今回は川端康成の「古都」を要約していきます。
川端康成はノーベル文学賞を受賞した日本純文学を代表する作家で「雪国」や「伊豆の踊子」等が有名作品です。本作は何度も映像化されている氏の代表作の一つと言われており、「新感覚派」の真骨頂が垣間見える作品です。
※新感覚派とは簡単に言うと、ヨーロッパ文学の表現技法を用いて美術や音楽の世界に通じる「美」を表現するポエム調の作風です。擬人法や比喩を積極的に用いて、日本社会のある場面を切り取りエモーショナルな感じに現実を描写するという作風です。
■古都
■ジャンル:文学
■読破難易度:低(平易な文章であり、物語も非常にシンプルなので読みやすいです)
■対象者:・四季折々の自然の美しさを堪能したい方
・京都・日本の伝統芸能について理解を深めたい方
【要約】
・老舗の呉服屋の一人娘として育った千重子が生き別れの双子の苗子と出会い、惹かれあいながら自分の振舞いを再考していく物語です。捨て子という生い立ちを持ちながら、不自由なく洛中で生活をする千重子と北山杉の農村部で働く苗子は年中行事を通じて運命的な出会いをします。「自分は天涯孤独であり、自分のことを本当にわかってくれる人はいない」という漠然とした不安を抱えて生きていた千重子が苗子と再会をし、自分の生い立ちや大事にしている考えと向き合わざるを得ない場面を通じて成長・変化していく様が印象的です。
・本書の特徴は小説の約半分を占める京都の自然や地名・年中行事の描写です。西陣・錦市場・円山公園・仁和寺・嵐山などを始めとした地名が出てきて、その四季折々の自然の美しさを賛美する描写と合わせて登場人物の心情描写が展開される様は圧巻です。あらゆる外部環境・内部環境の変化の中で、変わってきたもの・変わらないものという対比を人間社会(伝統産業の転換期の葛藤を描いています)・自然の描写を通じて表現しています。
【所感】
・ノーベル文学賞受賞作品ということで敬遠していましたが、いざ読んでみると非常に読みやすく典型的な純文学作品なので、文学の世界への導入として最適な本であると感じました。
・新感覚派の美しい表現技法が随所に見られ、読みながら絵が浮かんでくるような体験を得ることの出来る本です。京都の地名や文化に明るい方であれば更に楽しめることでしょう。
・本書を通じて感じたのは「京都という地域はあらゆる変化の波を受け入れながら、自分たちの信条を精査するということを繰り返し続けて現代のような独特の文化・風土が形成されてきたのだな」という点です。即ち、自分たちの考えに固執するのではなく、外界の刺激をしっかり受け入れ、咀嚼しその中で変わるもの・変わらないものを取捨選択し続けて純度を高める努力を怠ってこなかったということです。
・様々な登場人物の心情描写・葛藤を楽しむもよし、京都の四季折々の自然の美しさ・年中行事などの社会描写を楽しむもよしの素敵な構成の小説であると感じました。個人的には日本文学というものを学ぶ取っ掛かりとしてこの上ない作品なのではないかと思うので。非常にオススメ出来る作品でした。
以上となります!