雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ユーザビリティエンジニアリング≫

 

今回は「ユーザビリティエンジニアリング」を要約していきます。UXを構成するユーザビリティ(使い勝手)の設計・調査・評価を通じてUXデザインの実務を行う為の手法や具体的な手順を体系的にまとめた本です。モノで溢れる時代において、UXデザインはプロダクト開発における根幹をなす概念です。そのUXデザインの構成要素の大半はUIデザインユーザビリティで構成されるのですが、その後者に特化した内容です。

 

ユーザビリティエンジニアリング」

ユ-ザビリティエンジニアリング / 樽本 徹也【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

■ジャンル:IT・UXデザイン・マーケティング

■読破難易度:低~中(前知識不要で読むことが出来、非常に具体的な業務手順や心構えに関する記述が多いので読みやすいです。)

■対象者:・プロダクト開発・UXデザインに関わる方全般

     ・マーケティング・企画業務に隣接する知見を得たい方

     ・仮説検証・調査・分析などの一連の業務手順を心得たい方

 

≪参考文献≫

■リーン顧客開発(見込顧客選定~インタビュー実施を通じた仮説検証サイクル)

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの法則

■要約≪UXデザインの法則≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

ユーザビリティについて

・ISOによると、ユーザビリティとは製品が特定の目標を達成する際に用いられる際の効果・効率・ユーザーの満足度合いを指すとされます。「ユーザーが使う文脈に即しているか」・「最短ルートで快適・効率的に目的を果たす導線になっているかどうか」がユーザビリティエンジニアリングにおいて作りこむべきポイントとされます。

・全てのユーザーを満たすような製品設計は不可能で、必ず特定の属性のユーザーの行動や心理の傾向・価値観に即した、ユーザーに刺さるような細部の作りこみが欠かせなません。だからこそ、ユーザーインタビューやアンケート・ジャーニーマップを用いたプロダクト開発チームでの特定セグメントに関する情報・仮説の可視化を通じた共通認識形成をすることが求められます。ユーザーが接点を持つ分脈(タッチポイント)というものを事実からしっかり見立てて、プロダクト開発チームでコンセンサスをとるというステップを経ないと、立場の強いプロダクト開発メンバーの意向に機能開発が集約するという悲劇が起きてしまいます。それでは効果検証は適切にできないですし、プロダクトがマーケットに効果的に浸透して役割を果たしているのかもわかりません。UXデザインを検討する上においてはプロダクトを雇用するユーザー属性や場面、その背景に潜むペインや制約条件をしっかり理解し、ストーリーとして変遷を理解することが大事です。

 

■UXデザインと人間中心設計について

スターバックス・ディズニーランド・iPhoneなどは圧倒的な体験を生み出すUXデザインを事業の根幹に据えているプロダクトの典型例です。エクスペリエンスは競合優位を圧倒的につけてかつユーザーを継続利用させる一種の宗教のようなものであり、一貫したストーリーや細部の作りこみを丁寧に行って初めて実現できる世界です。製品やサービスなどの機能的な要素だけでは差別化が出来ずレッドオーシャンに陥ります。ブランドや体験により競合優位を形成することこそがプロダクトライフサイクルやLTVを拡大させるポイントであり、これを狙って行うことがUXデザインやプロダクトマネジメントのスコープです。UXは表層-骨格-構造-要件-戦略の5階層で構成されます。

・UXデザインを実現していく上では人間中心設計を遵守することが欠かせません。人間中心設計は調査-分析-設計-評価-改善-反復の6プロセスを経て行われます。この仮説検証・反復プロセスを遂行していく為にはITプロダクトの場合、必然的にアジャイル開発の形式で遂行する必要があり、プロダクトマネジメントの開発手法は必然的にUXデザインおよびアジャイル開発と共同関係にあるのです。UXデザインのスコープには利用前・利用中・利用後の3つ存在しており、「そこに付随する行動や心理の変遷を狙って設計すること」が具体的な狙いとなります。具体的には「利用状況の理解」・「ユーザー要求の明示」・「解決策の作成」・「設計の評価」という4つの行動を反復的に行うことになります。

 

ユーザビリティエンジニアリングを行う為の調査・分析・設計手法

・想定顧客に該当するユーザーへのインタビュー(フォーカスインタビュー・グループインタビュー)行動観察(コンテクスチュアㇽ・インクワイアリー)は代表的なユーザビリティエンジニアリングを行う為に活用する手法です。ポイントはユーザーの声をそのまま受け入れるのではなく、その背景にある心理や行動・制約条件を紐解くことが重要な点です。なぜならユーザーの声とは自分自身の体験を自分で分析したに過ぎないからです。ユーザー対峙する上での基本スタンスはユーザーは教えるのが下手であり、「要約して話をする」・「話が不完全」・「例外を除外する」などまるで気難しい師匠のような形式をとるのが一般的ということを心得ておくことです。

・仮説検証にふさわしいユーザーを抽出してインタビューした後は適切な考察・分析をする為に、「バックログから要点を抽出し時系列や業務フローの塊毎に再整理すること」が必要になります。その際には文化人類学のフィールドワーク手法として発達したKJ法が有効とされており、KJ法のミソは「図示化・可視化してグルーピングするステップそのものにある」と著者は断定します。文章の塊を何度も読み、「重要な個所を短い文書に抽出してカード化していく」のが第一ステップです。第二ステップは「似たようなカードをまとめて見出しをつけてグルーピングする」というもので、第三ステップは「グループ間の因果関係や前後関係などを図示化して構造を整理する」というものです。こうしてストーリーを編み直していく中で検証しないといけない問いや論点を炙り出していくことKJ法を行う妙とされており、UXデザインに大きな示唆を与えるプロセスです。

・大前提として、プロダクトは顧客の問題を解決して収支に合うような形で運営していくことが必須条件です。その為、想定ソリューションや機能開発は「ビジネスとして成立するか?(収支に合うか・マーケットポテンシャルが一定あるか・お金を払ってでも解決したいペインか・魅力的なゲインか)」という観点の問いを立てて検証することは怠ってはいけません。なので、ビジネスモデルキャンパスリーンキャンバスなどの事業開発分野のフレームやペルソナジャーニーマップなどのマーケティング分野のフレームを駆使して情報を整理しプロダクト開発チームで共通認識を整理し続けることが大切とされます。

 

【所感】

・要約記載箇所以外にプロトタイプ作成・ヒューリスティック評価・ユーザーテストの設計~実施~分析なども本書には記載がなされていますが、膨大になるので割愛しました。興味を持たれた方はぜひ直接手に取り読んでいただけると良いかと。

・本書内容はUXデザインやプロダクトマネジメントの書籍にて言及されてきた概念のおさらいであると共に、具体的な実務に落とし込むと何をするのか・何を気をつけないといけないのかが大変わかりやすく記述してあり当該分野の定番書と名高いだけあるなと感じました。マーケティングイノベーションを狙って行う為に、出来るだけ確率を高める手法としてUXデザインやプロダクトマネジメント分野の理論やフレームがあるのだなと再認識した次第です。「守・破・離」の概念のようにまずは理論に忠実に思考し、活用して経験や知見を得ながら場面や文脈に応じて自分なりのアレンジを加えていきながらスキルセットしていくのが望ましい分野なのだろうと納得しました。ビジネスモデルキャンバス・リーンキャンバスに関してはまとまって勉強したり、実際に手を動かして記述したことがあまりなかったのでこの際取り組んでみようと思った次第です。

・意外だったのはユーザーインタビュー・行動観察・調査分析などのステップにおける要点は自分自身が長年やってきた営業職や組織マネジメントにおける知見と通じる所があり、意外な応用分野があるものだと感じました。それだけ顧客接点をとり、顧客起点で物を考えたり情報編集をする営業職が基本でありながらポータブルなスキルなのだということもわかりました。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語3≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。3は「ハンニバル戦記」の上中巻の上巻であり、上巻はローマがイタリア半島を統一してからシチリア半島の領有権を巡り、北アフリカカルタゴポエニ戦争を繰り広げる様を記述しています。主に紀元前264年~219年のローマの動向を描いており、第一次ポエニ戦争に勝利し事後のローマ周辺地域の統治体制の構築までを描きます。

 

ローマ人の物語3」

ローマ人の物語3 に対する画像結果

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

      ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

ローマ人の物語1・2は下記※

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語2≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■第一次ポエニ戦役(紀元前264~241年)

