雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪サービスデザインの実践 前編≫

 

今回は「サービスデザインの実践」を要約していきます。サービスデザインのバイブルと呼ばれる本であり、デザイン思考を用いたカスタマーエクスペリエンス・イノベーションの実践的なプロセスを豊富な事例と共に体系的に論じています。約600ページの分厚い本となっており、本書は前編後編に分けて要約します。前編の今回はサービスデザインのコアアクティビティにフォーカスした内容に言及します。

 

「サービスデザインの実践」

サービスデザインの実践|ブランドデザイン|フォアビスタ株式会社

■ジャンル:開発管理・経営学

■読破難易度:中(プロダクトマネジメント・UXデザイン・経営学に関する基礎的なフレーム理解がないとカタカナだらけで読みづらく感じるかもしれません)

■対象者:・サービス改善・事業開発活動に従事する方全般

     ・顧客中心のサービス・プロダクトをチームで作りたい方

     ・デザインの実践例を深く学びたい方

 

≪参考文献≫

■誰のためのデザイン?

■要約≪誰のためのデザイン?前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪誰のためのデザイン?後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

プロダクトマネジメントの教科書

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

■バリュー・プロポジション・デザイン

■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■サービスデザインが必要とされる理由

・モノで溢れて、製品単独では期待充足・差別化が難しくなった飽和局面を迎えた社会において、「特定顧客に深く刺さるサービス・プロダクトをデザインすること」が価値を持ち、ビジネスとして成立する為の必須条件となりました。特にデジタル中心の現代社会においては選択肢と情報が膨大に増加する中で、「特定の顧客セグメントに深く刺さり誘因し続けるようなサービス体験を狙ってデザイン」しないと市場競争から簡単に淘汰される時代となり、カスタマーエクスペリエンス顧客ロイヤリティを狙って向上させるようにサービス・プロダクトをマネジメント・アップデートすることが至上命題となり、必然的にデザイン思考などの思考法やフレームワークが注目を浴びるようになりました。

・コスト削減・専門分化などによるサイロ化は顧客体験価値を棄損するリスクをはらんでおり、顧客中心主義共創などの新たな概念を組織文化に根付かせることが必要になってきているのです。デジタル化が加速する中でUXデザインプロダクトマネジメント機能こそが事業(サービス・プロダクト)の競争優位の源泉となる時代が到来し、本書概念が重要視されるようになっています。

 

■サービスデザイン思考の基本原則

・元来、サービスデザインにはユーザー中心共創インタラクションの連続性物的証拠ホリスティックな視点という重要五原則が存在しました。後にアップデートされ、人間中心共創的であること反復的であること連続的であることリアルであることホリスティックな視点の六原則になりました。

・「正しい問いを設定する」・「反復的に仮説検証・学習をアップデートし続けること」・「まずは実践する」など重要な概念が散りばめられています。ユーザーの課題に共感し、リーン形式で問いを立てて仮説検証し健全な学習サイクルの中で価値を高めていきサービスを開発していくという視点が大事であり、体系化したフレームワークとしてデザイン思考が存在します。

 

■ダブルダイヤモンドモデル

ダブルダイヤモンドモデルはデザイン思考の代表的な考え方で、心理学の領域からデザイン・建築分野に取り入れられ「ソフトウェアプロダクトデザイン」という文脈でビジネスの現場にも2010年代に一気に持ち込まれて拡張しました。具体的には問題発見・問題解決それぞれのプロセスにおいて発散収束を繰り返し、チームで網羅的に議論しながら最終的な成果を高めるようにコトを進めていくフレームワークとなります。ジャーニーマップリーンキャンバス/ビジネスモデルキャンバスステークホルダーマップなどと合わせてデザイン思考でプロダクトやサービスをデザイン・意思決定していくためのチームコミュニケーションツールとして重要視されています。

・「そもそもの正しい・重要な問題を定義し、解こうとしているのか?」ということに拘り、網羅的に批判的に検証していくというステップを欠かさないのがミソになります。サービスデザインプロセスは反復的で探索的なものです。ユーザー視点を欠かさずにユーザーの目標や制約条件・競合ソリューション・解決しようとするジョブの解像度を高めていくように学習をマネジメントすることが大切な観点となります。サービスデザインの具体的なプロセスはリサーチアイディエーションプロトタイピング実装の4つのコアアクティビティにより構成されます。

