今回はJonathan Rasmussonの「ユニコーン企業のひみつ」を要約していきます。「アジャイルサムライ」で有名な著者がユニコーン企業と呼ばれたスウェーデン発のSpotifyでアジャイルコーチ・エンジニアとして働いた中で見出したソフトウェアづくりの体制・仕組みと組織文化について体系化しエンタープライズ企業を変革していくためにどうすればいいのかという示唆をもたらしている本です。
「ユニコーン企業のひみつ」
■ジャンル:開発管理・IT・経営学
■読破難易度:中(平易な文章で記述されていますが、アジャイル開発・プロダクトマネジメントの基本的な考え方を知らないと置いてきぼりになるかもしれません。)
■対象者:・テック企業・スタートアップのベストプラクティスについて学びたい方
・変革を牽引する役割に従事する方
・職能横断チームを率いて業務に関わる方
・強い組織づくりについて興味関心のある方
≪参考文献≫
■プロダクトマネジメント(プロダクトマネジメントの要諦)
■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪アジャイルサムライ≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■サービスデザインの実践(デザイン思考の要諦)
■要約≪サービスデザインの実践 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪サービスデザインの実践 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■LEAN UX(プロダクト開発チームのコラボレーション・フレームワーク)
■要約≪LEAN UX アジャイルなチームによるプロダクト開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■スタートアップの社会的役割・エンタープライズとの抜本的な性質の違い
・スタートアップはミッションファーストであり、スケジュールや納期・予算ではなく顧客やインパクト・学習にフォーカスしてイテレーションを行うことを最大の価値としている特徴があります。物的・時間的なリソースに限りがある中で、変革を牽引する・新たな市場や顧客価値を創造することが社会全体からみたエンタープライズ企業との違い・期待役割なので上記は当然とも言えます。計画に従うよりも探索・発見・学習に力を入れているのは「常にエンドがある状態で不確実性を解き、非連続の成長や収益機会を掴み取らないと成立しないから」という性質に由来します。
・スタートアップはプロダクトが全ての価値の源泉であり、PMFできるようにGTM戦略を常に高速で実行・学習サイクルを回していくことが生存条件になり、その過程ではプロダクトマーケティングと呼ばれる専門の技法を用います。市場選定・顧客選定・ソリューション選定の3点全てでベストになり初めてビジネスとしてプロダクトは成立し、PMF・キャズム越えして安定成長路線にシフトしていきます。
・スタートアップにおいては計画・分析・テストの結果をどんどんフィードバックして不確実性を解く学習を回していくのが基本のスタンスであり、顧客の定義や価値の源泉の定義などの優先度の高い問題にリソースを割いていく大規模プロジェクトマネジメントのような様相を呈しています。スタートアップとエンタープライズでは優劣はなく、解いている問題の優先順位が違うとされています。スタートアップは顧客や学習、エンタープライズは納期と予算・ビジネス成果といった具合です。成功の定義が違えば権限移譲の範囲も違うのは期待成果に対しての山の登り方が違うからということであり、優劣はないです。一方で、スタートアップは前提として高い不確実性に対峙しながら強いオーナーシップで飲み込んでいくことを前提にした働き方になるので、人を選ぶのは事実です。ミッション単位で権限を委任し、アウトプットではなくアウトカムを納品することを求めてKPIツリーやOKRでマネジメントするのが対話の原則になります。
■スクワッド
・プロダクトを開発する存在である少人数の自律した必要な権限をもったチームをスクワッドと呼びます。スクワッドは職能横断の自己組織化されたチームであり、プロダクトマネージャーがリードするプロダクト開発チームなどもその最たる例で、変革を牽引・不確実性を解くには必須の体制とされます。具体的な業務の御作法としてはプロダクトビジョンやプロダクト戦略といったゴールがあり、その為の山の登り方をロードマップ・ユーザーストーリーを用いて優先順位付け・戦略的意思決定をして、顧客中心主義で継続的な学習・不確実性を解いていくことに執着し続ける自律的なチームであることができるかがポイントとなります。
