今回は前回に引き続き、アダムスミスの「国富論」を要約していきます。
第二編のテーマは「資本の性質、蓄積、用途について」であり、ここまでで国富論Ⅰが終了となります。その名の通り、「資本の性質に着目し、どのように活用することで社会全体が物質的に豊かになるか?」ということに対するアダムスミスの考察が詰まっており、「国富論」というタイトルにふさわしい構成となっております。
※一編の要約は下記です。
■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■国富論Ⅰ
■ジャンル:経済学・史学
■読破難易度:中(経済学の概念を0から体系化した本なので、前知識がなくても読み進めれば原理や概念は理解することが出来ると思います。)
■対象者:・ミクロ経済学・政治経済学に興味関心のある方
・人類の発展の歴史に興味関心のある方
・資本主義の仕組みに興味関心のある方
【要約】
・このパートのアダムスミスの結論は下記となります。
「農業・製造業この二つの産業に資本を投下し、労働力にレバレッジをかけることで大量の雇用と物質を社会全体に巡らせることで国を豊かにしていくべき」
「農業経営と土地改良こそが資本家が行う最も生産性の高い資本活用方法であり、社会全体で実践することで物質的に豊かになるので推奨する」
■資本の効用
・「資本は労働の生産性・生産量を高め、その効用により雇用創出と社会の分業化を促進する役割がある」とスミスは言及します。
・分業が進んでいくことで社会全体で人々は役割分担をしながら、貨幣という媒介手段を用いて個々人が「欲しいものを欲しいだけ手に入れる・望むことが出来る」という自由意志を持つことが出来るようになり、そのような社会を目指すべきというのが言わんとしている所です。※「労働という資本しか持たない人を生産的な営みに従事させることが可能になり、これは社会全体を豊かにするよね」という問いかけです。
■資本市場について
・金貨銀貨をベースにする貨幣から政府紙幣という手段へ貨幣がシフトすることで、金融業という概念が成立するようになりました。金貨銀貨と異なり、政府紙幣は価値の貯蔵手段・兌換性のみしか持たないです。しかし、その一方で中央銀行により、「市場流通量/供給量を一定制御することが可能になる」ということが革命であるということを示唆しています。
・この金融業を専門に司る機関として銀行の設置をアダムスミスは奨励しています。この時代もヨーロッパ各国で銀行が誕生していますが、これにより「資本取引が促進され経済主体に購買力増強をもたらす効用がある」ということを言わんとしています。加えて、信用創造という概念が発明されることで、社会全体で資本活用がより効果的かつ高速でなしえることが出来るということも政府紙幣・金融機関という概念の優れている点と言えるでしょう。
※他人資本により、生産的な活動をすることが出来るようになったということは「社会全体で資本を効果的に活用したり、資本に付随した労働を有効活用しやすくなった」ということでしょう。
■利子の源泉
・資本市場が形成されることで、資本に利子という概念が成立するようになりました。利子は貸手から貸手への「生産活動へのライセンス料」のような意味合いで存在する理由が証明できると言います。社会全体で資本が有効活用されることで、労働が生産的な活動に置換されることになり、物質的に豊かになっていくことで国は豊かになるということがアダムスミスの理想とする所です。
※なので、貿易や小売業よりも農業や製造業など「物を生み出す」経済活動が尊いという立場を取るのでしょう。
■商品価格の内訳
・商品価格の内訳が賃金・利潤・地代と3つの要素で構成されるように、総生産物もその3つで構成されます。
・なので、土地と生産手段を提供する資本家階級は商業社会において利潤の多くを自分のものにすることが出来ます。
※「賃金を資本所有に投資していき、資本へ稼がせる割合を増やしていくことは資本主義社会の基本原則である」という現代に通じる原則がここに垣間見ることが出来ます。
・中世のヨーロッパの代表的な思想として重農主義と重商主義があります。主にフランスやイギリスで数世紀に渡り、検証された見解ですが、アダムスミスは重農主義こそ正義という立場を取ります。※第三編・第四編で専門に扱うパートがあるのでここでは簡単に記載します。
重商主義:自国の財貨獲得を最大化するために政府が介入し、商業・貿易を奨励するべきという思想です。大航海時代の心理的な源泉にもなっている考え方ですが、アダムスミスは「世界全体で見たらそれはゼロサムゲームである」という意味合いから痛烈に批判しています。
重農主義:資本投下をし、労働生産性を高め多くの生産物を生み出すことで社会を物質的に豊かにするべき。その対象として農業が最も生産性が高いので農業を奨励するべきという思想です。
※産業革命以前までは穀物が通貨としての価値を持っていたので、長らく人類の基本にあった考え方です。こうしてみると科学技術の発展により製造業やサービス業が農業よりも労働生産性が高くなるというのはすごいことです。
【要約】
・まだアメリカがイギリスの植民地である点などに時代背景を感じることの出来る内容です。経済学の基本概念となるような考えをこれだけ丁寧に体系化しているアダムスミスの偉業が垣間見えるパートです。リカードと並び、古典派経済学の大家として呼ばれるだけの理論的な濃密さが感じられます。
・資本主義の原理原則をとても丁寧に説明したパートとも言えて、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」でマックスウェーバーが度々、国富論を引用し原理とプロテスタントの宗教観がどのようにフィットしていたかを説く場面があるのですが、本書を読むことでより理解が深まった感覚があります。経済合理に即して現世利潤を追求していくということと労働に従事し続けるという倫理観はヨーロッパ独特の感覚であり、だからこそヨーロッパ・アメリカで産業が大きく形成されていった歴史があるのだろうなと改めて納得した次第でした。
以上となります!
国富論はⅢ部まであるので、これからも定期的にまとめて投稿していきます。