雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪経済原論≫

 

今回は宇野弘蔵氏の「経済原論」を要約していきます。

マルクス・エンゲルス資本論からイデオロギーに関する言及(社会主義思想)を取り除き、経済学のエッセンスを抽出し要約した内容となっております。資本論は膨大な記述量の本なのですぐに手を出すことは難しくそれでもマルクス経済学について理解を深めたいという思いから本書を読むことにしました。

 

「経済原論」

経済原論 宇野 に対する画像結果

■ジャンル:経済学

■読破難易度:中(3000ページ程に及ぶ資本論のエッセンス・結論を抽出した仕立てになっている為、抽象的・端的過ぎる記述があり、少なくとも古典派経済学の知識がないと一部、置いてきぼりになる印象を受けました。注釈が半分程度を占めているのが特徴です。)

■対象者:・資本主義について理解を深めたい方

    ・マルクス経済学のエッセンスを学びたい方

    ・資本・労働・土地などの経済学の基本概念の意義について興味関心のある方

 

【要約】

・本書は資本論の構成に則り、流通論生産論分配論の3部構成となっております。マルクスは経済学のみならず、哲学においても名を馳せた大家ですが、根本の思想にあるのは唯物史観(物質が精神を規定する)です。「古典派経済学が体系化してきた基本概念の物質的性質・要素に着目し、相互作用を科学・分析していく」というのが基本的なスタンスです。

・資本主義経済(商品経済)の原形は生産物の交換活動にあるとされ、相互作用や人間の行動作用・要素間に働く力学・影響因子の仕組みを解明することが経済学の学問的意義であるとされます。

 

■流通論

商品貨幣資本という資本主義経済の根幹を成す3要素にフォーカスして論が展開されていきます。

商品は貨幣という媒介を通じて定量化され、市場取引されます。商品価値(獲得できる貨幣量≒希少性)と使用価値(効用)の2つの側面で売手買手で商品の認識に差がうまれ、その取引として商売が成立します。

貨幣価値の貯蔵手段媒介財などの性質を持ちます。貨幣は欲望の定量を促進し、商品媒介や富の貯蔵手段(資本蓄積)を可能にします。この資本蓄積という要素から「労働者・資本家・土地所有者には超えられない壁が存在する」という批判にマルクスは昇華させていきます。

資本生産活動に活用され、回転数が多ければ多い程資本の価値は高くなります。資本の私有化が認められたことで、資本集約型の大規模産業が発達し賃金労働者や貨幣経済も浸透したとされ、この私有財産ボトルネックとして批判するのはマルクス共産主義思想に通じます。

 

■生産論

・産業社会の形成により賃金労働者が発生し、労働力の商品化職業選択の自由)が発生しました。本書及び「資本論」では生産活動「資本(固定資本/労働力)が商品・貨幣へ形を変えて流通する活動」として着目します。

資本所有者労働者も生産活動の構成要素に過ぎませんが、よりレバレッジをかけるのは資本所有者です。自身が持つ資本(固定資本・金融資本など)に労働を投下することで効果的な生産活動を実現し、その成果に見合う形で商品売買・貨幣獲得から得た利潤を多めに配分出来る権利があるとされます。

※古典派経済学及びマルクス経済学が論じられた時代ではこの生産性が低く、労働も単純労働中心であるために交渉力がなく、低い利潤の大半を資本所有者が独占せざるを得ない(操業資金や投資の呼び水としてキャッシュが必要である為)状態であったが故に、労働者階級が搾取される構図が生まれました。科学技術の発展による生産活動の効率化・質強化及び知識労働者階級の発達によ労働生産性の向上及び労働者の希少性増加で、労使協調路線が歩まれるようになっていき、社会の発展と共に労働者が交渉力を持ち、現代のような環境に至ります。

 

■分配論

マルクス経済学は資本の運動と配分にフォーカスして経済学を体系化しています。この分配を決める重要な概念として利潤地代利子の3つが挙げられます。

利潤生産活動流通活動の最終的な対価として経済主体が追求するものです。生産活動においては利潤を投下した資本所有者及び労働者に配分します。一般的に資本はレバレッジが働き、規模の経済が働くので大規模生産化すればするほど、資本所有者の取分が大きくなる構造があります。流通活動においては財・サービスの買手/売手の価値認識の際による貨幣売買が配分のロジックとなります。

地代土地という資本に関わるアクセス料ですが、全ての生産活動の根幹を成し、住居としての役割もあり人間生活に欠かせない資本なので、切り出して論じる程の重要論点であるとされます。特に農業製造業は大規模な土地を必要とし、土地そのものが生産活動を担う為、資本投下(機械・労働など)の対価として、資本家階級だけでなく、土地所有者にも利潤をアクセスする権利が存在するとされます。

利子は主に金融資本に付与されるものです。金融資本の売買により、経済主体は購買力の増強が可能となります。これは貨幣に時間的価値があり、債券株式手形などの商品を媒介とすることで他の経済主体が所有するキャッシュを借用することで、大規模な投資や生産活動を可能にします。その対価として金融資本供給者には一定の手数料的なものとして利子が発生するというのが原理です。銀行はこうした取引を専門で司ることで、経済活動を活性化・安定化する役割を担っており、その専門性と市場へのインパクトの大きさから特別に論点化するテーマであるとされます。

※この仕組みを高度に理論として昇華させたのがファイナンスやアカウンティングの学問領域です。

 

【所感】

労働者資本家土地所有者という3階級の配分のメカニズムに着目した斬新さや貨幣土地金融資本などの基本概念の相互作用を緻密に分析した点などマルクス経済学の学問的功績の凄さを感じさせる内容でした。

・本書を読み、改めてマルクスの思想のスケールに圧倒されました。貨幣サービス労働力固定資本などの経済活動の基本概念をなす要素の相互作用を通じて、「一部の経済主体に富が偏在したり選択肢や権利に差が生まれることについて、その構造的負」を明らかにしようと、その結果として現状の社会の在り方を抜本的に変える仕組みとして共産主義を打ち立てたという話です。あくまでマルクスの思想の一つに経済学があるだけで、唯物史観が全ての思想の源泉であると再認識しました。

 

以上となります!