雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪「ついやってしまう」体験のつくりかた≫

 

今回は元任天堂企画開発者の玉樹真一郎氏著の「「ついやってしまう」体験のつくりかた」を要約していきます。スーパーマリオゼルダの伝説ドラゴンクエストなどを題材に、優れたゲームデザインに用いられている法則を解説していく内容です。ゲームはUI/UXデザインの究極系と呼べるジャンルであり、エッセンスは事業・プロダクト開発に大きな示唆をもたらすと考えチョイスしました。

 

「「ついやってしまう」体験のつくりかた」

元任天堂プランナー著「ついやってしまう体験」のつくりかたを読む - ファミコンのネタ!!

■ジャンル:商品企画・UXデザイン

■読破難易度:低(必要となる前知識はなく、ビジュアル・直感的にとても読みやすい本です。)

■対象者:・優れたゲームデザインに用いられる法則に興味関心のある方

     ・体験価値に興味関心のある方

     ・直感・驚き・物語の仕組みに興味関心のある方

≪参考文献≫

ユーザビリティエンジニアリング

■要約≪ユーザビリティエンジニアリング≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの法則

■要約≪UXデザインの法則≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。

※要約ブログ無※

 

【要約】

・ゲームには人を動かし、没頭体験を積んでもらうために3つのデザイン法則が採用されているとして、そのデザインの仕組・相互作用を解説していく本です。

 

■直感のデザイン

「仮説→試行→歓喜というステップを経てシンプルで簡単な体験で「直感」させることを通じゲームに没頭する体験を生み出すデザインです。脳と心の性質共通の記憶といった人間誰しもが持つ共通の性質を用いて、狙って動かす作用です。スーパーマリオのステージ1-1の画面デザインを題材に詳しく本書内で解説されています。良く用いられる体験設計の手法ですが、簡単に飽きや疲れが来るというデメリットを持つので、後続の驚きのデザイン・物語のデザインとの掛け合わせで用いられることが一般的のようです。

 

■驚きのデザイン

「誤解→試行→驚愕」というステップを経て、つい夢中になる体験をデザインするのが驚きのデザインです。予想が外れる驚きで疲れや飽きを払しょくするのが狙いで、前提・日常といった人々の思い込みを活用してデザインするのが基本原理とされます。ドラクエシリーズの「ぱふぱふ」などを題材に詳しく本書内で解説されます。

 

■物語のデザイン

「翻弄→成長→意志」というステップを経てユーザー自身の物語を生み出す・成長体験を積むというのが物語のデザインです。ゲームそのものの骨格を作る原理原則として採用され、感情を突き動かし人間的な成長・非現実に没頭する展開などで引き込む狙いがあります。随所に直感のデザイン・驚きのデザインを散りばめて、ユーザー体験を刺激し遷移していくのが具体的なデザイン3つの相互関係となります。

「命のやりとり」「未知の体験」をモチーフに組み込むことで憑依率はより高まっていくと推奨されます。「自己裁量で物語を想像する」・「デザインする」ということこそが没入体験を促進し、だからこそ結末や解釈が明確に描かれない方法を採用するというのがよくあるゲームの作り方のようです。これは映画や小説のストーリーメイキングと同じで、非日常に没頭するということが如何に価値として高く置かれているかを明らかにするものです。そして、「物語の最後はスタート地点に戻る」という神話の法則と同じような仕掛けを施すのが良い体験設計のコツとされています。これは「ユーザーがゲームへの没頭体験を通じて非現実の体験をした後に、改めて現実に戻っていく疑似的な導線を作る」という意味を持ちます。

 

【所感】

・ゲームはUI/UXデザインの究極系と呼べるジャンルであり、購買以後は極力人手のサービスを介さずプロダクト体験を享受することが出来るという凄みに満ちています。ゲーム分野で採用・設計されている法則(思考プロセスや抑える要所)はプロダクト・事業開発においても大きく通じる内容があると再認識した次第です。

・ユーザーと体験ストーリーを深く想像・共感しステークホルダーで同じ青写真を描き、理解し続けながらこうした開発・設計をしていくことが大切であると思い、そのプロセスは日々の自分自身が対峙している業務にも応用できる要素が多いなと感じました。本書はライトに読めながら非常に奥深い技法が散りばめられており、没頭する読書体験を得られました。これも本書の法則が活用されているのかと「直感のデザイン」を感じて読み終えた次第ですw

 

以上となります!

 

 

 

■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫

 

今回はAlex Osterwalaer・Yves Pigneur著の「バリュー・プロポジション・デザイン」を要約していきます。リーンキャンバスを構成する「バリュー・プロポジション」にフォーカスしてプロダクト・事業開発をしていく為に抑えるべきポイントや望ましい手順を体系的に記述した本です。本書はビジネスモデルについて言及した「ビジネスモデル・ジェネレーション」の続編として有名です。

 

「バリュー・プロポジション・デザイン」

バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る | アレックス・オスターワルダー, イヴ・ピニュール, グレッグ ...

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:低~中(用語や思考法になれないと読みづらさを感じるかもしれません。豊富な図解とデータを基に記述されているので、慣れていればサクサク読むことが出来ます。)

■対象者:・プロダクト開発に従事する方全般

     ・仮説検証を伴う業務に従事する方全般

     ・イノベーションの原理原則に興味関心のある方

 

≪参考文献≫

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■キャンバス

価値創造キャンバスには顧客プロフィール(お客様をよりはっきりと理解するためのもの)とバリューマップ(顧客のためにどう価値を創造するかを描くもの)の2種類があり、その2つが重なりあう所にフォーカスするべきなのだとされます。「顧客が求めていて、自社がうまく価値提供出来る所」ということです。バリューマップは製品/サービスペインリリーバー(悩みを取り除くもの)ゲインクリエーター(恩恵をもたらすもの)で分解されます。つまり、「何を課題解決し、どんなアウトカムを顧客へもたらすのか?」ということを整理したものです。顧客プロフィールは顧客の仕事(顧客が成し遂げたいことを顧客の視点で記述)・ペイン(顧客の仕事に関係する悪い結果、リスク、障害)・ゲイン(顧客が達成したいこと・顧客が求める具体的な恩恵)の3つに分解されます。

 

■デザイン

・顧客プロフィールとバリューマップを照合してプロダクトの骨格を明らかにした後は簡単なプロトタイプを作ります。顧客を理解してバリュー・プロポジション・デザインを形作り、その中から更に開発を続けるものを選び(マーケットポテンシャル・競合優位性・実現難易度・収支などを総合的に加味して取捨選択していく、その意思決定プロセスも大事)、適切なビジネスモデルを選定するのが次の段階でやることです。

・事業のコアとなる概念が定まってきたら、そのタイミングでリーンキャンバスの各項目(主なパートナー・主な活動・リソース・バリュー・プロポジション・顧客との関係・チャネル・顧客セグメント・コスト構造・収入の流れ)を埋めることをするのが良いとされます。あくまで「顧客が誰で、どんな資源を活用して価値を提供するか?」を明らかにするのが先決です。そうすればパートナーやビジネスモデル・コスト構造などは自然と規定されるものだからです。技術上の制約条件・顧客のペインについて深い洞察を得ることが重要であり、そこにこそイノベーションの種や「お金を払ってでも解決したいビジネス問題」が潜んでいます。

・プロダクトは顧客のある文脈におけるペインやゲインを支援するものであり、その前後に潜む制約条件や行動の変遷・顧客の価値基準における優先順位付けを把握して急所になる所に閉じて尖ったプロダクトにするのが基本となります。