ポエニ戦争以前のシチリア半島はローマの息がかかったギリシア系都市とカルタゴ直轄領が相まみえる構図にありました。カルタゴアテネ衰退以後、海運と海軍をもって地中海世界を制圧するほどの権力を有しており、ローマ同盟は対決を余儀なくされていました。シラクサメッシーナを巡る支配権で対立し、ローマとカルタゴは代理戦争のような形で衝突をします。ローマは元々内陸の戦いで功績を挙げて拡大した陸軍中心の文明でしたが、カルタゴとの戦いの中で海軍を拡大させる必要に迫られました。五段層軍船と呼ばれる大規模な船を使いこなしたカルタゴに対して、戦争勃発当初のローマは三段層軍船を小規模に持ち合わせる程度の軍備でした。ローマはカルタゴとの戦争の中で敵の技術を盗み、ボート訓練のようなことを市民に課して無理やり兵力増強をしていくことになりました。「細部に執着せず、優れたものを取り入れる」を徹底する様がローマの競争優位の源泉とされており、後にギリシア語やギリシア哲学を取り入れて文化基盤を整備するのも同様の流れを取りました。

・ローマと対決するカルタゴは通商(海運)・海軍・農園経営に優れた北アフリカの文明であり、傭兵を柔軟に活用しながら戦いを繰り広げる性質がありました。ポエニ戦争初期はスパルタ人の傭兵隊長クサンティッポが指揮をとり、スパルタ式の軍隊組織にカルタゴを仕上げて備え、その後はハンニバルの父親にあたるフェニキア人のハミルカルが台頭し指揮をとる流れを取りました。カルタゴ国内はイタリア半島進出派アフリカ大陸支配強化派に二分しており、うまく政治統率がなされていませんでした。マルサラ、トラパニといったシチリア半島の要所をローマに落とされたことを踏まえ、ローマ執政官カトゥルスとハミルカル講和条約が結ばれました。そうした流れで紀元前241年に第一次ポエニ戦役は終結を迎えることになります。カルタゴは約400年統治してきたシチリア半島から完全撤退をして、地中海の覇権はエジプト・シリア・マケドニア・ローマ・カルタゴが群雄割拠する構図になりました。

 

■第一次ポエニ戦役後(紀元前241年~219年)

カルタゴは傭兵に兵力調達を頼っていたので、敗戦を受けた傭兵の報酬対応に不満をもった傭兵の反乱に約4年程苦しめられることになります。このタイミングでサルデーニャ島がどさくさに紛れてカルタゴ支配から独立し、ローマ傘下に入ることに成功しました。カルタゴの将軍ハミルカルは息子ハンニバルをつれて海外領土拡大を目指してジブラルタル海峡を渡りスペイン支配下におさめました。ハミルカルはスペインの鉱山と農園を巧みに経営して領土を拡大していくことに成功し、以後カルタゴハミルカルが指導者となり、10年がかりでスペイン南部の植民地化に成功しました。

※この基盤が第二次ポエニ戦争勃発時の重要拠点になるのでした。

・この時代のローマは植民市の影響もあり、ギリシア文化への傾倒を進める動きがあり、有識者はこぞってギリシア語やギリシア哲学を学んだとされます。ローマという文明の特殊な所は素直に周囲の文明のすぐれている所を受け入れ、ナンバーワン・オンリーワンであることに拘らないことや周囲とのコミュニケーションに重きを置くところにあったとされます。国内のギリシア熱の高まりを利用して、ローマ帝国ポエニ戦争で獲得したシチリア半島のギリシア都市をうまく取り込むことに成功しました。「法律や道路を共有化し、ローマ市民という権利をもってそれぞれの色を尊重しながらローマ帝国の傘下にしていく」という絶妙なマネジメントシステムを構築していくことがローマの凄い所とされます。兵役や納税の義務は背負わせながらランクをつけて適度に間接マネジメントするということで広大な領土に大規模な反乱を起こさせることなく、存続させる仕組みを構築しました。シチリア半島と同盟を結んだことでシチリア産の小麦がローマ帝国領土内で流通するようになり、ローマの小麦生産の競争力は低下し農地はブドウやオリーブ畑に変容しました。

 

【所感】

・世界史の教科書ではわずか数行で記述されるポエニ戦争前後の動乱期を緻密に記述されており、非常に面白いです。じわじわとローマがイタリア半島および周辺領土を攻略していき、ローマ同盟・ローマ市民法により間接統治していき強大なシステムを構築していく様は圧巻です。カルタゴとの対比として傭兵の活用有無何を賞罰するかなどの違いはギリシアや他の政体とローマの違いということで、マキャベリの「君主論」やクラウゼヴィッツの「戦争論」でも記述があった内容だなーと読みながら感じた次第です。

・俗人化せず、仕組みで問題を解決する・特定個人に極力頼らない(裁量を与えない)ことで長期的に安定的な統治体制(専制政治の危険因子を生まない)という徹底した様は共和政ローマが栄華を誇る時代に一貫して見られる傾向であり、これは現代の組織運営においても同様のことが言えるよなと感じました。「俗人化や人に頼るということ」は瞬間的には楽で当事者は快感を示すものですが、本質的な問題解決にはならず、人間が極力プロセスに介在することはボラティリティをうむということであり人間中心の世界でありながら、極力人間に頼らない運営体制の在り方を模索する(サービスのプロダクト化)と似たようなことが言えると思った次第です。そのエッセンス・絶妙なバランス感覚の模範としてローマの政治体制は参考になるなと感じた次第です。歴史や学問に法則や教訓を見出すとはまさにこのことと思った次第でした。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語2≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。2は「ローマは一日にして成らず」の上下巻の下巻であり、上巻に引き続きギリシア文明の栄衰と比較する形で紀元前5世紀~紀元前3世紀の共和政ローマの時代をまとめています。

 

ローマ人の物語2」

『ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下) (新潮文庫)』(塩野七生)の感想(201レビュー) - ブクログ

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

      ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

ローマ人の物語1は下記※

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■紀元前5世紀頃の地中海世界について

共和政ローマ元老院議員が視察した頃のアテネはキモンが陶片追放されペリクレスが実権を握っていました。ペリクレスクレイステネスが構築した直接民主政の基盤を維持拡大し、アクロポリス再建劇場入場料無料化など内政安定化に努めました。三十年間、国家戦略担当官に選ばれ、長らく議長を努めたのはその政治手腕の凄さを物語ります。この時代は文化振興にも務め、当代のアテネギリシア哲学は大幅に発達しましたし、スパルタを仮想敵国にした海軍整備も欠かさませんでした。アテネと覇権を争った軍事国家であるスパルタの動きも観察した上で、ローマはアテネ・スパルタいずれとも異なる政体を採用していく意思決定をしていくことになります。というのも、精神の自由がなく、発展しようがないスパルタの統治手法は参考程度にとどめ、アテネの民主政も優れた統治者あってのかなり難易度の高いものと解釈したのです。

・尚、ローマ元老院議員視察終了後のギリシア世界はアテネとスパルタのペロポネソス戦争が勃発しました。アテネペリクレスが病死して衆愚政治局面を迎えており、この時代の政治はアルキビアデスクリティアスなどソクラテスの弟子陶片追放されないように配慮しながら実質的な独裁政治をしていました。参考までに、このペロポネソス戦争時期にソクラテスプラトンは活躍したとされます。ペロポネソス戦争でスパルタが勝利したあとはテーベが政体を引継ぎ、紀元前350年頃にはマケドニアギリシア世界の覇権を占めるようになりました。東方遠征を繰り広げギリシア世界の覇権を握ったアレクサンドロス大王誕生もこの時代です。

 

■貴族VS平民の階級闘争

・紀元前360年頃までのローマは貴族対平民の争いが絶えない不安定な政治体制であした。任期1年のコンスル(執政官)で優れた統治をするとなると相応のスキルと経験を有していないといけなく、結局は「優れた名家の元老院議員が執政官の座席を占める」という状態が自然発生しました。これが長期間続き執政官と元老院は癒着するようになり、民集会VS元老院・執政官という構図になりこれは詰まる所、「貴族VS平民」という身分闘争局面を迎えました。硬直状態が続き、「平民の利害を尊重すること」をミッションとした護民官という役職がローマ政治機構に制定され、状態は改善します。

・この時代の平民の権利主張のテーマは成文法でした。当時のローマ法は口頭伝達が主流であり、「蓄積のある貴族階級に有利な法取引ではないか?」という仮説から成文化が志向されていました。ギリシア使節団が主体となり成文法委員会が創設され草案を作ることになりましたが、平民との対決路線を明確にしていたクラウディウスが成文法の指揮をしたことで十二表法は平民の期待とは全く違う法律となりました。

 

