今回は半年に一度まとめている「読んで役に立った本」シリーズとなります。
この上半期は昨年から掘り下げてきた経営学、特に産業組織論に関する代表的な著作を中心に読み進めながらビジネス教養としての会計・ファイナンス・歴史的な教養を深める意味合いで岩波文庫シリーズを併読していました。どの本も歯ごたえがあり読み進めるのにかなり苦労しましたが、こうして頭に汗を書きながら読み進めることで自分の見解を深める読書が最も勉強になるとも思っているので、楽しかったです。
※昨年下半期のまとめはこちら。
≪目次≫
・企業戦略論
・組織は戦略に従う
・市場と企業組織
・科学的管理法
・組織行動のマネジメント
・経済学・哲学草稿
・財務三表一体分析法
・コーポレートファイナンス戦略と実践
「企業戦略論」
・企業の内部資源に着目してどのように競争優位を生み出すかについて考察したバーニーの著書です。VROIというフレームに基づき、持ち合わせている組織ケイパビリティの中での最適解を検証する構成になっており、事業戦略編・全社戦略編等の3部構成になっています。マイケル・ポーターの「競争の戦略」・「競争優位の戦略」と補完関係になっており、産業組織論の決定版とも名高い本です。個人的には全社戦略編(戦略的提携・多角化・買収・国際化)のパートが非常に面白く、ファイナンスや組織行動学などを学ぶ動機に繋がったので良かったです。
※全社戦略編の要約は下記。
「組織は戦略に従う」
・機能別組織⇒事業部制への移行の歴史を紐解くことで、組織と戦略は切っても切り離せない関係にあるという洞察を示したチャンドラーの偉大な功績の著書です。20世紀前半のGEやシアーズ等のケーススタディーなので、少し内容は古いですが本書の考察や見解をベースに20世紀後半~21世紀の経営学は発展していったのでとても重要な役割を果たしている本です。
・邦題だけが独り歩きしている現状ですが、「戦略実現の為の最適な組織形態は自ずと規定される」ということがわかり、かつ産業史的な側面もあるので非常に読み応えのある内容でした。ケーススタディーの内容は総合本社機能・取締役会・事業部長など自分が仕事をしているとなかなか想像がつかない役割がどのようなことに気をつかい、意思決定しているのかということがもので、とても面白かったです。
※要約は下記。
「市場と企業組織」
・「ある成果物を得る為に市場取引を通じて得るのがいいのか?それとも内部組織化することで調達するほうがいいか?」という問いに答える為に様々な観点から考察がなされた論文です。垂直統合や分権制・多角化といった戦略論・組織論だけではなく機会主義や取引費用といった行動経済学的なスコープからも命題に対して分析がなされていて非常に深い内容になります。「企業戦略論」と「組織は戦略に従う」で言及されていた内容をアカデミックな視点からも再考したような内容になっていて、元経済学部生の自分としてはとてもワクワクしながら読むことが出来ました。
※要約は下記。
「科学的管理法」
・フレデリック・W・テイラーの代表的な著作です。人間を機械のように扱ったという批判が多い本書ですが、いざ読んでみるとそんなことはなく非常に熱い内容の本でした。
・分業化と仕組みで解決するマネジメントの概念を先見性のある本で、この内容を昇華させていったのがバーナードやドラッカーなどの現代の組織論の大家です。仕事を分析し、分解し組み立てることを具体的な実例やプロセスを通じて考察しており今にも通じる内容が多いです。
※要約は下記。
「組織行動のマネジメント」
・組織行動学(OB)という分野の学術論文を集約して体系的にまとめた本です。MBAでは教科書に指定されることも多い本で、ややアカデミックな内容になっています。組織の中の個人・組織という形で切り出して人間を対象に考察を深めているので、実務の棚卸や理論的な解を学ぶ意味合いでとても良かったです。行動経済学・組織論等に発展する内容なので、興味のある方は導入としてもオススメです。
※要約は下記。
・「現世における利潤追求行為を蔑視するプロテスタントの倫理観(勤労と節制を重んじる)が一見対極にあるかのように見える資本主義の浸透・発展に寄与した」という逆説を説いたマックス・ウェーバーの代表作です。日本に長くいると宗教が生活に根付いていることは忘れてしまいますが、歴史は宗教抜きには語れない側面があり宗教が何を重んじるか・それが社会にどのように影響するのかを知ることはとても大事であると再認識させられました。