 

■テスト

・大事な原則として下記10個が存在します。

エビデンスは意見に勝る」

「失敗を受け入れることで素早く学びリスクを減らす」

「早期にテストし後で改良する」

「実験と現実が食い違うこともある」

「学習とビジョンのバランスを取る」

「アイデアの決定的な欠陥を見つける」

「顧客を理解する」

「計測できる形で検証する」

「すべての証拠が信頼できるとは限らない」

「取り返しのつかない決定については特に念入りに検証する」

・顧客開発のコアとなる4プロセスは顧客の発見顧客への実証顧客の創造企業の構築です。顧客を定義し、効果的な価値機能の優先順位付け・販売チャネル・マーケティング手法の特定とKSFの特定をすることで事業として成立します。

 

【所感】

・プロダクト開発・事業開発はいわゆるジョブ理論・デザイン思考・3Cなどのフレームワークを総動員して、水面下で無数のプロジェクトマネジメントを行いながら遂行していくある程度定型化された手法であることが本書の内容から伺えます。モノで溢れた時代において、製品単独で優れた価値(主に機能面)を実現することは不可能であり、文脈(体験価値)に基づいた緻密なUXデザイン・ビジネスモデル・チャネル設計・選定をしていくことで総合的に価値が形成されるものであるということがよく理解できます。

・本書単独で大きな示唆を得たというよりも、これまで読んできたITプロダクト関連の本や自分自身で思考・検証してきたテーマが一本の線に繋がったような体験を得る内容の本でした。確立された手法・お作法があるのであれば遵守して自分で実践することで要諦を掴みながら自分の色を出していくのが大切と再認識した次第です。(認知コストを下げ、後のステークホルダーとの合意形成プロセス迄考慮するとMECEが担保されるフレームワークを使い倒すというのはシンプルながら芯を食っていると感じました。)

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語4≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。4は「ハンニバル戦記」の上中巻の中巻であり、紀元前219年~206年の第二次ポエニ戦争を取り扱います。カルタゴ軍の英雄ハンニバルが登場し、連戦連勝を繰り返しローマの大半を制圧するにまで勢いづいた後にローマ軍の救世主としてスキピオが台頭していき、戦況を押し返していく様を記述しています。

 

ローマ人の物語4」

ローマ人の物語 4/塩野七生 :BK-4101181543:bookfanプレミアム - 通販 - Yahoo!ショッピング

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

    ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

ローマ人の物語3は下記※

■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■第二次ポエニ戦争前期(紀元前219~216年)

・第一次ポエニ戦争を経て、ローマはイタリア半島北部~南部・シチリア半島を手中に収めカルタゴに対して完全優位な状態となっていました。カルタゴの将軍ハンニバルは事を荒立てて局面を打開すべくローマと直接全面対決するのではなく、「ガリア山地を通りアルプス山脈を越えてイタリア半島で直接ローマへ戦いを起こす」というやり方を狙いました。当時のカルタゴはスペインに広大な植民市を形成していた為、当初ローマ元老院シチリア半島スペインが主な戦場になると見立て防衛拠点を整備していました。まさかアルプス山脈を越えて、カルタゴ軍が直接攻めてくるなどは想像もしていませんでした。

ハンニバルガリア人を懐柔しながらイタリア半島北部からローマに侵略することに成功し、スペイン・ガリア・リビアの傭兵連合軍を巧みに駆使しながら直轄軍の被害を最小限に繰り広げながらローマ軍相手に連戦連勝で進軍していくこととなります。

※尚、ハンニバルが採用した進軍ルートや戦略・戦術はいずれも後世でナポレオンが採用・参照しているものです。

トレッビアトラジメーノカンネイタリア半島の要所でローマとカルタゴは衝突しいずれもハンニバル率いるカルタゴ軍が勝利し、イタリア半島の大半を占拠するにまで進軍しました。ハンニバルは直接ローマを叩いても効率が悪いと考え、ローマ同盟の崩壊を狙って植民市を懐柔しようという秀逸な展開していきます。

 

■第二次ポエニ戦争中期(紀元前215~211年)

カルタゴ軍はカンネの戦いで得たローマ軍の捕虜で身代金確保や講和持ちかけを狙い、その過程でシチリア半島のシラクサをローマ同盟からの脱却させることに成功します。加えて、カルタゴマケドニア王フィリップスと同盟を結びローマを間接的に抑制することでじわじわと力を削いでいきます。そんな中、ローマ優勢で均衡が保たれていたスペインの戦場では執政官コルネリウス兄弟が敗れたことで均衡が崩壊します。いよいよピンチに立たされた中でローマ軍のカリスマ的存在のスキピオが台頭していきます。

 

■第二次ポエニ戦争後期(紀元前210~206年)

ハンニバルは引き続きイタリア半島に留まり、ターラントと呼ばれる貿易と国防の要である植民市を巡りローマ軍と対決していました。一方のスペインではカルタゴ軍はハンニバルの子孫を中心とした3将軍が分散して防衛する陣形を取っておりました。スキピオは急戦を仕掛けカルタヘーナと呼ばれるハンニバル家ゆかりのスペインの土地を攻めて落とし、優位を拡大するとベクラの会戦でも勝利を重ねます。この事態を見て不味いと判断したカルタゴ陣営はスペインにいた3つの軍隊を分割して、ハシュドゥルバル率いる軍はイタリア方面へ進み、ハンニバルを支援することを目的とし、マゴーネとジスコーネ率いる軍は統合し、スペイン領土のスキピオ率いるローマ軍を攻めることに意思決定しました。

・ハシュドゥルバルとハンニバルの合流を止めようとローマ軍がカルタゴ軍へ仕掛ける戦いメタウロの会戦はローマ軍指揮官ネロが機敏な側面攻撃をしたことが幸いし、あっさりカルタゴ軍は敗北しハシュドゥルバルは戦死します。一方のスキピオ率いるスペイン領土のローマ軍はカルタゴ軍(マゴーネ+ジスコーネ連合軍)に対してイリパという地で戦いを繰り広げました。スキピオは駆け引きの後に奇襲を仕掛け、スペインの兵士を駆使して突撃するというハンニバルのような傭兵使いのような戦術を展開しました。結果的に将軍を打ち取るなどはなかったものの、ローマ軍が勝利し大量の騎兵傭兵を獲得しローマ軍は更なる盤石の基盤を形成し勢力を盛り返すに至り第二次ポエニ戦争終結へ向かいます。

 

【所感】

・本巻は戦争に関する記述が非常に多く、ハンニバルスキピオのカリスマ性が際立つ構成となっています。個別の戦略・戦術の組み立て方はクラウゼヴィッツ戦争論でも展開された考え方が盛り込まれており、当時読んでよく理解できなかった部分の理解が進むという具合でした。側面攻撃の優秀性や地形・情報の非対称性を駆使した展開などはこの時代特有の兵法であるように感じました。

イタリア半島とスペインについてこれだけ豊富に記述された史実を読み解き考えを巡らすことはあまりなかったので、ポエニ戦争という世界史の教科書ではたった数行で記述される出来事も掘り下げると面白いものだなと感じた次第です。

 

以上となります!