ケルト族(ガリア人)の脅威

南ヨーロッパは畑や牧畜業、海上貿易などをしていましたが、北ヨーロッパは森が生い茂り未開拓でした。北ヨーロッパ地域は主にケルト族(ガリア人)が覇権を占めており、紀元前6世紀頃からケルト族の南下は始まり次第にローマの脅威に変容しました。元々ケルト族とはエトルリアが敵対していましたが、ローマがエトルリアを攻略し自国に取り込む紀元前4世紀頃にはケルト族とローマは直接対決路線になりました。エトルリアを攻略し兵力が摩耗しており貴族階級と平民階級の衝突がたえない中でローマはケルト族の侵略を受け手紀元前391年頃に約半年ローマは服従されることになりました。ケルト族は都市の扱い方を知らなかったので占領後持て余してしまうことになり、結局は金を引き換えにケルト族に撤退してもらうことに成功しました。その後のローマ統治は追放されていたカルミスを連れ戻し、独裁官に任命して強い軍隊を再構築しました。ケルト族の襲来は強い軍備構築の必要性、名誉回復、周辺地域マネジメントなど様々な発明の種をもたらしました。

 

共和政ローマイタリア半島中部を制圧するまで

共和政ローマケルト族の侵略から学び周辺諸国とのローマ同盟(旧ラテン同盟)構築に奔走するようになります。ローマ市民権の有無などでセグメントをきり、植民市を大量に構築していき国防増強に努めました。植民市を序列と権利(ローマ市民権の有無)で区分し、アッピア街道などを始めとした公道でつなぐことで強大な土地を支配するマネジメントシステムを構築しました。紀元前3世紀~1世紀の間にローマ帝国は大量の道路上下水道が整備されるようになりました。サムニウム族と呼ばれる山賊集団、ターラントと呼ばれるイタリア半島南部のギリシア系都市を征服しローマの領土が広大化していきます。

 

【所感】

・世界史の教科書ではあっさり記述される時代をギリシア文明との対比でまとめており非常に面白く読むことが出来ました。ローマ法・植民市などを基盤とした中央集権的な政治システムを自力で構築したローマ文明の偉大さが垣間見える内容でした。ローマについて本書で学びながら、同時にギリシア文明についてもより深く学びたいと思える内容でして、アレクサンドロス大王の東方遠征を真似して東ローマ帝国ビザンツ帝国オスマン帝国と同様の思想を有した帝国がバルカン半島小アジア地域に形成される歴史的必然性も垣間見えました。

キリスト教が発達する以前のヨーロッパ社会というのは非常にシンプルな統治システム・文化であり読みやすいのも好印象でした。ローマ人盛衰原因論で大まかな概略を理解していたので、本書の考察はとてもわかりやすく感じました。

 

以上となります!

■要約≪UXデザインの法則≫

 

今回はJon Yablonskiの「UXデザインの法則」を要約していきます。「UXデザインの教科書」と並んで、近年出版されたUXデザイン本の中でも重要本として度々参照される名著です。心理学の原則を用いて効果的なユーザー体験を狙って創出する為に抑えるべき法則と事例をまとめた本です。ややUIデザインに内容が寄っていますが、非常にわかりやすく初学者にもオススメです。

 

「UXデザインの法則」

UXデザインの法則 最高のプロダクトとサービスを支える心理学 | Ohmsha

■ジャンル:IT・UXデザイン・心理学

■読破難易度:低(UXデザインの基礎がなくとも感覚的に理解できる法則が列挙されているので読むこと自体はとても簡単です)

■対象者:・UXデザインと心理学の関係性に興味関心のある方

     ・快適・簡単な体験価値に興味関心のある方

     ・ITプロダクト・サービス提供者全般

≪参考文献≫

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■影響力の武器

※要約ブログ無※

 

【要約】

・本書ではUXデザインにおいて抑えるべき心理学の原則として10個参照されており、重要論点化されています。その上で、原則を活用した効果的なUXデザインを行う為のプロダクト開発チームのリード方法についても言及されています。

 

ヤコブの法則

・「ユーザーは他のサイトで多くの時間を費やしているので、あなたのサイトにもそれと同じ挙動をするように期待している」というものです。ユーザーは既に取得しているメンタルモデルに沿ったユーザー体験を感覚的に要望するもので、そのメンタルモデルに適応することで認知コストを下げ効果的にデリバリーすることが可能になります。プロダクトデザイン変更時の衝撃を最小限にするには漸進的かつ移行期間を設けるようにするのが良いとされます。

ヤコブというUXデザイナーにより2000年に提唱された概念であり、「こうあるべき」という自然なメンタルモデルを尊重すること、その背景にある価値観を形成する文化や行動規範に理解を示すことはUXデザイナーとしての絶対感覚になります。

 

■フィッツの法則

「ターゲットに至るまでの時間はターゲットの大きさと近さで決まる」というものです。タッチターゲットはユーザーが簡単に押せるだけの大きさにないと機能せず、タッチターゲット間は十分な感覚をもつこと・インターフェース内で簡単に到達できる場所に置いておくことが効果的なユーザー体験に欠かせません。

・使いやすく、労力を有さない導線を引くことはUXデザインの効果を最大化する為に欠かせない概念です。タッチターゲットの効率性は「ユーザーがどのような文脈でプロダクト接点を持つか」により、それは想定ユーザーの価値基準や行動・心理の変遷を理解していくことなしには出来ないものです。

 

■ヒックの法則

「意思決定にとりうる時間は選択肢の多さと複雑さで決まる」というものです。

・タスクが複雑である場合、小さなタスクに分解して効果的にユーザー体験を進んでいくようにデザインすることが望ましいとされます。また、選択肢が多く煩雑にせざるを得ない場合はオススメの選択肢を際立たせるなどの工夫が必要となります。プロダクト体験は段階的なオンボーディングを採用することで、認知コストや負荷がかからないように導線設計することがプロダクトの継続利用やLTVを高めるためのUI/UXデザインで果たすべき役割と言えます。

 

■ミラーの法則

「普通の人が短期記憶に保持できるのは7(+/-)2まで」というものです。

・ワーキングメモリで情報処理出来る量はせいぜい7つの塊に過ぎず、それ以上の記憶を必要とするプロダクトデザインは正しく情報認知出来ないので、意味をなさないとされます。電話番号などが代表例で、意図して塊をつくることにより記憶を容易にするという術が有効で、これは人間の脳構造に忠実にした情報伝達理論と呼べます。見出し改行重要テーマに下線や網掛けをするなどのテクニックもミラーの法則に忠実と言えるようです。

 

■ポステルの法則

・「出力は厳密に、入力は寛容に」というものです。

・ユーザーが採りうるアクション・入力しうる情報全てに対して受け入れる体制を整えることが効果的なユーザー体験の絶対原則です。信頼性高くアクセス可能なインターフェースでありながら、ユーザーが採りうるアクション全てに対してのリアクションや受身を設計することがプロダクト供給者に求められる感覚です。

 

■ピークエンドの法則

・「経験についての評価は全体の総和や平均ではなく、ピーク時と終了時にどう感じたかで決まる」というものです。

・UXデザインにおいてユーザージャーニーのピークとラストはしっかり把握して作りこむことがプロダクト価値を高める為に絶対にやらないといけないステップです。ユーザーに理解され、受け入れられ使い続けてもらってプロダクトはなんぼなので、「楽しい・快適な体験を経る」ということは常に頭の片隅においておくべき観点です。「人はポジティブな経験よりも一つのネガティブな経験のほうが何度も反芻して印象に残る心理メカニズムである」ということを意識して細部を作りこむ(二度目はないというシビアさ)が必要になります。

 

■美的ユーザビリティ効果

「見た目が美しいデザインはより使いやすいと感じられるようになる」、というものです。

ユーザビリティ美的な整合性というのは感覚的な体験価値を高めるものであり、初期離脱を防ぎユーザーオンボーディングの上でデジタルプロダクトでは絶対に抑えておかないといけない概念となります。これは脳が持つ自動処理作用故であり、枝葉に見えてもデザインや美的な整合性をとるというのは情報伝達効率を高める上で絶対に留意しないといけない概念です。

 

■フォン・レストルフ効果

・「似たものが並んでいるとその中で他と異なるものは印象に残りやすい」というものです。

コントラスト効果を用いて適切に情報伝達をする技術ですが、UXデザインの大原則は人間中心設計なので色に頼り特定の人に配慮しない・過剰に色を使いすぎて広告のようにミスリードするなどはないようにするのが基本原則です。「視線を適切に誘導すること」が快適かつ効果的な体験価値をもたらします。その為には色・形・配列・因果関係などに細心の注意を払い統一感が出るようにすることが不可欠です。

 

■テスラーの法則

「どんなシステムにもそれ以上減らすことの出来ない複雑性が存在する」というものであり、複雑性保存の法則とも呼ばれます。

・どんなプロセスも複雑性を除くことが出来ないものがあり、それはシステムやユーザーのどちらかが負います。原則、出来る限りシステムで負うように設計するのがUXデザインの基本原則です。その一方で、シンプルにしすぎてインターフェースが抽象的になっていないかを注視する必要もあります。

 

■ドハティの閾値

・「応答が0.4秒以内のとき、コンピューターとユーザーの双方が最も生産的になる」というものです。

体感性能を改善し待ち時間を減らすことでユーザビリティを担保することはUXデザインの目的に即した作り込みです。アニメーションをいれて待ち時間に対するユーザーフィードバックを施すことは体験価値を担保するのに効果的とされます。プログレスバーのような進捗可視化はユーザーの感覚的な体験を担保しイライラを最小化し、ユーザー定着に寄与します。待ち時間は長くなるが積み重なるとユーザー離脱を助長します。

 

【所感】

・本書で参照される原則はUI/UXデザインは勿論、コミュニケーションの技法としても留意すべき概念であり非常に応用性が高いように感じられました。ITプロダクトが社会に占める影響力が増えている中でこうした法則を遵守しながら、「ユーザーをミスリードしない」・「定着時間やLTVを稼ぐためだけに濫用しない」などの倫理観も重要であるように感じました。

・プロダクト開発においてUXデザインが根幹を成し、原則や理論を参照しながら共通認識を持ち「続ける」ようにフレームや特有のステップを遵守して開発を進めるというのはどの本にも書かれており大事な概念であるということを改めて認識できました。本書はサービス・プロダクト開発の現場で何度も参照しながら定着していく概念のように思えたので、折に触れて読み返してみたいと思います。

 

以上となります!

