雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ホワイトカラー消滅≫

今回は冨山和彦氏著の「ホワイトカラー消滅」を要約していきます。労働供給制約社会・グローバル化・テクノロジーの進展が同時に起きる中で、従来型のホワイトカラーの仕事が変容する中で、大規模な産業間の労働移転をしないと国力・労働生産性の観点から不味いという警笛を鳴らし、「学問のすゝめ」の如くスキリング・リスキリングをしながらトランスフォーメーション(主にローカル産業とエッセンシャルワーカーへの従事を推奨)すべきという主張が展開されます。

 

「ホワイトカラー消滅」

ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか(NHK出版新書) | IGPIグループ

■ジャンル:経済学

■読破難易度:低(歴史や論文をベースに論を展開されるので非常に読みやすいです。前知識は不要です。)

■対象者:・労働市場の構造・歴史について興味関心のある方

     ・これからの働き方について興味関心のある方

     ・AI・グローバル化労働市場への影響に理解を深めたい方

 

【要約】

 

労働市場の構造変化

・2040年に日本は労働供給制約社会に到来し、1100万人分の労働が不足するという統計が世に示されています。日本は労働付加価値生産性が著しく低く、人手不足の中で特にエッセンシャルワーカー(医療・介護・交通・インフラ・物流・公共サービス・小売・農水産に従事する顧客に直接価値を届ける労働従事の仕方をしている人)の不足が顕著であるとされます。相対的に従来型のホワイトカラーの仕事がテクノロジーの台頭グローバル化により、競争にさらされ必要性も低下していく中で、労働需要数が減る未来は容易に想像でき、だからこそホワイトカラーの人材がアンラーン・リスキリング・スキリングを通じて産業移転(主にエッセンシャルワーカーとローカル産業)していくことを本格的に行わないとまずいことになると著者は主張・警笛を鳴らします。

 

■将来性のある産業・ジョブ

・前提として、規模の経済や投資のレバレッジが効く産業は国際競争の波にさらされ、日本全体で従事するのは分が悪い産業と著者は指摘します。日本は長い歴史の中で一貫して複雑性のある業務工程・曖昧さのある産業・ジョブを得意とする傾向があり、代表例として自動車産業の製造工程鉄道インフラサービスの秀逸なオペレーションなどが本書では取り上げられています。

・一労働者としては上記産業構造の変化からエッセンシャルワーカーローカル経済ブルーオーシャンとして推奨されています。サービス供給効率の観点からローカル経済はコンパクトシティ化を大規模に推し進めざるを得なくなり、ローカル経済に大量に存在する中小企業にDX推進経営技能・専門性を持った人材の労働参画を通じて労働付加価値生産性を上げていくことにニーズがあり、国力増強の観点からも求められるという主張が本書では展開されます。また、外需を取りこみかつ資源そのものが潤沢であり国際競争に勝負できる産業として、日本の観光業は積極的に労働移転を推奨していくべきであるということも本書では主張されます。

 

■リスキリング・スキリングの大切な考え方

明治維新ばりのホワイトカラーの労働移転・リスキリングが至上命題とした時に、「一個人としてどのようにこの社会の潮流に対峙するべきか?」ということが本書では論証されます。前提として、リスキリングにはベースのスキリングとアンラーンがポイントとされます。何も考えずに学び直しをしてもただの雑学状態になり何も意味をなさないと著者は痛烈に批判します。それ故に、基礎的な言語数学古典等の教養の土台は必須であるとされ、経済学簿記会計読み書きなどのビジネス基礎が徹底されていないといくらAIが台頭してもAIを用いて効果的な意思決定は出来ないとされます。

・資格取得のようなゴールを設定して数年単位で土台を形成するべく勉強をすることが推奨され、特に読み書きなどはシンプルに物量を伴う経験値がスキルとイコールになるなどの分野もあることの警笛が鳴らされます。

・本書ではリスキリング応用編として「問いを立て」・「答えを模索し」・「決断する」3つの技能が必要になると主張されます。曖昧さがある環境で自己決定を積み重ねていくことで抽象的な教訓を学んでいくことで総合的に磨かれるものは多く、敢えてあるなら歴史や古典に学び自分なりに考えて法則を見出すが良いようです。要は仮説を立てる・好奇心をもつ・抽象化する・普遍化するということですが、相当に開発に時間を有するしある種、過去の蓄積の要素もある残酷さを伴うとされます。

学問として長らく残っている言語や数学・歴史・古典などのインプットをすることと同時に、定期的にスキルや知識は陳腐になるので学び直す前提で素早く機会に飛び込み、構造化・抽象化・普遍化して経験知に変えるというマインドセットの問題がリスキリングの本質であると著者は指摘します。

 

労働市場の構造変化

・産業構造が変化する中で、高度経済成長期や日本的経営を支えた白地のあるホワイトカラーサラリーマン予備軍育成の教育カリキュラムは明らかに時代錯誤になっており、専門教育技能教育の充実が必要であると著者は主張します。

・一方、DX・CXの変化は年齢と共に負荷を伴うものであり、万人が変化適応することが出来ない現実もあると本書では指摘されます。ドコモショップサービスのようなテクノロジーの台頭による変化適応が難しい人への人間中心・サービス偏重な低付加価値労働が一定規模残るということも現実としてあるということです。

・そんな中で、人手不足倒産・人件費倒産は市場の原理としてやむなしで加速させ、M&AやPMIの新陳代謝による企業文化と経営者のトランスフォーメーションを進めていくことも労働付加価値生産性向上や労働移転を大規模に行うには必要(国の命題であるので、流れを止める・抗うは難しいだろうということ)ということが本書では主張されます。

 

【所感】

・会社の研修課題図書として読みましたが、自分の働き方や労働市場に対峙する現業の棚卸になる面白い本でした。ややポジショントーク感があることと国や持つ者の立場からすればそうなのだろうが、そんな簡単に合理的に判断できないよ人間はという論が節々に感じることもありましたがそれでも一定起こりうる未来と未来に対する提言は示唆に富んでおり考えさせられる内容ばかりでした。

・個人的には明治維新・戦後経済・バブル経済崩壊後の特定産業(例:ハードウェア・家電)においては大規模なリスキリング・トランスフォーメーションが起きていたという歴史は盲点だったなと思いました。裏を返すと、歴史から一定の成功体験・法則があるのであれば流れに乗りながら如何に過去の経験やバイアスに支配されないでいられるか(個人的にはスキリング・リスキリングよりもアンラーンの方がクリティカルな認識です)が大事ということなんだと思いました。本書の主張をどう感じたかということを様々な立場・価値観の人と読後に議論する形で対話して理解を深めるにもってこいの内容だなと気付いた次第です。例えば、正規雇用不本意失業減少の件などは自分の実業務に密接に関わる内容で、思わずにやりとする内容でした。

 

以上となります!