■要約≪スターバックス再生物語≫

 

今回はハワード・シュルツ氏のスターバックス再生物語」を要約していきます。ハワード・シュルツ氏はスターバックス社の成長を牽引した偉大なCEOです。CEO退任後、スターバックス社の成長に陰りが見える中で、2008年頃にCEOに復帰しリーマンショックという大波乱の中で約2年掛りで会社の変革を次々に行い、成長曲線へ再興させていく過程を記述したのが本書です。尚、ちっぽけなコーヒーショップに過ぎなかったスターバックスを大規模企業にまで押し上げたCEO1回目の過程を記述した本にスターバックス成功物語」があります。

 

スターバックス再生物語」

【南場智子・藤田普・村上太一】失敗が学べる経営者の告白本50選

■ジャンル:経営

■読破難易度:低

■対象者:・偉大な会社・事業の変革プロセスを詳しく知りたい方

     ・体験価値に関して興味関心のある方

     ・熱狂的なビジョンを持つ組織作りに興味関心のある方

 

【要約】

■概要

スターバックスは1980年代に一気に拡大したコーヒーストアです。ハワード・シュルツ氏がイタリア半島で体験した「コーヒーを通じた体験価値」をコンセプトにしたブランドマネジメント重視の事業運営方針が特徴です。アルバイト社員にも健康保険とストックオプションを付与し、海外戦略により一気に拡大路線を牽引したのが全盛期の1990~2000年のスターバックスです。2000~2007年は外部環境が変化する中でコアを見失い、顧客価値の探究などもしない中で縮小均衡の危機に見舞われ、2008年に会長であったハワード・シュルツ氏が経営に復帰することで立て直しを図ることになります。

スターバックス社は創業当初から「利益を出しながら社会に支持される持続性を持った会社であること」、「コーヒーではなくそこに付随する購買体験を提供する究極のサービスカンパニーたる」といった方針が明確に定まっていました。ハワード・シュルツ氏には「自宅・職場の次に値するサードプレイスとしてコーヒーストアのポジションを確立する」という大義名分が存在しており、その原点に立ち返る所から変革は始まります。

・本書は5部構成になっており、1部は創業以来一貫してきたサービスポリシー(「モノではなく、体験を売る」・「我々は究極のサービスカンパニーである」etc)に関して、2部は再建をするにあたり「何を続けて(残して)、何を変えるのか?」という問いに対して向き合い葛藤するプロセスに関して、3部は店舗閉鎖・フード販売縮小など痛みを伴う経営意思決定をしながらデジタル戦略・リワードプログラムの構築など変革の先駆けとなる方針を打ち出す過程、4部はリーマンショックの動乱期の中にコミュニティマネジメント・ブランドマネジメントなどの方針を貫いてきたことが芽を咲かせ、リーン制度など次の変革の種になるような変革が生まれるまでの過程、5部はヴィアというブランド名でインスタントコーヒー市場を開拓する様、コーヒー農家とのパートナーシップ、変革成功までの過程をまとめています。

※詳しい内容は本書のダイナミックな記述ぶりを直接読んでいただくほうが面白いと思うので割愛します。プロセスと結論のサマリーが知りたい場合はWikiなどをチェック頂ければわかるので。

 

【所感】

「モノではなく体験を売るのである」・「サードプレイスの重要性が叫ばれる時代が来る」など創業時から先見性があり、変革をする中でも創業から一貫した考え方・方針を一部残しながらデジタル戦略や設備投資を徹底するなどの研ぎ澄まされた意思決定の連続は読んでいて圧巻です。CEOを長らくやってきたからこそのプロダクト(事業)愛強烈なリーダーシップも感じられますが、それでもプロダクト(事業)責任者にも求められるようなビジョンメイキング・コミットメントなのだろうと考えさせられました。

ハワード・シュルツ氏自身がコーヒーをこよなく愛しており、生い立ち故の従業員やコーヒー農家などのステークホルダーを最大限尊重する経営方針の迫力が感じられました。当たり前ですが、「事業は顧客を創造し、雇用を生み出し世の中に影響を与え続けるものである・その影響度の大きさと意味を肝に銘じて日々意思決定せよ」ということのように感じました。

 

以上となります!

■要約≪ユーザビリティエンジニアリング≫

 

今回は「ユーザビリティエンジニアリング」を要約していきます。UXを構成するユーザビリティ(使い勝手)の設計・調査・評価を通じてUXデザインの実務を行う為の手法や具体的な手順を体系的にまとめた本です。モノで溢れる時代において、UXデザインはプロダクト開発における根幹をなす概念です。そのUXデザインの構成要素の大半はUIデザインユーザビリティで構成されるのですが、その後者に特化した内容です。

 

ユーザビリティエンジニアリング」

ユ-ザビリティエンジニアリング / 樽本 徹也【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

■ジャンル:IT・UXデザイン・マーケティング

■読破難易度:低~中(前知識不要で読むことが出来、非常に具体的な業務手順や心構えに関する記述が多いので読みやすいです。)

■対象者:・プロダクト開発・UXデザインに関わる方全般

     ・マーケティング・企画業務に隣接する知見を得たい方

     ・仮説検証・調査・分析などの一連の業務手順を心得たい方

 

≪参考文献≫

■リーン顧客開発(見込顧客選定~インタビュー実施を通じた仮説検証サイクル)

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの法則

■要約≪UXデザインの法則≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

ユーザビリティについて

・ISOによると、ユーザビリティとは製品が特定の目標を達成する際に用いられる際の効果・効率・ユーザーの満足度合いを指すとされます。「ユーザーが使う文脈に即しているか」・「最短ルートで快適・効率的に目的を果たす導線になっているかどうか」がユーザビリティエンジニアリングにおいて作りこむべきポイントとされます。

・全てのユーザーを満たすような製品設計は不可能で、必ず特定の属性のユーザーの行動や心理の傾向・価値観に即した、ユーザーに刺さるような細部の作りこみが欠かせなません。だからこそ、ユーザーインタビューやアンケート・ジャーニーマップを用いたプロダクト開発チームでの特定セグメントに関する情報・仮説の可視化を通じた共通認識形成をすることが求められます。ユーザーが接点を持つ分脈(タッチポイント)というものを事実からしっかり見立てて、プロダクト開発チームでコンセンサスをとるというステップを経ないと、立場の強いプロダクト開発メンバーの意向に機能開発が集約するという悲劇が起きてしまいます。それでは効果検証は適切にできないですし、プロダクトがマーケットに効果的に浸透して役割を果たしているのかもわかりません。UXデザインを検討する上においてはプロダクトを雇用するユーザー属性や場面、その背景に潜むペインや制約条件をしっかり理解し、ストーリーとして変遷を理解することが大事です。

 

■UXデザインと人間中心設計について

スターバックス・ディズニーランド・iPhoneなどは圧倒的な体験を生み出すUXデザインを事業の根幹に据えているプロダクトの典型例です。エクスペリエンスは競合優位を圧倒的につけてかつユーザーを継続利用させる一種の宗教のようなものであり、一貫したストーリーや細部の作りこみを丁寧に行って初めて実現できる世界です。製品やサービスなどの機能的な要素だけでは差別化が出来ずレッドオーシャンに陥ります。ブランドや体験により競合優位を形成することこそがプロダクトライフサイクルやLTVを拡大させるポイントであり、これを狙って行うことがUXデザインやプロダクトマネジメントのスコープです。UXは表層-骨格-構造-要件-戦略の5階層で構成されます。