■要約≪ユーザーストーリーマッピング≫

 

今回はJeff Patton著の「ユーザーストーリーマッピングを要約していきます。本書はプロダクトマネジメントアジャイル開発・UXデザイン分野において重要書籍に位置付けられており、ユーザーストーリーに関する体系だった理論・活用方法をまとめた内容となっております。ユーザーストーリーと呼ばれる「プロダクトを実際に利用するエンドユーザーに何を提供するのか・その目的は何かを簡潔に書く要件定義書」を時系列・優先順位別に配列した可視化ツールがユーザーストーリーマッピングとなります。

 

「ユーザーストーリーマッピング

楽天ブックス: ユーザーストーリーマッピング - Jeff Patton - 9784873117324 : 本

■ジャンル:開発管理・IT・UXデザイン

■読破難易度:低~中(アジャイル開発・UXデザイン・プロダクトマネジメントいずれかの基礎的な知識をもった上で読むことをおすすめします)

■対象者:・ジャーニーマップを用いた効果的な機能開発・仮説検証方法の理解を深めたい方

     ・プロダクト関連職種に従事する方全般

     ・専門性・役割の異なるチームを率いて不確実性を解いていく役割を担う方

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメント ビルドトラップ

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

カイゼン・ジャーニー

■要約≪カイゼン・ジャーニー≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■ユーザーストーリーマッピングについて

・ユーザーストーリーマッピング製品開発UXデザイン業務要件定義の場で共通理解を深め効果的にサービスや製品開発をするための手法であり、発案者自身が本書を著しました。詰まる所、ユーザーストーリーマッピングアジャイル開発を成立させ、生産性高く問題解決・課題設定する見取り図です。機能開発に終始することなく、漂流アジャイルにならないように優先順位付け、ロードマップ推進に不可欠です。ユーザーストーリーマッピングはビジネスアナリスト・プロダクトマネージャー・UXデザイナーが主に作成するフレームですが、有効活用するのはエンジニアも含まれる訳で実際のアウトプットは大量のポストイットを用いた地図・模型のようなものです。

 

■ユーザーストーリーに関する大原則

「ストーリーを作る目的は良いストーリーを書くことではない」

「製品開発の目標は製品を作ることではない」

という重要二原則がUXデザインおよびソフトウェアエンジニアリングの世界におけるユーザーストーリーマッピングを活用する目的です。プロダクト開発を通じて、「顧客の課題を解決し、その結果得たいアウトカムに向けて機能開発をするのであり、現実の顧客やプロダクトが対峙する市場を現実直視しないことにはソリューションの善し悪しや優先順位付けもくそもない」のです。

・ユーザーストーリーマッピングは「デザイナー・エンジニア・PdMが一つのものを同じ目線で見て伝言ゲームによる情報誤伝達を最大限避けること」に有効になります。共通理解を保ち続けることはプロダクト開発において重要であり、そのずれないようにするためのステークホルダーマネジメントやフレーム活用を徹底することは軽微なように見えて非常に大事な組織マネジメントの基本原則なのです。価値観や専門性の異なる人材の知見を結集し、部分利害で相反しないようにする為にはグランドルールやビジョンを策定し、ロードマップに忠実に意思決定「し続ける」ことが大事になります。その為に「平易な言葉を使うこと」・「ストーリーを共有すること」・「意思決定の価値基準を共有すること」・「図示化・定量化すること」などを怠らないことが重要になります。

 

■ユーザーストーリーを活用して早く効果的に組織学習するには

・プロダクト開発・仮説検証においては「顧客は既存の解決策としてどんなものを試みており、既存の解決策ではどのように具合が悪いのか?(新製品やソリューションが入り込む余地があるのか)」をその前後の行動や心理の変遷・制約条件を理解しながら把握していくことを怠ってはなりません。顧客やユーザーは自分達が何を求めているか・どのような意思決定プロセスを経ているかわかっていないですし、プロダクト開発に従事するものはなおさらです。謙虚に行動や心理を解釈し続ける、適切な問いを立て続けるというのを怠ってはなりません。「すべては顧客起点である」というのがプロダクト開発に纏わるフレームワークやお作法を守ることに込められています。

※プロダクト開発をしていると技術ドリブンな意思決定や機能開発の各論遂行に議論が終始するというのが自然と陥ってしまうものです。そうならないように「大目的や方針に忠実に優先順位付け・意思決定「し続ける」を保つためのツールや思考プロセス」活用が最も効果的なのです。

 

■実顧客・ユーザーを理解することの大切さ

・顧客とユーザーを理解する為にペルソナを描き、「どんな問題を抱えていて、どうなりたいのか」・「既存の解決策では解決できないペインは何か」・「それは自社で実現可能であり、ビジネス収支にも適合するのか?」といった問いを立てることは優れたアジャイル開発をしていく上で欠かせません。ユーザーインタビューアンケート行動観測などから生み出された「確からしい事実をベースにインサイトを構築していくステップ、および関係者が同じ絵を見てアイデアを発散させるステップなどを面倒でも経て共通理解を深めていくこと」は必要になります。感覚や思い込みを排除し、存在するペインに対してソリューションを作りこむというステップを踏むことは後々要件がぶれたり路頭に迷うことなくプロダクト開発の仮説検証を進める為に必要になります。

・ユーザーストーリーマッピングと補完関係にあるフレームとしてリーンキャンバスジャーニーマップがあり、適宜活用してプロダクト開発チームの共通認識を揃えることやビジネス収支を満たしているか把握し続けることが重要と本書では推奨されています。

 

■デザイン思考について

・デザイン思考の第一歩は「共感」であり、ユーザーが何を求めているのか・ゴールは何かを実顧客へのインタビュー、行動観察を通じて構造理解するプロセスを指します。ユーザー文脈を理解した上で複数のストーリーを抽出・吟味してスコープ含めて企画開発の範囲「定義」するのが第二ステップです。その上でユーザーペインやゲインを複数洗い出し、効果的なソリューションの「アイデア創出」と呼ばれる拡散行為を行います。これは実現可能性やインパクトなどのオプション毎の比較検討をして吟味・選定していくものであり戦略策定やロジックツリー策定プロセスに近しいものです。ソリューションが決まったら「それが想定ユーザーに即した導線に設計し、仮説は狙い通り刺さるのか?」を検証する必要がありMVP開発による「プロトタイプ」作成が発生します。プロトタイプは重要仮説をもれなく検証する必要があり、UXデザインの基本である人間中心設計を心掛け認知コストの低下や情報伝達効率を高める必要があります。プロトタイプ作成後は「テスト」による仮説検証が不可欠でありABテストやKPI、KGI設計をしてモニタリング体制整備するのが基本のステップです。これら5つのステップを踏むデザイン思考は企画やプロダクトマネジメントの思考法そのものです。

 

【所感】

・本書はユーザーストーリーマッピングのフレーム解説にとどまらず、周辺領域におけるプロダクト開発チームのマネジメント方法や効果的な議論を進める上で遵守すべきお作法にも言及しており、UXデザインやプロダクトマネジメントアジャイル開発についても大きな示唆を与える内容でした。関連書籍を集中的に読み漁る中で言わんとしていることが善く理解でき非常に勉強になった本です。

・検証プロセスや問い・論点・価値基準などを可視化して共通認識を持ち「続ける」ことがプロダクト開発チームの生産性を左右するということ、それと同時にこれを実際に行い続けることが如何に難しいのかということを思い知らされる内容でした。基本に忠実にしつこいくらい現状把握・合意形成をし続けることが大事というのはプロジェクトワークや不確実性に対峙する専門組織にも通じるものと感じました。

 

以上となります!

