雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪帝国主義≫

今回はレーニン帝国主義を要約していきます。

ロシア革命を推進し、社会主義国ソ連を打ち立てたことで有名な氏ですが、本書は社会主義への移行正当化の為の理論土台としての資本主義研究(この時代は資本主義が加速し、帝国主義のフェーズに到達していました)で本書を著したとされます。

膨大な統計資料と独占金融資本主義のメカニズムを洗いざらい検証しており、緻密な分析がなされていることが特徴です。

 

帝国主義

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■ジャンル:経済学・歴史

■読破難易度:低~中(社会主義イデオロギーに関する言及は少なく、1900年前後の列強諸国の経済分析を中心に論が展開される為、前知識はあまり必要ないです。)

■対象者:「資本主義の究極系として帝国主義が存在した」という概念に興味関心のある方・社会主義の理論正当性について興味関心のある方・独占や金融といった経済学のテーマに関心のある方

 

≪参考文献≫

共産党宣言社会主義思想のエッセンス)

■要約≪共産党宣言≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済原論(マルクス経済学のエッセンス)

■要約≪経済原論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

雇用、利子および貨幣の一般理論(上/下)(古典派経済学の綻びを政府介入及び金融理論でカバーしに行こうとしたケインズ経済学)

■要約≪雇用、利子および貨幣の一般理論(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪雇用、利子および貨幣の一般理論(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

 

【要約】

・本書は1916年に執筆がされました。第一次世界大戦の最中・ロシア革命直前という時期です。資本主義活動をベースとして台頭した列強諸国(主にイギリス・フランス・ドイツ、追随する形でアメリカ・ロシア・日本)が経済に立脚した世界侵略行為を行うに至った歴史的変遷を統計データと共に分析・考察していくという仕立てです。

 

帝国主義論について

・古典派経済学は「市場の競争原理により需給バランス及び商品価格は最適化され、労働者も資本家もWIN-WINになる」という前提を置きました。レーニンは「古典派経済学は資本の蓄積という概念を度外視していたが故に理論として破綻している」ということを説明することから本書は始まります。即ち、経済活動の結果獲得した利潤を貨幣という形で貯蔵・蓄積することが出来ます。それが大規模化した際に、貨幣の持つ購買力をテコに様々な経済主体に対して働きかけたり、購買力の対価としての利子を獲得するなど資本家階級が多様な選択肢を持てるゲームになり下がっているということです。

・この自由主義経済の市場原理に任せていると、長期間ゲームに勝ち続けた経済主体が富の力に任せて「そもそもの市場競争原理が働かない領域」を作ろうという独占カルテルトラストコンツェルン等の戦略オプション)を志向することになるという仕組みをレーニンは指摘します。

・加えて、19世紀以降産業革命を筆頭に科学技術の発展により、労働生産性資本効率性は大幅に向上し、注力産業は農業から重化学工業へとシフトしていきました。上記記述の金融資本の経済的な影響力に加えて、金融資本の海外投資のしやすさ・重化学工業を営む為に必要な原材料資源獲得を見据えた貿易及び他国侵略(資源確保する為には自国以外の地域の領土を確保する必要がありました)などが正当化されていきました。

・詰まる所、「経済と政治」が密接に結びつき帝国主義と呼ばれる資源獲得競争の末の侵略行為が列強諸国の手により世界規模で営まれるに至りました。これは一部の列強諸国及びブルジョア階級(主に資本家・企業経営者・銀行)が富や権利の大半を独占享受し、一部の経済主体のエゴに人類の大半(植民地・労働者階級)が支配される理不尽さがあるよねと冷静に分析・主張していくのがレーニンが本書で見せた展開です。

※政治的な問題から直接な表現を出来なかったということもありますが、ただ感情に訴えるのではなく、現状の資本主義のメカニズムを分析し理論的綻びを淡々と指摘した上で、マルクス主義社会主義の正当性を主張する土台を構築しようというレーニンの高度な技法が随所に伺えます。

 

【所感】

・歴史と経済が大好きな自分にとっては両方のダイナミックさに触れることが出来、非常に面白かったです。イギリスやフランスなどの列強諸国の圧倒的な支配力を物語る統計資料には驚かされました。

社会主義思想というと「人類の大半を占める労働者階級に働きかけをする」という特質から、感情に訴える仕立てが多い印象でしたが、レーニンが本書で見せた主張の展開は極めて論理的合理的であり緻密さが伺えたのが印象的でした。冷戦以後、社会主義思想というのは過去の遺産として見られる節がありますが、本書の時代背景を鑑みると真剣に検証され、社会から必要とされていたイデオロギーであるということが良くわかる内容でした。

・本書の後の歴史を見ると、結果として「資本主義の根本原理を最大限尊重しながら遣り繰りする」理論の発達でボトルネックは解消していきました。景気循環イノベーションなどの長期の経済分析という視点をもたらしたシュンペーター政府の市場介入及び金融理論活用による経済発展を志向したケインズマクロ経済学)・企業の競争激化により、資源獲得を見据えた方法論としての経営学発達などです。

・修正資本主義という形で世界の経済活動は進んでいきましたが、そうならない場合どういう風に経済理論は発達したのだろうか?と考えさせられる内容でした。

 

以上となります!