雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪世界システム論講義≫

 

今回は川北稔氏の世界システム論講義」を要約していきます。

ウォーラーステインが大成した世界システムに関する重要トピックスを抜粋してまとめた放送大学用の講義資料を書籍化した本です。歴史を国単位で見るのではなく、「近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史をそうした有機体の展開過程として捉える見方」を世界システム論と呼びます。

 

世界システム論講義」

世界システム論講義 ─ヨーロッパと近代世界

■ジャンル:経済・歴史

■読破難易度:低(平易な言葉で記述されており、読みやすいです。しかしながら、本書を読むだけですと断片的な知識の列挙に感じる可能性が高く「近代世界システム」または世界史の教科書を読んでおくことをオススメします。)

■対象者:・近代史に興味関心のある方

     ・資本主義経済の成り立ちについて興味関心のある方

     ・ヨーロッパ中心主義の形成過程に興味関心のある方

 

≪参考文献≫

■近代世界システム

■要約≪近代世界システムⅠ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅠ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅡ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅡ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅢ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅢ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅣ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅣ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

 

【要約】

世界システム論という考え方

・「先進国/途上国」という区分や「アジア/ヨーロッパ」という区分ではなく、世界全体を一つのシステムとして世界史を相互の関係性の歴史と見立てるのが世界システムです。世界システム論の立場に立つと、今日の南北問題北部が極度に「工業化」し、南部が「原材料」や「食糧生産」に極度に特化するという役割分担をシステム全体で行ったが故の貧富の格差と見るのが自然であると著者は主張します。

 

■近代世界システム初期の中核を担ったポルトガルとスペインについて

ポルトガル・スペインがなぜ大航海時代の先陣を切ったのかというと、十字軍レコンギスタの名残によるキリスト教世界の拡大という強い動機があったからとされます。

ポルトガル北アフリカおよび大西洋諸島を制圧し、そこでサトウキビや綿などのプランテーション経営を行うようになりました。宗教的動機が果たされた後のポルトガルの野望はインドにあった香料の獲得へ変化しました。喜望峰航路の確立・インド・東南アジア拠点制圧は必然の流れでした。

・一方のスペインヨーロッパ世界の制圧と新世界領土拡大を大きな野心として掲げ、ラテンアメリカ地域の開拓に励むことになりました。アジアと違いラテンアメリカ地域は現地の経済圏も無ければ特産品もありませんでした。その為、鉱山開発砂糖のプランテーション農業という形で自前による経済圏開発の必要性に迫られました。その結果、エンコミンダと呼ばれる現地開発専門の役割を担ったスペイン人やアフリカ大陸から輸入した大量の黒人奴隷を用いた労働などが発展しました。

 

■17世紀の収縮局面を経てヘゲモニー国家の地位に辿り着いたオランダ

・資本主義経済が収縮局面に到達するとヨーロッパ世界経済の中核は自国の利益を守る為に排他的行動をとるのが一般的で、17世紀は重商主義政策・19世紀末~20世紀初頭は帝国主義政策を中核諸国は採用しました。17世紀半ばにヘゲモニー国家たりえたオランダは専ら中継貿易と金融業が競争優位の源泉のようにイメージされますが、実際は肥沃な土地を活かした「高収益品目に集中した農業漁業」が強い産業でした。オランダ造船業漁業の力でバルト海交易や大西洋貿易を手中に収め、「圧倒的な資本や金融」の力でレバレッジをかけるようになり、確固たる地位を確立しました。

ヘゲモニー国家(オランダ・イギリス・アメリカ合衆国は共通して生産⇒商業⇒金融で国際競争優位を形成し、ヘゲモニー国家内における生活水準向上による生産効率性の低下(≒高賃金の必要性)により半世紀程度でその地位を明け渡し衰退していく流れを取るとされます。

 

■黎明期のアメリカ合衆国を支えた人々について

・長らくの間、アメリカ建国初期に移民した人は迫害されたピューリタン中産階級であると神話化されてきました。実際の内訳は白人奴隷識字率や能力に乏しい家事使用人(サーヴァント)や農地住み込み労働者が大半であったことが判明しました。イギリス本国の社会問題を粛清する為に、北アメリカ植民地へ失業者や反社会勢力などを定期的に移民させるという構造になっていました。

 

■イギリス産業革命フランス革命がもたらした世界システムへの影響

・18世紀末から19世紀初頭にかけてイギリス産業革命フランスフランス革命が発生して資本主義経済や政治体制に革新が起きた。以後、中産階級が支配的な中道自由主義の政治形態をヨーロッパ世界経済の中核(イギリス・フランス・アメリカ合衆国・ドイツetc)はこぞって採用するようになりました。

・イギリス産業革命により徹底的な都市化・工業化が進み、食糧供給の役割を担った周辺地域から工業生産の役割を担う中核への労働力移転が発生しました。それでも「労働力供給や資源供給が需要に追い付かない」ということでアフリカやアジア・オセアニアを侵略する帝国主義政策が採用され、低開発であった地域へ強制的にヨーロッパ世界経済の中核諸国が入植することで、労働力・資源供給源とする動きが見られました。

 

【所感】

・本書はウォーラーステイン近代世界システムⅠ~Ⅳに比べて、産業や地域間の相互関係性に注目した内容となっており、読みやすいです。国際分業体制や「どの産業・経済情勢が影響し、システムの変遷を形成したのか」という点においてはやや簡素に記述がされているので、併せて読むことで非常に立体的に世界システム論を捉えることが出来ました。

・経済が景気循環をするように、歴史は一定の法則を帯びて繰り返される(構造的に類似なことを繰り返している)ことが改めて感じさせられました。逆説的ですが、個別の地域や国に纏わる歴史を紐解きながら世界システム論の観点で国を捉えるという学び方も面白いなと感じました。掘り下げたい国や地域がいくつかあるので、世界史を専門で学ぶ直すのも有効そうであると思いました。

 

以上となります!