雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ハイ・フライヤー≫

 

今回は「ハイ・フライヤー」を要約します。経営幹部の育成方法にフォーカスした本で、2002年に出版され既に絶版となっています。「リーダーシップは後天的に開発することが出来る」という当時としては非常に先進的な主張だったようです。

 

「ハイ・フライヤー」

ハイ・フライヤー | PRESIDENT STORE (プレジデントストア)

■ジャンル:キャリア論

■読破難易度:低

■対象者:・経営幹部育成について興味関心のある方

     ・リーダーシップ開発の方法論について興味関心のある方

 

【要約】

・本書はアメリカの上場企業管理職(主に部長以上)へのインタビューから見出された経営幹部人材育成のメカニズム・任用傾向についてまとめた本となっています。

 

■人材開発と企業競争優位性の関係について

・国際競争化する中で、企業が持続的な競争優位を構築しながら市場から支持され続けるには非連続の成長変革が不可欠とされました。

・事業が多角化する中で「変革を牽引する強烈なリーダーシップを発揮できる幹部人材の頭数を確保出来るか」・「後継者候補のプールを早期に構築し、適切な人材に必要な経験を積み上げていくか」が企業競争の雌雄を決する重要なテーマになっていると問題提起がされます。

 

■人材開発体制の基本原則

・上記人材を狙って内部育成するには経営幹部本社人事ラインマネジャーが三位一体となり、業績構築と並行することが重要で人材育成と業績構築が二律背反になることなく特定人材の育成に責任を持ち続けることが不可欠とされます。

 

■どのような人材を抜擢任用していくか

・抜擢任用はキャリア早期に環境に適応し、秀でた成果を上げた人を中心対象とするのが大前提となり(時間軸やケイパビリティなど当初持ち合わせていた条件が最も平等であるのがキャリア早期である為)、その上で経験学習能力を最も重視して判断していくべきとされます。なぜなら、OJTによる困難な経験を付与し環境克服・試行錯誤するプロセスを通じて育成する方法」が幹部候補人材育成の定跡であり、そのやり方に馴染み成長出来る人が活躍可能性が最も高いからです。

垂直昇進(早く狭く特定事業・職種の階層を登る)ではなく、事業や職種の垣根を超えた異動を通じて環境負荷を高め、ピボットして活躍する能力の土台を作るということが幹部候補人材育成における重要ポイントとされます。これは一般的な活躍人材の抜擢任用と若干毛色が違う点がミソとされます。その異動を科学して必要な経験を系統立てる方策は経営幹部・本社人事・ラインマネジャーが三位一体となり、「対象人材の選定・アップデート」を定期的に審議されるべきものと本書では何度も主張されます。

※過去の圧倒的な実績・聡明さ・献身的な姿勢・カリスマ性/暖かさ・野心などが経営幹部が共通して持ち合わせる資質であり、後天的に開発されている人も多いとさえれました。

 

■人材開発の触媒

・経験学習を実行する為には自身の内省は勿論、周囲からの適切なフィードバック適切なストレッチの効いた仕事機会の2点が欠かせないとされます。人間は有能感や居心地の良い環境に安住しようとするのは生存本能や社会的な価値観から必然です。その流れに抗い、長期の時間軸で意味づけし問題に取り組むのは高度な自己規律が必要であり多くの場合、自分自身だけで備えるは不可能で環境整備を会社が行うのは責務であると本書では記述されます。

・有能な人材であればあるほど、適切な人材開発の機会が先延ばしにされる傾向が多いようで(忙しさから人材開発の優先順位が下がり、業績構築など短期の時間軸での重要テーマの貢献に人材の時間を割く)それがゆでガエル現象を生み出す原因ともされています。

 

【所感】

・「非連続の成長と変革を牽引し、異なる環境で連続的に成果を出すことが求められる人材」を育成することを最終目標とするのであれば、早期から育成方法そのものが環境変化を伴うものであるべきというのは至極全うであるなと感じました。

・成功の果実に入り浸ることなく、どれだけ新しく難しい・誰もが好んではやらない面倒なことを狙って経験して積み上げていくことが連続的に成果を上げていく為の絶対法則であることが様々な事例や立場の利害から浮き彫りになった点が印象的でした。早期に狭い部門で昇進したケースは「思考の幅が狭く、戦略的な思考や抽象的・不確実性の高いテーマを忌避するスタンス・変化対応能力の低さ」に苦しむという記述があった点は衝撃的であり、昔抱いていた自分のキャリア開発の捉え方が大きく崩された印象です。最終的に担う役割や会社からみた人材の活用度合いの観点から見ると当たり前なのですが、言われてなるほどという人材観でした。

 

以上となります!