雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪戦争論(下)≫

 

今回はクラウゼヴィッツ氏の戦争論を要約していきます。クラウゼヴィッツプロイセンの軍人で、ナポレオン一世がヨーロッパ大陸を席巻した時代を生きた将帥兼軍事学者です。本書は孫子と並んで有名な戦争や戦略を扱った古典的著作です。上中下の三部構成となっており、今回は下巻の内容を要約します。下巻は中巻に引き続き防御・攻撃における重要論点が存在する戦略、戦術に関する考察と戦争計画に関する内容となります。ナポレオン戦争前後のヨーロッパ諸国将帥が戦争で繰り広げた意思決定プロセスを丁寧に考察していく仕立てとなっています。

 

戦争論(下)」

戦争論 下 / クラウゼヴィッツ【著】〈Clausewitz,Karl Von〉/篠田 英雄【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

■ジャンル:政治・経営戦略

■読破難易度:中(抽象的な言葉遣いが多く、ニッチな近代戦を引き合いに出す為若干読みづらいかもしれません。主張は一貫してシンプルなので、慣れてくれば読みやすいかも。)

■対象者:・政治・外交・戦略に関わる方全般

     ・18~19世紀の戦争史について興味関心のある方

 

※上巻の内容は下記。

■要約≪戦争論(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

※中巻の内容は下記。

■要約≪戦争論(中)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

≪参考文献≫

■外交談判法(軍事と構造的類似役割を持つ外交官の役割について)

■要約≪外交談判法≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■権力と支配(政治力学・軍の組織構造について)

■要約≪権力と支配≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■防御・攻撃に関する戦略・戦術について

・大前提として、「技術や資源の制約条件ありきで戦略・戦術は作られる為、近代戦を想定した考察以外意味をなさない」というのがクラウゼヴィッツの見解です。その為、三十年戦争などヨーロッパの代表的な戦争に関してはあくまで参考程度の言及に留め、主にナポレオン戦争や自国プロイセンの英雄フリードリヒ大王が将帥として指揮をした戦争を引き合いに、戦略・戦術に関する個別論点を言及していくのが特徴です。

戦争は政治目的の遂行の為に取られる手段であり、国際関係や資源配分の交渉など戦争目的を考慮した意思決定というのが将帥には常に求められるとされます。その上で、戦後講和を有利な条件で交渉する為に、敵の資源に働きかけたり追撃を通じて優位を拡大するなどしていくのが個別の戦場における意思決定の判断基準となるとされます。戦争狂のような「手段が目的化する将帥・元帥は愚かである」として痛烈にクラウゼヴィッツは何度も本書で言及します。

・一般的には攻撃よりも防御のほうが情報の非対称性において有利に立つことが出来、豊富な補給網や地形・要塞などを駆使した防御陣営を効果的に展開出来るので容易であるとして個別戦略・戦術に関する考察が本書では展開されます。

※詳細はあまりにも細かいので割愛しますが、舎営・輸送隊・要塞の意義や奇襲・牽制・山地戦などの優劣を決める変数に関して淡々と記述がされ、近代戦の個別事例を引き合いに主張が展開されます。

 

■戦争計画

・大原則として戦争は講話を有利に進めるための敵勢力の滅殺が主な狙いであり、ナポレオンのロシア遠征ヨーロッパ大陸制圧構想なども原則に適していたとされます。カール5世の時に最大勢力を誇り、スペイン・イタリア・ドイツ・オーストリアを統治するに至ったハプスブルク家や当代の盟主として知られたカール12世フリードリヒ大王も同様の戦争対峙方針をとったとして言及されます。

・ヨーロッパ諸国は適度な均衡関係にあったので、交渉事をする手段として戦争を採用し、有利な状態で講和に持ち込むという小規模な戦いが主流になっています。こうした情勢であった為、フリードリヒ大王やルイ14世などアレクサンドロス大王に匹敵する資質をもった将帥でも中規模に落ち着かざるを得なかったとされます。

フランス革命を機に、近代戦の前提が崩れて国民が政治に参加する機運となりました。大量の国民がオーストリア・ハンガリー帝国の前に現れたのもそれ故です。フランス革命の勢いを引き継ぎナポレオンが台頭し、ヨーロッパ社会を席巻する頃には、国民総動員の大群で戦う方式が主流に回帰していきました。ウィーン体制以後の近代戦は結果として総力戦・政治均衡の基での政治交渉行為の意味合いをもつように変容しました。

・ヨーロッパにおいて複数の同盟関係が存在し、政治的・経済的な駆け引きが水面下にありその利害衝突故に戦争が抑制される機会もあれば誘発する機会もあります。クラウゼヴィッツの見解としては戦争に関する戦術や戦略を論じてきたが結局、「戦争は政治的交渉の道具でしかなくそこには文脈や利害なしに各論を判断は出来ない」という主張が見られます。その為、法律や国際関係・政治・経済などの理論の下敷きなしに戦争を論じても意味がないし、情報判断をする知性を養うことが将帥教育には欠かせないということを主張します。「政治の本質が変化すれば必然的に戦争術も変容するよ」ということを本書では言わんとしています。

 

【所感】

・中編に比べて概念的な内容や歴史研究の要素が強かった為、読みやすさを感じました。下巻の戦争計画は極めて現実的な思考に努め、実社会に役立つ理論・法則を展開しようというクラウゼヴィッツの強い意志が垣間見える構成でした。将帥は組織を率いるリーダーシップだけでなく、資源制約の中で意思決定をするタフさ・局面を見立てる判断力やその大目的にある国際関係や政治的利害に頭を巡らせる複雑な技法を有するという様は読んでいて改めてワクワクさせられる内容でした。現代社会において事を成そうとした際に直面する壁や葛藤とも似たように思え、抽象化すると非常に示唆に富んだ内容であると本書の価値を再認識した次第です。

 

以上となります!