雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪自由論≫

 

今回はJ.S.ミルの「自由論」を要約していきます。

功利主義と並んで氏の代表作と名高く、「個人の思想・討論・行動の自由は如何なる場合においても不可侵であり、精神的に自由な自己実現の出来る社会が理想である」という晩年の境地をまとめた思想に纏わる本です。人権革命普通選挙運動新自由主義などに間接的に影響を与えたとされており、19世紀半ばに書いたとは思えないような先見性を感じる内容です。

 

「自由論」

ソース画像を表示

■ジャンル:哲学

■読破難易度:低~中(前提知識が不要なので、比較的読みやすいです。功利主義や18世紀までの自由に関する歴史を認知しておくとしっくりきます。)

■対象者:・思想信条の自由に関する興味関心のある方

     ・個人の自由と公共の福利の棲み分けについて興味関心のある方

     ・啓蒙主義思想について理解を深めたい方

 

≪参考文献≫

功利主義(ミルの思想の根幹を成す価値基準について)

■要約≪功利主義≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■資本主義と自由(経済分野と結びついた本思想について)

■要約≪資本主義と自由≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■個人の権利と社会の福利のバランスについて

・個人の精神的な自由は最大限担保しないといけなく、一方で社会の福利と矛盾しないようにしないといけません。その為には「法律による価値基準の規定」と「世論という社会的商人」が抑止力として働きます。個人の志向や判断基準が社会的規範道徳と時に相反することがある。これが両立する範囲においては基本的には精神的な自由が担保されてあるべき。つまり、精神的な自由を享受するには広範な倫理観社会志向をもって考える習慣をつけるという所が手っ取り早いということを示唆しています。

法律は暴力的な統率力があるので、誰かの権利を迫害・阻害することのないように制定・運用するということをいつ如何なる時も徹底しないといけないと警笛を鳴らしています。

 

■思想と討論の自由について

・道徳や法律・社会規範などが存在することは前提として、「個人が何を思想しようがそこに対して意見を交えることに関しては何にも増して権利は保護されるべき」というのがミルの本書で一貫した見解となります。

・意見の相違は討論を生み、討論が建設的な見解視点の網羅に繋がります。これを人為的に抑制することは個人の権利侵害だけでなく、社会の発展を大きく抑制するリスクを生み、社会の福利をも阻害するということが言えます。権威や歴史に群がるのは人間の性質上当たり前ですが、「異質なものを抑圧することは社会と個人の思考停止を招き、文明の発展を阻害する」としてミルは強く警笛を鳴らします。異質な意見から将来の当たり前が生まれることは歴史を見ると明らかであり、イノベーションや学問の発達の源泉であるということです。

・人間は討論と経験により、誤りを是正出来るようになりその知識がストックされ集合体になることで知性となります。「多様な意見と衝突し、物事の全体を把握する理解を深めるに至る学びを経ることで知性を獲得していく」このプロセスは人間が人間らしくあるために最大限尊重されるべきというのがミルの主張です。※これらの思考プロセスからミルは弁証法的アプローチを好むことがわかります。

 

■個人と社会の境目について

・個人の自由は極力担保されるべきですが、その自由の先に社会に悪影響を与える場合においては社会が個人を抑制する大義名分が生まれるという話です。問題は「何をもって悪影響とするか」ということで治安維持法のように何でもかんでも抑制すると思想の自由が制限されてしまいます。

・ミルの考え方は「思想や討論は極力自由を推奨し、そこに付随する行動には社会の利害により抑制の力学が働きうる」と置いています。即ち、自由の行使範囲は公共の福利に反しない範囲かつ他人の自由を抑圧しない範囲に限定されうるということです。この基盤にある判断軸は「最大多数の最大幸福」という功利主義です。

 

■教育の意義

義務教育を始めとした教育インフラは万人が良き社会市民としてある為、思想・討論・行動の自由を担保する為に社会的意義が高いとミルは指摘します。義務教育は子供が人生において「自分の為・他人の為にどうあるべきか」についての示唆ならびに「社会生活を営むに足る道徳基準を付与するもの」として意義があるとされ、両親は子供に対する支配権(自由を享受するに足る分別が不足している為に支配が正当化される)の代償として能力開発にフルコミットする責任があるとされます。

 

【所感】

「個人の思想・討論・行動の自由は如何なる時も不可侵であり、それこそが精神的な自由や自己実現に繋がる」という示唆は先見性があると感じました。その可否の判断基準は「最大多数の最大幸福」という功利主義に帰結するというシンプルさも非常にしっくり来る内容でした。

・一方で、「エリート主義・勝者の論理である」と言われる本書の論に関する感情的反発も致し方ないよなとも感じました。「自己理解が出来て、課題解決能力が一定備わっている人が最大限の効用を得る為の考え方」として本書があり、不足がある人に向けては社会保障や分配を意図した方向に第三者が介入(主に政府)すべきという論は最もであると感じました。

機会の平等は最大限担保されるべきであり、結果の平等はそれが「最大多数の最大幸福」に抵触されないのであれば本人の努力・幸運を称え享受できるように他人はあるべきという示唆が最もだなと印象に残りました。

 

以上となります!