 

■リサーチ

・サービスデザインリサーチの基本プロセスはリサーチの範囲とリサーチすべき課題の決定・リサーチの計画策定→データ収集・インデックス作成→視覚化・統合→分析という手順を踏み、ダブルダイヤモンドモデル(拡散→収束・拡散→収束)の形式に沿い進みます。リサーチ業務には問題を探索する調査と仮説を確かめる調査など様々な観点が求められ、顧客のカスタマーエクスペリエンスの骨格構成要素・既存解決策・体験の白地を把握することに奔走します。

・特定顧客に深く刺さるサービスデザイン・ソリューション決定に寄与させていくことが常に考慮すべきポイントであり、特定セグメントのメンタルモデルやジャーニーの「なぜ?」を明らかにする問いを立てていくことが有用とされます。ユーザーのメンタルモデルや課題・ワークフローに対して深い想像力と共感をもって接し、構造を理解していく・仮説の種を生み出すという姿勢で真摯に対応することが不可欠になります。リサーチをする際の心構えは判定をするのではなく、事実と考察を切り分けて記録・文書化することにあります。

 

■アイディエーション

・アイディエーションは継続的な探索活動であり、時に先の見えない所業になることもあります。アイディエーションはリサーチにおいて明確にした判断軸やユーザー目標に即して議論・探索を続けていくことがポイントとされます。アイデアマネジメントにおいては収束フェーズにおいて「アイデアの大半を捨てる」というプロセスを経ます。なれないとかなりの不快さを伴うものとされ、チームで取捨選択・合意形成を明確に行う為にユーザー目標や判断軸を明確にするまで議論・網羅的に検証する粘り強さが求められます。

・デザイン思考の活用と同じくらい大事なのが多義のない言葉で概念や判断軸を言語化する文書化スキルです。デザインチームにおける共通認識・グランドルールを整備して、問いと論点を解いていくという形でコトマネジメント・合意形成していくことがサービスデザインにおける絶対感覚であり、これはプロダクトマネジメントとほぼ同義の感覚です。ジャーニーマップステークホルダーマップなどを用いて時系列行動感情仮説などを洗い出し、ビジネスモデルキャンバスの問いに対する解を言語化するなどしてサービスコンセプトやビジネス成立条件を正確に見定めていくというのが重要になります。

狩野モデル顧客満足理論のフレームであり、「満足/不満足×充足/不充足」の4象限で品質を定義するというものです。物理的充足度があり、満足未満の品質を当たり前品質(基本品質)と指し、顧客満足度と物理的充足度が比例する状態が一元的品質(性能品質)、満足状態にあり物理的充足度合いが未発展の過程を魅力的品質(興奮品質)と呼びます。これらは顧客の価値観や動態を深く観察することに加えて、ソリューションやプロダクトマーケティングの妙におけるイノベーションの原理を運用することも必要になり、実践で効果的に成果を出し続けるには相当な事例や理論に明るくないと厳しいです。

 

■プロトタイピング

・リサーチ・アイディエーションにより拡散・収束の思考を繰り返してソリューションの方向を決めたら、プロトタイピングから重要仮説に関する顧客フィードバックを得ることでサービスデザインに繋げるのが基本となります。プロトタイピングはタッチポイント・UIデザイン・販売チャネルの設定など後続の開発アジェンダにもヒットしてくる示唆に富む営みであり、プロダクト開発チームで同じ絵を見て対話・協業しながら進めることが望ましいとされます。

