雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪賃銀・価格および利潤≫

 

今回はカール・マルクス「賃銀・価格および利潤」を要約していきます。「賃労働と資本」と合わせて主著資本論への最善かつ平易な入門書として名高い本です。1865年の第1インター中央委員会での講演を抜粋した内容となっており、当時は無意味と評されていた労働組合の意義を説き、マルクス経済学の基本概念となる労働価値説の提唱や賃金労働廃止・新たな経済システムへの社会革命推奨など重要論点が詰まっております。

 

「賃銀・価格および利潤」

賃金・価格および利潤 (岩波文庫 白 124-8) | マルクス,K., 長谷部 文雄 |本 | 通販 | Amazon

■ジャンル:経済学

■読破難易度:低(資本主義経済の根幹をなす重要な概念の相互作用について非常に平易な言葉で記述されているので読みやすいです。)

■対象者:・マルクス経済学の原理原則を理解したい方

     ・資本主義経済の構造を批判的に分析・考察したい方

     ・賃金労働者のあり方について興味関心のある方

 

≪参考文献≫

■賃労働と資本(マルクス経済学の入門書)

■要約≪賃労働と資本≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済原論(マルクス経済学を体系的に分析・考察)

■要約≪経済原論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済学・哲学草稿(マルクスの経済学・哲学における思想のエッセンス)

■要約≪経済学・哲学草稿≫ - 雑感 (hatenablog.com)

共産党宣言資本論と並ぶマルクスの代表作)

■要約≪共産党宣言≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■資本主義経済の仕組

・労働と固定資本を用いて生産活動を行い、商品を生み出しその対価として金銀貨幣をベースとした利潤を得てその利潤を資本家・労働者へ配分していくというサイクルを永遠に繰り返していくのが資本主義経済の構図です。マルクス「資本家と労働者は投下労働量の末の生産物の価値の分配を巡って常に闘争状態の構図にある」と問題提起を展開します。「投下労働量を下げる」・「労働あたりの生産効率を高める」といったテーマが経営のアジェンダになるのは価値交換システムの作用故に避けて通れないとされます。

 

■労働価値説

労働力の価値は生活必需品の価値・必要労働量の価値とイコールであるマルクスは提唱します。マルクスはこの法則故に発生する資本主義経済における「生産性の増加に伴う賃金の向上」や「必要労働量の低下」などの恩恵よりも利潤配分が労働者階級よりも資本家階級の方が多くなる宿命にある構図を憂いています。

・上記の構図のままでは賃金労働者は資本家に搾取される構造が避けて通れない(利潤へのアクセス優先権の違い・賃銀が原材料同等のコストの位置づけにあることの2点故)のが資本主義経済の悲劇であり、だからこそ資本主義経済という「階級間闘争の縮図」を打ち払う新たな統治システム(社会主義共産主義)に進化する革命が必要だというマルクスの有名な思想に辿り着きます。

 

■賃銀・労働と固定資本の力関係の違いについて

・賃銀は資本主義経済の重要概念の相互関係からも明らかなように最低限しか担保されず、最大限支給されるということに絶対になりえない宿命にあります。その為、賃金労働者は近代の奴隷制のようなものであり、そもそものこの制度を生み出した資本主義経済の社会を転覆させ新たなシステム(共産主義社会主義)に移行するべく革命を起こさないといけないというマルクスの問題提起に帰結します。

・資本には固定資本・金融資本など規模の経済が働く作用があり、製造業は農業以上にそのスケーラビリティが高いです。一方で、労働や賃銀には資本のような拡張性はなく、生産活動・利潤分配の観点からすると原材料同等のコストの位置づけにあるので累進性に欠けるというその格差は埋めようがない程に断絶しているとされます。上記の現象を資本の侵略マルクスは評し、賃金制度の撤廃・新たな経済システムの再構築(革命)を志向するに至るのです。

 

【所感】

・本書の政治・哲学的な思想は共産党宣言、経済分野の理論詳細版は「経済原論」が担っており、合わせて読むと理解が深まります。本書が記述された時代は単純労働中心であり、知識労働者階級が現代ほど台頭しておらず技術的なイノベーションも道半ばでここまで労働生産性が向上するとは夢にも思わないような世界線で論が展開されていることがわかります。その一方で、本書を筆頭に「マルクス経済学や社会主義が世界に問題提起した問いや論点を批判的に検証していくことで資本主義経済は研ぎ澄まされ、現代のような形で発展した」ということがよくわかり、本書およびマルクスの功績が偉大であることを再認識しました。

・経済学・法学・哲学・歴史学などの社会科学分野の学問は相互作用性が強く学べば学ぶほど、過去に学んだことがアップデートされるという作用があります。その為、定期的に歴史的な偉人の古典と格闘して考えを整理する営みは非常に大事であると改めて認識しました。関連分野を継続して探索しながら時間を置いて本書も読み返してみたいなと思った次第です。例えば、古典派経済学やケインズ経済学を批判的に再論証・考察する良いきっかけになりました。

 

以上となります!