今回は松田千恵子氏著の「グループ経営入門第五版」を要約していきます。主にグローバルに事業展開をする上場企業を想定して、本社スタッフのあるべき位置づけや具体的な業務内容・本社と事業部の役割分担・国際競争下の中で整備すべきコーポレートガバナンス・ファイナンス・経営管理・事業創出・人的資本経営などの論点を体系的に論じた本です。各種論点そのものはどこかで聞いたようなテーマなのですが、「なぜそれが大事なのか」・「どう考えるべきか」という点に関して非常にフラットな視点で論述されている点が印象的です。
「グループ経営入門第五版」

■読破難易度:中(前知識なくても読める平易な言葉で説明されていますが、何等か関連職種・業務に関わった経験がないとイメージがつきにくいかもしれません)
■対象者:・本社スタッフの役割について解像度を高めたい方
・グローバル競争を勝ち抜くために必要な企業経営の在り方について理解を深めたい方
・本社と事業部の役割分担について興味関心のある方
≪参考文献≫
■市場と企業組織
■コーポレート・ファイナンス戦略と実践
■企業戦略論 全社戦略編
■経理・財務・経営企画部門のためのFP&A入門
■要約≪経理・財務・経営企画部門のためのFP&A入門≫ - 雑感
■管理会計第七版
【要約】
■本社の役割について
・グループ内投資家・事業推進・プロフェッショナルサービス提供が本社の役割になります。3ついずれの役割においても、株式市場の代理人としての役割を意識し、企業価値向上につなげるプロフェッショナリズムが必要になります。日本は長らく日本的経営(終身雇用・年功序列・銀行による護送船団方式)で国際競争に勝利・経済成長してきた成功体験が足枷となり、現場・事業部門が強いという傾向をもちます。事業部門には強い成長を求める力学があり、既存の延長の改善をする宿命にあります。一方、ターンアラウンド・新規事業創出・DXなどの非連続な成長・変革は本社が狙って仕掛けていく必要があり、それは企業価値向上という大目的に照らした際に競争環境やライフサイクル理論から論じる必要が出てくるのです。
・日本特有要素としてはCFO的な役割が不在で、長らく日本特有の経営企画が本役割を担ってきた歴史があります。事務屋・事務局的になっているのが多くの実態であり、経理部門も含めCFO的なロールは不在でした。また、昨今人的資本経営やHRBPなどの文脈で語られる経営戦略と人事戦略の不一致・タレントマネジメントやプロフェッショナル人材の発掘・育成などのビジョンがないという人事機能においても大きな論点が存在します。
・本社の機能は「見極める力」・「連ねる力」・「束ねる力」の3つがあり、見極める力は投資家機能・投資家機能を発揮するためのインフラ整備機能、連ねる力は戦略的投資家としてのシナジー発揮推進機能・インキュベーション機能、束ねる力は外部に向けてグループを代表し経営資源を獲得する機能・内部に向けてグループを一つにしていく統括機能になります。シナジー創出・インキュベーション機能・内部投資家としての監査・投資アロケ・助言機能などがコアになります。
■見極める力
・事業計画と予算について各事業部をどうあるべきかを監査・アドバイスすることで社内投資家のような形で全社戦略を遂行・シナジー創出・企業価値を最大化するのが本社スタッフの役割です。日本市場や産業社会が拡大期にあった局面と異なり、多くの日本企業は国際競争化や成熟社会においてやり方を変えないといけない局面を迎えております。自己否定を伴う変革は事業部単独で行うは相当に大変で、本社が長期の時間軸に責任を持ち、狙って両利きの経営・デュアルシステム・トランスフォーメーションを推進していくことで非連続の成長・変革をけん引することが必要になります。
・戦略と計画は考え抜いて立てて実行・修正活用してなんぼであり、事業部と本社の役割分担は事業部の評価や投資配分の意思決定や非連続な成長・変革のための在り方を描くことにあります。基本的に各事業を判断する際に、規模を取るか差別化するかのどちらかで競争戦略を論じることができないとコスト引き締めや売却統合検討などの厳しい経営をしていくことになります。具体的にはキャッシュインとキャッシュアウトを明らかにすることでビジネスモデルの特徴を抑え、キャッシュフローやどのようにリスク低減・アップサイドを追求するかを各事業について論じるのが大切です。
・市場競争力学を抑えると同時に、事業部と複眼の視点でその競争は分が良いかどうかやそもそもこのビジネスやり続けるべきかといった論を示唆出しするのが本社の役割になります。市場競争におけるポジションや採用している競争戦略からなぜ自社がその立ち位置にあるのか?を紐解くと、資源の特徴や競合優位性・劣位性が明らかになるものでありこれを論じてチェック機能を果たすのが大切な本社スタッフの役割になります。
