雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪国際政治 権力と平和(中)≫

今回はモーゲンソー氏著の「国際政治 権力と平和(中)」を要約していきます。本書は国際政治の古典と名高い著書であり、政治は常に権力闘争であるという命題や国家の外交に「力」と「国益」という概念を導入してこそ平和が得られると主張し、後世の社会科学や政治に大きな影響を与えました。中巻ではバランス・オブ・パワーの理論・国際法第三世界に関する考察を中心に展開されます。

 

「国際政治 権力と平和(中)」

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■読破難易度:中(世界史・政治・経済の最低限の知識がないと各論や具体例が全く追い付いていくことができず、読むのに苦労するかもしれません。)

■対象者:・国際政治・国際関係に関して体系的な理解を深めたい方

     ・歴史と社会科学(政治・経済)の関係性について理解を深めたい方

     ・国力の構成要素について理解を深めたい方・世界の列強諸国の特徴について興味関心のある方

 

※上巻の要約は下記※

■要約≪国際政治 権力と平和(上)≫ - 雑感

 

≪参考文献≫

■国の競争優位(上)(下)

■要約≪国の競争優位(上)≫ - 雑感

■要約≪国の競争優位(下)≫ - 雑感

 

■外交談判法

■要約≪外交談判法≫ - 雑感

 

■近代世界システム

■要約≪近代世界システムⅠ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅠ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅡ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅡ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅢ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅢ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅣ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪近代世界システムⅣ後編≫ - 雑感

 

【要約】

バランス・オブ・パワー

・国際関係は複雑な要素により、相互作用・目に見えない抑止・交渉力を常に発揮しているものです。あらゆる分野で様々な国が関係し、その依存関係や力関係は常に変化し続けるもので、それはまるで経済学で論じられる市場の競争原理のようなものです。三権分立や合議制などはこうした権力の相互作用の効果に着目した意思決定の質を高めるための仕組です。

・世界の歴史はイデオロギーや政策・宗教などの論点における対立構造が常に発生してきた流れを辿ります。仮想敵国や抑止の見せしめとしての同盟は近代の歴史で多数見受けられ、特にヨーロッパ世界では経済的・政治的・軍事的利害の一致による同盟が特に多数見られてきました。安定した環境下で政治・軍事・経済的なケイパビリティ増強に努める拡大再生産をするのが国力増強の理想の動きですが、絶え間ない関係各国の交渉により衝突は避けられないものであり、それを論点や抑止をどのようにするかは外交手腕で一定操作できるものとされます。国際関係は目に見えない相互作用・交渉の蓄積の結果であり、その結果戦争に辿り着く事例として三十年戦争スペイン継承戦争・二回の世界大戦を本書では例示します。

バランス・オブ・パワー第一次世界大戦までヨーロッパ社会が軸足でしたが、第二次世界大戦以後はソ連アメリが国際社会の中心をけん引していくこととなり、軸足はヨーロッパ社会ではなくなりました。バルカン半島は長らく文明の境目として、バランス・オブ・パワーの役割を果たしてきました。

 

■国際道義・国際法

・2回の世界大戦を経て、「戦争は防ぐべき」とする道徳が全世界に形成されました。道義に関する世論国際連盟国際連合を形成しました。また、民族自決国民国家が推進され、資本主義経済を邁進することで物質的に豊かな世界を追求できるというインセンティブも戦争抑止になったとさあれます。

・世界の潮流は王朝戦争から国民戦争になっており、イデオロギーを巡る戦争というある種の十字軍的な宗教戦争的な要素に回帰する流れを辿っています。人類は階級や血筋・言語や民族・宗教など人間は線引きをしてアイデンティティを明確にする・結託する志向性が強いです。モーゲンソーは朝鮮戦争ベトナム戦争イデオロギー対立の末の世界大戦代理戦争であったと主張します。

力による支配は軍事政権や専制政治等を招き中東やアフリカ・東欧諸国などで推奨される統治方法であり、法による支配は合議・権限分散・競争力学・ガバナンスなどをもたらし資本主義経済や立憲君主制・議院内閣制と相性が良いとされます。

国際司法裁判所・国連総会・安全保障理事会などの枠組みは国際法の執行・抑制力としての意味で機関を置くことそのものに意味があるとされます。国際司法裁判所は透明性や選出ロジックなどの観点からも安定性があり、ガバナンスに優れており慣習法を形成することに貢献しているとされます。国際法バランス・オブ・パワーと同様に「存在することそのもの」で目に見えない抑止力を働かせる作用があり、その一方で実効性に疑問が残るということも言えるようです。集団安全保障はバランス・オブ・パワーを崩しかねない争いを是正するために、三者集団が集団で組成して権利を行使・訴えることができる枠組みです。

