雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪人口論≫

 

今回はマルサス人口論を要約していきます。アダム・スミスリカードと並び古典派経済学の雄であり、本書で展開される人口と食物の関係についての考察が有名です。テーマも身近であり、マクロ経済学は勿論、国際政治学貿易理論にも展開される内容なので多くの人が関心を持って読める内容ではないかと思われます。

 

人口論

人口論 に対する画像結果

■ジャンル:経済学

■読破難易度:低(経済学の基礎知識がなくても読める平易な構成となっております。結論が冒頭にあり、それを様々な角度から検証していく構成です。)

■対象者:・人口と経済の関係性について興味関心のある方

    ・経済発展のメカニズムに興味関心のある方

    

【要約】

・本書は冒頭に結論が述べられており、結論の正当性を確かめる為に対立見解の学者の批判やイギリス社会の考察、聖書で論じられた人間像まで様々なテーマに言及が及びます。

■結論

人口は等比級数的に増加するのに、食料生産能力は等比級数的にしか増加しない。」それ故に、人口増加をしていく先には常に社会の一部の層が貧困に苦しむ未来を避けることは出来ないという警笛です。このマルサスの予言は後世に渡り批判的に検証がなされ、結果として経済学の発展に大きく寄与しました。(マルサス預言が外れたのは現代の世界の豊富な人口を見て頂くと歴然です。)

 

■構造的な負

人口食料生産能力に制限されますが、その食糧生産能力はいくら政策を掲げて資本活用や労働投資をしても、「土地という限りある天然資源を基に行われるので限界がある」マルサスは指摘します。即ち、「短期的には貿易や一部の貧困層の飢えに関して目をつぶることで問題を解消できても、中長期的に地球全体で物を見ると人類は破滅の道を突き進んでいる」という悲観的な見解です。

 

■中国という「人口と食物の関係性」における優れた模範例

中国「質素な生活をしながら恵まれた自然条件を駆使して全土で食糧生産が積極的に行われているので、すさまじい人口を有することが可能である」と本書では言及されます。人口が発展するかという国力に関わる問題は詰まる所、「一般階級・労働者階級がどれだけ豊かな生活をしているか(≒社会全体の生産能力と効率性)」によるところがあると示唆します。なので、農業に資本投資をして雇用を生み出し、生産活動を広範囲で行うのはあらゆる関係者にとってメリットのある営みだと主張します。※この点はアダム・スミスリカードと同様の見解です。

貧困層は稼ぐ力や物事を成しえる力が低いという人材の魅力度は勿論、生計をたてるのがおぼつかないので未婚率が高い」ということになるとマルサスは指摘します。ここから、農業を発展させることは労働を生産的たらしめ経済を加速させるだけでなく、国家が養うことの出来る人口が増すので、社会をより発展させる為に必ず向き合わないといけないテーマである」という示唆が導き出されます。

 

■構造的な負の抜本的解消方法はないか?

「人間の能力そのものが抜本的に改善されれば食料に関する問題は解決されるのか?」という説に対してのマルサスの見解が本書の中盤では数章を割いて検証されます。結論は否です。

自然科学という学問領域の発達と共に、人間界に関する因果関係が解明されるプロセスマルサスは高評価しており、一方で解明をしようとしない思弁哲学たる古代ヨーロッパの思考の蓄積をくそくらえという態度で退ける。「科学者が解明してきた因果・法則にしたがい推論をするべきで、自由に暴力的に発送するのは知的退行を招くだけである」として排斥します。

・その上で上記命題に対してマルサス「人間は必ず死ぬ、なぜなら人間を形作る素材はいずれも寿命を全うして死に向けて進んでいる」ということで結論付けます。

 

■富の偏在がもたらす社会全体への影響

・「労働者階級の生活が豊かになる≒社会全体で稼いだ金がより多く賃金に転換されること」でしかないです。アダム・スミスは生産活動の最大化による利潤が全て賃金に回ると前提している点がおかしいと批難します。即ち、資本の蓄積や相対的な食糧不足によるインフレ・実質貨幣価値減少リスク(労働需要が農業⇒製造業になり農業への労働供給量が減る為)などを度外視しているということです。

国のストック収入が増えても必ずしも賃金が増えるとは限らないです。ましてや、商業中心の経済は全然賃金を改善せず、資本家階級偏在にしかならない。資本や労働投資が農業製造業にシフトするのは特に労働者階級に深刻なダメージを与えるとされました。

※古典派経済学は揃いも揃って農業重視です。それだけ食料生産能力に余剰がない状態を長らく人類の歴史は経てきたと言えますし、ましてや現代のようにこれだけ産業社会が形成され、知識労働者階級の発達により労働生産性が向上することは想定していないのですから。

 

 

【所感】

マルサス自身は敬虔な牧師であり、超悲観的現実主義の人です。それ故に、様々な見解を述べる人の見解やイギリスが置かれた現状を引き合いにして痛烈に批判をしていく独特の節が見られます。宗教観に根差した独特の現実解釈やその論調から後世に大きな爪痕を残したのだとわかります。

・西欧の進歩主義的な見解的ではありますが、「物質的に豊かな世界を目指して資本と労働を最大効率で活用する方法を模索していくこと」は推奨されるべきです。政府の金融政策・財政政策・民間の経営学の発達等により200年余りで急拡大したのが人類の歴史であることからも明らかです。

・本書の慧眼からも明らかなように、歴史学問を学び、自分の未熟さを認識すると共にそれでありながらも社会システム普遍的な法則を理解しようという貪欲さが非常に大事であると感じます。歴史的な偉人にはなれないにしても、今を生きる社会においてより貢献できること・範囲を広げられるように真摯に現実に向き合わないと、と考えさせられます。その意味で、時代の風化に耐えた偉大な書物と格闘することはとても良いなと感じた次第です。