループの特性(移動障壁・代替品の脅威・価格交渉力・その製品市場が占める自社への影響度・依存度)
■戦略グループ間の競争力(参入障壁・顧客の重複度合い等)
⇒これに付随して規模の経済・戦略の実行力等が付随してくる、価格競争などのそろばんだけで勝てないからということで常にブランドや顧客選定などの競争優位確立に向けての動きを取り続けることでしか持続的な収益性は担保出来ない。
・マーケットシェアと収益性が比例しない業界もある、設備投資や規模の経済の原則が働かないほうが是となる業界であり、ニッチ業者が多数ひしめく業界構造になる。これは市場が成長しないことも多く安定した業界になるケースがある。
●8 業界の進展・変化
■製品ライフサイクル
【導入期】製品設計・製品開発がKSF・この時期の研究開発・投資が持続的な競争優位につながる
【成長期】マーケティングがKSF・拡販するためのマーケティング・販売網の構築が肝となり、競争業者も増える。高収益体質をこの時期は構築しやすい。
【成熟期】顧客選定がKSF・低技能の労働者でも十分であり、顧客のブランド選好性も醸成されている。差別化は既にされているため、いかに収益を落とさない体質を作るのかがカギ。そこまで優秀な人材は要らない。
【衰退期】コスト管理がKSF・顧客の目も肥えており競争も緩やか・低価格低マージンになる。
≪業界の進展プロセスを形成する要素≫
■業界の成長の長期的変化
①買い手の人口統計的特性(C向けの場合は人口構造によりメインとなる顧客の層の手厚さが異なる・生産財の場合は顧客業界のライフサイクルに相関することが多い。)
②ニーズの動向(健康意識・女性の社会進出など世の中のニーズの変化)
③代替製品の相対的な地位の変化(何を代替品と定義するかは企業ごとの戦略による、これが腕の見せ所。世の中への洞察はマネジャーやマーケターは必須ということ。)
④顧客群への浸透(耐久財はその浸透とともに製品の成長率が下がるというジレンマを抱える。例:車・スマートフォン等 定期的な買い替え需要を創出する必要があり、その意味では顧客の購買タイミングも予想しやすい為市場の安定性は高くなる。)
⑤製品の改良
■買い手セグメントの変化
・顧客価値と業界・製品のライフサイクルにより常に変化する、衰退しないためには常にあたらしい顧客需要を創造して顧客を開拓していかないといけない。長い目で自社の競争優位性と合致する顧客への資源選定などの観点からも常に着目すべき事項。
■買い手による学習
・業界製品の成熟度と相関するケースが多い、賢い買い手に集中的に販売すると一気に形成されることが多い。誰を顧客にするかにより製品の急所は微妙に異なる。
■不確実性の減少
・業界の成熟とともに不確実性は減り、新規参入業者の属性も大手企業が多くなる。
■専有知識の拡散
・特許や独占技術というのは時間の経過とともに風化・その価値は逓減していくもの、なので「技術の競争優位を常に追求」するか「ほかのセクションにおける競争優位性を構築」しないと会社は脆い。それにその独占的な技術を市場浸透しないと市場が拡大せず需要も限定的というのがジレンマ。
■経験曲線の累積
■規模の拡大・縮小
・業界の拡大とともに垂直統合による参入も増えてくる。
■インプット・コスト並びに通貨コストの変化
・人件費・流通コスト・為替等
■製品イノベーション
■マーケティングイノベーション(販路・売り方・顧客価値の定義変化)
■生産工程のイノベーション
■関連業界の構造変化
・需要が関連する製品業界の変化の影響を間接的に受けるというもの、半導体をはじめとした生産財・消費者向けの製品など共に影響を受けることは多い。
■政府の政策変化
・株式市場に対峙していようと国のルール・方針には支配される、国の政策と近い事業ドメインで仕事するとこの影響を色濃く受けることが多いというのは認識すべき事象。
■参入と撤退
【所感】
要約はいったんここで終了です。かいつまんでまとめましたが、正確に記述しようとするとこの膨大さになります。大学で初めて学んだ時には、「整理して説明しているに過ぎずそれが何を意味する・役に立つのか?」と思考出来なかったのですが、今の自分の現状に置き換えた時には対峙する顧客の業界・事業環境の分析や自分の扱う商材の分析に置き換えて、活用できる技法だなと感じることが出来てから、この本が持つ凄みを感じられるように感じたと思います。
よく、経営者や上場企業の経営企画向けであり中堅中小企業やメンバークラスには意味がないと一蹴されるのがポーターですが、読んで損はないかなというのが個人的な見解です。想像を働かせることで顧客やマネジャー・部長・役員クラスが何に頭を巡らせているか?を理解するきっかけになるのは間違いないと思うので。
自分が対峙する事業を「どのように業界と対峙して拡大していくか?」「エリア・マーケットにおいての勝ち筋は何か?」「自分が今の職務で自分自身が担うべきことは何なのか?」を内省する上においてはこの上なく意味があるように思えたのでした。
「当事者意識が大事」という言葉は言い古されていますが、自分事として置き換える範囲を広く持つ意味でも古典的な名著を自分なりに必死に読み解いて内省することは大事かなと思っている自分の課題感にはとてもピッタリ来る本でした。恐らく今の事業ではないものに従事したり職種を変えることになっても、同じように捉えて自分が出せる最大限のバリューはどこか?何をすべきか?を思考する上においては急所となる思考・知識がこの本には詰まっているなという感覚です。個人的には近年読んだ本の中でトップクラスに自分の中に腹落ちしている本です。
以上となります!
他に気づいたこと・考えはⅡ部の要約時に改めてふれてみようと思います。