雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪資本主義と自由≫

 

今回はミルトン・フリードマン「資本主義と自由」を要約していきます。

フリードマンノーベル経済学賞を受賞した経済学者で、新自由主義ネオリベラリズム)を提唱しました。レーガン大統領・中曽根首相などの経済政策(規制緩和民営化など)に大きく寄与したとされる学派で、本書が代表作となります。

古典派経済学が提唱した自由主義の綻びに応える形で発展したケインズ経済学マルクス経済学に対して警鐘を鳴らし、古典派経済学を修正する形で小さな政府を推奨しました。

 

「資本主義と自由」

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■ジャンル:経済学

■読破難易度:低~中(講義を編集した本であり、平易な言葉でかつ切れ味鋭く記述がされており読みやすいです。アメリカの政策や制度を中心に議論がなされるので読み替える点だけ要注意です。)

■対象者:・新自由主義に興味関心のある方

     ・経済政策の歴史に興味関心のある方

     ・民間セクターと公共セクターの役割分担について興味関心のある方

 

≪参考文献≫

■経済学および課税の原理(古典派経済学・自由主義のエッセンス)

■要約≪経済学および課税の原理(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪経済学および課税の原理(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済原論(マルクス経済学のエッセンス)

■要約≪経済原論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

雇用、利子および貨幣の一般理論(上/下)(古典派経済学の綻びを政府介入及び金融理論でカバーしに行こうとしたケインズ経済学)

■要約≪雇用、利子および貨幣の一般理論(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪雇用、利子および貨幣の一般理論(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

新自由主義が提唱されるに至る歴史的背景について

・古典派経済学が是とした自由主義経済の破綻を踏まえて、マルクス経済学ケインズ経済学が志向されるようになったのが20世紀前半の経済理論のトレンドでした。ケインズ経済学が推奨する「大きな政府」路線の影響による肥大化した公共事業・財政/金融政策偏重の経済政策の綻びが浮き彫りになる20世紀半ばに、「小さな政府」路線に回帰し、市場中心に政府は最小限の介入に留めるべきという新たな理論を編み直す機運が高まり、新自由主義が誕生しました。

・完全に市場の競争原理任せではなく、「市場の失敗再分配などの外部性を補填する為の活動に政府は最小限に努めるべき」という修正がなされる形で理論が発達しました。これらの思想は後年の公共経済学の学問領域の発達にも大きく寄与しています。

 

フリードマンが提言した政策

・政府の市場介入偏重・社会保障政策の非効率性に対して異を唱え、アメリカの制度を次々と廃止提言していくこととなります。具体的には下記です。

「農産品の買取保証価格制度」

「輸入関税/輸出制限」

「産出規制」

「家賃統制・物価賃金統制」

最低賃金/価格上限」

「産業規制」

「事業・職業の免許制度」

公営住宅

「国立公園」

「公有公営の有料道路」などです。

 

新自由主義のエッセンスについて

・詰まる所、過度な社会保障・底上げを意図した政府の経済活動が非効率であり、結果として負の外部性を招いたり市場の失敗を招いているということを指摘しています。ドライに言うと、パレートの法則があらゆる活動に付きまとう中で「多数派にテコ入れをするよりも市場の競争原理を活用して経済主体に努力・自己実現を促すという方向にシフトすべき」ということを示唆しています。

機会の平等政府が責任を持ち実現するべきだが、基本的には個々人の自由を尊重し何事にも市場の競争原理調整弁の機能を最大限活用することで意志あるものが自己実現・相応の報いを得ることの出来るようにするべきということになります。

「自由には責任が伴う前提で、競争原理を最大限活用しながらパレートの法則に期待しイノベーションや自由に伴う権利を行使して自己実現をすること」を前提としたのが新自由主義です。自由を享受するとはその代償に自由の倫理観や価値観の行使に責任を負うという前提があります。これらを行使して政府介入より最適になるくらい豊かな土台が形成された所以の経済思想です。

・詰まる所、「経済活動の最大化や物質・精神的な充足を実現する為に面積を広げに行くか(社会主義ケインズ経済学)高さを取りに行くか(新自由主義)」の違いであり、面積を広げに行き過ぎた故の功罪是正の意味合いが強いということが言えます。

 

【所感】

大きな政府路線に対してメスを入れると共に、古典派経済学の理論を丁寧に洗いざらいしエッセンスを抽出して再検討していく本書の仕立ては圧巻かつ後世に偉大な影響を与えたと感じました。

・本書はJ.S.ミルの「自由論」で論じられている思想を経済理論に編み直したような内容になっており、合理的であると共にエリート主義・冷徹という感情的な反発を招くことはあるよなーと感じさせられる内容でした。古典派経済学新古典派経済学マルクス経済学ケインズ経済学と経済学の歴史を辿り、理論的な厚みをもって本書に臨むことが出来たので批判的に検証しながら読むことが出来てとても良かったと感じました。また、本書で問題提起・論点になっている内容を鑑みると、政治経済は切っても切り離せない関係にあり、かつ学問というのは複数の領域に明るくあり初めて知見が深まるということを再認させられる内容でした。

大きな政府社会保障路線は治安維持や底上げを理想論としたが、実態は人間の罪深さや怠慢を炙り出したということに過ぎない。だから、自由を尊重し、機会の平等追求に政府は専念し市場メカニズムを通じた経済主体の努力に委ねるべき」というキレキレのフリードマンの論調は身が引き締まる思いを感じました。

 

以上となります!