雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪経営者になるためのノート≫

 

今回は柳井正氏の「経営者になるためのノート」をまとめていきます。柳井氏は小売最大手企業ファーストリテイリングの社長であり、1992年に父親から商店を引継ぎ社名変更して一気に拡大路線へ経営の舵を切り、1995年に上場、21世紀にはグローバル展開を果たす日本を代表する企業へ牽引した経営者です。本書はファーストリテイリング社内の管理職育成向けに記述された内容を外部展開しており、学びの道標となるようノートのような体裁で何度も書き込みながら読み返すことを推奨されている仕立ての本です。量自体は180ページ程度のライトなものでありますが、何度も折を見て読み直すことで力がつくような構成になっている点が特徴的です。これは柳井氏が強く影響を受けているドラッカーの本に通じる要素です。

 

「経営者になるためのノート」

経営者になるための ノート/柳井正 :BK-4569826954:bookfan - 通販 - Yahoo!ショッピング

■ジャンル:経営

■読破難易度:中(読むこと自体はそこまで難しくないですが、真意を理解し実践するには相応のビジネス経験が必要に思われ職階を上がるたびに読み直して効果が出るように思われる内容です。)

■対象者:・経営者・事業責任者を目指す方全般

     ・実践的なマネジメントにおける考え方を学びたい方

     ・ドラッカーの著作が好きな方

 

≪参考文献≫

■マネジャーの実像(「マネジメントはアート・クラフト・サイエンスのバランスが重要である」というミンツバーグの経営管理者理論)

■要約≪マネジャーの実像≫前編 - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪マネジャーの実像≫後編 - 雑感 (hatenablog.com)

 

GMとは何か(柳井氏が強く影響を受けたGM経営者スローンの経営戦略論)

■要約≪GMとともに≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■経営者とは

・経営者とは約束をした成果を上げる人を指します。「社会からの要諦で会社の使命であること」を約束して成果を上げることがポイントとされます。経営は実行してなんぼであり、具体的に求められるのは「変革を遂行する力(顧客を創造し続ける力)」・「儲ける力」・「チームをつくる力」・「理想を追求する力」の4つとされます。

・経営においては計画も大事であるが、クラフト(実行)してなんぼであるということが柳井氏の強い信念であることが伺えます。小売企業としてグローバル展開していく上では「変革を牽引し、お金を稼げる強いリーダーである経営者がたくさんいないと組織目的を成しえない」という強い危機感から自社管理職向けに本書内容は文書化されました。

 

■変革する力

・非常識な目標を掲げ、コミットすることイノベーションを引き寄せることになり、単調増加的にやっていては実現出来ない目標を行うには変革を牽引することそれに適した組織を作り上げることなどが具体的なTODOになり、これを担うことができるかが事業責任者・経営者になれるかを左右するとされます。高い目標を実現するとなると必然的に顧客創造が不可欠となります。そして、ユーザーストーリー・顧客セグメント・実現した状態の企業・社会のビジュアライズなどが付随して構想することが求められるといった具合になります。

・顧客創造について、「顧客の基準というのは充足した体験価値フェーズにより自ずと規定されるものであり、常に変化・増加し続ける傾向にある」という避けられない構図をビジネスを行う上では理解しておかないといけないと本書では管理職向けに警笛を鳴らします。関連テーマとして、「凄まじい品質と基準で突き進めば業界を牽引することは容易だ」ということがユニクロヒートテックのプロダクトストーリーを引き合いに記述されています。機能的価値の追求顧客価値・セグメントを意識した価値の磨きこみを徹底した結果、圧倒的なロングセラーを生み出す製品へ昇華したのです。

 

■儲ける力

会社は株主の為にあるというアメリカ資本市場の定説に対して異を唱え、ドラッカー的に会社は顧客の為にあるというのが柳井氏の経営思想です。顧客が教えてくれるのは問題点ニーズであり、「ソリューションやその提供方法は顧客の期待・予想を超えるものでないと事業は役目をはたしていない」という哲学もこのパートでは展開されます。

・経営は実行してなんぼであり、計画や報告ばかりの行動を多くの従業員がするようになると危険なサインだとされます。また、仕事は「やらないと大変なことから優先して集中していくことで成果をあげる」というのが柳井氏の仕事の流儀のようで本章でも度々言及されます。時間や資源には限りがあり、常に上位戦略実現への連動性や費用対効果を考慮して意思決定していく手間を惜しむなということが示唆されています。

 

■チームを作る力

・「自分が如何に有能であろうと個人でできることには限りがある」ので、チームを組成しチームにレバレッジをかけることが出来るかが経営者を目指す上での資質・スキルとしての絶対条件になるとされます。その意味においてチームを組成し率いる上では個人の利害を度外視して、組織目的を体現することチームメンバーを勝馬に乗せることがスキルとして欠かせないと指摘します。尚、チームビルドの絶対原則は「信頼残高を構築すること」であり、これは言行一致に尽きるようです。

組織目的・目標・戦略を掲げ、しつこく運用・言及し続けることで判断基準をチームメンバーに浸透させていくという執着心はマネジメントのパフォーマンスに強く連動するとされます。また、仕事を任せる上では「基準を明確にする・ゴールを明確にする、それがわかっていることを確認する問いを投げ対話してから任せるということ」と「任せた行動と結果については誠実に評価を伝える」の2つにフォーカスし、チームメンバーの学習・成長サイクルを効果的に回していくことで組織成果人材育成の両輪を進めることが経営者の絶対感覚とされます。

 

■理想を追求する力

企業の存在目的・社会的使命は長く存続する偉大な企業を作る上での絶対条件であり、「顧客を創造し続けられる企業は必ず言語化されている」と柳井氏は主張します。顧客が価値に対しての対価として企業へお金を払い、それ故にを企業は存続できるので、社会から必要とされない事業は必ずなくなる宿命にあるということです。「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というファーストリテイリングのミッションステイトメントもその表れであり、フリースヒートテックなどの画期的な商品は社会を大きく変えました。

・経営の要諦は「積み上げ思考で現状の延長線上にあるのではなく、ゴールから逆算して超えるべき壁・あるべき状態を定義し、その道筋たるロードマップや解くべき重要アジェンダを設定して処理していく」というプロダクト思考のようなものです。

 

【所感】

・ハロルド・ジェニーン著「プロフェッショナルマネジャー」ドラッカーの著作に強く影響を受けている柳井氏らしい考え方・表現方法が随所に見られ、該当著作を数年前に読み漁った自分としてはとても腹落ちする内容でした。経営は実行してなんぼであるという極めて現実的で真面目なパーソナリティーも浮かび上がる構成だったように思えます。「企業の社会的な目的や使命を大切にする」「顧客を創造する」とは経営学の書籍ではよく言われますがこの基本原理を狂ったように忠実にやりきることでファーストリテイリングは偉大な企業へ発展を遂げたのかと感じました。

・「凡事徹底・日々学習、経験が大事」という基本に忠実を狂ったくらいにやりきるというドラッカー的な思想が随所に見られ、苦労して大成した・家業を継いでいるというバックグラウンド故に経営者は美的なものではなく、徹底的に基本に忠実な商売人であれという氏特有の選好性が伺えます。中間管理職ではなく、トップマネジメントに必要な資質や考え方となるとイノベーション経営管理の領域に関する言及が多くなるのだなということが関連領域の類似著作を読んで気付いたことでした。

・本書に掲載されているセルフワークチェックシートを活用し、定期的に自分の考え方や経験の現在地を測り矯正するということが必要であると思われ時間を置いて何度か読み返していく形で付き合う本に思えました。

 

以上となります!