今回はアダム・スミスの「国富論」を要約していきます。古典派経済学の大家と呼ばれるアダム・スミスの代表作で三部構成になっています。一部は一編と二編が収録されており、今回は一編を要約します。一編の主題は「労働生産力増進の原因と生産物が社会に分配される秩序について」であり、人類がどのように経済活動を営み社会を発展してきたかを考察したパートとなっております。
アダム・スミスは「神の見えざる手」などのように自由主義経済を重視したという見方が主流ですが、本当は政治経済学(政府の介入の基に市場原理を活用して社会の富を最大化するべき)という思想の立場を取っていた学者です。また、アダム・スミスが本書を著した時代のイギリスというのはスコットランド・イングランド・グレートブリテン島と対立国家であったことも加味して読む必要があります。
■国富論Ⅰ
■ジャンル:経済学・史学
■読破難易度:中(経済学の概念を0から体系化した本なので、前知識がなくても読み進めれば原理や概念は理解することが出来ると思います。)
■対象者:・ミクロ経済学・政治経済学に興味関心のある方
・人類の発展の歴史に興味関心のある方
・資本主義の仕組みに興味関心のある方
【要約】
「国民の富は労働による生産量の対価としてあらわされ、その対価は労働の熟練度合いにより規定される」この前提に立ち、アダム・スミスは「分業による労働生産性の向上こそが社会を物質的に豊かにしていく術である」と強調しています。
■分業
・分業は現代の産業社会では当たり前に取られている手法ですが、労働生産性を高める意味で有用であるとアダム・スミスは説きます。主な効用は下記3つ。
「専門化することによる技能の増進」
「工程の移動に伴う物理的・時間的コストの削減」
「機械の発明による分業化の促進・生産性向上に拍車がかかるから」
※尚、アダム・スミスは工業の分化・職業の分化という2つの文脈で分業の重要性を説いています。
■貨幣
・貨幣は交換の価値尺度・使用価値・価値の貯蔵機能などの役割を持ち、古代より取引を促進する手段として存在してきました。貨幣の役割を担ったのは時代により異なりますが、大きくは穀物⇒金貨銀貨⇒政府紙幣というプロセスを経て現代に至ります。生活必需品としての物質的な役割を持った穀物に始まり、希少品としての金貨銀貨、市場取引促進機能に振り切った紙幣という変遷を経ます。
※政府認定の金融機関を設けて紙幣発行機能を持たせることで市場の貨幣流通量に介入することで、経済を健全化出来るという思想はアダム・スミス以後に発明された概念です。
■労働
・「労働は交換価値の真の尺度である」とアダム・スミスは説きます。生産物を生み出す為の資源にもなれば、労働それ自体が市場売買されることもある為です。そして、労働により貨幣を得て、その貨幣であらゆる交換を行い欲求を満足させる万人が商業化した社会が資本主義経済と言えます。
※後にこの現状を「資本家が労働者から利潤を搾取している」と痛烈に批判したのがマルクス・エンゲルスなどの共産主義に繋がります。
■地代
・土地は土地を用いて生産物を生み出し、その生産物を貨幣で交換することで欲しい財を手に入れる資源になります。なので、土地に掛かる地代というのは資本家の取分であり、いわば労働者向けの生産手段へのアクセス料として機能しました。
・資本家は保有する資本(土地・機械等)に投資をして、資本の生産性(資本から生み出す生産量を増やしていく)を向上させることで利潤を最大化するようになり、それは資本の蓄積・労働者へ資本の委任(労働者として雇用するイメージです)などが行われ、資本主義経済は発展していきました。
■資本の利潤
・「利潤の高さは富の大きさに依存し、資本の増加は利潤を低下させる傾向にある。」これが原理原則です。
・資本による利潤の推移は利子率により大まか規定出来ます。資本の利子率は「仲介手数力や購買力増強という権利を貸与することによる対価」として存在します。
・大規模資本を活用した仕事は多くの労働者を必要とし、短期間に多数の労働者を確保するために賃金を上乗せしたりして労働力を確保する傾向にある為、小規模な資本活用よりも利潤は低く据え置かれる傾向にあると言います。
■労働の投下対象の変遷
・古来は家畜や農作など労働によりレバレッジの効く生産物は需要の増加と共に生産量が増えるので、有効な労働投下対象とされてきました。それが産業革命により金属加工による工業が発展したことで、工業の方が農業よりも生産性の高い状態になり、多くの労働力が投下され工業を行う企業組織の社会が形成されて現代に至るというプロセスを経ます。※「労働集約型⇒資本集約型」と産業の主役は時代と共に変化していき、ビジネスの主流も「資源ビジネス(≒貿易)⇒金属加工≒製造業⇒サービス業」と変化してきたということがここからも明らかかと。
【所感】
・経済学は勿論、世界史に興味関心ある方にとっても面白く読める内容ではないかと思います。アダム・スミスが体系化した経済学の原理・資本主義の原則に忠実に産業革命を推し進め、工業化・産業大国化していったのがイギリスの栄華や西欧社会を形づくったと言ってもいいでしょう。それ故に、アダム・スミスの歴史的功績は偉大であると思います。
・経済学という学問もアダム・スミスが唱えた自由主義経済の概念をベースにリカード・マルクス・シュンペーター・ケインズ等の偉人が批判的に考察を重ねて現代の学問体系に発達したので、原典を知るということはとても有用であるなと思いました。
※シュンペーターが説いたイノベーションにより需給曲線の均衡が崩壊し、生産性は拡大するという概念や政府の介入により経済を是正するべきというケインズ経済学の概念に通じるような考察は本書中にも何度も出てくるので。
・本書で度々登場するアメリカやイギリスは近現代の大国として位置しますが、結局は
要素技術・天然資源・労働人口など国の競争優位を司る全ての要素において優れているということが何よりの理由なのだろうなと感じました。
・また、イギリスで資本主義及び産業革命が発達したのはプロテスタント国という勤労という就業感が資本主義経済のKSFに合致したということもあるでしょうが、「奴隷商売や貿易など外の国とのやり取りをベースに経済を形成してきた元々の歴史も促進をさせたのではないか?」と思った次第です。
以上となります!