雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪経済学批判≫

 

今回はカール・マルクス「経済学批判」を要約していきます。資本論共産党宣言と並ぶ経済分野のマルクスの代表作の一つとされ、マルクス以前に繰り広げられてきた経済学説に関して批判的に再検証し、概念や用語の再定義を行い生産・流通・分配を中心とした経済原理(マルクス経済学)の基礎を構築した本です。

 

「経済学批判」

経済学批判 (岩波文庫 白 125-0) | カール・マルクス, 武田 隆夫, 遠藤 湘吉, 大内 力, 加藤 俊彦 |本 | 通販 | Amazon

■ジャンル:経済学

■読破難易度:中~高(抽象的な概念・用語説明が続き、経済学の基礎がないと置いてきぼりになるかもしれません。参考文献にて骨組みを理解してから読むことをオススメします。)

■対象者:・マルクス経済学の原理原則を理解したい方

     ・経済学の変遷を理解したい方

 

≪参考文献≫

■経済学・哲学草稿

■要約≪経済学・哲学草稿≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済原論

■要約≪経済原論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済学における諸定義

■要約≪経済学における諸定義≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

マルクスの本書執筆経緯と特徴

・本書はブルジョア経済の体制を論述するために資本土地所有賃労働国家外国貿易世界市場といった経済学を構成する重要概念を一つずつ論証していく構成になっている。マルクスの主専攻は法律であり、哲学歴史を副専攻で学びながら経済学についても論じて後世向けに哲学と経済学で大成したのです。ドイツやフランスでの政治・社会運動にマルクスの思想は活用され、巻き込まれるようになりながらイギリスに移り資本主義経済の動向や書籍を学びながら本書や資本論の構想を練ったとされます。

・これは他の書籍にも言えることですがマルクスは一貫して経済学を自然科学のように「論理的で体系だった学問たらしめよう・社会を分析する普遍的な理論をもたらすものであろう」と狙って論を展開していることが伺えます。

 

■商品

・商品には使用価値交換価値の2つの側面があります。何らかの目的を持った道具としての性質の商品労働対価や価値の貯蔵機能としての交換価値(主に貨幣が担う)といった具合に別れます。市場取引においては交換価値の労働・金銀貨幣と使用価値のある物的商品が取引される構図になります。経済活動は労働を始めとした資本を投下して生産活動を行い、生産物を流通し利潤や価値を分配していくというエコシステムを取ります。システム内のどのポジションにあるかの位置づけとそのポジション内での価値交換システムの効率や量を高めていく営みが物質的に豊かになる為の定跡となります。

・労働には厳密に労働量や生産量・付随価値に差分がありますが、時間あたりの賃金・生産量による報酬という画一的な物差しを用いて労働と商品の取引をするような形態に市場経済はなってしまいそれが労働者階級を凡庸たらしめたとされています。労働は金銀貨幣・賃金労働という形態を通じて商品同等の売買取引できる財になり下がっています。労働には交換価値も使用価値もあるという特殊な性質がある点を本書ではマルクスが指摘します。

 

■貨幣の性質とブルジョア経済学

・商品同士の取引・商品と労働は価値(使用価値・交換価値)により投下交換されており、これらの取引を促進するツールとして貨幣が発達しました。労働は貨幣と異なり、投下されて初めて価値を帯びる有限なものであり、貨幣は交換価値しか持たないですが定量化でき、保存機能を持っていることが優れているとされています。この価値交換システムが大量に作用する様が市場取引であり、流通経済と呼ばれる状態です。労働は商品に比べて容易に分解でき、誰もが持ち合わせている点機械などによりレバレッジが効く点に優れているとされます。

アダム・スミス万人が持ち合わせる資本である労働の参画を最大限促進すること労働生産性を高めて大量の商品生産を行うことで物質的に豊かな社会を形成できるという資本家の立場から論じた資本主義経済の原理原則をまとめた本として国富論を出版しました。アダム・スミスマルクスが論じた経済理論の適応を濁らせる論点として労働は習熟度により労働生産性があがる労働生産物である商品は市場の需給バランスにおいて生産費用と市場取引価格が大幅に乖離するということが起こるの2点があります。労働は管理の都合上、労働量にて規定され労働量に比例する形で賃金が規定されます。マルクスアダム・スミスリカードなど資本家の立場から都合よく資本主義経済のからくりを論じる学派をブルジョア経済学と呼びました。

 

■貨幣と流通

・貨幣は金銀をベースにした商品であり、交換価値に特化したものでありながらレバレッジ作用をもつ資本としての性質も持ち合わせている複雑さがあります。貨幣は蓄積可能な資本の象徴であり、それは「資本・貨幣は労働と代替関係にある」という資本主義経済の一般的な様式を浮き彫りにします。

・「金銀貨幣はその貨幣そのものが投機性を持つ点から名目価値の象徴である」とマルクスは評しており、実質価値の定量化としては労働(労働量)が最適であるということを言わんとしています。金銀そのものが価値を持つからこそ、価値尺度市場価格という二重の性質を持ち事態を複雑にするとマルクスは指摘します。それ故に、金銀貨幣はそのものが商品性を持ち投機が成立するのみならず、時間的価値が変容する所に貨幣の価値貯蔵機能としての限界があり、労働が全ての資本主義経済の価値の源泉であるという主張が成立します。

・資本主義経済初期は金銀貨幣が基本でした。貨幣流通量が商品価値を決めるという金融理論のメカニズムがあり、貨幣は価値尺度および流通手段という2つの重要な役割をもちます。この作用は政府紙幣の発達により大きく加速し資本主義経済は飛躍的に拡大することとなります。商品は貨幣を媒介として流通し価値交換がされるので、生産や消費の呼び水になり続けます。

 

【所感】

マルクス経済学における商品・労働・貨幣などの関係性は単純労働をベースとした理論となっており、開放経済で高度に金融理論が発達した世界においては限定的な導入になる点が経済学の基本原理を理解する為には避けて通れないポイントであると感じました。経済学の発展において、金銀貨幣・政府紙幣の発明は価値の貯蔵機能に加えて、シンプルな取引促進の流通機能としての功績も大きかったということが読み解けます。

・本書で批判評論の対象となるアダム・スミスリカードは資本・労働・生産の効率に寄与する主に資本家階級向けの示唆を与えており、対照的にマルクス市場経済のメカニズム解明とイデオロギーに働きかけることで労働者階級向けの政治思想・哲学を打ち立てた功績が偉大であることを再認識しました。これらの理論を統合・再構築する形でケインズが開放経済を前提とした政府・金融機関向けの経済理論(マクロ経済学ケインズ経済学)を構築したという変遷がより深く理解できる内容でした。

・本書の論展開の随所にマルクスは経済学の世界にヘーゲルやヒュームなどの哲学的な思想を持ち込み、シンプルに社会現象の解明という視座で経済理論を組み立てているのがわかる描写が目立ちました。読むたびにそのスケールの大きさや後世にもたらした論点や問いの偉大さが浮き彫りになるマルクスに圧巻させられる次第でした。

 

以上となります!