雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ローマ人の物語3≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。3は「ハンニバル戦記」の上中巻の上巻であり、上巻はローマがイタリア半島を統一してからシチリア半島の領有権を巡り、北アフリカカルタゴポエニ戦争を繰り広げる様を記述しています。主に紀元前264年~219年のローマの動向を描いており、第一次ポエニ戦争に勝利し事後のローマ周辺地域の統治体制の構築までを描きます。

 

ローマ人の物語3」

ローマ人の物語3 に対する画像結果

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

      ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

ローマ人の物語1・2は下記※

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語2≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■第一次ポエニ戦役(紀元前264~241年)

ポエニ戦争以前のシチリア半島はローマの息がかかったギリシア系都市とカルタゴ直轄領が相まみえる構図にありました。カルタゴアテネ衰退以後、海運と海軍をもって地中海世界を制圧するほどの権力を有しており、ローマ同盟は対決を余儀なくされていました。シラクサメッシーナを巡る支配権で対立し、ローマとカルタゴは代理戦争のような形で衝突をします。ローマは元々内陸の戦いで功績を挙げて拡大した陸軍中心の文明でしたが、カルタゴとの戦いの中で海軍を拡大させる必要に迫られました。五段層軍船と呼ばれる大規模な船を使いこなしたカルタゴに対して、戦争勃発当初のローマは三段層軍船を小規模に持ち合わせる程度の軍備でした。ローマはカルタゴとの戦争の中で敵の技術を盗み、ボート訓練のようなことを市民に課して無理やり兵力増強をしていくことになりました。「細部に執着せず、優れたものを取り入れる」を徹底する様がローマの競争優位の源泉とされており、後にギリシア語やギリシア哲学を取り入れて文化基盤を整備するのも同様の流れを取りました。

・ローマと対決するカルタゴは通商(海運)・海軍・農園経営に優れた北アフリカの文明であり、傭兵を柔軟に活用しながら戦いを繰り広げる性質がありました。ポエニ戦争初期はスパルタ人の傭兵隊長クサンティッポが指揮をとり、スパルタ式の軍隊組織にカルタゴを仕上げて備え、その後はハンニバルの父親にあたるフェニキア人のハミルカルが台頭し指揮をとる流れを取りました。カルタゴ国内はイタリア半島進出派アフリカ大陸支配強化派に二分しており、うまく政治統率がなされていませんでした。マルサラ、トラパニといったシチリア半島の要所をローマに落とされたことを踏まえ、ローマ執政官カトゥルスとハミルカル講和条約が結ばれました。そうした流れで紀元前241年に第一次ポエニ戦役は終結を迎えることになります。カルタゴは約400年統治してきたシチリア半島から完全撤退をして、地中海の覇権はエジプト・シリア・マケドニア・ローマ・カルタゴが群雄割拠する構図になりました。

 

■第一次ポエニ戦役後(紀元前241年~219年)

カルタゴは傭兵に兵力調達を頼っていたので、敗戦を受けた傭兵の報酬対応に不満をもった傭兵の反乱に約4年程苦しめられることになります。このタイミングでサルデーニャ島がどさくさに紛れてカルタゴ支配から独立し、ローマ傘下に入ることに成功しました。カルタゴの将軍ハミルカルは息子ハンニバルをつれて海外領土拡大を目指してジブラルタル海峡を渡りスペイン支配下におさめました。ハミルカルはスペインの鉱山と農園を巧みに経営して領土を拡大していくことに成功し、以後カルタゴハミルカルが指導者となり、10年がかりでスペイン南部の植民地化に成功しました。

※この基盤が第二次ポエニ戦争勃発時の重要拠点になるのでした。

・この時代のローマは植民市の影響もあり、ギリシア文化への傾倒を進める動きがあり、有識者はこぞってギリシア語やギリシア哲学を学んだとされます。ローマという文明の特殊な所は素直に周囲の文明のすぐれている所を受け入れ、ナンバーワン・オンリーワンであることに拘らないことや周囲とのコミュニケーションに重きを置くところにあったとされます。国内のギリシア熱の高まりを利用して、ローマ帝国ポエニ戦争で獲得したシチリア半島のギリシア都市をうまく取り込むことに成功しました。「法律や道路を共有化し、ローマ市民という権利をもってそれぞれの色を尊重しながらローマ帝国の傘下にしていく」という絶妙なマネジメントシステムを構築していくことがローマの凄い所とされます。兵役や納税の義務は背負わせながらランクをつけて適度に間接マネジメントするということで広大な領土に大規模な反乱を起こさせることなく、存続させる仕組みを構築しました。シチリア半島と同盟を結んだことでシチリア産の小麦がローマ帝国領土内で流通するようになり、ローマの小麦生産の競争力は低下し農地はブドウやオリーブ畑に変容しました。

 

【所感】

・世界史の教科書ではわずか数行で記述されるポエニ戦争前後の動乱期を緻密に記述されており、非常に面白いです。じわじわとローマがイタリア半島および周辺領土を攻略していき、ローマ同盟・ローマ市民法により間接統治していき強大なシステムを構築していく様は圧巻です。カルタゴとの対比として傭兵の活用有無何を賞罰するかなどの違いはギリシアや他の政体とローマの違いということで、マキャベリの「君主論」やクラウゼヴィッツの「戦争論」でも記述があった内容だなーと読みながら感じた次第です。

・俗人化せず、仕組みで問題を解決する・特定個人に極力頼らない(裁量を与えない)ことで長期的に安定的な統治体制(専制政治の危険因子を生まない)という徹底した様は共和政ローマが栄華を誇る時代に一貫して見られる傾向であり、これは現代の組織運営においても同様のことが言えるよなと感じました。「俗人化や人に頼るということ」は瞬間的には楽で当事者は快感を示すものですが、本質的な問題解決にはならず、人間が極力プロセスに介在することはボラティリティをうむということであり人間中心の世界でありながら、極力人間に頼らない運営体制の在り方を模索する(サービスのプロダクト化)と似たようなことが言えると思った次第です。そのエッセンス・絶妙なバランス感覚の模範としてローマの政治体制は参考になるなと感じた次第です。歴史や学問に法則や教訓を見出すとはまさにこのことと思った次第でした。

 

以上となります!