雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪社会政策 福祉と労働の経済学(後編)≫

 

今回は有斐閣アルマシリーズの「社会政策 福祉と労働の経済学」について要約していきます。主に社会保障制度と労働政策についてその制度設計の確からしさをミクロ経済学のモデルを用いて立証・解明しようとする仕立ての本です。本書はテーマが膨大な為、2回にわけて要約を進めていきます。後編の今回は社会福祉にフォーカスして内容をまとめていきます。

 

※前編の要約は下記※

■要約≪社会政策 福祉と労働の経済学(前編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

「社会政策 福祉と労働の経済学」

社会政策 福祉と労働の経済学 有斐閣アルマ : 駒村康平 | HMV&BOOKS online - 9784641220584

■ジャンル:経済学・社会学

■読破難易度:低~中(前提知識がなくても読むことが出来る構成となっていますが、典型的な大学で使用されるテキストであるため読みにくさを覚える方もいるかもしれません)

■対象者:・社会保障制度に興味関心のある方

       ・労働政策に興味関心のある方

       ・公共事業・福祉・雇用領域に関わりのある方全般

【要約】

社会保障の財政

・消費・生産・雇用は人数あたり○○という形で増減していきます。一人あたりの効用は限界効用逓減の法則から明らかなように天井があります。その為、「高所得者から税徴収をしてその原資により再分配することで、低所得者生存権保証と消費刺激を狙う」のはパレート最適に叶います。国全体のパレート最適へ究極的な責任を持つのは政府であるため、政府の経済活動として租税社会保障を目的とした公共支出が重要となります。

・租税の原則は公平中立簡素の3つとされます。租税は水平的公平垂直的公平の2種類の性質を持つべきとされます。「所得税累進課税性」や「消費税の水平的公平性」などがその代表例です。世界的に見て日本の社会保障支出は大きいとされており、健康長寿で人口大国であるのにはこうした手厚い保障制度があるからという側面もあるります。穿った見方をするとこれは組織の硬直性の裏返しとも言えます。

 

■障害

・障害は生産消費雇用と経済活動全般に影響を与え、かつその生存権を保障する為に外的な支出が欠かせないという性質を持ちます。身体障害精神障害知的障害いずれも人口に占める割合は増加傾向であり、社会全体の約1割程度を占めるとされます。これは「平均年齢増加」・「障碍者に関する制度活用による認知形成を通じた潜在障碍者の顕在化」・「高齢出産比率増加による知的障碍者の発生比率増加」などが寄与しているとされます。障害の難しい所は一度発生すると永続的であり、永久的に補償費や外部支援が付いて回る点にあります。

 

■育児

・育児は経済学の観点からモデル化した際に、予算制約教育投資という2つの変数で、子供を何名抱える家庭とするかの意思決定がなされます。「家事サービス」と「労働時間の配分」という2変数により、構成されて効用最適化を理論上は導き出すことが出来るとされます。子育てはその性質上、24時間労働と家事サービスの2つに使役することを長期間に渡り約束するものであり非常に厳しいものです。児童虐待貧困などはその配分の失敗の故にやむをえず発生してしまう悲劇とされます。

・「人的資本に対する投資収益率」は一般的に幼少期が最も費用対効果が高いとされており、だからこそ英才教育や環境整備に多くのコストがかかるとされます。「年齢を経れば経る程投資対効果が低くなる」というのは企業における若手社員の育成は手間はかかるが意味があるとされ、その逆は放置されるのと似ている構造です。

 

■住宅

・健康で文化的な生活を営む為に、住環境の整備というのは社会保障の重要な要素となります。「住宅建設に関する補助」・「住宅公庫」などの制度は勿論、「公営住宅の供給」や「家賃補助制度」なども国が行う社会政策になります。需給バランスの崩壊による空き家問題がある一方で、特定の土地に住居が集中し住む人を選ぶ地域が生まれているのも事実です。住環境の整備には地価家賃という2つの変数があり、一般的に所得が乏しい場合、家賃が収入に占める割合は高くなります。「持ち家を促進する制度」が元来の日本の社会保障制度の根幹をなしてきました。少子化非正規労働者・未婚比率の上昇により、「持ち家ではなく賃貸にて家賃を払う」形式が増えている現代の日本のライフスタイルに照らしたら若干ピントがずれた形になっています。

・住宅サービスは民間供給が主体ですが、それだけでは価格の調整弁により、社会保障の機能を果たせず一部が被害をこうむり市場の失敗が発生する事態が起こります。その為、準公共財として公営住宅や家賃補助・奨励金などの制度による公共支出で是正を図る方式が一般的です。住居は「情報の非対称性」が極めて高い財であり、かつ経験をしないと価値を正しくはかれない代物である為に、市場の失敗が発生し続ける構造にある財とされます。一方で、住居供給する側も支払い能力に対して情報の非対称性があり、金融における融資に制限があるように、「高齢者・外国人・ひとり親世帯・障碍者のいる世帯」などが住居制限にさらされます。

・住宅ローンの優遇策は政府が積極的な住環境整備を奨励するインセンティブ制度として設計したものです。公営住宅家賃規制などは政府が住環境取引に際して市場介入する政策です。高齢者の介護という観点では住宅のバリアフリー環境が不可欠であり、加えて家事サービスの供給が不可欠であり高齢者およびそれを支援する人双方の「労働供給」や「消費需要」が抑制されるので、経済全体の活性化観点で悩ましい問題とされます。

 

【所感】

・「市場の失敗是正」と「生存権担保」という2つの命題を持つ社会政策は施策や制度設計において常に、経済合理と並行して社会的な意味合い(シグナル)が考慮すべき観点としてあることが印象的でした。

・社会政策領域は当事者の能力の問題があっても、遂行されないと「生存権の保証がおびやかされる」という性質を持つので解釈が大変難しい領域と感じました。それ故に、公共支出や再分配としての税制設計が欠かせません。人口減少高齢化により、「政府の市場介入・社会保障支援をしないと生存できない人口の割合」が増え、労働人口は減少し、一人当たりの租税負担も高くなるという財政赤字深刻問題も拍車をかけるというのが現実です。

・上記命題についてはいずれも社会的な意味合いが付いて回る為、経済学(特に公共経済学・ミクロ経済学)の知見は勿論、法学・社会学・心理学・歴史的なアプローチが欠かせないと感じ、様々な学問知見を結集して読み解きたい内容に感じました。

 

以上となります!