国際連合憲章には平和破壊や各国の権利を侵害する営みには制裁ができるとしていますが、常任理事国による拒否権があり、多くの場合、常任理事国がこの利害において立場を異にするので拒否権で影響力を行使できないという皮肉があります。国際関係は資本主義経済による物質的に豊かな社会というインセンティブがあること・相互抑制という目に見えない抑止力や軍事だけでなく政治・経済面での争点を作るという形で分散化したことで平和を最優先とする気運・潮流が形成されています。

 

■新しいバランス・オブ・パワー

第二次世界大戦後はイギリス・アメリカ・ソ連が世界の潮流を形成して、過去の威厳から中国フランスもそこそこのポテンシャルとして扱われてきました。国の地位や影響力は時代によりバラバラですが、バランス・オブ・パワーという権力の国際均衡は第二次世界大戦を経て崩壊してしまいました。アメリカ・ソ連超大国として他と圧倒的な差を形成しました。

・国際関係は目に見えない均衡・闘争が付きものであり、ウォーラーステイン氏の近代世界システムが提唱するように、「全体の中のシステムのどの役割を担うかが時代や潮流により各国変わり続ける」ということです。軍事・外交・経済・食糧・資源など様々な分野で各国がバトルをしている構図になります。大航海時代帝国主義まで長らく続いてきた植民地フロンティアが消失した世界線第二次世界大戦以後の世界であり、政治的・軍事的支配ではなく、資本主義経済のゲームで国際展開・競争するという形の体現に変化しました。その結果、国防や外交・経済協定・要素技術開発に国が専念し、競争は民間主導でするという具合になりました。

 

■全面戦争

第一次世界大戦に至るまでは三十年戦争ナポレオン戦争以外は全面的な戦争ではなく、一部の利害関係の衝突の戦争が多かったです。中世のイタリア半島における傭兵隊長同士の捕虜獲得に向けた殺りくではない交渉や戦いなどがその代表例です。全面戦争はイデオロギーの対立(フランス革命戦争)・宗教対立(三十年戦争など)などであり、限定戦争は王位継承戦争(バラ戦争・スペイン王位継承戦争など)などがあります。全面戦争は大義と自己を同一化するという性質をもちます。

・20世紀になり、全面戦争になったのは政治的・軍事的・経済的コンテキストになり、利害関係者がほぼ国民全員になったということと軍隊の規模増大・戦争の機械化などが起因します。兵器・輸送・通信の機械化により、戦争に直接かかわる役割が増えた・高度化したということです。機械化殺戮能力の向上遠隔から攻撃できるようになったという戦略・戦術の抜本的な変化をもたらしました。

・機械の発達は陸上・海上だけでなく化学兵器や空軍という戦争の争点を生み出しました。ローマ帝国のように長期的に支配を高度に可能にするという支配は極めて限定的であり、様々な利害関係の条件が揃わないと成立しないものでした。印刷通信の高度化により、遠隔コミュニケーション情報の非対称性が支配⇔被支配で差分が生まれなくなり、被支配側に明確なインセンティブがないと支配が続かないという構図が成り立つようになりました。自己表現抵抗の手段の力関係の差分、暴力による支配が成立しなくなったというのが近代の歴史的転換点と言えます。

 

【所感】

・昔に比べて、現代では国の争点が政治・軍事・経済(ビジネス・金融)と多岐にわたって、平和維持こそが資本主義経済においては物質的に豊かな社会を促進するので、幸福度も上がるという文脈で正当化され、目に見えない政治や経済分野での交渉・衝突が中心となっているということなのだとよく理解できました。政治・経済の歴史の知識や理論が有機的に相互作用する様が本書を読むことで体感することができ、モーゲンソーが様々な視点から国際政治を論じている論の重厚さを感じることができます。

政治・道義・技術の革命によりヨーロッパが世界の中心にあることが完全に変化したとモーゲンソーは本書で説いており、それは米ソが世界の中心にあることやアジア・アフリカのヨーロッパと異なる路線で拡大していくことから読み解けるとします。こうした近代史に関する学問的な考察・歴史的必然性を説いている様が印象的で、現代の政治や経済・外交に関してもこうした複雑な論点が交錯する故の意思決定なんだということを考えさせられました。外交官外務大臣はあらゆる国の論点に精通し、交渉やシグナルを通じて国益に帰する動きをするという総合格闘技的な振る舞いが求められることがわかります。

 

以上となります!