雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪LEAN ANALYTICS後編≫

 

今回はアリステア・クロール/ベンジャミン・ヨスコビッツ共著の「LEAN ANALYTICS」を要約していきます。EricRiesシリーズエディタの1冊であり、構築・計測・学習における「計測」にフォーカスした内容となっております。本書はソフトウェアプロダクトの代表的な6つのビジネスモデルを例に挙げながら、「プロダクトグロースを志向していく中でいつ・どんな指標を測定・活用すればいいか」の理論枠組みおよび具体的なプロダクトマネジメントの方法にまで言及します。今回は後編ということでプロダクトグロースにおける五段階(共感→定着→拡散→収益→拡大)を進めるには何をどのように測定・評価すれば良いのかについて言及する本書後半部分をまとめます。

 

「LEAN ANALYTICS」

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:低~中(データ活用・分析に何らかの業務で関わる機会があるorソフトウェアプロダクトに関わる仕事をしている人であれば馴染みやすく理解できると思われます。)

■対象者:・定量分析・仮説検証に関する理論を理解したい方

     ・事業開発・プロダクトマネジメントにおけるお作法を抑えたい方

 

≪参考文献≫

■リーン顧客開発

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■LEAN UX

■要約≪LEAN UX アジャイルなチームによるプロダクト開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

サブスクリプション「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

■要約≪サブスクリプション「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■プロダクトグロースの五段階

・プロダクトがビジネスとして成立し、PMF・グロースしていく為には共感→定着→拡散→収益→拡大の五段階を経る必要があるとされます。解くべき課題・顧客(市場)が確定し、効果的にアプローチするマーケティングマネジメントの構築マネタイズ化とプロダクトが成立するための重要条件の構築・仮説の検証をしていくのがポイントになり、その為には各フェーズにおいて指標を定めて定期測定するのが大切になります。

 

■ステージ1:共感

課題インタビューソリューションインタビューを行い、顧客/ユーザーのインサイトやペイン・ゲインに関する解像度を高め共感を通じてユーザーストーリーを抑えることがこのステージの最も重要なこととなります。解決に価する課題を発見するということに拘ることが大切とされます。

・具体的には「想定顧客/ユーザーの市場規模・マネタイズできるか(お金を払ってでも解決したい痛みを伴う命題か)」・「代替行動や競合の脅威の存在(≒既存の解決策の有効性)」などを総合的に勘案・言語化していくプロセスを取ります。ソリューションファーストで機能開発に奔走するビルドトラップにならないように、上記問いに忠実に事実を引き出す・仮説を立てるということが大切とされます。

 

■ステージ2:定着

・ステージ1における探索を通じて顧客価値のコアを満たすMVPが定義されたら、エンゲージメントと定着指標に着目して仮説検証・定点観測していくのが大切です。ユーザーのプロダクト内滞在時間利用頻度などを測定し、「時間や頻度を高めるための施策を検証していく」というのが一般的なプロダクトマネジメントの進め方になります。このステージでは観測を通じて、「想定顧客のユースケースや価値観、ワークフローをつぶさに確認すること」と「筋の良い仮説を設定すること」に注視するべきとされます。

エンゲージメント・チャーン(離脱)に寄与する条件・顧客セグメントの構造を深く理解し、留意しながらソリューションやUXデザイン・ワークフローのリデザインに繋げていくことが出来るようになるとステージ2は勿論、ステージ3以降においても適切な投資獲得・意思決定・ピボットが出来るようになるので、時間をかけて環境構築をするべきとされます。

・特にC向けのプロダクトにおいてはネットワーク効果によりユーザー獲得をしていくことが重要になります。「MVPを用いた重要仮説検証が固まる前に見切り発車で拡散(バイラル)フェーズになる」というのはよくある落とし穴で避けるよう細心の注意を払う必要があるとされます。プロダクト体験の大半は直感的で複雑でないこと既存のワークフローとの兌換性が優れていること凄まじい顧客価値(変容をもたらすほどの果実がある)などが前提条件となります。そのプロセスにおいて、ユーザーの声を聴くということは勿論大切ですが、適切に解釈・情報収集するには相応の理論やスキルが必要であり、言葉だけに振り回されるのはビルドトラップを招いて本質的に問題を解決していない行動になるので要注意とされます。

※ユーザーというのは自分の課題の構造や効果的な解決方法をわかっていないままに思いついた意見を述べたり、悩んでいる(だから顧客になりうる)という性質を常に念頭に置くべきと警笛を鳴らします。

 

■ステージ3:拡散

・マーケットポテンシャルやマネタイズ能力・チャーン・定着に関する一定の見立がついた段階でようやくバイラル(拡散)を志向していくことになります。拡散方法には自然的拡散・人工的拡散・口コミの3種類があるとされます。