■要約≪戦争論(下)≫

 

今回はクラウゼヴィッツ氏の戦争論を要約していきます。クラウゼヴィッツプロイセンの軍人で、ナポレオン一世がヨーロッパ大陸を席巻した時代を生きた将帥兼軍事学者です。本書は孫子と並んで有名な戦争や戦略を扱った古典的著作です。上中下の三部構成となっており、今回は下巻の内容を要約します。下巻は中巻に引き続き防御・攻撃における重要論点が存在する戦略、戦術に関する考察と戦争計画に関する内容となります。ナポレオン戦争前後のヨーロッパ諸国将帥が戦争で繰り広げた意思決定プロセスを丁寧に考察していく仕立てとなっています。

 

戦争論(下)」

戦争論 下 / クラウゼヴィッツ【著】〈Clausewitz,Karl Von〉/篠田 英雄【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

■ジャンル:政治・経営戦略

■読破難易度:中(抽象的な言葉遣いが多く、ニッチな近代戦を引き合いに出す為若干読みづらいかもしれません。主張は一貫してシンプルなので、慣れてくれば読みやすいかも。)

■対象者:・政治・外交・戦略に関わる方全般

     ・18~19世紀の戦争史について興味関心のある方

 

※上巻の内容は下記。

■要約≪戦争論(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

※中巻の内容は下記。

■要約≪戦争論(中)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

≪参考文献≫

■外交談判法(軍事と構造的類似役割を持つ外交官の役割について)

■要約≪外交談判法≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■権力と支配(政治力学・軍の組織構造について)

■要約≪権力と支配≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■防御・攻撃に関する戦略・戦術について

・大前提として、「技術や資源の制約条件ありきで戦略・戦術は作られる為、近代戦を想定した考察以外意味をなさない」というのがクラウゼヴィッツの見解です。その為、三十年戦争などヨーロッパの代表的な戦争に関してはあくまで参考程度の言及に留め、主にナポレオン戦争や自国プロイセンの英雄フリードリヒ大王が将帥として指揮をした戦争を引き合いに、戦略・戦術に関する個別論点を言及していくのが特徴です。

戦争は政治目的の遂行の為に取られる手段であり、国際関係や資源配分の交渉など戦争目的を考慮した意思決定というのが将帥には常に求められるとされます。その上で、戦後講和を有利な条件で交渉する為に、敵の資源に働きかけたり追撃を通じて優位を拡大するなどしていくのが個別の戦場における意思決定の判断基準となるとされます。戦争狂のような「手段が目的化する将帥・元帥は愚かである」として痛烈にクラウゼヴィッツは何度も本書で言及します。

・一般的には攻撃よりも防御のほうが情報の非対称性において有利に立つことが出来、豊富な補給網や地形・要塞などを駆使した防御陣営を効果的に展開出来るので容易であるとして個別戦略・戦術に関する考察が本書では展開されます。

※詳細はあまりにも細かいので割愛しますが、舎営・輸送隊・要塞の意義や奇襲・牽制・山地戦などの優劣を決める変数に関して淡々と記述がされ、近代戦の個別事例を引き合いに主張が展開されます。

 

■戦争計画

・大原則として戦争は講話を有利に進めるための敵勢力の滅殺が主な狙いであり、ナポレオンのロシア遠征ヨーロッパ大陸制圧構想なども原則に適していたとされます。カール5世の時に最大勢力を誇り、スペイン・イタリア・ドイツ・オーストリアを統治するに至ったハプスブルク家や当代の盟主として知られたカール12世フリードリヒ大王も同様の戦争対峙方針をとったとして言及されます。

・ヨーロッパ諸国は適度な均衡関係にあったので、交渉事をする手段として戦争を採用し、有利な状態で講和に持ち込むという小規模な戦いが主流になっています。こうした情勢であった為、フリードリヒ大王やルイ14世などアレクサンドロス大王に匹敵する資質をもった将帥でも中規模に落ち着かざるを得なかったとされます。

フランス革命を機に、近代戦の前提が崩れて国民が政治に参加する機運となりました。大量の国民がオーストリア・ハンガリー帝国の前に現れたのもそれ故です。フランス革命の勢いを引き継ぎナポレオンが台頭し、ヨーロッパ社会を席巻する頃には、国民総動員の大群で戦う方式が主流に回帰していきました。ウィーン体制以後の近代戦は結果として総力戦・政治均衡の基での政治交渉行為の意味合いをもつように変容しました。

・ヨーロッパにおいて複数の同盟関係が存在し、政治的・経済的な駆け引きが水面下にありその利害衝突故に戦争が抑制される機会もあれば誘発する機会もあります。クラウゼヴィッツの見解としては戦争に関する戦術や戦略を論じてきたが結局、「戦争は政治的交渉の道具でしかなくそこには文脈や利害なしに各論を判断は出来ない」という主張が見られます。その為、法律や国際関係・政治・経済などの理論の下敷きなしに戦争を論じても意味がないし、情報判断をする知性を養うことが将帥教育には欠かせないということを主張します。「政治の本質が変化すれば必然的に戦争術も変容するよ」ということを本書では言わんとしています。

 

【所感】

・中編に比べて概念的な内容や歴史研究の要素が強かった為、読みやすさを感じました。下巻の戦争計画は極めて現実的な思考に努め、実社会に役立つ理論・法則を展開しようというクラウゼヴィッツの強い意志が垣間見える構成でした。将帥は組織を率いるリーダーシップだけでなく、資源制約の中で意思決定をするタフさ・局面を見立てる判断力やその大目的にある国際関係や政治的利害に頭を巡らせる複雑な技法を有するという様は読んでいて改めてワクワクさせられる内容でした。現代社会において事を成そうとした際に直面する壁や葛藤とも似たように思え、抽象化すると非常に示唆に富んだ内容であると本書の価値を再認識した次第です。

 

以上となります!

 

 

 

■要約≪ローマ人の物語1≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。「ローマ人の物語」「ギリシア人の物語」「十字軍物語」などで有名な著者であり、本書は代表作となります。1は「ローマは一日にして成らず」の上下巻の上巻であり、紀元前8世紀~5世紀までのローマ誕生から共和政ローマまでの移行期およびその前時代のギリシア文明に関する言及が中心です。

 

ローマ人の物語1」

古代ローマを楽しく知るために、おすすめする本【目的別で紹介】 | 古代ローマライブラリー

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■ローマ黎明期

・ローマはロムルスとその配下のラテン人により紀元前8世紀に建国されました。ロムルス元老院民集という3つの政治機構をまずは構築しました。王は市民選挙による選出という形式を採用しており、この時代の元老院は長老100名により構成され、王に対しての助言機能を果たしていました。ラテン人はみな独身男性であったので異民族の女性を集団略奪する必要に迫られ、サビーニ族から女性を略奪し戦争に勝利して和平を結び自国に取り込むことで集団の基盤を構築しました。

ロムルスが37年の統治の後に急死した後はサビーニ族のヌマが王の座に即位しました。ヌマは農業や牧畜業の振興に力を注ぎ、あまり戦いをしないようにして国の統治基盤を形成しました。建国当初から他民族国家であったこともあり、職能別組織の構築暦の導入などの社会システム整備に奔走しました。ヌマが合計43年の統治をした後は3代目がラテン系ローマ人のトゥルス・ホスティリウス(32年の治世)・4代目がサビーニ族の王アンクス・マルキウス(河に橋をかけ住居面積と防御壁構築に努め、塩田事業を行うなど基盤を構築)・5代目は北イタリア半島の盟主、エトルリアの血を持つタルクィニウス・プリスコ(37年の治世)と続いていきました。タルクィニウスの治世は物凄く秀でていたとされており、具体的には元老院議員の倍増・下水事業の実施・大競技場・神殿などの公共設備建設などを行いました。これを実現する技術は生まれ育ったエトルリアから持ち込むという芸法を見せました。

・タルクィニウスが気に入った奴隷出身のセルヴィウス・トゥリウスは6代目の王として即位します。防衛政策としてローマの7つの丘を囲う城壁建設事業を推進することとなり、更なる国力増強・優位性拡大に寄与したとされます。加えて、軍制の改革納税者=選挙権を有するという政治制度の改革なども行いました。

・セルヴィウスはタルクィニウスの子供に暗殺されることとなり、息子が7代目のローマ王となります。彼の息子セクストゥスは蛮行を行い一家の名誉を損ない、彼ら一族をローマから追い出す機運が高まることになります。タルクィニウスの治世は25年で終わり、約245年続いた王政(紀元前750~509年)は終焉を迎えることになります。これ以後、ローマは共和政へ移行「市民集会により選ばれた2名の執政官により政治が遂行される時代」を迎えます。政治基盤が未熟な時代には中央集権型のトップダウン統治が有効であり、王がいずれも長生きしたことで優れた基盤をローマは構築したとされます。

