今回はマルクス・アウレリスの「自省録」を要約していきます。マルクスは五賢帝の一人に数えられるローマ帝国の偉大な皇帝であり、正当派ストア派哲学者でもあります。自省録というタイトルの通り、マルクス自身に対して自戒の念を込めた十二の短編集の集合体となっています。本書は岩波文庫の青シリーズの中でも非常に取っ付きやすく、古代ローマ史の勉強にもなる内容です。
「自省録」
■ジャンル:哲学
■読破難易度:低(哲学に関する知識は不要です。古代ローマ・ギリシアの歴史に明るいとより面白く読めるかと。)
■対象者:・ストア派哲学について興味関心のある方
・内省を深めたい方
≪参考文献≫
■国家(上)(下)
■要約≪国家(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国家(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■ローマ人盛衰原因論
■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■マルクス・アウレリウスについて
・マルクス・アウレリウスはパクス・ロマーナを牽引したローマ皇帝であり、名家の血筋に生まれ、ハドリアヌス皇帝に好かれアントニヌス・ピウスの養子になり皇帝の後継者として使命を受ける形でローマ皇帝に即位しました。は読書と瞑想にふけり、内省的であることを好んだマルクス・アウレリウスはストア派哲学の名手として名を馳せました。
・ストア派哲学は論理学・倫理学・物理学で構成され、「自然の摂理に忠実に生きる」・「禁欲的にある」など宗教的な思考体系を持つのが特徴です。マルクス・アウレリウスはローマ皇帝という現実のなまなましい問題を対処するのに生きる人でありながら禁欲の精神のストア派哲学に勤しみ、その矛盾があったからこそ美しいまでに研ぎ澄まされた考えがアウトプットされたと本書は評されます。
・プラトンは「哲学者が政治をすること」を理想と説きましたが、それが実現したのがストア派哲学のマルクス・アウレリウス皇帝でした。感慨や思想を断片的にギリシア語で記述する癖があり、それを収録したのが自省録であり、自分を顧みるように記述している為、断片的で読みづらい特徴があります。
■ストア派哲学の基本概念について
・人間は自然の一部であり、宇宙の法則に忠実に生きること即ち理性的にあり続けることが至高であるというのがストア派哲学の基本思想です。その為、「自然の流れに身を任せ死を恐れないこと」・「自然の摂理、宇宙の法則の流れに逆らい、衝動的に行動すること」・「序列や名誉を重んじるといった人間的で自然界に存在しない概念を愚かであると批難すること」などが典型的な思想形態です。他人に不可侵な平穏を精神世界に見出すことが生きる意味であるとして内省的にあり、論理学・倫理学・物理学の探究に勤しめと奨励します。
・「人間は宇宙の一部であり、定められた配分に忠実に生きて自然の摂理にない私利私欲に走るのは控えよ」という禁欲的なスタンスがストア派のポイントであり、慎み深い・素直である・思慮深いと評される生き方は宇宙の法則に忠実であり、誇るべきとされます。あらゆるものの法則を理解しようと思案・行動することは宇宙の法則を理解する営みであり尊いとされます。
■人間の社会的な感情について
・「宇宙の法則に忠実にあり自然の摂理を体現することが至高である」とするストア派哲学の立場であるマルクスはそのローマ皇帝という極めて名誉と俗に触れる世界の中で、自分が社会の潮流に飲み込まれないように哲学の原理に反することを戒めるように何度も同義の主張を繰り返すのが本書の特徴です。代表的なものとしては無知なものや道理を弁えないものに対しては攻撃的になったり労苦を厭うのではなく「耐えろ」という考え方や「快楽に溺れる・衝動的な行動に身を任せる」というのは精神が未熟であり、理性的ではない敗北的な姿であるといった具合です。
・また、上記に加えて宗教のような妄信的なものにすがる様を退廃的と非難しキリスト教に対して批判的な立場をとりストア派哲学の立場を徹底した皇帝である点や「万物は生々流転し、死後の名声は忘却に過ぎず今を全うせよ」という古代ギリシア哲学的価値観が本書の随所に垣間見える点も特徴的です。
■精神的な意味報酬について
・「周囲から受ける賞賛というのは麻薬のようなものであり、賞賛は感情を動かすことは事実だがこれに支配される生き様は他人に人生の主導権を渡しているに等しい状態である」という当代の社会情勢・価値観に対して一石を投じる考えを披露しています。また、「誰かの役に立てたということそれだけで精神的な意味報酬があるのに、それを自分がしたと名声や対価報酬を求めるのは極めて愚かである」という立場も表明しております。
・自然の法則に従うことが絶対であり、他人の幸福や自分の不運に感情を揺るがされるのは哲学的におかしいと問題提起します。他人に蔑まれてもそれは自然の法則的にはおかしな訳でそうせざるを得ない制約条件があったと理解・受け止めるべきとストア派哲学的な解釈を提唱します。
【所感】
・古代ギリシア~ローマの歴史と思想に興味関心が募っていた中で、本書に触れストア派哲学の考え方と合わせて学ぶことが出来たのは非常に良かったです。「禁欲的な生き様を通じて自然界の法則を体現せよ・我々は宇宙の一部である」という思想が根幹に脈々と流れており、一貫した主張が手を変え品を変え展開されていく本書の構成は非常に印象的でした。それだけ思想を徹底することや誘惑・俗に触れる場面が多いローマ皇帝という地位でのストア派哲学実践が大変であったことが伺えました。
・本書で度々言及される名誉や物理的な待遇・報酬とどのように折り合いをつけるかというのは人間が社会的な生き物であり欲深いからこそ永遠のテーマであるように感じていて、後世においてもプロテスタンティズムの倫理として個別論点化されたり、古代ギリシア哲学では「善く生きるとは?」というテーマで多くの哲学者が論争をするなどのものです。「言うは易く行うは難し」の典型例と感じており、多くの哲学者や歴史が当テーマについて言及・考察しているので引き続き読み進めながら理解を深めたいと感じました。
以上となります!