雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才≫

 

今回は「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」を要約していきます。スティーブ・ジョブズの後を引き継ぎ、アップル社を偉大な企業へ牽引したティム・クックについて生い立ち~約7年間のCEO時代までの変遷・ターニングポイントをまとめた本です。GoogleAmazonFacebookの経営者および経営マネジメントに関する本はいずれも読んだことがあるのですが、アップルだけ知識に乏しく巨大IT産業を牽引する企業の思想に明るくなりたいと考えこのタイミングで読みました。

 

「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」

Books Kinokuniya: ティム・クック-アップルをさらなる高みへと押し上げた天才 / リ−アンダ−・ケイニ— 堤沙織 ...

 

■ジャンル:IT・経営

■読破難易度:低(専門知識不要で読み物として読めます)

■対象者:・アップルの経営の歴史に興味関心のある方

     ・生産工学に関して興味関心のある方

     ・UXデザインに関して興味関心のある方

 

【要約】

■ティム・クックの生い立ち

・ティム・クックはアメリカ南部の田舎で生まれ育った敬虔なクリスチャンです。数学を始めとした定量で分析できる指標を持つ科目全般にて秀でた成績を収める優等生的な育ち方をしたのが特徴です。真面目でやさしいだけでなく、チームで何かを行うということに秀でる人物性を人格形成期から発揮していました。クックが育った時代・地域は人種差別が根深く残っており、惨劇が定期的に発生する事態に見舞われました。マイノリティに対する無知・恐怖・憎悪に対して強い問題意識があり、CEO就任後は自身が同性愛者であることを公言したり財団への寄付を行うなどしているのがクックの特徴です。キング牧師ケネディ大統領にインスパイアされて人格形成がなされているようです。

・ティム・クックは大学時代に生産工学を学んでいます。生産工学は「資源の最適配分」という命題に対する解を深める学問としてウォルマートCEOを始めとする多くのビジネスリーダーを輩出する専攻です。生産工学はモノづくりの現場におけるあらゆる最適化を志向する学問であるため、自ずと副専攻がプログラミングに行きつくのでした。クックは新卒でIBMに入社し、当時国際競争優位を構築していた源泉である生産方式を学びました。IBMはPC生産において自動車業界におけるJIT方式自動化の導入・実現を通じてオペレーショナルエクセレンスを実現していました。

IBMで働く傍らでMBAを取得し、経営・リーダーシップ・プログラミング・オペレーションの深い造詣を得ました。合計12年間IBMで働き、工場部門で頭角を現し最後は本社スタッフ業務を行うというキャリアパスを歩み、インテリジェント・エレクトロニクス(IEという小さなコンピューター関連企業のCOOに転職、GEへ自社を売却後はサプライヤーの大手PCメーカーコンパックに転職し、オペレーション分野で優れた実績(ODMの導入に成功)を残し当時のアップルCEOであるスティーブ・ジョブズにスカウトされて1998年にアップルに入社しました。

 

■アップル入社~CEO就任まで(1998年~2011年)

・ティム・クックは本来おとなしく、分析的に物を観る人材であったがスティーブ・ジョブズの熱意とオーラに圧倒され直感的にアップルで働くことに気持ちが傾いたのでした。

・ティム・クックはJIT生産方式ODMの知見に優れており、アップル社が製品の生産と流通全般を競争優位になるレベルまで引き上げることがミッションでした。入社直後、まずは事業や生産に関する重要KPIを軒並み眺め、キーマンとインタビューをして「どんな資源が使えるか」・「解くべきお題は何か」を把握するのに専念しました。7カ月の改革でティム・クックはアップル社の在庫LTを1/5に減らすことに成功し、それはサプライチェーンマネジメント・資源調達・生産管理など様々な理論・技法を総動員して成しえたことでした。その後、サプライヤーの絞り込みOS化を徹底し、コストや生産性効率を抜本的に変える交渉や設計を推進しました。加えて、受発注管理・生産計画予測を精緻に行う為にSAP社ERPを導入するなど仕組みで問題を解決できるように施していきました。こうした効率化が功を奏し、当時OEMメーカーとして最大手に君臨していたデルに肉薄するまでに生産効率は改善していきました。

・その後、ティム・クックは2002年にセールスとオペレーションの責任者になり、2004年にハードウェア部門責任者、2005年にCOOと破竹の速度で出世していきました。ティム・クックのマネジメントスタイルは怒号などはないが細かく事実把握、問いをたてる厳しいスタイルであったようです。これは問い詰めるというより、問題をどれだけ把握しているかを尋ねるという意味が強かったようです。ティム・クックは健康に気をつけながらも基本は猛烈に働き準備や事実把握に重きを置く高い倫理観の持ち主でした。

 

■CEO時代

スティーブ・ジョブズからバトンを引き継ぎ2011年にCEOに就任すると、ティム・クックは顧客体験を最大化することをコアとして、ハードウェア・ソフトウェア・サービスの境目がどうでもよくなるくらいに、既存のやり方に固執せずプロダクト価値を研ぎ澄ませていくことを要とする経営方針を打ち出しました。徐々にスティーブ・ジョブズ路線からの逸脱を意味する「慈善活動の奨励」・「コアユーザーの形成」・「サステナビリティへの配慮」など先進的な経営方針を打ち出していくこととなります。それに加えて、SCMの一環として製造工程に関するアウトソーサーには労働者への配慮と高い品質を両立することを強く求める方針を打ち出しました。

・ティム・クックが経営上優れていた点はアップルのコアな部分を理解し、顧客が何を求めているか、その為に何を維持し何を変えるかということを明確に設定・構造俯瞰していた点と圧倒的なデリバリースキルで絵にかいた餅を具現化するスキルの2点であったとされます。UI/UXデザインを競争優位の源泉とする方針は変えず、倫理・プライバシー・セキュリティ・DEIの分野においても国際基準となるレベルの品質・方針を打ち出し企業の社会的責任を果たしながら企業価値向上を実現していく形にアップル社は変貌しました。

 

【所感】

・ティム・クックがスティーブ・ジョブズとは対照的な生い立ち、経営ポリシーをもっていることがこれでもかとわかるような特徴際立つ内容でした。オペレーションに圧倒的な強みを持ち、ビジネスをグロースさせ自身が大事にするポリシーに則り、アップル社の影響力を持って倫理プライバシーセキュリティDEIなどの分野で優れた功績を残し、企業の社会的責任を果たすのであるという強い意志が感じられる内容でした。

・ハードウェア企業ならではのダイナミックさと事業運営の難しさやUXデザインを競争優位の源泉まで磨きこむことに執着するアップル社のDNAの力強さなどが特徴的でした。一連のストーリーは「プロダクトを通じて、顧客価値を提供して社会を変えていく」とはこういうことかと考えさせられる内容でした。

 

以上となります!