雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪完訳統治二論 後編≫

今回はジョン・ロック「統治二論」の後半を要約していきます。別名、市民政府二論です。後編は人権に関する考察が中心で、議会制民主主義の基礎となる考え方が展開されます。政治学のエッセンスを理解したい場合、後編を読むだけで十分だと思います。

※前編の要約は下記。

■要約≪完訳統治二論 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

■完訳統治二論

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■ジャンル:政治学

■読破難易度:低~中(平易な文章で書いてあるので読みやすいです。ただし、ロックは神学者でもあるので、論は宗教的な見解に立つことも多く聖書(ミニマム創世記はかじっておきたいです。)の知識があったほうが理解が格段に進みます。)

■対象者:・政治学の基礎を身に着けたい方

    ・人類の権利獲得論争について理解を深めたい方

    ・統治・支配の在り方に関心のある方

 

【要約】

・本書の後編はアメリカ独立宣言フランス革命、現代ではギリシャ軍事独裁崩壊を招いた革命的な歴史書とされます。モンテスキュー三権分立(立法・行政・司法の均衡関係が国家運営に最適なシステムとするもの)やルソー社会契約論(統治は一般市民の同意のもとに契約的に委任されるものである)に近い考えも展開されます。

 

■父親の権力に関する誤った認識への批判

家父長制という言葉に代表されるように人類の歴史において、父親は大きな権力を持つ存在と見なされてきました。「父親の権力」という言葉が誤った認識を生んでおり、正しくは両親の権力だとロックは指摘します。※父親単一にすることで君主制を正当化している側面もあるので取り扱いが難しいのですが。

・人間は法律が定める範囲、世界において自由を享受します。そして、は人間を未熟な状態で発育させるようにプログラムしたので、両親は子供を育てる権利・義務が生じました。未成年時代の未熟さ故に両親は子供を支配し、代理で責任を負う権利を獲得しただけで、「両親の子供に対する関係性や付与された権利はそれ特有であり、転用して統治の源泉にするのは間違っている」と厳しく現実の慣習を批判します。

 

■政治社会の意義

共同体をつくりそこに統治機構を委任するということが全体の便益にかなうことは多く存在します。だからといって、「個人が統治機構に完全服従をするということではなく、自然権所有権は担保されうるべき」とされます。集団はその持つ暴力性を正しく手名付ける為に集団的意思決定というプロセスを踏みます。

 

■統治システム

立法はあらゆる犯罪を抑制し、取引を促進する優れた制度です。そして、司法独立性を保ち、公平に裁くことが出来るようにするべきとされます。自分の権利に関して利己的になるのは人間の性であり性善説に立つというは無理があるからです。

国家の役割はこうした人類の自然権を守り、効果的に取引をするように社会をデザインすること・並びに対外的な脅威から防ぐ国防や安全の提供などに努めるべきで、市場取引や権利にまで支配権を広げるべきでないという権力の行使範囲についてもロックは明確に定義をしています。

 

統治機構と人民の関係性

・「個人の所有権を法によって保護し、国防をサービスとして享受すること」が統治者に統治権を委託する代わりに人民が得る権利であり、それが満たされない場合において、人類は闘争状態にならざるを得ません。それでは非効率ということで人類は定住都市化を志向していきました。「統治をする人は人民との同意によりその権力・権威を得ているのであり、私欲を満たしたり虚栄心の為にその暴力的な権力を活用してはならない」ということが言えます。

立法権政治共同体がどのような方向に舵を切るかを決める権力を持ち、国民の代表として最高機関であるべきとされます。人間の欲深さからも「立法をする人」と「その執行をする人」は明確に分離するべきで、その意味で司法権の独立は国民全体の権利の保護の観点で超重要とされます。その意味で三権分立立憲君主制議会制民主主義などの近代国家を形作る上で必須の制度です。

 

【所感】

・本書の主張は非常にシンプルです。当時としては目新しすぎる見解であったが故に、慎重に主張を様々な側面から検証を加えるという仕立てになっています。後の三権分立の基礎になるような考えを提唱しているなど氏の先見性には読みながら脱帽されるものでした。

・国家の統治に関する理論は突き詰めていくと、企業社会にも適応できる原理原則であるなと感じました。議会制民主主義の概念は「統治を監視するシステムが正式に機能すればより人類全体の便益にかなう」という理屈がコーポレートガバナンスと構造的に類似(統治がいきわたり、効果的な経営が出来ている)していると思いました。

 

以上となります!