雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪法の精神 第三部≫

今回はモンテスキュー「法の精神」を要約その3となります。

ここから「法の精神(中)」になります。第三部は「風土の性質が法律に与える影響」について言及していくパートになります。

※参考 過去の要約※

■要約≪法の精神 第一部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第二部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

■法の精神(上)

■ジャンル:政治学

■読破難易度:低~中(明快な文体なのでとても読みやすいです。ただし、古代ローマギリシアの歴史の引用が多い為、周辺知識が足りないと部分部分で置いてきぼりになるかもしれません。)

■対象者:・世界の統治体制の歴史について興味関心のある方

     ・政治と法律の関係性について興味関心のある方

     ・立法・行政・司法の役割について理解を深めたい方

 

【要約】

「風土や気候が人間の資質に影響をするとすればその政体で運用される法律にも何等か関係があるのではないか?」という観点が第三部の根底にある思想です。

・「快楽に対する許容度合いは寒暖で大きく異なり、オペラを見た際にイギリス公演とイタリア公演では感覚が全然違った」というモンテスキューの経験論から歴史を借用して論が展開されていきます。※当時はヨーロッパ以外の地域に関する知識流入経路が限定的であった為、アジア地域に関する考察は無茶苦茶な暴論もあることは否めません。

 

奴隷制度について

奴隷制による判断を阻害するため、奴隷にとっても雇用主にとっても良くないものとされます。貴族制君主制など「徳による政治判断」が重要な政体においては国の判断軸を阻害するため、絶対にマッチしないとされます。

・奴隷身分は「身分差別が存在し、恒常的に戦争に備えること」を大義名分とする時代・政体の下にしか成立しえないとされます。※経済発展の為に進んで奴隷供給を行ったアメリカ大陸の各国もあるので、ここは難しいテーマです。

 

■家内奴隷制について

・中東~東アジアの世界では男女の格差を助長するような慣習・法制度がこの時代はあるとされました。一夫多妻制男尊女卑が前提に組み込まれた社会システムの存在などをモンテスキューは指摘します。「正当な倫理観や道徳の成立を阻害する慣習や制度は望ましくない」とされます。※人類全体の権利最大活用や効用最大化といった視座視界での判断軸が垣間見えます。

 

■土地の性質と法律の関係について

肥沃な土地を有する国定住を志向し、是が非でも本国の領土を守ろうとするものです。一方、本国の土地が肥沃ではない地域では侵略意識が否応なしに助長されうるものであると民族間の歴史を引用することで説明を試みます。(ロシアやモンゴルを想定して記述しています。)

・島の人民は大陸の人民に比べて天然要塞を有しており、ベースの国防能力が高く天然資源を最大限活用して富を反映させることが出来る為、自由を志向する性質が強いとされます。※イギリスや日本、新興勢力のアメリカ大陸などを想定してモンテスキューが記述していることが伺えます。

 

■習俗・生活形式と法律の関係について

・「装飾や流行は人間生活においてより親和を得たり、自己の重要感を得る為に行われるもので、この欲望があらゆるビジネスを促進するので、推奨されるべき」とモンテスキューは経済学的観点から結論付けています。

労働自由に関する解釈は国や風土による差が大きいです。「労働をしているということは神への禁欲的精神の表出であるので、望ましい(プロテスタント的解釈)」とする国もあれば「労働は下層階級のする仕事であり極力怠慢をしており精神的な自由を持つ方がいい(カトリック的解釈)」と考える国もあります。キリスト教はその宗教の性質故に、「信仰する人が一つになることを推奨する思考形態であり、君主制や民主制などの政体と相性の良い宗教」とされます。

 

 

【所感】

「道徳が成立する所に法律は存在し、徳による政治が成立する。これを阻害する要因と仕組みについて分析し、法のあるべき立ち位置を明らかにする。」という壮大な本書の思想が垣間見えるパートでした。

・また、歴史や地域差を比較することで「話し合いによる利害関係を調停することが資源の配分・活用の観点から見て最善であることは間違いないが、人類の歴史の大半は暴力や権力・権威に働きかけるものが大半であり、話し合いによる調停は一定の知性と道徳観が成立に必要であった」ということを明らかにしようとしている思想が強いです。

・宗教と法律の関係の記述などから、「自由であるということは歴史において長らく支配をする側の難易度を上げる為、よくないとされてきた中で、自由主義・権利平等の原則により生産活動の最大化・精神的充足(自己実現)機会の追求ということが目指されるようになったのは最近の価値観である」ということがわかったのは大きな発見でした。

 

以上となります!

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