 

共和政ローマ

ルキウス・ユニウス・ブルータスが王を追放し、共和政開始を宣言しました。市民集会により選ばれた2名の執政官により1年任期で政治を行う体制が始まりました。ブルータスはタルクィニウスの親戚にあたり豊富な情報を持ち合わせながら大局を見て判断が出来たと考察されます。共和政の統治能力を高める為に元老院の権限を強め元老院議員は300名体制に増強しました。ブルータスと双璧をなした執政官ヴァレリウスエトルリアとの戦いを指揮しブルータスなき後の共和政を統治しました。彼の振舞いは贅沢品が多くまるで王政を彷彿するようなところがあったのでローマ市民から疑念を抱かれまいした。こうした中で、懐柔策として様々な法律を制定してローマ市民からの求心力を得て統治体制を安定化することに腐心せざるを得なかったとされます。

・ヴァレリウス・ププリゴラは結局合計6年間の執政官を担うことになり、共和政ローマ初期の基盤構築を牽引しました。塩を国有化して貨幣や産業基盤を形成し、他国からのローマ移民を優遇するなどの政策を用いて基盤を整えようとしました。エトルリアの盟主プロセンナと和平を結び国の治安を安定させた後でヴァレリウス・ププリゴラは死にました。

 

古代ギリシア

ギリシア文明は紀元前2000年にクレタ島から始まったとされます。首都クノッススは紀元前1300年頃に衰退していくことになり、以後はギリシア本島南部のミケーネ文明が牽引していくことになります。彼らの生き様を記述したのがイリアスオデュッセイアです。トロイ遠征などをしていたことで災いし紀元前1200年頃にミケーネ文明は滅び、主役はドーリア民族へシフトします。

ポリスと呼ばれる都市国家が勃興し、ドーリア民族が基盤のスパルタアカイア人(純粋ギリシア人)のアテネが有力ポリスとして台頭していくことになります。ギリシアは紀元前8世紀くらいまでは王政⇒貴族政をしていましたが都市工業に勤しむ中産階級の台頭を受け、民主主義の道に政治体制が変容していきました。ソロンが改革をなした代表的な政治家の1名です。人口調査・資源配分の把握・私有財産制の認可・選挙権の認可など現代風の政治体制を紀元前6世紀に行った凄い人です。

・ソロンが退位した後に多数の有力諸侯が交錯する形になり無政府状態を迎え、僭主ペイシストラトスが台頭することになります。20年の独裁政権では商業や海軍・運輸業強化など国力増強に努めており、平和な時代を迎えていたとされます。その後はクリステネスクレイステネス)が台頭し、区画整備や民集会の権限を強化し民主政の基盤を作るなどした改革を牽引しました。行政機関のような骨組みを構築し、身分制度を緩和するなどして政治システムの構築を急ぎました。独裁リスクを避けるための陶片追放制度を構築したのもこの時です。

ギリシア文明においてアテネと双対をなす有力勢力スパルタは民主政治でなければ独自の強さを誇る文明でした。支配層であった階級と商工業を担い被支配層であったペリオイコイという明確な区分がされた社会でした。ドーリア人が力を占有しており、異民族のペリオイコイは兵役を課せられながら参政権はないといった厳しい統治体制でした。

・紀元前5世紀頃に中東世界を統一したペルシアギリシア文明と戦争をして覇権を争うことになるペルシア戦争が起こります。この時代からバルカン半島は中東(アジア)・ヨーロッパの小競り合いをする地域であったことがわかります。ペルシアは地中海の利権主張・宗教的な優位性という2つの大義名分をもってギリシア文明に戦争を仕掛けることとなります。一枚岩ではないギリシア文明に対して巧妙な外交を仕掛けて、スパルタ・アテネなどの有力ポリスを攻撃していく展開となります。アテネは巧妙な重装歩兵部隊の連携もあってペルシア王国の攻撃を退けることに成功しました。この時代のアテネを率いたのはテミストクレスであり、国庫強化と海軍増強に努めて自国防衛出来る体制を整備しました。ペルシア戦争は最初はペルシア王国が有利に進めましたが、サラミスの海戦を機に形成は逆転し小アジア陸軍はスパルタ・海軍はアテネが率いて侵攻していくことになり、紀元前478年にペルシア王国がバルカン半島から撤退して終結することとなります。

・事後の体制構築としてデロス同盟というギリシア文明全体の同盟を構築することなり、功績からアテネが主導していくことになりました。海軍を中心に軍隊を組成して治安維持に努めましたが、アテネの支配圏が気に入らず後にスパルタデロス同盟を撤退、ペロポネソス同盟を構築することに繋がります。

 

【所感】

・超大作ということで読み始める心理ハードルが高く後回しにしていた本ですが、非常に読みやすく時系列や人物の特徴が際立つように記述されており面白いです。古代ギリシアやローマは馴染みがないこともあり、世界史を勉強した際には年代や用語を丸暗記して凌いだ記憶があったので本書の内容で線で繋がる理解が出来たことは非常に良かったです。

・ヨーロッパ文明を理解する為にはギリシア・ローマ二大文明の構造・変遷を理解することが欠かせないと思っており、近現代の深い理解には周り回って本書のような古代を理解していくことが必要だなと再認識した次第です。理解を整理する意味も込めて都度読んだら要約を投稿していこうと思います。

 

以上となります!

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫

 

今回は安藤昌也氏の「UXデザインの教科書」を要約していきます。その名の通り、「製品やサービスを使う時の体験を狙って高める営み」であるUXデザインの概念について人間工学の研究・IOS策定の歴史・体系化されたフレームワークなど関連テーマを網羅的に取り扱う当該分野の鉄板本です。本書は内容盛り沢山である為、2回に分けて要約します。後編の今回はPARTⅢ(プロセス)・PARTⅣ(手法)をまとめます。

 

「UXデザインの教科書」

楽天ブックス: UXデザインの教科書 - 安藤昌也 - 9784621300374 : 本

■ジャンル:IT

■読破難易度:低~中(平易な言葉で記述されているので読みやすいですが、プロダクトマネジメント・エンジニアリングいずれかのバックグランドがあったほうが理解しやすいかと)

■対象者:・UXデザインの概略を掴みたい方

     ・サービス・プロダクト開発に従事する方全般

     ・人間の感情や行動の変遷に興味関心のある方

※前編の要約は下記※

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■リーン顧客開発

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■UXデザインプロセス

・UXデザインプロセスは下記7段階で構成され、それぞれに固有の理論やフレームワークが発達しています。

【調査・分析】

①利用文脈とユーザー体験の把握

②ユーザー体験のモデル化と体験価値の探索

【コンセプトデザイン】

③アイデアの発想とコンセプトの作成

④実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化

【プロトタイプ】

⑤プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化

【評価】

⑥実装レベルの制作物によるユーザー体験の評価

【提供】

⑦体験価値の伝達と保持のための指針の作成

 

■①利用文脈とユーザー体験の把握

・まずは想定顧客(ユーザー)と製品・プロダクトの利用文脈・環境を把握することから始まります。市場調査・統計調査などではなく、実顧客にヒアリング・観察するなどをして実態のインサイトを得ていく方法(エスノグラフィ)が有用とされ、具体的には観察・インタビュー・フォトエッセイ・「実際にユーザーが普段行う環境下で通常の方法をユーザーにやってもらい、行為を観察しながら気になった点をその場で質問する」コンテクスチュアㇽ・インクワイアリーなどを用いることが主流です。

 

■②ユーザー体験のモデル化と体験価値の探索

・想定顧客(ユーザー)の利用文脈・環境を把握した後はユーザーストーリーマッピングジャーニーマップのような形で複数のペルソナを描き、分布や課題・ソリューションの方向性を整理することがUXデザインにおける初期仮説設計の第一歩です。行動パターン・価値の優先順位・想定分脈への習熟度・制約条件などの切り口でMECEに整理するのが基本ステップとされます。UXデザインにおいては特定の価値観やセグメントに深く刺さるように設計することが必要であり、なぜなら「お金を払ってでも解決したい問題を解決するプロダクトでないとビジネスとして成立しないから」です。

 

■③アイデアの発想とコンセプトの作成

・実現するべき体験価値の方向性を見出だした上で、ビジネスとして実現するソリューションのアイデア出しをするプロセスになります。ここで「実現可能性」や「成長性」・「収支」などを考慮してオプションを比較検討するステップに入ります。ユーザーペインや動向を起点に、定性情報の把握・ストーリーメイキングをしていくのがUXデザインの基本的な考え方ですが、このプロセスだけはリーンキャンバスやビジネス環境の調査など「ビジネスとして実現可能なソリューションでUXデザインできるか?」という観点が強く入ります。このフェーズでUXデザインの確からしさを担保するための事前シミュレーションとして、「体験価値を扱うバリューシナリオ」・「活動を扱うアクティブシナリオ」・「操作を扱うインタラクションシナリオ」の3階層でユーザーストーリーを記述するのが一般的です。

