今回はアルフレッド・D・チャンドラーの「組織は戦略に従う」を要約していきたいと思います。邦題はとても有名で「組織は戦略に従う」という言葉が独り歩きしていますがその元となる本です。
集権型組織(≒機能別組織)⇒分権型組織(≒事業部制組織)の歴史的変遷を紐解いた本です。主に19世紀後半~20世紀前半を舞台に4社(デュポン・GM・スタンダード石油・シアーズ)のケーススタディーを筆頭に、組織と企業戦略の関係性の観点から企業分析がなされています。
「組織は戦略に従う」
■ジャンル:経営戦略論
■読破難易度:中(ケーススタディーがメインなので、そこまで抽象的な記述はないです。当時の世界情勢や業界基礎知識・事業部制組織に関する理論に明るいと、とても読みやすいと思います。)
■対象者:・組織と戦略の関係性について知りたい方・20世紀前半の民間企業発展の歴史について知りたい方・分権制等の組織論について理解を深めたい方
【要約】
・「集権型組織⇒分権制組織への変化は歴史的必然であった」ということを4社のケーススタディーから導き出し、分権制の浸透度合いが業界や個社事情により傾向が異なるということを示唆している本です。
・分権制へのシフトがすんなりうまく行った例としてデュポン・GM社、感覚的に組織改編や市場対峙を行い、最適化に苦しんだスタンダード石油・前述3社と異なり小売業という特質上、実現過程で苦しんだシアーズという形で4社の直面した課題や展望が異なることが浮き彫りになります。
・19世紀後半~20世紀前半というのはまだまだ民間企業が発展段階ですので、基本的に組織の発展の歴史のパターンとしては
1)「バリューチェーンの一部に特化した形で創業」
2)「事業拡大の中で川上・川下統合を行い事業を拡大」
3)「市場拡大などをしていく中で組織は肥大化・更なる企業の成長ニーズを満たす上で事業の多角化(主に関連領域)を推進」
4)「管理工数が膨大化し、経営陣が実務に忙殺され、事業は市場最適化が出来なくなり課題が山積する」
5)「事業部制組織になり経営陣は全社戦略と事業部の戦略承認と監視・事業部は現場最適化と人材育成に責任を負うという形で権限移譲が発生」
という流れを経るとされています。これは20世紀半ば~後半の日本の民間企業の飛躍的な発展の歴史においても言えることなので、真理と言えるでしょう。
・「事業の市場最適化促進」・「経営陣の業務の選択と集中による生産性向上」などが代表的な組織改編により追求したい成果(機能別組織⇒事業部制組織)です。競争戦略論的なワードで言うと「規模の経済」の追求から「範囲の経済※≒多角化によるシナジー」とも言えるでしょう。※こうして企業が肥大化していき、成長ニーズを満たす為に大量に経営資源を調達(金・人)が生まれ、コーポレートファイナンスという概念や人材採用市場の拡大ということがもたらされたとも言えます。
・「人材育成・組織の持続性の観点からも分権制は必要であった」ともこの本では記述がなされています。多くの企業は同族経営やカリスマ社長による経営基盤をベースとしており、ある種「人に依存するマネジメント」で競争力を保っていた側面があります。創業者が年齢的な兼ね合いから経営の舞台から引退をすることが増えてきたタイミングで、「経営陣の生産性担保」と「経営陣を担える人材の確保」が組織の競争力・持続性に紐づくと実体験を持って学ぶ企業が増えたことも分権制へのシフトを促したと本書ではまとめられています。
【所感】
・産業の歴史を紐解くような形でケーススタディーを読むことが出来て、とても面白かったです。ビジョナリーカンパニーやドラッカー著作でも触れられることの多い企業を緻密に読み解いているので、「組織改編はどのような外部環境・内部環境の影響を受けて意思決定されるのか?」ということがとてもリアルに伝わります。
・本書は「資本主義経済が浸透し、戦時経済を牽引する形で欧米諸国では民間企業が発展していった」という歴史的事実を改めて目の当たりにする内容です。日本は島国であり敗戦国で有る為、分権制等の制度や経済観が浸透するのは30年程遅れて、高度経済成長という形で一気に拡大するのですが、欧米諸国の企業と比較することで自分なりの見解や考えが導き出せそうだなーと読んで思いました。
・本書の具体的なパートはケーススタディーなので、敢えてあまり抽出せず要約しましたが、「マネジャーの実務は経営資源の調整・評価・プランニングである」と言いきる箇所は個人的にはとても好きでした。本社経営陣・スタッフと事業部長がどのような役割分担をするのか・何に責任を負うのか等が丁寧に記述されており、自分の実務にも置き換えることが出来たので、色々な思考が及んだのは良かったです。
以上となります!