・UXデザインを実現していく上では人間中心設計を遵守することが欠かせません。人間中心設計は調査-分析-設計-評価-改善-反復の6プロセスを経て行われます。この仮説検証・反復プロセスを遂行していく為にはITプロダクトの場合、必然的にアジャイル開発の形式で遂行する必要があり、プロダクトマネジメントの開発手法は必然的にUXデザインおよびアジャイル開発と共同関係にあるのです。UXデザインのスコープには利用前・利用中・利用後の3つ存在しており、「そこに付随する行動や心理の変遷を狙って設計すること」が具体的な狙いとなります。具体的には「利用状況の理解」・「ユーザー要求の明示」・「解決策の作成」・「設計の評価」という4つの行動を反復的に行うことになります。

 

ユーザビリティエンジニアリングを行う為の調査・分析・設計手法

・想定顧客に該当するユーザーへのインタビュー(フォーカスインタビュー・グループインタビュー)行動観察(コンテクスチュアㇽ・インクワイアリー)は代表的なユーザビリティエンジニアリングを行う為に活用する手法です。ポイントはユーザーの声をそのまま受け入れるのではなく、その背景にある心理や行動・制約条件を紐解くことが重要な点です。なぜならユーザーの声とは自分自身の体験を自分で分析したに過ぎないからです。ユーザー対峙する上での基本スタンスはユーザーは教えるのが下手であり、「要約して話をする」・「話が不完全」・「例外を除外する」などまるで気難しい師匠のような形式をとるのが一般的ということを心得ておくことです。

・仮説検証にふさわしいユーザーを抽出してインタビューした後は適切な考察・分析をする為に、「バックログから要点を抽出し時系列や業務フローの塊毎に再整理すること」が必要になります。その際には文化人類学のフィールドワーク手法として発達したKJ法が有効とされており、KJ法のミソは「図示化・可視化してグルーピングするステップそのものにある」と著者は断定します。文章の塊を何度も読み、「重要な個所を短い文書に抽出してカード化していく」のが第一ステップです。第二ステップは「似たようなカードをまとめて見出しをつけてグルーピングする」というもので、第三ステップは「グループ間の因果関係や前後関係などを図示化して構造を整理する」というものです。こうしてストーリーを編み直していく中で検証しないといけない問いや論点を炙り出していくことKJ法を行う妙とされており、UXデザインに大きな示唆を与えるプロセスです。

・大前提として、プロダクトは顧客の問題を解決して収支に合うような形で運営していくことが必須条件です。その為、想定ソリューションや機能開発は「ビジネスとして成立するか?(収支に合うか・マーケットポテンシャルが一定あるか・お金を払ってでも解決したいペインか・魅力的なゲインか)」という観点の問いを立てて検証することは怠ってはいけません。なので、ビジネスモデルキャンパスリーンキャンバスなどの事業開発分野のフレームやペルソナジャーニーマップなどのマーケティング分野のフレームを駆使して情報を整理しプロダクト開発チームで共通認識を整理し続けることが大切とされます。

 

【所感】

・要約記載箇所以外にプロトタイプ作成・ヒューリスティック評価・ユーザーテストの設計~実施~分析なども本書には記載がなされていますが、膨大になるので割愛しました。興味を持たれた方はぜひ直接手に取り読んでいただけると良いかと。

・本書内容はUXデザインやプロダクトマネジメントの書籍にて言及されてきた概念のおさらいであると共に、具体的な実務に落とし込むと何をするのか・何を気をつけないといけないのかが大変わかりやすく記述してあり当該分野の定番書と名高いだけあるなと感じました。マーケティングイノベーションを狙って行う為に、出来るだけ確率を高める手法としてUXデザインやプロダクトマネジメント分野の理論やフレームがあるのだなと再認識した次第です。「守・破・離」の概念のようにまずは理論に忠実に思考し、活用して経験や知見を得ながら場面や文脈に応じて自分なりのアレンジを加えていきながらスキルセットしていくのが望ましい分野なのだろうと納得しました。ビジネスモデルキャンバス・リーンキャンバスに関してはまとまって勉強したり、実際に手を動かして記述したことがあまりなかったのでこの際取り組んでみようと思った次第です。

・意外だったのはユーザーインタビュー・行動観察・調査分析などのステップにおける要点は自分自身が長年やってきた営業職や組織マネジメントにおける知見と通じる所があり、意外な応用分野があるものだと感じました。それだけ顧客接点をとり、顧客起点で物を考えたり情報編集をする営業職が基本でありながらポータブルなスキルなのだということもわかりました。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語3≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。3は「ハンニバル戦記」の上中巻の上巻であり、上巻はローマがイタリア半島を統一してからシチリア半島の領有権を巡り、北アフリカカルタゴポエニ戦争を繰り広げる様を記述しています。主に紀元前264年~219年のローマの動向を描いており、第一次ポエニ戦争に勝利し事後のローマ周辺地域の統治体制の構築までを描きます。

 

ローマ人の物語3」

ローマ人の物語3 に対する画像結果

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

      ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

ローマ人の物語1・2は下記※

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語2≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■第一次ポエニ戦役(紀元前264~241年)

ポエニ戦争以前のシチリア半島はローマの息がかかったギリシア系都市とカルタゴ直轄領が相まみえる構図にありました。カルタゴアテネ衰退以後、海運と海軍をもって地中海世界を制圧するほどの権力を有しており、ローマ同盟は対決を余儀なくされていました。シラクサメッシーナを巡る支配権で対立し、ローマとカルタゴは代理戦争のような形で衝突をします。ローマは元々内陸の戦いで功績を挙げて拡大した陸軍中心の文明でしたが、カルタゴとの戦いの中で海軍を拡大させる必要に迫られました。五段層軍船と呼ばれる大規模な船を使いこなしたカルタゴに対して、戦争勃発当初のローマは三段層軍船を小規模に持ち合わせる程度の軍備でした。ローマはカルタゴとの戦争の中で敵の技術を盗み、ボート訓練のようなことを市民に課して無理やり兵力増強をしていくことになりました。「細部に執着せず、優れたものを取り入れる」を徹底する様がローマの競争優位の源泉とされており、後にギリシア語やギリシア哲学を取り入れて文化基盤を整備するのも同様の流れを取りました。

・ローマと対決するカルタゴは通商(海運)・海軍・農園経営に優れた北アフリカの文明であり、傭兵を柔軟に活用しながら戦いを繰り広げる性質がありました。ポエニ戦争初期はスパルタ人の傭兵隊長クサンティッポが指揮をとり、スパルタ式の軍隊組織にカルタゴを仕上げて備え、その後はハンニバルの父親にあたるフェニキア人のハミルカルが台頭し指揮をとる流れを取りました。カルタゴ国内はイタリア半島進出派アフリカ大陸支配強化派に二分しており、うまく政治統率がなされていませんでした。マルサラ、トラパニといったシチリア半島の要所をローマに落とされたことを踏まえ、ローマ執政官カトゥルスとハミルカル講和条約が結ばれました。そうした流れで紀元前241年に第一次ポエニ戦役は終結を迎えることになります。カルタゴは約400年統治してきたシチリア半島から完全撤退をして、地中海の覇権はエジプト・シリア・マケドニア・ローマ・カルタゴが群雄割拠する構図になりました。

 

■第一次ポエニ戦役後(紀元前241年~219年)

カルタゴは傭兵に兵力調達を頼っていたので、敗戦を受けた傭兵の報酬対応に不満をもった傭兵の反乱に約4年程苦しめられることになります。このタイミングでサルデーニャ島がどさくさに紛れてカルタゴ支配から独立し、ローマ傘下に入ることに成功しました。カルタゴの将軍ハミルカルは息子ハンニバルをつれて海外領土拡大を目指してジブラルタル海峡を渡りスペイン支配下におさめました。ハミルカルはスペインの鉱山と農園を巧みに経営して領土を拡大していくことに成功し、以後カルタゴハミルカルが指導者となり、10年がかりでスペイン南部の植民地化に成功しました。

