雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪外交談判法≫

 

今回はカリエールの「外交談判法」を要約していきます。

カリエールはフランスでルイ14世が治世を収める栄華を誇った時期に外交官として名を馳せた人です。外交官という職業の専門性を見出し、そこに求められる仕事の能力及び資質を端的にまとめた内容が本書です。本書の記述は部門折衝など利害関係の対立に直面する仕事に従事する人全般に通じる示唆に富んでいると感じました。

※下記の本と合わせて読むと本書の内容理解が進み、面白いと思います。

≪職業としての政治:マックス・ウェーバー

■要約≪職業としての政治≫ - 雑感 (hatenablog.com)

君主論:マキャベリ

■要約≪君主論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

「外交談判法」

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■ジャンル:法学・政治学

■読破難易度:低(160ページ程で端的かつ明瞭な記述で論が展開されていくので、とても読みやすいです。背景知識も特段必要しないです。)

■対象者:・交渉毎に従事する方全般

     ・近世ヨーロッパ社会の相互関係について理解を深めたい方

     ・代理人の役割を全うする機会のある人

 

【要約】

■本書を取り巻く外部環境

・かリエールが本書を著した時代はフランスが西ヨーロッパ社会の大国として名を馳せており、イングランド・オランダ・ドイツ・スペインなどの国が追随する状態でした。「様々な国の法則や宗教・思想を理解すること」は相手方の分脈や価値観を理解することに繋がり、交渉事を有利に進める示唆に富んでいるということが形を変え、何度も主張されます。

 

■交渉および外交官の流儀について

理性説得が交渉のベースであり、武力行使は最後の手段であり望ましいことではないということをカリエールはキリスト教世界における大原則として主張します。水面下の衝突が絶え間なく発生する世界において、外交官はあらゆる調停をする為に重要な役割であるとされます。

・その上で、「利害関係の対立を読み解き、実利情理(熱意やストーリーで心に働きかける)のバランス感覚」が外交官に求められる資質と強く主張します。身分(貴族階級)や特定世界の権威ある役職者(聖職者・軍人)であるというだけで外交官の地位にある人が多いのは事実だが、実際の職務は総合格闘技であり、専門性に富んでおり、適性を選ぶということを控えめな言葉で何度も主張がなされます。

 

■外交官の基本職能について

「他国の現状を報告し、闘争の因子を洗い出すことで君主の適切な意思決定支援に責任を負う」ことを外交官の職務とカリエールは定義します。宗教言語民族歴史など様々な文脈を理解し、二律大半になりかねない事象をうまくまとめていくことが実務の大半を占めるとされます。※ビジネスの言葉で言うと、圧倒的な知識と場数、構造化能力を必要とするということでしょう。

 

■外交官に求められる資質

・交渉家(外交官)は勤勉な精神を持ち、禁欲的でないといけません。そして、交渉相手や自国の歴史など様々な知識を前提においていないと仕事がなりゆかないという仕事の性質があります。

洞察力に長けており、物静か忍耐深さがあるくらいがちょうどよいとされ、他人を脅かしたり論破するスタンスは本来あるべき交渉家のあるべき姿ではないとカリエールは主張します。

・外交官はその仕事の性質上、権力にアクセスし働きかける政治行為を伴います。権力の暴力性に支配されない慎み深さは勿論、「交渉を担う」職務の性質上発生する恐怖急激な変化に感情を揺さぶられることなく守るべきもの(君主の権威・利害関係など)を強固に守りに行く精神的なタフさを必要とするとされます。

 

■外交官の選定について

・外交官の職務および資質故に聖職者軍人法律家いずれかが外交官を担うのが望ましいとされます。ローマキリスト教世界において最大権威を誇る場所なので、聖職者ではなく(自分の聖職者の世界での名誉や利権を優先するリスクが発生する為)軍人を外交官に従事させるべきと本書では記述されています。

利害関係の対立など緊張を有する交渉事が待ち構えている国の外交官は軍人が最適であるとされます。一方、悠々自適に平和な調子で進めることが望まれる君主の統治国については貴族階級のバランス感覚に富んだ人(法律家聖職者)を外交官に据え置くべきとされます。※あくまで組織や対峙する課題に適切な人材を外交官として任用するべきであり、普遍的な解はないという示唆です。

 

【所感】

・外交官という仕事の総合格闘技ぶりには改めて驚かされました。それと共にカリエールの謙虚で現実的な思考は非常にしっくり来る所があり、噛みしめるように読みました。滅茶苦茶面白かったです。学問や歴史に明るい外交官を重んじる節がカリエールは強く、これは学問歴史学を通じて、「理論を組み立てる力」「法則を理解する力」が高いというシグナルになり、仕事で成果を出す能力に相関するということを意味するのだと思いました。

・「組織の成果最大化を追求しながら、自分の責任範囲の利権も主張する」というバランス感覚が課題感としてある自分にとって非常にタイムリーな内容でした。「情理のバランス」というのが本書のテーマのように思えますが、これは権力にアクセスし、大きな組織の成果に責任を持つ過程では必ず身につけないといけない感覚なのだろうと実感しました。

・また、ヨーロッパ社会が宗教(キリスト教)という文脈が大きく影響をする社会であると再認識させられました。道徳教育として価値観の根底をなすキリスト教がこれほど政体や文化に影響を与え、必須の教養であるのかと思い知らされます。特に西ヨーロッパは大国が均衡を保ち、時代によって覇権を担う国を変えて発展し続けてきた為、各国の色をしっかり体得することで様々な事象の理解度が深まるなと感じました。

 

以上となります!

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