今回は塩野七生氏の「ローマ人の物語」を要約していきます。4は「ハンニバル戦記」の上中巻の中巻であり、紀元前219年~206年の第二次ポエニ戦争を取り扱います。カルタゴ軍の英雄ハンニバルが登場し、連戦連勝を繰り返しローマの大半を制圧するにまで勢いづいた後にローマ軍の救世主としてスキピオが台頭していき、戦況を押し返していく様を記述しています。
「ローマ人の物語4」
■ジャンル:世界史・歴史小説
■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります。)
■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般
・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方
※ローマ人の物語3は下記※
■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)
≪参考文献≫
■ローマ人盛衰原因論
■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■第二次ポエニ戦争前期(紀元前219~216年)
・第一次ポエニ戦争を経て、ローマはイタリア半島北部~南部・シチリア半島を手中に収めカルタゴに対して完全優位な状態となっていました。カルタゴの将軍ハンニバルは事を荒立てて局面を打開すべくローマと直接全面対決するのではなく、「ガリア山地を通りアルプス山脈を越えてイタリア半島で直接ローマへ戦いを起こす」というやり方を狙いました。当時のカルタゴはスペインに広大な植民市を形成していた為、当初ローマ元老院はシチリア半島・スペインが主な戦場になると見立て防衛拠点を整備していました。まさかアルプス山脈を越えて、カルタゴ軍が直接攻めてくるなどは想像もしていませんでした。
・ハンニバルはガリア人を懐柔しながらイタリア半島北部からローマに侵略することに成功し、スペイン・ガリア・リビアの傭兵連合軍を巧みに駆使しながら直轄軍の被害を最小限に繰り広げながらローマ軍相手に連戦連勝で進軍していくこととなります。
※尚、ハンニバルが採用した進軍ルートや戦略・戦術はいずれも後世でナポレオンが採用・参照しているものです。
・トレッビア・トラジメーノ・カンネとイタリア半島の要所でローマとカルタゴは衝突しいずれもハンニバル率いるカルタゴ軍が勝利し、イタリア半島の大半を占拠するにまで進軍しました。ハンニバルは直接ローマを叩いても効率が悪いと考え、ローマ同盟の崩壊を狙って植民市を懐柔しようという秀逸な展開していきます。
■第二次ポエニ戦争中期(紀元前215~211年)
・カルタゴ軍はカンネの戦いで得たローマ軍の捕虜で身代金確保や講和持ちかけを狙い、その過程でシチリア半島のシラクサをローマ同盟からの脱却させることに成功します。加えて、カルタゴはマケドニア王フィリップスと同盟を結びローマを間接的に抑制することでじわじわと力を削いでいきます。そんな中、ローマ優勢で均衡が保たれていたスペインの戦場では執政官コルネリウス兄弟が敗れたことで均衡が崩壊します。いよいよピンチに立たされた中でローマ軍のカリスマ的存在のスキピオが台頭していきます。
■第二次ポエニ戦争後期(紀元前210~206年)
・ハンニバルは引き続きイタリア半島に留まり、ターラントと呼ばれる貿易と国防の要である植民市を巡りローマ軍と対決していました。一方のスペインではカルタゴ軍はハンニバルの子孫を中心とした3将軍が分散して防衛する陣形を取っておりました。スキピオは急戦を仕掛けカルタヘーナと呼ばれるハンニバル家ゆかりのスペインの土地を攻めて落とし、優位を拡大するとベクラの会戦でも勝利を重ねます。この事態を見て不味いと判断したカルタゴ陣営はスペインにいた3つの軍隊を分割して、ハシュドゥルバル率いる軍はイタリア方面へ進み、ハンニバルを支援することを目的とし、マゴーネとジスコーネ率いる軍は統合し、スペイン領土のスキピオ率いるローマ軍を攻めることに意思決定しました。
・ハシュドゥルバルとハンニバルの合流を止めようとローマ軍がカルタゴ軍へ仕掛ける戦いメタウロの会戦はローマ軍指揮官ネロが機敏な側面攻撃をしたことが幸いし、あっさりカルタゴ軍は敗北しハシュドゥルバルは戦死します。一方のスキピオ率いるスペイン領土のローマ軍はカルタゴ軍(マゴーネ+ジスコーネ連合軍)に対してイリパという地で戦いを繰り広げました。スキピオは駆け引きの後に奇襲を仕掛け、スペインの兵士を駆使して突撃するというハンニバルのような傭兵使いのような戦術を展開しました。結果的に将軍を打ち取るなどはなかったものの、ローマ軍が勝利し大量の騎兵傭兵を獲得しローマ軍は更なる盤石の基盤を形成し勢力を盛り返すに至り第二次ポエニ戦争は終結へ向かいます。
【所感】
・本巻は戦争に関する記述が非常に多く、ハンニバルとスキピオのカリスマ性が際立つ構成となっています。個別の戦略・戦術の組み立て方はクラウゼヴィッツの戦争論でも展開された考え方が盛り込まれており、当時読んでよく理解できなかった部分の理解が進むという具合でした。側面攻撃の優秀性や地形・情報の非対称性を駆使した展開などはこの時代特有の兵法であるように感じました。
・イタリア半島とスペインについてこれだけ豊富に記述された史実を読み解き考えを巡らすことはあまりなかったので、ポエニ戦争という世界史の教科書ではたった数行で記述される出来事も掘り下げると面白いものだなと感じた次第です。
以上となります!