雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪経済学・哲学草稿≫

今回はマルクス「経済学・哲学草稿」を要約していきます。19~20世紀の世界の形成に大きく寄与した思想家であり、危険思想ばかり着目されますが哲学及び経済学における立派な大家だと思います。この著作はマルクスがパリにいた若手時代に経済学や政治、宗教、哲学に対して批判的な見解を取った思考の痕跡を詰め込んだ本で、この内容をベースに「資本論」等の有名な著作へ発展していきます。資本主義というものについて理解を深めようとした際に共産主義及び関連理論に知る必要があると思い、この本にたどり着きました。(資本論は3000ページほどの超大作すぎるのでエッセンスを詰め込んだというこの本を選んだとも言えますがw)

 

 

「経済学・哲学草稿」

 経済学・哲学草稿 (岩波文庫 白 124-2) | マルクス, 城塚 登, 田中 吉 ...

■ジャンル:経済学・哲学

■読破難易度:中~高(経済学パートは有名な理論体系なのでそこまで難しくないですが、哲学パートはカント以後の哲学思想体系(ヘーゲル等)の前知識がないとかなり理解するのが難しいと思います。調べながら読んだのでかなり骨が折れました。)

■対象者:・資本主義社会について理解を深めたい方・共産主義の思想源流を理解したい方・近代哲学について理解を深めたい方

 

【要約】

マルクスというと共産主義や革命というイメージが強いかと思いますが、元々は「国家と宗教が密接に結び付いていた近代ヨーロッパにおいて、人間を解放するには宗教や政治に支配されないようにせねばならない」という問いからスタートしています。

マルクスの思想の根幹をなすのは唯物史観です。これは「物質が精神を規定する」という考え方で、外部環境が人間の在り方や認知の枠組みを規定する、神のような超越的な権利は存在しないというヘーゲル等の哲学者の近代哲学者の思想を統合した思想です。そんな中で人間社会を大きく形成する経済学の原理についても考察が及び、共産主義等の理論に発展していきます。

※即ち、共産主義等の経済学的な考察は哲学を極め、宗教と国家が結び付いて力を持つ社会への批判の発展形になされたマルクスの思想体系の副産物な訳です。

・哲学は自分自身があまり詳しくないので、ここでは経済学パートを中心に要約していきます。

 

■資本主義経済の功罪

「誰もが等しく豊かになる権利を持てる社会のルール」として発展した資本主義も結局の所、地主等の資本家に富が集中する構図になっており(労働者を働かせれば働かせるほど資本家の取り分が増え儲かり、その剰余資金で新たに投資をすることが出来るから)格差を再生産していると厳しく批難しています。農業⇒工業という資本主義社会の発展の中で、黎明期においては工業における労働は非常に付加価値の低い代替性の高いものであった為、マルクスが述べるような過酷な現状が示唆されたと言えます。

※尚、民間産業が発達し、知識労働者が主役となった時代においては価値の源泉は資本だけではなく、個々人のスキルや知識等に依るものに変わるようになっていき、上記構造が解消されていったのは歴史が明らかにしています。

 

■資本家間の競争

・資本の大きさにより、その資本で何を出来るかが決まるので資本家においてもその保有する資産における競争が激化することを予言しました。そして、その結果として「貧富の差が拡大・競争激化による資本家の収益性低下⇒労働者への搾取増大という構造が生まれることへの警笛」を本書では強く説いています。

「歴史は階級闘争の歴史である」という歴史観も相まってマルクスは資本主義経済における腐った現状を打破し、新たな社会(共産主義社会)を作るべきだという結論に帰結します。

※元々は土地支配と農耕に関するだけであった「労働者と資本家の関係」産業革命による工業化に伴い、対象範囲を拡大し弊害も社会全体に蔓延するようになったとも批難しています。

 

■貨幣

貨幣は価値の尺度として、等価交換や世界に共通の物差しを形成することに寄与しました。交渉・取引・商売の発展を生み、資本主義及び産業の発展に寄与したといっても過言ではないです。マルクス「貨幣は媒介者でありながら最大の権力を持つ」と指摘しております。貨幣は表象・欲求を具現化する存在であり、重金主義重商主義といった資本主義経済の基になった思想体系の発展に寄与したという鋭い考察をしています。

 

 

【所感】

・組織における内発的動機付けやインセンティブといった側面・市場の競争原理による正の側面を度外視したことがマルクスが説く共産主義社会がうまく発展しなかった所以とも言えるのではないかと本書を読んで思いました。戦時経済により民間企業が産業を牽引する必然性があり、一定規模として民間企業が存在する必要が生まれかつ資本主義経済というものが効果的に機能し、社会主義国家よりもうまくやれていたので20世紀後半以降衰退していったということになるのでしょう。

・この本を読みながら「政治と経済は切っても切り離せない関係にあり、その思想の根幹をなす哲学及び宗教というものを理解しないと発展の歴史を理解することは難しい」ということも再認識させられました。

・目下の仕事や社会を生きていく上で特別役に立つ知識や思想ではないですが、物事を多面的に見たりあらゆる現象の構造を理解するためにはこうした読書も定期的にしていかないと思考が深まらないなとも思いました。岩波文庫シリーズは読むと自身の知識不足を痛感し、関連書籍も読みたくなってしまうというスパイラルを生むのが特徴です。

 

以上となります!