雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪組織デザイン≫

 

今回は「組織デザイン」を要約していきます。経営改革・組織論の基本テキストとして名高く、「有効に機能し、生産性が高い組織に共通する仕組み(論理)」を体系立てて論じています。組織をデザインする際、カギとなる要素として仕事をどのように分業調整するかにフォーカスして代表的な組織制度とその狙い・策定思考プロセスをまとめています。

 

「組織デザイン」

組織デザイン 沼上 に対する画像結果

■ジャンル:経営学

■読破難易度:低(平易な言葉でわかりやすく、図解もされており背景知識も不要です)

■対象者:・組織制度について興味関心のある方全般

     ・組織の成果を最大化する為に留意するポイントに興味関心のある方

 

≪参考文献≫

■組織行動のマネジメント

■要約≪組織行動のマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪組織行動のマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■組織は戦略に従う

■要約≪組織は戦略に従う≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■組織設計概論

■要約≪組織設計概論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

 

【要約】

■組織デザインの基本について

「経済性を求めて行った分業の調整手段のポートフォリオとしての組織デザインにフォーカスしたのが本書です。事前の調整手段として存在するのが標準化です。これは「業務プロセスの型化」や「マニュアル」などによりオペレーションの追求や品質の底上げ・職務要件の緩和等がスコープとなり、現場で改善が常に行われて検証されるものです。「属人的な判断ポイントを減らし、職務習熟難易度・リードタイムを減らしに行くこと」を志向することが具体的なテーマです。

・「標準化を広範囲に浸透させる手段」としてビジョンや戦略が存在します。「ある単位に分業を集約し、組織化して課題解決をする」のが近代組織の定石です。この組織を機能させ続ける為には「例外事項の対応」や「部門を跨いだ意思決定」の壁を乗り越える必要があり、その手段として階層組織管理職能が存在します。

・これらの組織に纏わる課題を解決し、分業を通じて高い成果を上げ続けるには「人材資源の充実(内部育成・外部調達)」と「標準化における職務要件緩和・スループット最小化」などは避けて通れないテーマとされます。尚、組織デザインはあくまでソリューションの一つに過ぎず、万能薬ではないということは常に念頭に置いて判断しないといけないとされます。不確実性の高い例外事項に対処しながら、部門折衝を担うレバレッジをかける人材である経営管理事業責任者は企業に必要で内部育成する為には必ず「現場接点を伴う経験を積ませるプロセス」は不可欠とされます。事業や組織の責任を担う役割をするにはその市場やペインに明るくなければならず、専門職の育成とは性質が異なるとされます。

※小さな事業部でブランドマネージャーやプロダクトマネジャーのような全体を見渡す経験を積ませるのは経営管理者育成の定石のようです。

 

■組織構造の基本形について

・組織の基本構造は機能別組織事業部制組織マトリックス組織の3つとされます。実際の組織構造はこの基本3組織をベースに、少し加筆をして運用の簡便性や効率性と天秤にかざして運用されるのが実際的とされます。分業標準化は「組織の成果を最大化する為に必要な調整弁」であり、この原理原則を知らないことには組織はおままごとのような詭弁に満ちたツールになり下がるとされます。

・尚、製品別事業部制組織や地域別事業部制組織などどういったカテゴリーで組織を分割し指示命令系統をデザインするかは「経営がその事業や市場をどの様に認識しているか」というセンスが現れるとされます。「短期の市場適応+オペレーション戦略の構築」と「中長期の戦略構築」を分離する必要性や「経営者人材育成」の必要性と比例して事業部制組織を採用されるのが一般的とされます。

 

■分業のタイプ

・分業は「効率性追求」の為になされるものであり、垂直分業水平分業の2種類があります。垂直分業は「考える人と実行する人の役割分担」などが典型例で、所有と経営の分離・企画職と現場マネジメントなどのように対比構造としては頻出の構造です。水平分業は機能別分業や並行分業など「役割ではなく、業務プロセスや製品別に仕事の塊を分けるやり方」を指します。組織構造はあくまで「戦略の実現手段」でありその上位概念には「製品や市場・顧客をどの様に認識し、何をレバレッジポイントとするか」という経営サイドの意志があります。

・分業は生産性が高まるので、企業経営的には合理的ですが、「長期的に定型業務かつ狭い範囲のBPを反復する思考と行動を積み重ねることで、R&Dのような中長期的な思考や価値創出の優先順位を意図せず下げてしまう」という問題を持っています。その為、「中長期の視野視界や価値議論を組織マネジメントに織り込んでいくこと」を狙って行うことがリテンション防止や従業員満足観点で不可欠になります。

 

■標準化

・調整・統合の基本的な仕掛けは以下の5つの手順を踏むのが基本とされます。

「標準化⇒ヒエラルキー(階層化)⇒環境マネジメントによる調整の必要性削減⇒組織内相互依存関係の緩和⇒水平関係の設定」

・分業や組織間を跨いだ協業・コミュニケーションには「解釈、言葉の定義等の階層・ニュアンスを揃えること」が全ての基本のキです。「基本的な業務フローや対応方針の策定をベースとした調整工数・コミュニケーションコスト削減」が基本設計であり、例外事項についても「レポートラインを上位者に設定する」というのが基本的な組織の分業体制です。組織構造には絶対の解はなく、あくまで「戦略的に重要な相互関係」をベースに例外処理の対応削減や長期戦略の推進、組織長の意思決定や生産性の質向上などの機能を狙って組織を構築するべきとされます。

 

【所感】

・実務に関わる人を想定して、判断軸や原理原則を中心にまとめられているのが印象的でした。完璧な組織制度はなく、その導入に伴うメリットデメリットや考慮すべきリスクや影響について網羅的に記述されており、非常に読みやすかったです。プロダクトマネジャーのような「横ぐし組織の職能が人材育成や戦略実現の観点からどのように効果を発揮するのか」という点が全く知らなかったので、特に印象的でした。

・「組織構造はあくまでソリューションの一つでしかない」というのはその通りであり、組織やその背後にある戦略・組織の仕事の設計や意味づけをメンテナンス「し続ける」ということも軽視してはいけないと感じる次第です。感情の生き物であり、最もレバレッジをかけられる人材資源の難しさであり、面白さと言えるでしょう。

 

以上となります!