※この基盤が第二次ポエニ戦争勃発時の重要拠点になるのでした。

・この時代のローマは植民市の影響もあり、ギリシア文化への傾倒を進める動きがあり、有識者はこぞってギリシア語やギリシア哲学を学んだとされます。ローマという文明の特殊な所は素直に周囲の文明のすぐれている所を受け入れ、ナンバーワン・オンリーワンであることに拘らないことや周囲とのコミュニケーションに重きを置くところにあったとされます。国内のギリシア熱の高まりを利用して、ローマ帝国ポエニ戦争で獲得したシチリア半島のギリシア都市をうまく取り込むことに成功しました。「法律や道路を共有化し、ローマ市民という権利をもってそれぞれの色を尊重しながらローマ帝国の傘下にしていく」という絶妙なマネジメントシステムを構築していくことがローマの凄い所とされます。兵役や納税の義務は背負わせながらランクをつけて適度に間接マネジメントするということで広大な領土に大規模な反乱を起こさせることなく、存続させる仕組みを構築しました。シチリア半島と同盟を結んだことでシチリア産の小麦がローマ帝国領土内で流通するようになり、ローマの小麦生産の競争力は低下し農地はブドウやオリーブ畑に変容しました。

 

【所感】

・世界史の教科書ではわずか数行で記述されるポエニ戦争前後の動乱期を緻密に記述されており、非常に面白いです。じわじわとローマがイタリア半島および周辺領土を攻略していき、ローマ同盟・ローマ市民法により間接統治していき強大なシステムを構築していく様は圧巻です。カルタゴとの対比として傭兵の活用有無何を賞罰するかなどの違いはギリシアや他の政体とローマの違いということで、マキャベリの「君主論」やクラウゼヴィッツの「戦争論」でも記述があった内容だなーと読みながら感じた次第です。

・俗人化せず、仕組みで問題を解決する・特定個人に極力頼らない(裁量を与えない)ことで長期的に安定的な統治体制(専制政治の危険因子を生まない)という徹底した様は共和政ローマが栄華を誇る時代に一貫して見られる傾向であり、これは現代の組織運営においても同様のことが言えるよなと感じました。「俗人化や人に頼るということ」は瞬間的には楽で当事者は快感を示すものですが、本質的な問題解決にはならず、人間が極力プロセスに介在することはボラティリティをうむということであり人間中心の世界でありながら、極力人間に頼らない運営体制の在り方を模索する(サービスのプロダクト化)と似たようなことが言えると思った次第です。そのエッセンス・絶妙なバランス感覚の模範としてローマの政治体制は参考になるなと感じた次第です。歴史や学問に法則や教訓を見出すとはまさにこのことと思った次第でした。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語2≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。2は「ローマは一日にして成らず」の上下巻の下巻であり、上巻に引き続きギリシア文明の栄衰と比較する形で紀元前5世紀~紀元前3世紀の共和政ローマの時代をまとめています。

 

ローマ人の物語2」

『ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下) (新潮文庫)』(塩野七生)の感想(201レビュー) - ブクログ

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

      ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

ローマ人の物語1は下記※

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■紀元前5世紀頃の地中海世界について

共和政ローマ元老院議員が視察した頃のアテネはキモンが陶片追放されペリクレスが実権を握っていました。ペリクレスクレイステネスが構築した直接民主政の基盤を維持拡大し、アクロポリス再建劇場入場料無料化など内政安定化に努めました。三十年間、国家戦略担当官に選ばれ、長らく議長を努めたのはその政治手腕の凄さを物語ります。この時代は文化振興にも務め、当代のアテネギリシア哲学は大幅に発達しましたし、スパルタを仮想敵国にした海軍整備も欠かさませんでした。アテネと覇権を争った軍事国家であるスパルタの動きも観察した上で、ローマはアテネ・スパルタいずれとも異なる政体を採用していく意思決定をしていくことになります。というのも、精神の自由がなく、発展しようがないスパルタの統治手法は参考程度にとどめ、アテネの民主政も優れた統治者あってのかなり難易度の高いものと解釈したのです。

・尚、ローマ元老院議員視察終了後のギリシア世界はアテネとスパルタのペロポネソス戦争が勃発しました。アテネペリクレスが病死して衆愚政治局面を迎えており、この時代の政治はアルキビアデスクリティアスなどソクラテスの弟子陶片追放されないように配慮しながら実質的な独裁政治をしていました。参考までに、このペロポネソス戦争時期にソクラテスプラトンは活躍したとされます。ペロポネソス戦争でスパルタが勝利したあとはテーベが政体を引継ぎ、紀元前350年頃にはマケドニアギリシア世界の覇権を占めるようになりました。東方遠征を繰り広げギリシア世界の覇権を握ったアレクサンドロス大王誕生もこの時代です。

 

■貴族VS平民の階級闘争

・紀元前360年頃までのローマは貴族対平民の争いが絶えない不安定な政治体制であした。任期1年のコンスル(執政官)で優れた統治をするとなると相応のスキルと経験を有していないといけなく、結局は「優れた名家の元老院議員が執政官の座席を占める」という状態が自然発生しました。これが長期間続き執政官と元老院は癒着するようになり、民集会VS元老院・執政官という構図になりこれは詰まる所、「貴族VS平民」という身分闘争局面を迎えました。硬直状態が続き、「平民の利害を尊重すること」をミッションとした護民官という役職がローマ政治機構に制定され、状態は改善します。

・この時代の平民の権利主張のテーマは成文法でした。当時のローマ法は口頭伝達が主流であり、「蓄積のある貴族階級に有利な法取引ではないか?」という仮説から成文化が志向されていました。ギリシア使節団が主体となり成文法委員会が創設され草案を作ることになりましたが、平民との対決路線を明確にしていたクラウディウスが成文法の指揮をしたことで十二表法は平民の期待とは全く違う法律となりました。

 

ケルト族(ガリア人)の脅威

南ヨーロッパは畑や牧畜業、海上貿易などをしていましたが、北ヨーロッパは森が生い茂り未開拓でした。北ヨーロッパ地域は主にケルト族(ガリア人)が覇権を占めており、紀元前6世紀頃からケルト族の南下は始まり次第にローマの脅威に変容しました。元々ケルト族とはエトルリアが敵対していましたが、ローマがエトルリアを攻略し自国に取り込む紀元前4世紀頃にはケルト族とローマは直接対決路線になりました。エトルリアを攻略し兵力が摩耗しており貴族階級と平民階級の衝突がたえない中でローマはケルト族の侵略を受け手紀元前391年頃に約半年ローマは服従されることになりました。ケルト族は都市の扱い方を知らなかったので占領後持て余してしまうことになり、結局は金を引き換えにケルト族に撤退してもらうことに成功しました。その後のローマ統治は追放されていたカルミスを連れ戻し、独裁官に任命して強い軍隊を再構築しました。ケルト族の襲来は強い軍備構築の必要性、名誉回復、周辺地域マネジメントなど様々な発明の種をもたらしました。

 

共和政ローマイタリア半島中部を制圧するまで

共和政ローマケルト族の侵略から学び周辺諸国とのローマ同盟(旧ラテン同盟)構築に奔走するようになります。ローマ市民権の有無などでセグメントをきり、植民市を大量に構築していき国防増強に努めました。植民市を序列と権利(ローマ市民権の有無)で区分し、アッピア街道などを始めとした公道でつなぐことで強大な土地を支配するマネジメントシステムを構築しました。紀元前3世紀~1世紀の間にローマ帝国は大量の道路上下水道が整備されるようになりました。サムニウム族と呼ばれる山賊集団、ターラントと呼ばれるイタリア半島南部のギリシア系都市を征服しローマの領土が広大化していきます。