・スクワッドの判断基準は「迷ったら計画よりもビジネス成果・顧客価値を優先せよ」です。大目的の判断軸・グランドルールがあるので、少し横道にそれてでも軌道修正・戦略を再構築することは可能であるとされ、エンタープライズ企業のアジャイル開発チームとは似て非なるものであると指摘されます。スタートアップ企業では上記の組織の性質故に、プロダクトマネージャーとデータサイエンティストを重要視する傾向がエンタープライズ企業に比べて強いとされます。プロダクトマネージャーはプロダクトのデリバリー・存在目的・何をするなどに対する解に責任を持ち、ロードマップ作成・GTM戦略の構築などの骨組みに注力します。データサイエンティストは数学者であり、エンジニアでありビジネス目標やメトリックスを理解して何を検証するべきかの仮説を立ててデータ構築する責任を負います。スポット的な仕事でOSするものと本来見なされてきたこの仕事は正しい問題を解く・意思決定を精緻に行う為に必須のフルタイムのジョブなのです。
■トライブ
・トライブと呼ばれる領域やミッションが隣接するスクワッド(プロダクト開発チーム)を束にして40人程度の単位でマネジメントして自由裁量や戦略の影響力を保つのがスタートアップの組織形態の定石とされます。スクワッド間の依存性は最大限回避し、独立完結、範囲の経済だけ働くようにマネジメントするのが良しとされます。一方、トライブ内の別スクワッドにいる同じ専門性を束ねる単位としてチャプターがあり、キャリア開発や採用などのピープルマネジメントはプロダクト開発チームと異なる役割を果たします。伝統的な製造業由来のマトリックス組織をミッション、テクノロジードリブンに運用するのが大事ということです。
■カンパニーベット
・カンパニーベットとよばれる全社単位の優先順位づけリストを用いて戦略マネジメントするやり方が推奨されます。これはNSMやKPIツリー、OKRが不確実性に対峙するプロダクトチームの有効なコミュニケーションツールたる所以です。やることやりたいことより資源が圧倒的に不足するアジャイル開発には必須のプロセスであり、ベット単位でスクワッドを組成したり人材流動もやりやすくなる効果があるとされます。カンパニーベットは全社レベルのコラボレーション、判断を移譲するには絶対に必要な策定プロセスであり、ロードマップと同じくらい継続的にメンテナンスするツールとされます。スクワッドのミッションとカンパニーベットという2つの文脈でプロダクト開発をする・ディスカバリーマネジメントする・戦略を描くのがスタートアップにおける基本プロセスです。これらはプロダクトマネージャーの強い推進力とコミュニケーション設計があってはじめて成り立つ代物であるのも忘れてはならないです。
■ユニコーン企業の美徳とする価値観・組織文化の重要性について
・スタートアップにおいては「継続的に学習する」・「スピードを大切にする」・「生産性向上に投資し続ける」・「データを意思決定の中心に据える」などのコトマネジメントの基本に加えて、組織文化を狙って形成・維持拡大するための投資を重視するという考え方があります。テック企業にとって組織文化は競争優位の源泉であり、狙って維持構築し続ける必要があります。「アップルはデザイン」・「グーグルはエンジニアリング」といった具合に何を大切にするのかの違いなどがあれど、メンテナンスし続ける仕組みがあるのは共通です。企業や事業の存在意義を明確に言語化して常に判断基準とする・利活用し続けるなどのコミュニケーションマネジメントを組織のあらゆる階層で行うことが大切で、それではじめて競争優位の次元まで昇華できるとされます。・テック企業の大半はスピードと学習に重きを置いており、オーナーシップやコラボレーションを刺激したり、ナレッジマネジメントに投資したりなど狙って仕組みを作るケースが多いです。「選択と集中の徹底」・「公正公平な判断基準」・プロダクト戦略やロードマップをベースとした開放的なコミュニケーションなど「言うは易く行うは難し」が多いです。
【所感】
・本書に記載されていることはテック企業の事例研究で頻出の考え方であり、ひとつひとつはそこまで目新しさはないですが、実現するためのナレッジマネジメントを筆頭とした組織文化・仕組み化に徹底的に拘りなさいというスタンスが印象的でした。組織文化・運営上の問題提起は勿論のこと、「プロダクト開発や職能横断チームをリードしていく上で何に気を付けないといけないのか」ということについても考えさせられる内容で非常に勉強になりました。
・企業・事業の存在意義に常に立ち返る・プロダクト戦略やビジョンをコミュニケーションの中心に据えるというのは自分自身が人・コトマネジメントにおいても大切にしている考え方であり、納得であると共にその一方でビジョナリーカンパニー2に記載のあるような「適切な人をバスに乗せる」ということも仕組み化と同じくらい大切だよなと再認識させられました。ミッションファースト・自由裁量の働き方は究極的に相いれないという価値観の労働従事者は一定数存在する(良い悪いではないです)と思っていて、お互いが不幸にならない為にも適切な人選・継続的なコミュニケーションによるすり合わせというのは基本にして大切であるということに感じました。
・自己学習・コラボレーションを推奨し高いオーナーシップを刺激する熱狂的な集団と高い技能を持ち合わせることがスタートアップのプロダクトマネジメントの成功の鍵を握り、ミッションや筋の良い問題を解く、ストーリーが魅力的であるなどが必要な感覚です。エンタープライズ企業に所属する自分自身がまずはチェンジマネジメントできるように上記考え方を実践していく所から始めようと思いました。
以上となります!