今回はハーバード流マネジメント講座シリーズから「90日で成果を出すリーダー」を要約します。昇進や転職などの「キャリア移行期における大失敗をしない為の90日間の過ごし方」について様々な研究をベースに体系化した内容となっています。
「90日で成果を出すリーダー」
■ジャンル:キャリア論
■読破難易度:低(前提知識は不要で様々なマネジメントの事例や葛藤が記述されているので、疑似体験しやすく読みやすいです)
■対象者:・キャリア移行期の過ごし方に興味関心のある方
・非連続の成長と変化への適応がもとめられる方
・マネジメントに従事する方全般
【要約】
・「新しい環境に飛び込んだ際に絶対の成功法則はないが、失敗を避ける術はある」というのが本書の主張です。ブレイクイーブンポイントと呼ばれる、組織に消費してばかりの状態から消費と貢献がイーブンになりそこそこ機能していると呼べる状態にどれだけ早くつくことが出来るかというのがキャリア移行のポイントだとされます。
・移行に成功するための基本は下記8つと本書では評されます。
1)新しい任務に合わせて思考回路を切り替えること
2)必要な知識や情報を効率よく学ぶこと
3)状況にあった戦略を立てること
4)上司と関係を築いて下地作りをすること
5)まず小さな成果をあげて流れをつくること
6)組織のバランスに歪みがないか見極めて調整すること
7)部下を評価してチーム作りをすること
8)内外の支持基盤を確立すること
■キャリア移行期の第一歩
・「自分自身の組織からの期待は何か」・「自分が所属する組織の目的は何か」・「優先順位をつけるとしたらどんな基準で何が重要か」など仕事を取り巻く環境の整備から進めるのが何よりも第一とされます。人組織の問題や前任者や在籍者から寄せられる課題の対処だけにならないようにすることがキャリア移行における絶対的な原理原則とされます。
■仕事を取り巻く環境の整備
・「組織や事業に対して答えを決めつけてしまうこと」・「縦の関係ばかり重視して横の関係構築を怠る」などは典型的なキャリア移行初期の失敗例とされます。初期に周囲からの信頼残高構築や有益な情報が入るパイプの構築などを行わないと狙って成果を出すことは不可能とされます。上位組織や周りと「何をもって仕事の成功とするか」という要件定義を怠らないことも同時に重要とされます。
・昇進やピボットの際は「これまでの強みや経験に頼る」のは足枷になる危険が強く、目的や資源が把握できるまでは決め打ちしないほうが良いようです。「期待を過度に解釈して自分の強みに拘る」はよくありがちなキャリア移行のミスと本書では評されます。
■組織や事業の置かれた環境により、必要なケーパや要望の優先順位が変動する
・自分が着任する組織や事業・役割について、立上げ・立て直し・急成長・軌道修正・成功の持続どのフェーズにある組織や事業を管掌することになるのか・「課題や機会はどのようなものがあるか」・「重要資源は何で、優先順位付けはどのようにあるべきか」を把握、上位マネジメントとすり合わせをして味方の輪を作るのがキャリア移行期に行う資源管理の鉄則とされます。大きな失敗をしない為には置かれた環境の特徴を理解することが何より重要です。
■初期の成功を狙って実現する重要性
・成果をあげるためには対象に絞り、リソースを裂きかつ上位者や上位組織の利害にも合致するテーマを選定するのが組織マネジメントの要諦とされます。感情の生き物の人材資源の管理には政治力や誠実な対応による信頼残高蓄積が避けられません。かつての同僚の上司になることも存在します。その際には「会社としてあるべき方針に即した意思決定を徹底すること」、「新たな役割と関係性を明確に線引すること」、「通過儀礼として上司に任命プロセスを引いてもらうこと」などが有効な対応策とされます。
・着任当初は信頼関係構築とオープンな態度に努めて情報や人脈の土台を作り正しい意思決定が出来るシステム構築に努めるのが原理原則とされます。また、遺物や価値基準を把握するのもポイントです。重要な意思決定はできるだけ初期は先延ばしが望ましいとされます。
■人材資源の測定およびチーム組成
・新任リーダーは引き継がれた人材資源のこれまでの評価と自分自身がどのように見るかの判断を最初の90日ですることが求められます。早急に結論を出すのではなく、90日ギリギリ消化するのが有効とされます。時間をかけて資源を把握して、「内部人材資源の活用でいいのか」・「外部から人材調達するのか」の判断をするのがポイントとされます。「前の組織と組織リーダーを批判する」というのは自然な言動・行動ですが、不信感を形成し、何も問題を解決しないのでご法度です。
・人材資源の評価はエネルギー・集中力(何かをやりきれるか・優先順位をつけ仕掛にならず進めることが出来るか)・人間関係・信頼(言動不一致にならないか、そうならないように日頃から行動や思考を設計しているか)などを参考にするのがベーシックとされます。事業責任者のような幅広い職種を管掌するリーダーになった際は「それぞれの部門や職種のケイパビリティに即した人材資源の評価」をしないといけなく、その為には各職種の経験・土地勘があり重要人材および組織内部人事とうまく関係性を構築できることがポイントになります。
・特定の分野で熟達した判断ができるかどうかは人材資源の判断・管理において重要なサインとされます。何もかも中途半端や受身である場合、そもそもの知性やエネルギー・問題解決能力・生産性(顕在的な問題対処のキャパシティと問題回避対策を打てる人か)などが足りていないことになるようです。異動に関してはその人材が異動後の組織で活躍できるかどうかの確信と対策が持ててからやるべきであり、そうした行為なしに「人材資源を横に流す行為」は非常に不誠実になるので、マネジメントとしては望ましくないとされます。
【所感】
・組織目的や置かれた環境を取り巻く因子の把握からまずは進めるという方針が一貫して主張されていたのが印象的でした。組織の人材資源や顕在化している課題ではなく、組織目的や成果の方向性のすり合わせをしないと根元を見誤り初期の方向性を誤ることは致命傷になるということなのでしょう。
・文化や政治への適合によるストレスはキャリア移行期あるあるで、個人の規律を守るための「ルーティンの実践」や「家族との対話重視」などはベーシックな対策という節が印象的でした。また、人材資源の管理・活性化という観点からみると採用とオンボーディングは一体化したシステムであるべきという主張も自社の人材管理・開発の発展の歴史を紐解くと納得でした。
・新人育成も同義ですが、環境変化の中で人材が適合し、活躍するように支援するのは人材資源の投資管理として当然の行為になります。これは善意ではなくマネジメントの資源管理業務の一部に組み込まれる行為です。
・本書を読んで、「経験やスキルがないから」と前提を憂いたり、パフォーマンスが上がらないことを言い訳にするのはキャリア移行のスキルがないという判断になりピボットや非連続な成長・変化を牽引出来ないという判断に繋がる点が非常に印象的でした。少しでも早くパフォームする・人材投資判断を正にする為に意図的に未知や不確実性の伴う経験を積み上げていくことが荒療治ですが長期的には有効なのだなと感じた次第です。
以上となります!