雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪功利主義≫

今回はJ.S.ミルの功利主義を要約していきます。

ベンサムと並び、功利主義という哲学思想を発展させた代表的な思想家です。経済学に対しての造詣も深く本書は「自由論」と並び氏の代表作です。最大多数の最大幸福を目指す功利主義は目先の快楽追求に満足しないソクラテスの有徳な生き方と両立するという考えを打ち立てました。

 

功利主義

 

■ジャンル:哲学

■読破難易度:低(言葉のニュアンスを慎重に確かめながら記述がなされるので、読みやすいです。分量も150ページ程なのでサクサク読めます。)

■対象者:

 

【要約】

「何が善悪の基準になるか」という哲学論争は数千年に渡り繰り広げられてきました。人間の叡智の積み重ねで科学因果関係に関する知識)や技術目的を実現する為の知識を科学から借用し配列し直した方法論)などが生み出されて来ました。科学や技術をどのベクトルでどのような基準で活用するべきか?という観点は根深い論点として現代でも哲学的テーマとして残り続けています。

・ミルは「社会全体の利益に忠実に行動することが結果として最大多数の幸福になり、良い」という功利主義の立場を取り、上記命題に対しての見解を本書で展開します。尚、一般的にミルの提唱した考え方は創始者ベンサムが提唱した量的功利主義と対比する形で質的功利主義と表現されます。

 

功利主義について

「最大幸福を追求していくことで自然と善悪の基準を満たした思考や行動になる」という考えが功利主義の根底には存在します。これは幸福を広範囲で追求していくことで、自然とベクトルが利己的なものだけで留まらなくなり(エゴに走ることが最適解でなくなるタイミングが存在するイメージ)、対社会(最大多数の最大幸福)に向くということを言わんとしています。上記の視座視界に到達する為には物事に対する分別があり、高い道徳精神()を体得する必要があり、教育経験を通じて知識をアップデートし続けることが大切であると説きます。

・一方で、低劣な人間が陥っているような状態と同じような現状維持に甘んじたいという感情を抱いているとしたら、それは精神の異常をきたしている時であり、致命的に何かが満たされていない状態だと痛烈に批判します。他者支配を好んだり、他人を貶めて面白がる傲慢さは絶対に避けるべき感情であるとします。

※このように、快楽を追求するという言葉のイメージだけが先行して功利主義が誤った認識にある社会を憂いているのが本書のカラーです。

・尚、功利主義の思想に付随して、「個人的情愛公共善に即した倫理観を持ち合わせるということは精神的な充足を追い求めるフェーズに入っている先進国においてやりやすいことである」とミルは評します。人間の苦痛の大半は配慮努力により手を施すことが出来るのであり、最大多数の最大幸福の追求を第一として志向していくことは社会の為、自分の為になるとします。

※一方、自己犠牲のもとに成り立つ正義自己犠牲を称賛してほしいという屈折した欲望が称賛される社会はあってはならないともされます。エゴが前面に出てきたら功利主義の原理が負のスパイラルを引き起こすようになると指摘します。

 

■道徳的行為を導く動機付け

・教育や世論により慣習的な道徳が育まれます。人間は義務や客観的感情だけで厳しく動機付け出来るものではなく、個人的動機付けも必要とします。道徳は他人に対する利害への配慮であり、善悪の基準で教育を施されることで知性が増し関心の範囲が広くなり続けることで、個人的快楽の追求も個性や人類愛を尊重するような段階に昇華していくとされます。なので、人為的に体系だった方法論を学び補強していく教育は合理的であるとされます。道徳教育の基盤として世界の大概の国では宗教(日本は宗教ではなく武士道の精神が長らく支えてきたとされます。)が機能しています。

 

■正義と効用の関係について

正義の感情は危害を加えた人を罰したい感情危害を受けた人が存在すると信じたい感情の2種類の性質を持ちます。性質的には自己防衛共感の意味合いが強いです。利己的な行動と集団の便益は時に相反することがあり、それを調停し全体の幸福・便益を阻害しないような仕組みとして法律が社会全体に存在します。

・正義は報復を渇望するという感情的な動機付けが根底にあるケースが多く、正義偏重は時にエゴが前に出過ぎて社会全体の便益を阻害することになりかねないとされます。

・その意味でも、徳を高めて他人から不可侵の精神世界の自由を享受することと効用と幸福の視野視界を対個人ではなく、対社会に広げていくことが精神を止揚させる上で重要であると改めてミルは説きます。

 

 

【所感】

「合理的な思考も視座視界を高めていくと最大多数の最大幸福の追求に帰結し、誰にとっても良いものになる」という示唆は衝撃でした。エゴや好き嫌いを判断軸に置く思考から脱却することが個人的な成長テーマである中で、とても印象に残ると共に参考になる考え方でした。※個人的には「他人の課題を解決してお金を頂戴する」という仕組みの都合上、ビジネスの世界で生きていく上では功利主義は多かれ少なかれ思想として馴染んでいかないといけないものと認識しています。

ギリシア哲学と宗教(主にキリスト教)が思想の根幹をなす西洋社会において、資本主義・産業革命の台頭などにより合理的に個人と組織(社会)の利益両方を追求していく為の最もらしい思想方法として、功利主義は1種の解を導き出したことに大きな功績があったのだと感じました。

 

以上となります!

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