・本社は企業内の投資家であるため、事業毎の評価やシナジー創出のためのコラボレーション促進・M&A推進などをしていくことで事業部と役割分担をもつのが基本です。本社スタッフが偉いとかそういうのではなく、経営者や株主の代理人としての企業価値選定やガバナンス・ステークホルダーマネジメントに集中しているとも言えるのです。事業部毎の評価はDCF法とEBITDAがいくらか・TAMがどれくらいでどれくらいのトップラインを狙える・収益性・成長性があるかなども総合的に加味していくことになります。
・日本の経営は財務会計偏重であり、各部門の収支が可視化されていないという問題がありました。本社スタッフは内部資本投資家として企業価値向上にコミットするべきであり、その意味において経営管理と投資配分意思決定・成長戦略策定~支援~実行をするのは大事な役割分担です。BSやPLと同じくらいに会社全体で大事になるのはCFであり、これが成立しないといくら収支がよくても事業・経営として成立しなくなります。資本政策の最適化や投資配分の最適化・事業毎の客観的な評価・管理をすることが本社スタッフと事業部の役割分担として大切になります。
■連ねる力
・本社スタッフにはならではの役割としてシナジー発揮推進機能とインキュベーション機能があります。シナジーは事業のコラボレーションやあり方を推察・事業部に持ち込み青写真を描き実行することで、競合優位性のある成長戦略を描くこと・インキュベーションは自社の強みを活かした事業創造と買収が主な具体的なテーマになります。株主の代理人として事業毎の評価をして資源のアロケーションをすることと、マネジメント・販売・研究などの共有資源を用いた事業のシナジー創出を狙って創出し、競合優位性や企業価値に寄与するべきなのです。単体事業の成長と収益改善にコミットするのが事業部とした時にシナジー創出には現場の協力は必要ですが、本社主導で場の設定や目的明確化・ファシリテーションの実施などが必要になります。事業部毎の評価と再生支援・売却や統合の戦略を描き実行支援するなども本社スタッフの仕事であり、経営者や株主の代理人として時間軸が長く企業価値向上にコミットする役割ということです。
・事業創造は大事な役割であるが、起死回生のものになるケースはほぼないですし、本丸事業の代替になるようなことは基本的にあり得ないです。それだけの市場規模があれば大概は他社がやっているか市場がないかです。その為、基本的には自社の強みを活かした後発参入が基本の事業創造の路線ということです。事業創造をする時には事業計画をトップラインや収益率・キャッシュフローなどで策定するべきであり、加えて主要事業部から変な攻撃を受けないように新規事業を聖域として守り、一定期間は継続的な投資をしていくことが欠かせないです。
■束ねる力
・資金調達・リスクマネジメント・人的資本管理(採用・育成・評価)などは本社の大事な役割です。経営者の独立裁量は時に企業の暴発や汚職を招くものであり、なので取締役会や監査・株式市場との対話などによる健全性を保つ動きが気運として高まります。継続的な情報開示・ステークホルダーとの対話・財務健全性・成長戦略コミットメント等をしていくことが企業価値向上という上場企業の経営の前提条件となります。
・所有と経営の分離が叫ばれて久しい現代においては経営者は投資家・株主の利害に叶う経営活動をしているかについてのガバナンス機能を持ち役割分担することがステークホルダーの利害に一致すると見なされます。人的資本については企業毎のボラティリティが最も生まれるケイパビリティの構成要素であるため、組織の誘因を形成することと継続的な人的資本への投資(機会提供含む)がポイントになります。ダイバーシティは人的資本の文脈で語られることがあり、競争力・個の尊重がポイントということです。これは経営の意思決定の妥当性・透明性の担保のためにも狙って人材プールを形成することに意味があります。
【所感】
・本書で言及されている個別論点については専門書で一通りかじってきたつもりでしたが、有機的につなげるとどんな意味・価値を帯びるかという点で理解・整理が進み、非常に良い読書体験を得ることが出来ました。役割分担と目的の明確化・共通ビジョンと優先順位付けがあらゆるコミュニケーション・意思決定において大事であるということを再認識すると共に、横断型組織を率いるリーダーシップや意思決定経験をどうやって勝ち取るかということが個人のキャリアとしては大事であると理解を深めた次第でした。
・ライフサイクル理論やトランスフォーメーションの御作法・ファイナンスの理論などの重要性やよくできているなということを再認識すると共に、この手のテーマについては畑違いテーマについての造詣や視点を意識して日々の行動や思考に反映できるかということが付加価値に寄与するということを改めて痛感した次第です。頭でっかちになることなく、役割分担と他のロールに対して敬意を払い、時に共通ビジョンやチームを組成してダイナミックに問題を解いていく・価値創出をしていくそんなビジネスパーソンに成長したいと考えました。
以上となります!