今回はアダムスミスの「国富論」要約シリーズ第三弾となります。
第三編のテーマは「農業を阻害してまで都市の産業を奨励される政策がとられた背景」であり、ここから国富論Ⅱになります。「都市部と農村部がそれぞれどのような産業を営み、繁栄してきたか?」という観点で考察がなされています。歴史や倫理観に関する見解を交えたアダムスミスの考察が目立ち、知的好奇心が満たされる内容となっております。
※一編の要約は下記。
■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
※二編の要約は下記。
■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■国富論Ⅱ
■ジャンル:経済学・史学
■読破難易度:中(経済学の概念を0から体系化した本なので、前知識がなくても読み進めれば原理や概念は理解することが出来ると思います。)
■対象者:・ミクロ経済学・政治経済学に興味関心のある方
・人類の発展の歴史に興味関心のある方
・資本主義の仕組みに興味関心のある方
【要約】
■国全体を豊かにするための都市部と農村部の在り方
・都市部は小売・商業・製造業・農村部は農業(※当時は穀物・農作物を生みだす行為は非常に生産性が高いとされた)に分業専念をすることで国全体のGDPは最大化するので、望ましいという姿勢をアダムスミスはとります。
・農村の余剰生産物で都市部は生活をすることになるので、農村部の生産性向上と技術革新・資本投資が常に国の豊かさの指標になるとまとめています。
■農業の経済的価値
・農業は「土地の改良と資本投資により生産性を高めるという資本主義の原理を基本に忠実に活用した素晴らしい産業である」とアダムスミスは評します。人間だけではなく、自然・天然資源にも労働使役をさせるので効率的であるということです。
※同様の論理で製造業も資本の投下先として有望な産業であるというのがアダムスミスの見解です。産業革命により製造業への資本投資は加速し、更にプロテスタントを中心とした資本主義を支える倫理観に忠実に労働に勤しむ人が社会全体に増えたことで、近世以降製造業は大幅に発展していったのは歴史が証明しています。
■土地が持つ統治力
・土地は生産手段であると共に、社会における富の象徴として古来より位置しました。地代は「土地という生産手段の貸与権であり、それ故に利子を獲得する源泉になる」という理論が成立してきました。
■封建制の崩壊過程
・実利(土地・施し)により地主が民を支配するという封建制の構図は古代~中世まで長らく続いた統治体制でした。その封建制は都市部における製造業・商業の発展と共に機能を失いました。「施しをすることで支配をする」という構図が成り立たなくなったた為です。
・地主が施したものを都市部での商売に活用されては統治効力はないですし、利潤活用の手段が多様化(例:資本投資)して既存のやり方のインセンティブが相対的に低下しました。その結果、地主にとっても「民を支配することよりも産業投資の方が経済合理的である」という帰結をしたと言えます。
■アダムスミスの産業毎への評価
・製造業・農業を奨励し、貿易業・小売業はそれらに劣るという思想を持ちます。
・「天然資源を他国から仕入れてきて満たす貿易業は世界全体でみるとゼロサムゲームに過ぎない」ということのようです。それよりも「資源を加工する製造業や天然資源に労働をさせる農業に資本投資をしたほうが社会全体の富は増える」というのが主な主張です。
【所感】
・第三編は90頁程の短い内容ですが、社会科学全般が大好きな僕にとっては哲学・政治経済学・史学の知見が有機的に結びついていくような内容でとてもワクワクしながら読むことが出来ました。世界史をしっかり学び直ししてみたいなと思った次第です。
・社会の発展と共に資本の有効的な活用方法が模索され、日々の飢えを凌ぐライスワークから現世での物欲を満たす・自己実現といった高次の欲求が社会全体に溢れてくるようになったことが垣間見えます。「社会的安全欲⇒物欲⇒自己実現欲求」とマズローが提唱したような欲求の高次化というものは下位の欲求が満たされることにより発芽するということが実感を持って理解出来る事例ですね。
・アダムスミスが体系化した理論に忠実に資本主義に勤しんだのが西欧諸国であり、スミスの原理を批判的に再検討し昇華させたリカード・マルクス・ケインズ等の偉人の著作にも触れて、自分の頭で理解し考えることをしていきたいなと思いました。
・資本とは・利子とは・産業とはという抽象的であり、考えれば考えるだけ色々見解が浮かぶテーマをまとめているからこれだけ時代を経ても名著として語り継がれるのだろうと思いました。
以上となります!