「われ思う、故にわれあり」という有名な言葉を残した中世の哲学者の代表作です。ギリシャ哲学・スコラ哲学への論評やガリレオ・ガリレイの地動説に関する論争など時代背景が浮き彫りになる本で、時代背景も面白い本です。
■方法序説
■ジャンル:哲学
■読破難易度:低(100ページ弱の薄い本であり、周辺知識がなくても読むことが出来ます)
■対象者:・近代哲学の基礎を学びたい方
・学問の役割について論じられた歴史に興味関心のある方
・西洋思想を学びたい方全般
【要約】
■学問に関する考察
・「人間は誰しも分別を生まれた時に神から授かっており、分別がつく知性を獲得していることが人間と他の動物の大きな違いであり、そこに存在意義を見いだすのが人間の使命である」と自説が展開されます。超自然的なもの(神の存在など宗教的な概念を風刺しています)に頼らず、人間の理性だけを頼りにしていき、真理を解明していくことが全うであるというのが主張です。
※デカルトは様々な学問に手を出し、学びを深め「真と偽を分ける術を確立したい」という人生の大義が決まったと本書の冒頭で宣言をします。
■学問の役割について
・古代ギリシャ以来存在する論理学・数学という二大巨頭たる学問について、「偉大な功績をもたらしたが、時に欠陥もある」として批難します。論理学は「既知のものを説明したり、未知のものをもっともらしく説明する為にしか役だつことはせず本質的ではない」と批難します。数学は「あらゆるものを規則性あるものとして表現するように仕向ける資質がある」と批難します。
■哲学の意義
・哲学とは自分で自分を承認する術を授ける学問であると定義します。「自分が世界をどの様に認識し、何に価値基準を置くか」という一連の行為そのものが哲学的行為であるということです。
・自分が思案した世界というのは他人の不可侵のものであり、尊重するべきという姿勢がデカルト哲学の根本的な姿勢です。「真理追求の為に、謙虚に自分の考えを深める行為を突き進めていき、自分で考え経験したことだけで物事を論じろ」という知的謙虚さを説きます。
・知識や机上の空論ではなく、自分の経験や見たものを昇華して自分なりの考えを編み出すというプロセスを非常に重視した哲学者と言えます。この点は若干、ベーコンの経験主義に似ています。
■自然科学に関する考察
・「神は存在するし、われ思うゆえにわれありなので魂の存在も認める」というのがデカルトの立場です。「植物人間状態は死んでいるに等しい」というのが氏の明確な区分です。「神が秩序を創造し、人間はその法則を理解しようと数学や論理学という道具を編み出し解明している」という風に見立てています。
・神が創造した世界の法則を知ろうというのが自然科学の営みであり、宇宙や天文学に関する考察は古代よりずっと行われてきたテーマです。この時代は物理学や生物学・医学の基礎がようやく解明されようという黎明期にあり、デカルトはこの解明に残りの人生(本書を著した時点で41歳)を捧げたいという宣言を本書で行います。
【所感】
・哲学者のイメージが強いデカルトでしたが、本業は自然科学の学者であるということが衝撃的でした。「数学・論理学・哲学などの学問の基礎の上に自然科学や社会科学が成り立っている」という学問構造を説明する様は様々な学問を学びつくし、比較検討した氏ならではの境地であると感じました。
・相対比較する意味でギリシャ哲学・スコラ哲学などまどろっこしさから避けてきた領域も手を出して自分なりに理解を深めるということをいつかしてみたいなと思うようになりました。ある学問領域を理解しようとすると、結局はその起源から歴史を辿っていくことになるってのはあるあるの流れだと思います。
・「世界の法則を理解しよう」という自然科学の学問目的のスケールの偉大さというものを最近は認識することが多く、本書を読んでも改めて考えさせられます。完全な文系人間なので、知識に乏しいですが周辺領域から少しずつ学びを深めるということは時間をかけてやってみたいなと改めて思いました。本書は哲学及び学問全体の関係性や役割等について論じた本という性質が強く、思考の整理になる本でした。
以上となります!