・拡散フェーズの指標としてバイラル係数というものが存在します。バイラル係数は既存顧客がコンバージョンできる新規顧客の数を指します。具体的には招待率(招待状の数/ユーザー数)×受入率(サインアップ・入会数/招待状の数)とされます。ハイテク業界の構造上、「既存顧客が新規顧客流入を促進していく側面」が非常に強いとされ、ユーザー獲得のポテンシャル定着離脱要因にヒットするUXデザイン(UI・オンボーディングプロセス)やマーケティングチャネル(顧客に適切にアプローチできているか)などを見るのが鉄則とされています。尚、バイラル係数は主にBtoC向けのプロダクトで有効な指標とされ、BtoBビジネスではNPSが参照されることが多いです。ユーザー定着・ユーザー離脱に寄与する顧客体験・機能的価値は何か?という問いに対する解の解像度を上げ仕組で打ち手を実施して担保できるようにしていくという事業企画・プロダクトマネジメント的な思考プロセスに忠実に物事を進めていく正確さがステージ3では大切とされます。

 

■ステージ4:収益

・プロダクトグロースを志向する上では顧客獲得・定着・拡散に関する不確実性を解き、めどが立って初めて収益確保に関する仮説検証を進めていくというのがミソとされております。この順番を間違えると「投資を獲得できない」・「競合に先を越されてしまい業界を制圧されてしまう」・「ニッチ市場を取り込んでビジネスとして成立するPMFできない」などの現象に陥ります。

ステージ4においてはLTVCPAを測定するのが重要とされます。顧客の平均単価有料顧客比率などを測定し、代表的なワークフローを可視化し移行阻害要因(離脱要因)・移行促進要因を洗い出し、それぞれにヒットする打ち手を実施して仮説検証するというプロセスを経て実行されるのが具体的な手順です。PMFするかどうかの段階なので、顧客価値仮説を確かめる為に、一定の顧客数獲得定着率拡散が必要となり、その上でLTV向上に向けた顧客セグメンテーション・マネタイズ相関指標の設計を進めていくという順番がより大切になるとされます。

 

■ステージ5:拡大

PMF達成に向けた不確実性に関する目途が立ったこのステージにおいてようやくビジネスモデルや販売チャネルのピボットの検討戦略・戦術・実行を担う専門的な人材・組織の発生など管理業務が必要になってくるとされます。このステージになるとインスピレーションやデザイン一本の力で突破するという状態ではなくなり、効率化差別化を念頭に置きながら「プロダクト価値と収益をどうやって向上させていくか?」という問いに対する解からの逆算アジェンダ遂行が基本となっていきます。

 

■どのビジネスモデルにおいても定期観測すべき指標・観点

顧客獲得単価(CPA顧客生涯価値(LTV)は常に計測するべきとされており、CPAは取引単価の1/3未満に収まるようにしないとビジネスとして成立することが難しいとされます。また、ビジネスの収益性・成長性を図るためのファネル分析・顧客セグメンテーションの為のコホート分析の2点も欠かせないアナリティクスワークとされます。

・尚、本書では代表的なビジネスモデル(ECサイトSaaS・無料モバイルアプリ・メディアサイト・ユーザー制作コンテンツ・ツーサイドマーケットプレイス)における評価基準・重要測定項目に関しての各論もまとめられておりますが、記述が膨大になる為割愛します。

 

【所感】

・リーンシリーズは基本的に「デザイン思考・プロダクトマネジメント的な思考プロセスをビジネスの場で効果的に実践するための要諦」がまとめられている書籍として認識しています。その中でも本書はビジネスアナリティクスプロダクトグロース・マーケティングマネジメントに関して抑えるべき観点・切り口を網羅的・体系的にまとめられており、毛色が違うのですが非常に実践的で所謂大企業勤務の方や管理業務全般に関わる方にも非常に示唆に富んだ内容で面白いなと感じた次第です。

・「顧客価値とビジネス収益の両輪を実現する為に、コトと人組織をどのようにマネジメントしていくか」という極めて悩ましい命題に対する道標や重要な考え方が本書を始めとした書籍にはたくさん記述があり、インプットを積み上げながら実践して体得していくというプロセスが非常に大事だなと感じました。

・本書では様々なビジネスモデル・プロダクトの事例が豊富に記述されており、似たような書籍でも参照されるプロダクトやビジネスモデルについては自分でもユーザーとして消費し、顧客体験価値のコアを体得・思考するというステップを踏み更に学びを深めたいなと感じました。「事例やフレーム・理論を知っているかどうか」がこの分野の成果のカギになるというものが非常に多いなと痛感する場面が日々の実務でも多く感じる為です。

 

以上となります!