 

■④実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化

・上記が完了した段階で改めて実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化をすることが大切とされており、プロダクトビジョンやアウトカムに立ち返るのが大切とされます。ここで避けるべき陥りやすい過ちは機能開発に終始するビルドトラップ状態です。ユーザーにとって機能は手段の一つに過ぎず、作り手(UXデザイナー・エンジニア・プロダクトマネージャー)にとって重要な機能開発や各論の作りこみはどうでもいい点を見失ってはいけません。

 

■⑤プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細

・その後は「構造の検討段階」⇒「振る舞いと認知の検討段階」⇒「見た目のデザインの検討段階」⇒「デザインの洗練段階」のステップを踏んでプロトタイプを作りこむことが大切とされます。プロトタイプを評価する際にはヒューリスティック評価と呼ばれる人間中心設計を網羅した観点を学会で定めた基準で測定するステップを遵守することが大切とされます。具体的には「システム状態の視認性」・「システムと現実世界の調和」・「ユーザーコントロールと自由度」・「一貫性と標準化」・「エラーの防止」・「記憶しなくても見ればわかるように」・「柔軟性と効率性」・「美的で最小限のデザイン」・「ユーザーによるエラー認識、診断、回復をサポートする」・「ヘルプとマニュアル」の10項目です。

 

■⑥実装レベルの制作物によるユーザー体験の評価

・プロトタイプを用いた仮説検証の有効性が証明され、実際のリリース前の最終調整に入ります。β版を用いて、定量・定性で指標を設定しそれぞれの状態ゴールを満たしているかを確かめます。テストを行う際には「何を確かめる為のテストか」・「どんなインサイトが得られたら良しとするか・ダメとするか」などを事前に設計・ステークホルダーと合意形成する手順を怠ってはいけません。加えて、機能が担う行程毎・想定ユーザー毎にゴール状態ノックアウト項目を設定するのが大切とされます。

 

■⑦体験価値の伝達と保持のための基盤整備

・ここからの工程は主にプロダクトリリース後を指し、製品以外での顧客とのタッチポイントの科学(販売経路・マーケティングの精査)や利用後のアンケート調査(効果測定)などを行う流れになります。UXはプロダクトの一部になるので、ビジネス全体としての整合性という文脈でビジネスモデルキャンバスを用いて精査、ロードマップ策定などに繋げていくことが求められます。尚、UXデザインはロゴやブランドイメージ・タグラインなどのマーケティングブランディングに整合性を持たせるよう働きかける必要があり、一貫した線を形成出来ているかは当該部門とすり合わせし続けるのを欠かしてはいけません。

 

【所感】

・本書は理論や基本概念を網羅的に記述しており、各論詳細は本書記載の参考文献を学習してくれという導線になっており非常に読み応えのある内容でした。参考文献もこれから随時読み込みをして理解を深めていきたい次第です。UXデザインはプロダクトマネジメントの中心に据え置かれると共に、営業やマーケティング・組織マネジメントなどの知見と融合するものであり、UXデザイン領域の奥深さと実践的で馴染みのある概念を感じました。

・UXデザインを考える上においては「誰のどんな問題を解決し、どのような状態にするか」という問いに対して解を導きだすことを何時如何なる時も絶やさないようにすることが大切なのだと感じ、ユーザーありきですしビルドトラップなんてもっての外ということもよくわかりました。不確実性の高い非定型業務であっても狙って成果を出す方法論やフレームワークがあるのであれば、まずは基本に忠実に学び実践して急所を体得していくことが大切でありこれは企画関連業務全般にも言えることなのだろうと改めて理解を深めた次第でした。

 

以上となります!

 

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫

 

今回は安藤昌也氏の「UXデザインの教科書」を要約していきます。その名の通り、「製品やサービスを使う時の体験を狙って高める営み」であるUXデザインの概念について人間工学の研究・IOS策定の歴史・体系化されたフレームワークなど関連テーマを網羅的に取り扱う当該分野の鉄板本です。本書は内容盛り沢山である為、2回に分けて要約します。前編の今回はPARTⅠ(UXデザインの概要)・PARTⅡ(基礎体験)をまとめます。

 

「UXデザインの教科書」

楽天ブックス: UXデザインの教科書 - 安藤昌也 - 9784621300374 : 本

■ジャンル:IT

■読破難易度:低~中(平易な言葉で記述されているので読みやすいですが、プロダクトマネジメント・エンジニアリングいずれかのバックグランドがあったほうが理解しやすいかと)

■対象者:・UXデザインの概略を掴みたい方

     ・サービス・プロダクト開発に従事する方全般

     ・人間の感情や行動の変遷に興味関心のある方

≪参考文献≫

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■リーン顧客開発

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■UXデザインとは

・UXデザインとは使う人がサービスや製品の効用を享受する体験を高める営みであり、根底にあるプロダクトを通じた課題解決の実現可能性やロイヤリティ・LTV向上などのビジネス成果に寄与します。UXデザインは開発対象のドメイン知識や心理学・行動経済学マーケティング・ソフトウェア開発・UIデザインなどの知識・理論と相乗効果を成し、プロダクト価値を想定顧客に適切に届け、価値を最大化させる役割を果たします。その為、プロダクトマネージャーは勿論のことエンジニアリング部門やビジネス部門(営業・マーケティング)においてもUXデザインの概念を抑えて事業場の意思決定・運営することが何よりも大切とされます。

・UXデザインはモノを作れば作るだけ売れた時代が終焉し、モノで溢れた時代において「如何に想定顧客に選ばれ、想定顧客の制約条件(価値観・行動・心理の変遷)を留意した形で製品・サービスを提供していくか」の一連の流れを設計し、狙って価値を届ける動作全般がスコープとなります。

・UXデザインの重要性はデジタルテクノロジーが発展した現代においてより増しています。なぜならテクノロジードリブンのモノづくりでは人間ではなく、技術が中心となった仕様・導線になってしまうことが自然であり、それでは適切にユーザーに価値が届きません。(ユーザーが製品やサービスを正しく認識し使いこなすことが出来ないので、価値を認識出来ないという事態が発生する為)「人間の為に製品・サービスの価値提供プロセスを編み直すこと(人間中心設計)」がUXデザインの神髄です。

・UXデザインの必要性が認知され叫ばれるようになったのは2007年にスマートフォンが爆発的に普及してからとされます。操作性を評価するユーザビリティだけでなく、感情面や心理の変遷などを捉える情緒的なプロダクト価値も評価しようという潮流になったことで(UXがプロダクトの競争優位や方向性を定義するまでに重要な要因となったから)局面は大きく変化しました。UXは学問的には人間工学の領域であり、情報系や建築系の一部に包含され、社会システムという意味では工学は勿論、経済や文学(心理学)的な横断的な概念と言えます。

 

■UXデザインを効果的に行う為の考え方・フレームワーク

・体験価値が重視される経験経済の局面となった現代において「顧客に正しく価値を届けて体験価値を付与し、顧客が抱える問題解決や得たいゲインを獲得できる」ようにすることがプロダクト開発におけるUXデザインの最大の役割となります。UXデザイナーは「顧客に憑依し、知識や行動・感情の制約条件、前後の動作を理解すること」が大切になり、テクノロジーの知見も必要ですが同じくらいEQ的なスキル・知見が不可欠な複合技と言えます。

・上記を効果的に実行していく為には体系だった手順に沿い、フレームワークを用いて仮説検証していくのが望ましいとされ具体的には「誰をどんなふうにしたいのか」のビジョンをゴールとして、重要論点・検討ステップを設計・合意、KA法ジャーニーマップで可視化、ユーザーストーリーマッピングに落とし込み機能開発・仮説検証の優先順位付けをしながら進めるのが基本形式となります。ユーザーストーリーマッピングはペルソナの心理・行動の変遷から解くべき機能・お題の選定・検討をしていく為の効果的なフレームワークです。これらも過去20年くらいで一気に整備・体系化された時代であり、まだ人間中心設計のUXデザインは過渡期なのです。

UXデザインはとにかく「想定顧客をどんなステップでありたい姿にしたいか」のシナリオメイキングから具体的な機能開発や導線設計が不可欠です。ユーザーインタフェースのプロトタイプを検討する為にはABテストで重要仮説を検証することを徹底しないといけなく、モックアップと呼ばれるプロトタイプを作ることもUXデザイナー業務範囲になります。

 