・プロテスタント大国のイギリスで産業革命が起こったことは本書の分析・考察からも一定必然性があったと言えます。また、資本主義・民間企業の台頭が本格化した20世紀~21世紀のGDP推移とヨーロッパ諸国のキリスト教宗派が大まかに相関するというデータからもマックス・ウェーバーの考察の先見性と偉大さは自明です。
※要約は下記。
「経済学・哲学草稿」
・カール・マルクスの哲学者・経済学者としての思想のエッセンスが詰まった草稿です。唯物史観や共産主義・私有財産に関する考察は後の代表作「資本論」に発展するのですが、その土台が本書には記載されています。資本論は2000頁程の超大作で簡単に読める本ではないので、マルクスの考え方や資本主義について批判的な考察を深める意味で本書は非常にオススメです。
・20世紀に海外諸国はマルクスの考え方を実践しました。結果はあまりうまく行かないわけですが、世界の思想・社会メカニズムに大きな影響を与えた大家の考えを知る意味で一読の価値はあると思います。個人的には組織論的な考察がないことや実際に株を買うことで本書記載の問題を労働者側から解消しに行くということを想定していなかったことがうまく行かなかった要因だと思っています。
※要約は下記。
「財務三表一体分析法」
・会計学を専門で扱わない人向けにビジネスの場において効果的に会計の知見を意思決定に用いるための方法論・考え方をまとめたシリーズです。今回紹介する本の中で一番読みやすいです。
・分析法では可視化して大量の企業の財務三表を分析し、「どんな項目に着目するとどのようなインサイトが得られるか?」ということがわかるように体系化されておりとても読みやすいです。様々な業界の代表的な企業間の分析を本書では大量に行っており、企業分析という観点で知識が身に付きます。経営資源に関わるビジネスに従事する方全般には持っておいて損のない教養のような知識が詰まっているように思えます。グロービスMBAテキスト(アカウンティング)で会計の世界観を理解してから読み進めるとより理解が深まると思います。
※要約は下記。
「コーポレートファイナンス戦略と実践」
・株式市場において「企業と投資家がどのような物差しを用いてコミュニケーションを取り、意思決定するか」を網羅的にまとめた本です。財務担当者や経営陣が何を気にして資金調達するのかのイメージが付くので教養として知っておくと面白い内容が詰まっています。PEファンドやベンチャーファイナンス・クラウドファンディング・IR施策なども網羅しています。尚、株でどのように儲かるかみたいなことが書いている本ではないです。会計や統計の前知識があると取っ付きやすい内容になっているので、上述の財務三表シリーズやグロービスMBAテキスト(ファイナンス)などとまとめて読むと、知識が結合すると思います。
※自分はファイナンスに対して大学時代から少し苦手意識があったので、グロ放題の動画授業⇒グロービステキスト⇒本書と段階を踏んでようやく体系的に理解出来ました。
※要約は下記。
【所感】
・昨年頃からある程度のテーマ感を持って関連したジャンルをまとめて読むようになり、確かな手応えを感じる様になりました。骨が折れる本も多いですが、時間軸や範囲の広い本を読むことは足腰を鍛える意味合いでもとても有効に感じています。
※実務に必要な知識は実務の棚卸を通じて出来ている実感があるので。
・尚、実務応用性が高かったのは「企業戦略論」と「組織行動のマネジメント」でした。個人的に一番面白かったのは「市場と企業組織」で、さすがノーベル経済学賞受賞者の論文という堅牢な内容で読み応え抜群でした。「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」は教養的な内容ですが、衝撃でした。キリスト教・資本主義に関する歴史的変遷や急所がまとめてわかるのでとてもオススメです。
・企業内における総合本社およびスタッフ組織の役割・具体的な実務などについても理解を深めるきっかけになった本が多く、自分と立場・期待役割の異なる人が何を大事にし行動をするかということが知れたのはこのタイミングで非常に良かったと思っています。身の回りの知人友人が専門職として職能を高めていくか・組織マネジメントを志向していくかの分岐点にある年次になってきたので、自分がどのようなキャリアを歩むのかも含め理解を深める手助けになった本を引き続き選んでいきたいと思います。
以上となります!