 

【所感】

・世界史の教科書ではあっさり記述される時代をギリシア文明との対比でまとめており非常に面白く読むことが出来ました。ローマ法・植民市などを基盤とした中央集権的な政治システムを自力で構築したローマ文明の偉大さが垣間見える内容でした。ローマについて本書で学びながら、同時にギリシア文明についてもより深く学びたいと思える内容でして、アレクサンドロス大王の東方遠征を真似して東ローマ帝国ビザンツ帝国オスマン帝国と同様の思想を有した帝国がバルカン半島小アジア地域に形成される歴史的必然性も垣間見えました。

キリスト教が発達する以前のヨーロッパ社会というのは非常にシンプルな統治システム・文化であり読みやすいのも好印象でした。ローマ人盛衰原因論で大まかな概略を理解していたので、本書の考察はとてもわかりやすく感じました。

 

以上となります!

■要約≪UXデザインの法則≫

 

今回はJon Yablonskiの「UXデザインの法則」を要約していきます。「UXデザインの教科書」と並んで、近年出版されたUXデザイン本の中でも重要本として度々参照される名著です。心理学の原則を用いて効果的なユーザー体験を狙って創出する為に抑えるべき法則と事例をまとめた本です。ややUIデザインに内容が寄っていますが、非常にわかりやすく初学者にもオススメです。

 

「UXデザインの法則」

UXデザインの法則 最高のプロダクトとサービスを支える心理学 | Ohmsha

■ジャンル:IT・UXデザイン・心理学

■読破難易度:低(UXデザインの基礎がなくとも感覚的に理解できる法則が列挙されているので読むこと自体はとても簡単です)

■対象者:・UXデザインと心理学の関係性に興味関心のある方

     ・快適・簡単な体験価値に興味関心のある方

     ・ITプロダクト・サービス提供者全般

≪参考文献≫

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■影響力の武器

※要約ブログ無※

 

【要約】

・本書ではUXデザインにおいて抑えるべき心理学の原則として10個参照されており、重要論点化されています。その上で、原則を活用した効果的なUXデザインを行う為のプロダクト開発チームのリード方法についても言及されています。

 

ヤコブの法則

・「ユーザーは他のサイトで多くの時間を費やしているので、あなたのサイトにもそれと同じ挙動をするように期待している」というものです。ユーザーは既に取得しているメンタルモデルに沿ったユーザー体験を感覚的に要望するもので、そのメンタルモデルに適応することで認知コストを下げ効果的にデリバリーすることが可能になります。プロダクトデザイン変更時の衝撃を最小限にするには漸進的かつ移行期間を設けるようにするのが良いとされます。

ヤコブというUXデザイナーにより2000年に提唱された概念であり、「こうあるべき」という自然なメンタルモデルを尊重すること、その背景にある価値観を形成する文化や行動規範に理解を示すことはUXデザイナーとしての絶対感覚になります。

 

■フィッツの法則

「ターゲットに至るまでの時間はターゲットの大きさと近さで決まる」というものです。タッチターゲットはユーザーが簡単に押せるだけの大きさにないと機能せず、タッチターゲット間は十分な感覚をもつこと・インターフェース内で簡単に到達できる場所に置いておくことが効果的なユーザー体験に欠かせません。

・使いやすく、労力を有さない導線を引くことはUXデザインの効果を最大化する為に欠かせない概念です。タッチターゲットの効率性は「ユーザーがどのような文脈でプロダクト接点を持つか」により、それは想定ユーザーの価値基準や行動・心理の変遷を理解していくことなしには出来ないものです。

 

■ヒックの法則

「意思決定にとりうる時間は選択肢の多さと複雑さで決まる」というものです。

・タスクが複雑である場合、小さなタスクに分解して効果的にユーザー体験を進んでいくようにデザインすることが望ましいとされます。また、選択肢が多く煩雑にせざるを得ない場合はオススメの選択肢を際立たせるなどの工夫が必要となります。プロダクト体験は段階的なオンボーディングを採用することで、認知コストや負荷がかからないように導線設計することがプロダクトの継続利用やLTVを高めるためのUI/UXデザインで果たすべき役割と言えます。

 

■ミラーの法則

「普通の人が短期記憶に保持できるのは7(+/-)2まで」というものです。

・ワーキングメモリで情報処理出来る量はせいぜい7つの塊に過ぎず、それ以上の記憶を必要とするプロダクトデザインは正しく情報認知出来ないので、意味をなさないとされます。電話番号などが代表例で、意図して塊をつくることにより記憶を容易にするという術が有効で、これは人間の脳構造に忠実にした情報伝達理論と呼べます。見出し改行重要テーマに下線や網掛けをするなどのテクニックもミラーの法則に忠実と言えるようです。

 

■ポステルの法則

・「出力は厳密に、入力は寛容に」というものです。

・ユーザーが採りうるアクション・入力しうる情報全てに対して受け入れる体制を整えることが効果的なユーザー体験の絶対原則です。信頼性高くアクセス可能なインターフェースでありながら、ユーザーが採りうるアクション全てに対してのリアクションや受身を設計することがプロダクト供給者に求められる感覚です。

 

■ピークエンドの法則

・「経験についての評価は全体の総和や平均ではなく、ピーク時と終了時にどう感じたかで決まる」というものです。

・UXデザインにおいてユーザージャーニーのピークとラストはしっかり把握して作りこむことがプロダクト価値を高める為に絶対にやらないといけないステップです。ユーザーに理解され、受け入れられ使い続けてもらってプロダクトはなんぼなので、「楽しい・快適な体験を経る」ということは常に頭の片隅においておくべき観点です。「人はポジティブな経験よりも一つのネガティブな経験のほうが何度も反芻して印象に残る心理メカニズムである」ということを意識して細部を作りこむ(二度目はないというシビアさ)が必要になります。

 

■美的ユーザビリティ効果

「見た目が美しいデザインはより使いやすいと感じられるようになる」、というものです。

ユーザビリティ美的な整合性というのは感覚的な体験価値を高めるものであり、初期離脱を防ぎユーザーオンボーディングの上でデジタルプロダクトでは絶対に抑えておかないといけない概念となります。これは脳が持つ自動処理作用故であり、枝葉に見えてもデザインや美的な整合性をとるというのは情報伝達効率を高める上で絶対に留意しないといけない概念です。

 

■フォン・レストルフ効果

・「似たものが並んでいるとその中で他と異なるものは印象に残りやすい」というものです。

コントラスト効果を用いて適切に情報伝達をする技術ですが、UXデザインの大原則は人間中心設計なので色に頼り特定の人に配慮しない・過剰に色を使いすぎて広告のようにミスリードするなどはないようにするのが基本原則です。「視線を適切に誘導すること」が快適かつ効果的な体験価値をもたらします。その為には色・形・配列・因果関係などに細心の注意を払い統一感が出るようにすることが不可欠です。

 

■テスラーの法則

「どんなシステムにもそれ以上減らすことの出来ない複雑性が存在する」というものであり、複雑性保存の法則とも呼ばれます。

・どんなプロセスも複雑性を除くことが出来ないものがあり、それはシステムやユーザーのどちらかが負います。原則、出来る限りシステムで負うように設計するのがUXデザインの基本原則です。その一方で、シンプルにしすぎてインターフェースが抽象的になっていないかを注視する必要もあります。

