雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪GMとともに≫

 

今回はGMとともに」という著作を要約していきます。

自動車メーカーGMを偉大な企業に成しえたアルフレッドP.スローンの自叙伝です。

デュポンと共に事業部制を採用して、偉大な成果を成し遂げた企業であり、「組織は戦略に従う」でもこの点は詳細に記述されています。

※「組織は戦略に従う」の要約は下記。

ty25148248.hatenablog.com

 

GMとともに」

GMとともに | アルフレッド・P・スローンJr., 有賀 裕子 |本 | 通販 ...

■ジャンル:経営戦略論

■読破難易度:中(読み物として純粋に面白く、非常に実務的な内容も多いので書いてある内容を理解することはそこまで難しくないと思います。)

■対象者:・自動車産業の歴史について興味関心のある方

    ・事業部制組織について理解を深めたい方

    ・企業経営に関する考察を深めたい方

 

【要約】

・この本は二部構成になっており、Ⅰ部はGM及び自動車産業の歴史についてまとめられてあり、Ⅱ部は機能別組織についてそれぞれ章を設け考察を深めています。

GMは戦時経済⇒世界恐慌⇒再成長+自動車産業創出という歴史を経てきた企業であり、環境変化に対応する手段として事業部制を早期から導入した企業です。当時では珍しい事業部を評価する指標としてROIを導入したり、事業部制組織のミニチュア版資本市場の効用会社内で事業部間で資源のやり繰りを出来ることで、効果的な経営が出来るという事業部制組織のメカニズムです。外部投資家との違いとして、総合本社機能は事業部に対して適切な情報を保有するため、情報の非対称性が解消され、かつ事業部が投資獲得の為に全社戦略の指標に着眼して操業することを支援するなどの効果がある。)に着目したりなど先見性に富んでいることが伺えます。

 

■本社機能と事業部の役割分担

・範囲の経済実現効果的な資源配分に責任・関心を持つ総合本社と市場最適化・事業起点での思考を重視する事業部で食い違いが起こるのはよくあることです。同じ目線で経営に参画するために共通の物差しや明確な役割分担を定義することは取締役会はじめとした経営トップの大事な職能であると示唆します。

※事業部に権限を渡し、市場最適化と人材育成に責任を持ち、組織マネジメントを担える人を増やすのが競争優位になるという考察を1930年代にしているスローンは圧倒的と言えるでしょう。

 

■財務コントロール

ROI運転資本等の指標を用いて管理会計的な経営管理を志向し、総合本社に財務・法務・人事等の専門機能を有して、中長期的な課題解決に専念する組織を作るべきという方針をスローンは掲げました。今となっては当たり前の仕組みですが、属人的にせず組織マネジメントでレバレッジを効かせることを意図しているのがここから伺えます。

■市場細分化

・T型で知られるフォードとの違いとして、GMは市場セグメントを切り、価格帯別の製品ラインナップを整えることで、市場を制圧および自動車産業の発展を意図しました。これは正に事業部制組織でなければ、各々の市場最適化を追求できないので、理にかなった方針と言えます。

・定期的な買い替え需要およびモデルチェンジをすることで、自動車は自己実現の手段たりうるという見地から上記のような運営が整備されていきました。今でも自動車メーカーでは標準化している考え方です。

■ディーラー組織のマネジメント

・開発に特化する自動車メーカーにとっては顧客接点を担い、ブランドを体現・販促するディーラーを適切にマネジメントするのは非常に重要な観点でした。顧客接点を担うということで地域販社をつくり、適切な販売体制およびインフラの整備や金融事業の裁量を渡すなどをして経営支援をすることが重要であったというのがスローンの見解です。今でも自動車メーカーが販社に対して奨励金などを付与し、管理するのはその名残です。

■海外事業

・当時としては海外展開は非常に珍しいものであり、自国の経済を守るという力学と戦わないと行けなかった為、基本的には戦略的提携現地企業の買収という形での市場参入が主流だったようです。

・海外展開をする際は自社の生産か開発等のケイパビリティをテコに横展開するという名義のもとで参入することが多いです。販売や組織マネジメントは現地調達をするのだで、ここが一番変数としてぶれます。自社生産するのか関係子会社を持ち、委任をするのかということは「リスクをどこまで取れるか」「その市場がどれだけ魅力度が高いか」ということで意思決定されます。

多角化

モーターに関する技術がコアバリューと認識するのがGMの経営方針であり、自動車関連事業を中心に多角化・市場参入をしていった歴史があります。

※現代では長期的な成長を希求して非関連事業のM&A・マネジメントということもよくやられるようになったのが経営のトレンドですが、これをスローンはどのように解釈するのかは気になる所です。

■報酬制度

・経営にレバレッジを効かせる度合いの大きい取締役や事業部長などに自社株を保有させ、業績連動のインセンティブを付与することで株主価値最大化と事業の成功というベクトルを擦り合わせることに成功したのがGMの経営の妙とされます。これを1930年代に採用しているので、如何に先見性があるかが明確です。

貢献度合いの大きな人材を組織へ定着させ、手腕を発揮してもらうことで組織ケイパビリティ観点の競争優位を志向するというのがこうした制度の目的であり、仕組みで解決するというスローンの経営哲学が浮き彫りになっています。

 

 

【所感】

・スローンはエンジニアリング畑な為だと思われますが、技術に関する考察が凄く自動車メーカーやエンジンなどの構造をかなり詳しく記述しており面白いです。

・財務コントロールと組織マネジメント(事業部制の採用)によりレバレッジを追求した稀有な経営者であり、今でいう管理会計コーポレート・ガバナンスの土台をつくった偉人だなと震撼させられました。

GMの歴史は詰まる所、モータリゼーションの歴史(日本ではトヨタを中心としたメーカーにより実現)とも言い換えることが出来、非常に緻密な経営がなされていたということや成長産業で社会に大きな影響を与えるのはとても刺激的だったんだろうなーと読みながらワクワクしました。

・それと同時にこの本を読みながら改めて、事業部にいる身としても本社機能の役割や全社戦略の理解・コーポレート・ガバナンスなどの観点には明るくないといけないなと思った次第です。今今の課題を解決し、製品/サービスを市場最適化するだけであれば不要ですが、貢献範囲を広げていく先にはこうしたテーマに向き合い、成果を出せるようにならないといけないのだろうと思った次第です。

 

以上となります!