雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪法の精神 第五部≫

 

今回はモンテスキュー「法の精神」を要約その5となります。

ここからは「法の精神(下)」の収録内容で、第五部は主に「宗教と法律の関係性」にフォーカスしていきます。

※参考 過去の要約※

■要約≪法の精神 第一部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第二部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第三部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第四部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■法の精神(下)

 

■ジャンル:政治学

■読破難易度:低~中(明快な文体なのでとても読みやすいです。ただし、古代ローマギリシアの歴史の引用が多い為、周辺知識が足りないと部分部分で置いてきぼりになるかもしれません。)

■対象者:・世界の統治体制の歴史について興味関心のある方

     ・政治と法律の関係性について興味関心のある方

     ・立法・行政・司法の役割について理解を深めたい方

【要約】

■宗教が法律にもたらした影響

モンテスキューは自身の宗教的な立場を前面に出すことなく、「政治と宗教の関係性」を明らかにするという立場から第五部の論を展開していきます。

・宗教は価値観を伝播し、治安秩序の形成に役立てることが出来るので、種類の差はあれども、各国の歴史において政治と密接に関わり続けてきた存在であることは明らかとされます。ヨーロッパ世界は主に調和無償の愛を美徳とするキリスト教が宗教の中心にあります。

宗教改革を通じて、主に北部の国(イギリス・スイス・スウェーデン・オランダなど)はプロテスタント南部の国(スペイン・ポルトガル・イタリアなど)はカトリックという対立構造が発生しました。プロテスタント国はその教義に従い、「自由と独立の精神」を重視するような国風にシフトしていき、議会制民主主義などの統治制度が発達していったことをモンテスキューは示唆しています。

・一方、宗教と法律・政治が密接に結びつかない場合は倫理観が一義に定まらず秩序が乱れるリスクがあるとし、代表例としてインド(ヒンドゥー教イスラム教の対立)をあげています。

 

■宗教的価値観と統治システムの関係性

・宗教は家族という概念を生み出し、財産権というカテゴリーを法律的に生み出しました。伝統的なキリスト教奢侈を否定し、節制をして美徳とする価値観を現世で体現することを良しとしました。宗教改革の結果、北部のプロテスタント国では経済活動が合理化したことで、奢侈というタブーにメスが入るようになりました。結果として世界は一気に発展し人口増加をし産業革命・資本主義経済がもたらされました。

・宗教は生活政体に密接に関わるので、何を奨励するのか宗教間の問題をどのようにマネジメントするのか等は法律や政治の重要テーマということが言えます。

※法律は様々な要素の詰め合わせ(政体・風土・商業・宗教など)で形成されるので、歴史を考察し比較検討することで様々な示唆が得られるとした本書のスケールの大きさが第五部の随所に見られます。

 

■秩序形成に関わる法律

・秩序を形成し、万人の権利や自由を守るために法律は存在します。その為、立法機関政府直下でないとそもそも統治機関として成立しません。「宗教が定める価値観や規律」は人民が定めるそれら(≒法律)よりも強制力が高い」とされるのが宗教が浸透している国の価値観と法律の位置づけの前提です。

法律による裁きを実践する機関として裁判所は存在し、司法権の独立は担保されながらも政府に近い所で実践されてきたのが各国の歴史です。一部の君主制国家では君主直属の機関でした。

公共の利益個人の権利・財産は併存し、両方保護されるべきとされます。「一方が他方を搾取する構造」は法律や政治で認めてはならないというのが基本原則です。習俗を保護する為に家族制度は厳格に保つべきとされ、それは突き詰めていくと、社会の秩序を形成する倫理観や道徳精神の基盤を保つ為とされます。

・国家により、法律が異なる為に法律間で矛盾が生じて、取引を通じて一方が合法・一方が違法という事態が成立します。特に自然権に対する働きかけに関する法律は宗教的解釈の違い等に抵触するもので、時に矛盾・対立しやすいとされます。

 

【所感】

モンテスキューがアクセスできる文献や氏の文化基盤の兼ね合いからキリスト教と法律の関係を中心とした記述が多いのが第五部の特徴です。日本という国にいるとあまり意識をしませんが、宗教の価値観や法律に対する影響力というのは強大であるということを改めて思い知らされます。学術教育や活字文化が発達していない世界線において、道徳教育として宗教は格好のツールであったので、時代の要望に即していたということも言えるのだろうと改めて感じさせられる内容です。

・世界の歴史や宗教について学び直す機会を設けている最中なので、第五部の内容は自身の関心毎に近しい領域で面白く読むことが出来ました。「学問の構造や歴史的背景を紐解いていくことで深みのある気づきを得られる」ということは感覚的に体得していましたが、その感覚を言語化して体系立てたのが「法の精神」という書物に一貫して流れる思想なのだろうということも良く理解出来ました。

 

以上となります!

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