 

■ドハティの閾値

・「応答が0.4秒以内のとき、コンピューターとユーザーの双方が最も生産的になる」というものです。

体感性能を改善し待ち時間を減らすことでユーザビリティを担保することはUXデザインの目的に即した作り込みです。アニメーションをいれて待ち時間に対するユーザーフィードバックを施すことは体験価値を担保するのに効果的とされます。プログレスバーのような進捗可視化はユーザーの感覚的な体験を担保しイライラを最小化し、ユーザー定着に寄与します。待ち時間は長くなるが積み重なるとユーザー離脱を助長します。

 

【所感】

・本書で参照される原則はUI/UXデザインは勿論、コミュニケーションの技法としても留意すべき概念であり非常に応用性が高いように感じられました。ITプロダクトが社会に占める影響力が増えている中でこうした法則を遵守しながら、「ユーザーをミスリードしない」・「定着時間やLTVを稼ぐためだけに濫用しない」などの倫理観も重要であるように感じました。

・プロダクト開発においてUXデザインが根幹を成し、原則や理論を参照しながら共通認識を持ち「続ける」ようにフレームや特有のステップを遵守して開発を進めるというのはどの本にも書かれており大事な概念であるということを改めて認識できました。本書はサービス・プロダクト開発の現場で何度も参照しながら定着していく概念のように思えたので、折に触れて読み返してみたいと思います。

 

以上となります!

■要約≪ユーザーストーリーマッピング≫

 

今回はJeff Patton著の「ユーザーストーリーマッピングを要約していきます。本書はプロダクトマネジメントアジャイル開発・UXデザイン分野において重要書籍に位置付けられており、ユーザーストーリーに関する体系だった理論・活用方法をまとめた内容となっております。ユーザーストーリーと呼ばれる「プロダクトを実際に利用するエンドユーザーに何を提供するのか・その目的は何かを簡潔に書く要件定義書」を時系列・優先順位別に配列した可視化ツールがユーザーストーリーマッピングとなります。

 

「ユーザーストーリーマッピング

楽天ブックス: ユーザーストーリーマッピング - Jeff Patton - 9784873117324 : 本

■ジャンル:開発管理・IT・UXデザイン

■読破難易度:低~中(アジャイル開発・UXデザイン・プロダクトマネジメントいずれかの基礎的な知識をもった上で読むことをおすすめします)

■対象者:・ジャーニーマップを用いた効果的な機能開発・仮説検証方法の理解を深めたい方

     ・プロダクト関連職種に従事する方全般

     ・専門性・役割の異なるチームを率いて不確実性を解いていく役割を担う方

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメント ビルドトラップ

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

カイゼン・ジャーニー

■要約≪カイゼン・ジャーニー≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■ユーザーストーリーマッピングについて

・ユーザーストーリーマッピング製品開発UXデザイン業務要件定義の場で共通理解を深め効果的にサービスや製品開発をするための手法であり、発案者自身が本書を著しました。詰まる所、ユーザーストーリーマッピングアジャイル開発を成立させ、生産性高く問題解決・課題設定する見取り図です。機能開発に終始することなく、漂流アジャイルにならないように優先順位付け、ロードマップ推進に不可欠です。ユーザーストーリーマッピングはビジネスアナリスト・プロダクトマネージャー・UXデザイナーが主に作成するフレームですが、有効活用するのはエンジニアも含まれる訳で実際のアウトプットは大量のポストイットを用いた地図・模型のようなものです。

 

■ユーザーストーリーに関する大原則

「ストーリーを作る目的は良いストーリーを書くことではない」

「製品開発の目標は製品を作ることではない」

という重要二原則がUXデザインおよびソフトウェアエンジニアリングの世界におけるユーザーストーリーマッピングを活用する目的です。プロダクト開発を通じて、「顧客の課題を解決し、その結果得たいアウトカムに向けて機能開発をするのであり、現実の顧客やプロダクトが対峙する市場を現実直視しないことにはソリューションの善し悪しや優先順位付けもくそもない」のです。

・ユーザーストーリーマッピングは「デザイナー・エンジニア・PdMが一つのものを同じ目線で見て伝言ゲームによる情報誤伝達を最大限避けること」に有効になります。共通理解を保ち続けることはプロダクト開発において重要であり、そのずれないようにするためのステークホルダーマネジメントやフレーム活用を徹底することは軽微なように見えて非常に大事な組織マネジメントの基本原則なのです。価値観や専門性の異なる人材の知見を結集し、部分利害で相反しないようにする為にはグランドルールやビジョンを策定し、ロードマップに忠実に意思決定「し続ける」ことが大事になります。その為に「平易な言葉を使うこと」・「ストーリーを共有すること」・「意思決定の価値基準を共有すること」・「図示化・定量化すること」などを怠らないことが重要になります。

 

■ユーザーストーリーを活用して早く効果的に組織学習するには

・プロダクト開発・仮説検証においては「顧客は既存の解決策としてどんなものを試みており、既存の解決策ではどのように具合が悪いのか?(新製品やソリューションが入り込む余地があるのか)」をその前後の行動や心理の変遷・制約条件を理解しながら把握していくことを怠ってはなりません。顧客やユーザーは自分達が何を求めているか・どのような意思決定プロセスを経ているかわかっていないですし、プロダクト開発に従事するものはなおさらです。謙虚に行動や心理を解釈し続ける、適切な問いを立て続けるというのを怠ってはなりません。「すべては顧客起点である」というのがプロダクト開発に纏わるフレームワークやお作法を守ることに込められています。

※プロダクト開発をしていると技術ドリブンな意思決定や機能開発の各論遂行に議論が終始するというのが自然と陥ってしまうものです。そうならないように「大目的や方針に忠実に優先順位付け・意思決定「し続ける」を保つためのツールや思考プロセス」活用が最も効果的なのです。

 

■実顧客・ユーザーを理解することの大切さ

・顧客とユーザーを理解する為にペルソナを描き、「どんな問題を抱えていて、どうなりたいのか」・「既存の解決策では解決できないペインは何か」・「それは自社で実現可能であり、ビジネス収支にも適合するのか?」といった問いを立てることは優れたアジャイル開発をしていく上で欠かせません。ユーザーインタビューアンケート行動観測などから生み出された「確からしい事実をベースにインサイトを構築していくステップ、および関係者が同じ絵を見てアイデアを発散させるステップなどを面倒でも経て共通理解を深めていくこと」は必要になります。感覚や思い込みを排除し、存在するペインに対してソリューションを作りこむというステップを踏むことは後々要件がぶれたり路頭に迷うことなくプロダクト開発の仮説検証を進める為に必要になります。

・ユーザーストーリーマッピングと補完関係にあるフレームとしてリーンキャンバスジャーニーマップがあり、適宜活用してプロダクト開発チームの共通認識を揃えることやビジネス収支を満たしているか把握し続けることが重要と本書では推奨されています。

 