■UXデザインの階層構造

・UXは「戦略→要件→構造→骨格→表層」と5つの階層構造であり、具体になればなるほどUIデザイナーやエンジニアの世界で、戦略や要件はUXデザイナーやプロダクトマネージャーのスコープです。UXデザインは人間中心設計を実現し、価値を届けるためにユーザーや製品サービス、ビジネス(ビジネスモデル・組織人材・システム)に働きかけます。デザインにはグラフィックデザイン、インターフェースデザインも含まれ、いくらUXデザイナーであろうともUIデザインの最低限の知識は必要になります。

・プロセスを作りこむ際には・製品関与度自己効力感でユーザーをライト・マニアなどにプロットし、ユーザーのバランスやUIUXの作り込みの方向性を定めるマーケティングのような活動がつきまいます。体験価値は経験的知識・累積的UXや利用体験の階層構造で形成されます。

・UXデザインを推し進める上では人間中心デザインプロセス(HCD)の6つの原則を留意して進めることが望ましいとされています。

「設計がユーザー・タスク・環境の明確な理解に基づいている」

「ユーザーが設計と開発全体を通じて参加している」

「設計がユーザー中心の評価により実施され洗練されている」

「プロセスを繰り返している」

「設計がユーザーエクスペリエンス全体に取り組んでいる」

「設計チームが学術的なスキルと視点を取り込んでいる」

具体的には「調査⇒企画・仕様検討⇒設計⇒評価⇒提供」と決まった検討手順が定められており、「UXデザインを通じてどんな問いを解くのか?」・「想定ユーザーはどんな制約条件下でプロダクトを雇用し、前後にどのような心理や行動の変遷を経るのか?」を把握し、具体的なソリューション・機能の優先順位付け・重要仮説検証・KPI設計するなどが具体的な後続手順とされます。

※認知工学・人間工学・感性工学はUXデザインにダイレクトに直結する学問領域であり、周辺領域として認知心理学社会心理学文化人類学などがあり関連学問を体系的に学ぶことはUXデザインのスキルセットに相乗効果をもたらすとされます。

 

 

【所感】

・事業開発・プロダクトマネジメントについて学びを深める中で自然とUXデザインに辿り着き本書を読んだのですが、モノであふれる時代にUXデザインに留意することが事業運営上大切であることがよくわかりました。感覚で理解していたものを理論で明瞭に言語化された感覚です。

・発達した理論に忠実にフレームワークを用いてもれなく・ダブりなく効果的に仮説検証~機能開発していくのが実際の流れである点はプロダクトマネジメントに通じる所があると感じた次第です。また、UXデザインの基本プロセスである「想定顧客の感情や行動の変遷、その裏側にある物語や制約条件を捉え、抽象化・課題設定する」行為は営業やマーケティング・組織マネジメントにおいて自分自身が磨いてきた思考プロセスと極めて通じるものを感じ、これは人間中心設計というUXデザインのグランドルール故に構造的に類似するのだと理解しました。

 

以上となります!

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫

 

今回はマーティ・ケーガンの「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメントを要約していきます。プロダクトマネジメントの鉄板本と名高く、著者はHPやeBayなど様々なテクノロジー企業で活躍した当該分野の第一人者の一人です。本書は内容が盛り沢山の為、2回に分けて要約していきます。後編の今回はPARTⅣ~Ⅴを取り扱います。

 

「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント by マーティ・ケーガン · OverDrive: ebooks ...

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:低~中(プロダクト関連職種初学者でもわかるように記述されており、入門書としてもおすすめです。)

■対象者:・プロダクトマネージャー・事業責任者を志す方全般

     ・UX・マーケティング分野で優れた成果を上げたい方

     ・新規事業・イノベーションの原理原則に興味関心のある方

※前編の要約は下記※

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメント

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

プロダクトマネジメントのすべて

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて(後編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■製品発見

・プロダクトの構想を練り、プロダクトビジョン・ロードマップ策定をしていく中でプロダクト開発チームは「顧客はこれを買ったり使うことを選んでくれるか?」という価値のリスク・「ユーザーはこれを使いこなし価値を理解できるか?」というユーザビリティのリスク・「私たちはこれを作れるだろうか?」という実現可能性のリスク・「このソリューションは私たちのビジネスに貢献するだろうか?」という事業実現性のリスクに対する問いに答えることが求められます。ユーザビリティや性能の改善で利用率やロイヤリティ・LTVを高めることは勿論ですが、「そもそものプロダクトのコアバリューが顧客に刺さっていて、問題を解決しているのか?」という問いは常に検証し続ける必要があります。

 

プロダクトマネジメントを効果的に進める為のフレームワーク・お作法について

OKRプロダクトビジョンの実現ロードマップの推進をする際に、「ステークホルダーと目線を合わせて頑張る方向性を間違えないようにするための具体的なマネジメント手法」になります。語源の通り、目的(アウトカム)の為の重要な結果指標をマネジメントするという考え方で、プロダクトマネジメントの思想に忠実です。

カスタマーレターは「仮想のプレスリリースを描き、誰をどのように幸せにするのかのゴールから逆算して製品開発マネジメントをする」というもので、Amazonが黎明期からプロダクトマネジメントに用いた考え方とされます。

・ビジネスモデル選定・競合調査・価値定義などのプロダクトを取り巻く構造把握を開発メンバーと効果的に行う為にリーンキャンバスが有効です。また、プロダクトのCore・想定顧客を定めた後はカスタマージャーニーマップを基にプロダクトバックログの記述、機能開発の優先順位付けを可視化するユーザーストーリーマッピングなどを用いてエンジニア・デザイナーなどのプロダクト開発メンバーと効果的に共通認識を形成していきます。これらは認知コストを最小化し、かつ漏れなくダブりなく重要事項を抑えるために最適なフレームワークとされます。

・プロダクトが解決するペインが深刻であったり、市場規模が大きくないと顧客獲得単価(CPM)が膨大になり、収益性は低く、プロダクトの顧客ロイヤリティは低い上にLTVは引き上がらないといった事象が発生します。初期仮説検証にあたり、市場ニーズを見極めるためにロイヤルカスタマーを複数見つけられるか調査探索し、それまではスケールしないというのがプロダクトマネジメントの基本方針とされます。リファレンスカスタマーを容易に獲得できないとなると、仮説検証や市場調査の絶対量が足りないか顧客ニーズが深刻ではないという話です。尚、この手の問題を解く際に有効なソリューションはABテストユーザーインタビューです。

 

■プロダクト開発における望ましい文化について

製品開発チームに最高の文化を形成していくことが最も生産性が高まるレバレッジポイントであり、その組織風土を構築・形成するのがプロダクトマネージャーです。「傭兵ではなく、伝道師のような狂ったようにビジョンにとりつかれ、ビジョンを通じてアウトカムを実現するにコミットする」を徹底するのができるのが優れたプロダクト開発チームです。「サイロ化しないように創造的なコミュニケーションを取り続け、かつそれでいてビジネス収益はしっかり担保できるようにしておくこと」が徹底できるのが優れたチームマネジメントであり、プロダクトマネージャーはプロダクトビジョンを通じてプロダクト開発チームをリードし続ける役割にあります。

・上記は「顧客中心の組織文化」・「魅力的な製品ビジョン」・「的を絞った製品戦略」・「製品発見へのエンジニアの参加」など重要論点を抑えておけば狙って実現することは可能とされます。

 

【所感】

・後編はプロダクトマネジメントに纏わる代表的なフレームワークの活用方法や具体的なコトの進め方にフォーカスした内容となっております。その為、やや散文調になる為内容を掻い摘んで要約しました。プロダクトマネジメントは非連続な成長を牽引し、不確実性に対峙し続ける役割であるからこそ、理論に忠実(フレームワークやプロダクト開発の言語・概念を活用徹底する)であることが何よりも大切であるということが複数の書籍を読んで理解したことです。プロダクトマネジメントとはUXデザインやマーケティング・事業開発領域の思想・フレームと通じる所があり、関連領域の知見を学びながら実践し続けることで総合的に高めていくスキルセットであると改めて感じました。

・機能開発やデリバリーに終始することなく、「誰のどんな問題を解決したいのか?」・「どんなアウトカムを実現したくプロダクト開発を進めるのか?その優先順位はどのようになり、なぜその優先順位付けになるのか」など汎用的に解くべき問いがあり関連職種の場数をこなして言語に馴染んでいくのがまずは必要なのだろうと感じました。その為、気が付いたらプロダクトマネージャーのロールをしていたというキャリアが多く発生するのは上記の仕事の役割故であるとよく理解出来ました。

・労働供給制約社会が今後発生していく中で、人手で全てのビジネスプロセスデリバリーを完結していたサービスがプロダクト化していくということが社会の大きな潮流になると思っています。いわゆるDXなどはその最たる例ですがこうしたテーマ感に対して付加価値を生み出せるビジネスパーソンとして経験や知識・スキルを自発的にセットしていきたいなと改めて考えさせられる内容でした。

 

以上となります!