・プロトタイピングはサービス・プロダクトの価値を構成するフィジカル・デジタル製品による体験価値・タッチポイントデザインなどの総合的な価値により生み出されるものであり、ホリスティックな視点が必要になります。サービスプロトタイピングのプロセスは「なぜプロトタイピングをし、何を達成したいのか?」という問いや目的の設定が第一歩となります。プロトタイプのアイデアを表出し、何によって評価するかの項目設計のもとに開発・評価・検証を高速に進めていき、顧客価値あるプロダクトやサービスにしていくことになります。「本当にジョブを解決するソリューションなのか?」・「ターゲット顧客は適切か?」・「ターゲット顧客への提供方法として自然な導線か?」などが考慮するべき具体的な問いになります。これらの判断軸にはユーザーストーリージャーニーマップが必須であり、共通言語化するべく顧客インタビューをベースとした文書化・図示化しておきペルソナのレベルまで落とし込んでおくことがプロトタイプの方向性・生産性に大きく作用します。

・シナリオやユーザーストーリーのように、「時系列でどんな展開をするのか」・「何が課題でどのように解決すればよいのか」といった道標を顧客インタビュー・定量調査を通じて特定していくという営みをすることが不可欠となります。仕組みで協働体制を促進することや適切に継続的に高速に学習し続ける為の問いや論点・定量成果指標の設定などをして定期的にレポートしていくというのが実際のデザイン・ソリューション開発のプロセスとなります。機能が良いだけではサービスやプロダクトは雇用されず、「快適な刺さる体験を提供できるように顧客価値仮説のコアを確かめる」という営みが必要です。

 

■実装

・実装とは実験やテストを終えてから製品の生産と市場投入に移行するまでのプロセスを指します。このフェーズになると、反復・変更・適応といった従来のデザイン思考はコストになるケースがあり、出来る限りビジネスや業績指標にヒットするようなものと連動するようにしてコトマネジメントしていくのが求められます。実装をする際にはサービスデザインチームと現場のコラボレーションが大事であり、従来のデザイン思考のフレームで仮説検証・成功基準の定義・測定をしていくといった手順を踏みますが、その際に丁寧なコミュニケーションを行い、現場に変更の負荷・工数がかかることを考慮して進めていくということが必要になります。「誰向けのどんな問題を解くのか」・「顧客やユーザーのストーリー・ビジネスをどのように変化させるのか」の明文化などがこの手のステップには欠かせません。

チェンジマネジメントをする際には何が変わるのかを事前に考慮しておく必要があり、その際のフレームワークにレビッドのダイヤモンドと呼ばれるタスク・スタッフ・システム・テクノロジーの4要素の相互関係があります。変化の効果証明だけでなく、「どうすれば変化できるか?」という問いに対する答えを秀逸に用意しておくことがチェンジマネジメントの基本です。

・膨大なステークホルダーが存在する中で実行フェーズにおいても、「重要な論点や問いを明らかにして、価値基準や優先順位を明確にしながらチームで問題を解いていく」・「正しい文脈やイシューを射抜くことに時間を割く」のが最終的なアウトカムや組織の生産性を左右するのです。常に顧客体験や顧客のメンタルモデル・ジョブ・ペインからぶれないで判断するようにチームをリードすることが大切です。

 

【所感】

・これまで読んできた様々なプロダクトマネジメント・UXデザインに関するフレームワークや理論・知識が一つの線に繋がるような読書体験を得ることが出来ました。民間・公共問わず様々なサービスデザインの事例や実践的な教訓が随所に散りばめられており非常に参考になりました。これまでに学んできたフレームワークの強み・弱みや効果的な活用ケースをより深く理解することができるようになり、線で繋がる感覚を覚えました。

・顧客中心主義を徹底し、顧客体験やサービスデザインを抜本的に変えるような変革をリードするための検討手順・利害関係や専門性の異なるチームを率いる為の要諦などが詰まっており非常に考えさせられる内容でした。アジャイル開発やプロダクトマネジメントの思考プロセスがなぜあのような形式にて国際規範化されているのかということがよくわかりました。顧客の世界に飛び込み、粘り強く調査・仮説検証をしていきながら確固たる判断軸をもって意思決定していくことビジネス成果にヒットするようにロードマップなどで図示化・文書化しながらコトマネジメント・ステークホルダー対峙していくことが大事であると再認識させられました。様々なプロジェクトワークの内省促進やベストプラクティスを体系立てて学ぶのに適した素晴らしい本であると感じた次第です。

 

以上となります!