■デザイン思考について

・デザイン思考の第一歩は「共感」であり、ユーザーが何を求めているのか・ゴールは何かを実顧客へのインタビュー、行動観察を通じて構造理解するプロセスを指します。ユーザー文脈を理解した上で複数のストーリーを抽出・吟味してスコープ含めて企画開発の範囲「定義」するのが第二ステップです。その上でユーザーペインやゲインを複数洗い出し、効果的なソリューションの「アイデア創出」と呼ばれる拡散行為を行います。これは実現可能性やインパクトなどのオプション毎の比較検討をして吟味・選定していくものであり戦略策定やロジックツリー策定プロセスに近しいものです。ソリューションが決まったら「それが想定ユーザーに即した導線に設計し、仮説は狙い通り刺さるのか?」を検証する必要がありMVP開発による「プロトタイプ」作成が発生します。プロトタイプは重要仮説をもれなく検証する必要があり、UXデザインの基本である人間中心設計を心掛け認知コストの低下や情報伝達効率を高める必要があります。プロトタイプ作成後は「テスト」による仮説検証が不可欠でありABテストやKPI、KGI設計をしてモニタリング体制整備するのが基本のステップです。これら5つのステップを踏むデザイン思考は企画やプロダクトマネジメントの思考法そのものです。

 

【所感】

・本書はユーザーストーリーマッピングのフレーム解説にとどまらず、周辺領域におけるプロダクト開発チームのマネジメント方法や効果的な議論を進める上で遵守すべきお作法にも言及しており、UXデザインやプロダクトマネジメントアジャイル開発についても大きな示唆を与える内容でした。関連書籍を集中的に読み漁る中で言わんとしていることが善く理解でき非常に勉強になった本です。

・検証プロセスや問い・論点・価値基準などを可視化して共通認識を持ち「続ける」ことがプロダクト開発チームの生産性を左右するということ、それと同時にこれを実際に行い続けることが如何に難しいのかということを思い知らされる内容でした。基本に忠実にしつこいくらい現状把握・合意形成をし続けることが大事というのはプロジェクトワークや不確実性に対峙する専門組織にも通じるものと感じました。

 

以上となります!

■要約≪戦争論(下)≫

 

今回はクラウゼヴィッツ氏の戦争論を要約していきます。クラウゼヴィッツプロイセンの軍人で、ナポレオン一世がヨーロッパ大陸を席巻した時代を生きた将帥兼軍事学者です。本書は孫子と並んで有名な戦争や戦略を扱った古典的著作です。上中下の三部構成となっており、今回は下巻の内容を要約します。下巻は中巻に引き続き防御・攻撃における重要論点が存在する戦略、戦術に関する考察と戦争計画に関する内容となります。ナポレオン戦争前後のヨーロッパ諸国将帥が戦争で繰り広げた意思決定プロセスを丁寧に考察していく仕立てとなっています。

 

戦争論(下)」

戦争論 下 / クラウゼヴィッツ【著】〈Clausewitz,Karl Von〉/篠田 英雄【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

■ジャンル:政治・経営戦略

■読破難易度:中(抽象的な言葉遣いが多く、ニッチな近代戦を引き合いに出す為若干読みづらいかもしれません。主張は一貫してシンプルなので、慣れてくれば読みやすいかも。)

■対象者:・政治・外交・戦略に関わる方全般

     ・18~19世紀の戦争史について興味関心のある方

 

※上巻の内容は下記。

■要約≪戦争論(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

※中巻の内容は下記。

■要約≪戦争論(中)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

≪参考文献≫

■外交談判法(軍事と構造的類似役割を持つ外交官の役割について)

■要約≪外交談判法≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■権力と支配(政治力学・軍の組織構造について)

■要約≪権力と支配≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■防御・攻撃に関する戦略・戦術について

・大前提として、「技術や資源の制約条件ありきで戦略・戦術は作られる為、近代戦を想定した考察以外意味をなさない」というのがクラウゼヴィッツの見解です。その為、三十年戦争などヨーロッパの代表的な戦争に関してはあくまで参考程度の言及に留め、主にナポレオン戦争や自国プロイセンの英雄フリードリヒ大王が将帥として指揮をした戦争を引き合いに、戦略・戦術に関する個別論点を言及していくのが特徴です。

戦争は政治目的の遂行の為に取られる手段であり、国際関係や資源配分の交渉など戦争目的を考慮した意思決定というのが将帥には常に求められるとされます。その上で、戦後講和を有利な条件で交渉する為に、敵の資源に働きかけたり追撃を通じて優位を拡大するなどしていくのが個別の戦場における意思決定の判断基準となるとされます。戦争狂のような「手段が目的化する将帥・元帥は愚かである」として痛烈にクラウゼヴィッツは何度も本書で言及します。

・一般的には攻撃よりも防御のほうが情報の非対称性において有利に立つことが出来、豊富な補給網や地形・要塞などを駆使した防御陣営を効果的に展開出来るので容易であるとして個別戦略・戦術に関する考察が本書では展開されます。

※詳細はあまりにも細かいので割愛しますが、舎営・輸送隊・要塞の意義や奇襲・牽制・山地戦などの優劣を決める変数に関して淡々と記述がされ、近代戦の個別事例を引き合いに主張が展開されます。

 

■戦争計画

・大原則として戦争は講話を有利に進めるための敵勢力の滅殺が主な狙いであり、ナポレオンのロシア遠征ヨーロッパ大陸制圧構想なども原則に適していたとされます。カール5世の時に最大勢力を誇り、スペイン・イタリア・ドイツ・オーストリアを統治するに至ったハプスブルク家や当代の盟主として知られたカール12世フリードリヒ大王も同様の戦争対峙方針をとったとして言及されます。

・ヨーロッパ諸国は適度な均衡関係にあったので、交渉事をする手段として戦争を採用し、有利な状態で講和に持ち込むという小規模な戦いが主流になっています。こうした情勢であった為、フリードリヒ大王やルイ14世などアレクサンドロス大王に匹敵する資質をもった将帥でも中規模に落ち着かざるを得なかったとされます。

フランス革命を機に、近代戦の前提が崩れて国民が政治に参加する機運となりました。大量の国民がオーストリア・ハンガリー帝国の前に現れたのもそれ故です。フランス革命の勢いを引き継ぎナポレオンが台頭し、ヨーロッパ社会を席巻する頃には、国民総動員の大群で戦う方式が主流に回帰していきました。ウィーン体制以後の近代戦は結果として総力戦・政治均衡の基での政治交渉行為の意味合いをもつように変容しました。

・ヨーロッパにおいて複数の同盟関係が存在し、政治的・経済的な駆け引きが水面下にありその利害衝突故に戦争が抑制される機会もあれば誘発する機会もあります。クラウゼヴィッツの見解としては戦争に関する戦術や戦略を論じてきたが結局、「戦争は政治的交渉の道具でしかなくそこには文脈や利害なしに各論を判断は出来ない」という主張が見られます。その為、法律や国際関係・政治・経済などの理論の下敷きなしに戦争を論じても意味がないし、情報判断をする知性を養うことが将帥教育には欠かせないということを主張します。「政治の本質が変化すれば必然的に戦争術も変容するよ」ということを本書では言わんとしています。

 

【所感】

・中編に比べて概念的な内容や歴史研究の要素が強かった為、読みやすさを感じました。下巻の戦争計画は極めて現実的な思考に努め、実社会に役立つ理論・法則を展開しようというクラウゼヴィッツの強い意志が垣間見える構成でした。将帥は組織を率いるリーダーシップだけでなく、資源制約の中で意思決定をするタフさ・局面を見立てる判断力やその大目的にある国際関係や政治的利害に頭を巡らせる複雑な技法を有するという様は読んでいて改めてワクワクさせられる内容でした。現代社会において事を成そうとした際に直面する壁や葛藤とも似たように思え、抽象化すると非常に示唆に富んだ内容であると本書の価値を再認識した次第です。

 

以上となります!